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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
30/92

のほほん29

ティアを雇うことになった次の日の午後。午前中の日課を終えたヴィータが家に戻ると、後ろからガラガラと荷車を引くティアの姿があった。


「ワッセ、ワッセ」


「その荷物どうしたの?」


「おや、帰ってきてたんですね。今日から私もここで住もうと思いまして」


「……住む?」


「えぇ」


「……ここに?」


「もちろん」


さも当然というようにヴィータに相槌をする。


「ダメと言われても困りますからね。四苦八苦して借りていたボロ家をささっと解約して、荷物を運んでいるんですから」


「行動力あるんだね。俺には無理そう」


「商人にとって行動力や決断力はとても大事ですからね。立地は最底辺ですが住む分には最高でしょうし、あのボロ家の周り男が多くてしかも女を連れ込むものだからうるさくて嫌だったんですよ」


あーやだやだと嫌な顔をしていた。家のことを思い出していたんだろう。


「それに、ボロ家からもかなり距離がありますからね。不便ですし節約もしたいですし、雇ってもらった以上、利益を上げて自分の給金分は稼がないと!」


「そっか、部屋も余ってるし賑やかなのも悪くないかな。手伝うよ」


ヴィータは重いものを率先してティアの部屋に運び込む。


「これで終わり?」


「もう一往復ですね。重いものはこれで最後ですから、店主はいつも通りにしてて大丈夫ですよ。助かりました」


「わかった」


…………………


「あはー! 気持ちいー! これがお風呂ですか。貴族の人達はなんて羨ましい。今までこんなものを独占したんですから」


お風呂場から幸せそうなティアの声が聞こえてくる。


引っ越し作業を終えたティアは、店にある残りの銅の剣を売り捌いた後にすることがないからと、風呂と睨めっこしていた。使い方を把握したティアは早速、一番風呂に入っていた。


「そんなにいい?」


「最高ですー! 体をタオルで拭くだけの生活にはもう戻れないですよ!」


「ほぉ……」


「私が出たら店主も入ってみるといいですよ。はぁ……気持ちいー」


しばらくすると満足そうな顔をして、風呂から出てきた。


「さぁ店主さん空きましたよ!」


「じゃあ俺も入ろうかな」


そうしてヴィータも風呂へと入る。


「最高だ」


その一言に尽きるようだ。

体が指先まで温まり、疲れが取れていく。

風呂を満喫して出てくると、いい匂いがする。


「料理できるんだね」


「節約するための必須スキルですからね。店主も食べますよね?」


「いいの?」


「もちろんですとも。こんなにいい家に住まわせてもらえるんですから、当然ですよ」


「楽しみだ」


しばらく部屋で待っているとティアからお呼びがかかった。


「「いただきます!」」


「おいしい!」


「そうでしょう! 小さい時からお母様の手伝いをして、独り立ちしてからもずっと作り続けてますからね!」


「そう言えば、立地が最底辺だとか格付ランキング最下位だとか言ってたような気がするけど……」


「あぁ、あれですか。あれはですね、王都に住む商人たちの間で出来上がったものです」


「どんなランキングなの?」


「ここの立地は閉鎖的で人通りが全くありませんからね。こんなところに店を開いてもお客は来ないんですよ」


だから物を背負って商業地区へ売りに行くんですと言いながら料理を食べる。


「確かに……この家買ってからティア以外でお客1人しか来てないな」


「その1人は物好きですね。次に格付ランキングですけど、商業地区の最も中心はどこですか?」


「どこって……そりゃ、正門と城を繋ぐ大通りのど真ん中にある貴族たちの店」


「そうです。そこが商人たちの格付最上位に位置するお店です。あとはそこから少しずつ離れれば離れるほど商人の格が下がっていくんですよ」


「格ってそもそも何なの? 高いとどうなるの?」


「商人の見栄とか知名度ですね。王都は王のお膝元。そこに店を構えることが出来れば他の商人に自慢できるわけですよ。格が上がれば上がるほど、大商人と呼ばれるようになったり、仕事の話が来たり、いいことずくめです」


「商人にも色々あるんだね」


ヴィータには今一よくわかっていないらしい。


「商人にとってお金は力です。その力を使って中心に行くことが出来れば、自分の強さを証明出来るわけですよ。そしてその商人が扱う商品は多少質の悪い物でもよく見えてしまうのです。目利きの出来ない人達は高値で質の悪い物を買ってしまっているわけですよ」


「それって駄目なんじゃないの?」


「別に駄目ではありませんよ。格の高い商人が売っている。その商人と契約出来ている職人が作っている。それが高値になる理由です。ブランドってやつです」


「???」


「ま、まぁ、わからなくていいです。その格付ランキングがあることで色々と利点と欠点があるんですよ」


「ふーん」


商業地区が移る前、今、ヴィータが住んでいるこの家は格付ランキングの頂点になれる土地だった。商業地区が移ったことで王都の中心地が格付ランキングの頂点になり、そこから格付がつけられていった。


商業地区が移動したことで格付ランキングの下位にいた商人が突然上位になったりなどで、腕がない商人がいきなり大商人と呼ばれるようになったりと運でのし上がれた人もいたらしい。


「ところで店主は元農民と聞きましたが、それにしては随分鍛えられてますね。冒険者でもやってたんですか?」


「12歳まで農民でそれから王国の兵士をやってたんだ」


「……ほほぅ。だから王都周辺の魔獣を倒せると……強いんですね」


「強くないよ。使えないからって辞めさせられたから……」


「そうなんですか? でも王都周辺の魔獣倒せてますよね? しかもほぼ無傷で」


「兵士だった頃、周りが凄く強かったんだ。だから周辺の魔獣なら倒し方も覚えてるんだ」


「それでも無傷は凄いと思いますよ?」


「そうかな? 周りの人達が皆凄かったから普通なんだと思うよ」


「は、はぁ……ちなみに今は他の兵士さん達と一緒なんです?」


「いや、1人だよ」


「……1人?」


「うん」


「……そうですか」


ティアは何か腑に落ちないという感じだ。ヴィータにとって周辺の魔獣はヴィータが倒せる程度の魔獣だから当然凄く弱いと思っている。


「ところで何年ほど兵士をやっていたんですか?」


「えっと……ちょうど5年かな」


「5年……今17歳ってことですか」


「そうだね。そろそろ18になるけど」


「私より3つ年上なんですね」


「ティアは15歳か」


「えぇ。兵士を5年ですか……5年?……ん?……もしかして戦争にも参戦してるのでは?」


「うん、3回」


「さらっと凄いこと言いますね。やっぱり凄く強いのでは?」


「辞めさせられちゃうくらい弱いよ」


「……どのくらいの実力なんです?」


「模擬戦の話でよければ、えっとね100戦3勝97敗だったよ。3勝できたのは相手が完全な素人の新兵だったんだ。それ以外はすべて……はぁ……」


「古傷をえぐったみたいですいませんね。でも……そうですか。王国の兵士さんは皆強いんですね」


「そうなんだ。俺の尊敬する人はね……」


そんなこんなでヴィータとティアは夜遅くまでいろんな話をしていた。

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