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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
29/92

のほほん28

日課になった午前中の魔獣討伐を終えたヴィータは、冒険者ギルドで素材を売り払った後、家へと帰る。


家に近づけば近づくほど人気が無くなり、別世界へ変わっていく。

風が吹けば木々が揺れ、枝が、葉が擦れ合う音が聞こえる。

そんな別世界の家の前で、女の子がつまらなそうに小石を蹴っていた。


「戻ってきましたね。どこに出かけてたんです?」


「王都周辺の魔獣倒してたんだよ」


「ふーん?」


女の子の近くには朝に銅の剣をいっぱいまで詰め込んだリュックサックが空になって置かれていた。


「全部盗まれちゃった?」


「どうしてそうなるんです!? もちろん全部捌いてきてやりましたよ!!」


「……嘘だぁ……」


「こ、この人は……まぁいいです。ここで立ち話もあれです。中に入れてください」


「そだね。ちょっと待ってて」


家の鍵を開けてカウンター前まで移動すると、女の子がお金の入った袋をカウンターへ置いた。


「これが売り上げ金ですよ!」


「……おぉ。凄いんだね君」


「そうでしょう! そうでしょう!」


「じゃあ俺はこれで……」


「どうしてそこで話を切り上げてしまうんです!?」


「え?」


女の子は本気で呆れている。ヴィータは何のことだかさっぱりわかっていない様子だ。


「私が店主さんの銅の剣を売り切った。そうですね?」


「そうですね」


「私のこと、どう思います?」


「凄い」


「……はぁ……もういいです。私は商人です! カウンターに置いてある通り、店主さんが作り上げた物を売り捌く自信があります! 私を雇いませんか?」


女の子の頭の中では、商人としての実力を認めてもらい、契約してお互いの利益になるように交渉したり、雇いたいと申し入れしてもらおうと算段をつけていた。


が、相手はヴィータ。そんなことをするという頭がない。女の子は誘い受けを諦め、自分を売ることにした。


「俺、雇うお金とかないし、よくわからないし、それに君ならもっといいところで雇ってもらえるんじゃないの?」


「……その辺の雇用条件は、話し合うとして。私は大商人になるのが夢です! 確かに私の実力ならそれなりにいい条件で雇ってもらえるでしょう! でも質が悪い物をあの手この手で売るよりも、いい職人と手を組んで堂々といい物を売りたいのですよ!」


大きな夢だ。ヴィータはそう思う。自分には持てない大きな夢だ。堂々と高らかに宣言する女の子を羨ましく思う。


「いい夢だと思うけど、俺はいい職人じゃないよ。銅の剣しか作れないし。他の職人を探した方がいいんじゃないか?」


「確かにへっぽこですね。でもいいんですよ! 腕のいい職人のほとんどはもう他の商人に取られているでしょうし、いくら実力があっても私もまだ大人になったばかりの未熟な商人として見られてしまいますから。共に高みを目指せばいいんですよ!」


見た目は大人とは到底見えない小さな女の子。扱いが難しい職人に馬鹿にされるかもしれない。


「でも雇うって言ってもな」


「そんなものは形だけでいいんです。私は店主さんに売れるものを作ってもらう。店主さんは自分が作ったものを私に売ってもらう。まずはそこから始めればいいんです」


「なるほど」


「私の資金では、こんな格付けランキング最下位の家や土地を買うことすら出来ないんですからね。嬉しいことに立派な店を開けるだけの設備がここにはあります! お客は来ないでしょうけど自分のお店を開いてみたいとも思っていたんです」


不穏なことを言った気がするが、ヴィータには何のことだかわかっていないからスルーする。


「わかった。じゃあお願いするよ」


「それでいいんですよ!」


お互いに自然と手を出し合い、握手する。


「私はティアといいます。よろしく!」


「俺はヴィータ。よろしく!」


こうしてお互いは協力関係になった。


「そうだ。この家の2階ってどうなってるんです? 店主」


「普通の住居だよ。農民だった俺には広すぎるんだ」


「元農民ですか。その話はまた今度聞かせてください。見せてもらっても?」


「構わないよ」


2階に上がった途端、ティアの顔が驚きの表情に、そして顔を輝かせる。


「おおおおお! 凄い!」


「使ってるのは自分の部屋だけなんだけどね」


「お風呂まで!!!……お風呂使ってないんです?」


「使い方がわからなくてそのまま」


「もったいない!……わかりました。今日はちょっとやることを思い出したのでお暇してもいいですか? 店主」


「構わないけど?」


「ありがとうございます! では!!!……あ、店主は午前中は出かけてるんですか?」


「うん、お金が底を尽きそうだから魔獣を討伐して素材集めをするのが日課になってるんだ」


「なるほど、では鍵を借りてもいいですか?」


「合鍵もあるからそれを渡しておくよ」


「……店主は人を疑うことを覚えた方がいいですよ?」


あまりにも人を疑うことを知らないヴィータをティアは心配になってくる。


「悪いことするような子には見えないから」


「そ、そうですか……まぁこれから鍵が閉まってると不都合ですし、預かっておきます」


「うん」


「では! また明日!」


「うん、また」


合鍵を受け取ったティアは急げ、急げと言いながら店から出ていった。

そんなティアを見送った後、ヴィータはいつも通りの日課に戻っていった。

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