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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
28/92

のほほん27

初めてのお客が店を訪れてから、さらに2週間が経った。数多の商人や職人が散っていった、時代に取り残された店には誰一人として訪れることはなかった。


ヴィータはそんなこと気にせず、今日も今日とてせっせと武器を作り続ける。


カーン!


もっと……


カーン!


もっと……


カーン!


まだ……まだ……


「ふぅ……ドラゴス師匠の打った銅の剣のようになるにはどうしたらいいんだろうか」


ドラゴスの作り出した銅の剣と先ほど完成させた銅の剣を見比べる。

が、違いが全く分からない。

ドラゴスが作った銅の剣はヴィータが見てもわかるほど凄い。

けど自分の作った銅の剣と見比べてみても何が違うのか全く分からないのだ。


「きっと熟練の技と言うやつなんだろうな」


そんなことを呟きつつ、また作業に戻る。


カーン!


ガチャ

チリチリーン


カーン!


カーン!


軽装の女の子が来た時にドアが開いた音も、声も聞こえなかったということで、他の店を真似て、ドアに鈴をつけてみたらしいのだが、ヴィータが気付いた様子はない。店に無造作に置きっぱなしの銅の剣が盗まれたらどうするつもりなんだろうか。


それからしばらくして、ヴィータが新しく出来上がった銅の剣を適当に店に置きに行こうと移動したところでお客が来ていることに気付いたようだ。


「あ……いらっしゃい。気付かなくてごめんね」


「…………」


(怒ってるかな……)


店の中には前に来た女の子とは違う女の子がじっくりと銅の剣を眺めていた。商人のようにも見えるその女の子は、品定めするように銅の剣を見比べ続けていた。


何とも言えない雰囲気の中、いつの間にかヴィータは背筋をピンと伸ばし立ち続けていた。ヴィータが立っていることに気付いた女の子がじっとヴィータを見つめていた。


嫌な汗がヴィータの頬に流れる。


「この剣を作った人って今ここにいますか?」


「お、俺が作ったであります」


「へ~。ちなみにこの銅の剣は一本いくらするんですか?」


「ど、銅貨30枚であります!」


「……本気で言ってます?」


「嘘じゃないであります!」


女の子が何か怪しむように目を細めてヴィータを見る。悪いことをしていないのに心臓がバクバクと鳴り、嫌な汗がどんどん溢れ出す。


「ちょっと待っててください」


「は、はいであります!」


女の子がそう言って店から出ていった。2時間ほど経っただろうか。日が傾き始めた頃女の子が戻ってきた。その間、女の子に言われた通り、ヴィータは一歩も動くことはなかった。


「お待たせしました。この銅の剣を見てください」


「見ればいいでありますか?」


「そうです」


女の子はどうやらどこからか銅の剣を持ってきたようだ。


「何の変哲もない普通の銅の剣でありますね」


「そうですね。これいくらだと思いますか?」


「……銅貨30枚?」


「……なるほどなるほど。店主さんは相場を知らないお馬鹿な人なんですね」


「ぐっ……最近初対面の人に馬鹿と言われるのはなぜなのでありますか?」


「そんなの決まってるじゃないですか。馬鹿だからです」


「うぐっ」


容赦ないその物言いにショックを隠し切れないヴィータ。


「しかも店に置いてあるのは銅の剣ばかり。銅しか使わなくてももっとこう槍とか、斧とか色々作れたでしょう?」


「……それは……師匠が……」


「……その師匠も大概ですね……」


呆れられてしまった。


「いいですか? 今、私が持ってきた銅の剣。これ銅貨70枚です」


「……は?」


「だから、銅貨70枚です。この王国の本来の相場は質が普通であれば銅貨50枚ほどなんですけどね? 最近やたらと銅鉱石を馬鹿みたいに買い漁る人が現れて、銅を扱う装備が相対的に上がっているんです」


「相場ってよくわからないけど、君が言うように値が上がって今、銅貨70枚なの?」


相場と言う意味が今一よくわかっていないヴィータだがとにかくいつもより値が上がっていることだけは理解出来た。女の子はヴィータの言うことに相槌をする。


「それで店長さんが作っている銅の剣。いくらで売れると思います?」


「銅貨30枚?」


「……ダメだこれ……馬鹿でアホだ……」


「そ、そんなこと言われても……」


「あ~もう! いいですか? 店主さんが作っている銅の剣が他の銅の剣より質がいいってわかってます?」


「同じくらいじゃないの?」


「……はぁ……」


とても深いため息をつかれてしまった。


「もったいない! 実にもったいない!! これだけいい武器を作れているのに! 本人の目が腐っているせいで埋もれてしまっている装備が可哀想ですよ!!!」


「目は腐ってないぞ!!」


「腐ってますよ!!! 職人であれば、商人と同じくらいの目利きが出来なければやっていけないんですよ!?」


「……そうなの?」


「……はぁ……」


また深いため息をつかれてしまう。なんだか申し訳ない気持ちになるヴィータだった。


「いいですか? 店主さんが作った銅の剣は私の目で見れば今の相場で大体銅貨75枚~85枚ほどです! 私の実力ならすべて売り切る自信がありますよ!」


「でも銅貨30枚って……」


「誰がそんな馬鹿なこと言ったんですか!?」


「……師匠……」


「ホントにどうしようもない師弟ですね!!!」


「ぐ……でも!」


「わかりました! では私の商人としての実力を見せてあげましょう! 明日の朝早くにまたお金をもってまた来ます!」


「どうするの?」


「ここにある銅の剣を半分買い取って、すべて高値で売り払ってきてやりますよ! 店主さん信じてないみたいなので、実際に売って教えてやりますよ!」


そんなやり取りをした次の日、女の子は約束通り大きなリュックサックを背負ってきた。


「無茶しない方がいいと思うよ?」


「このくらい屁でもないです。商人は気合と根気で粘り強く相手の様子を見ながら交渉するんですよ! たかが15本くらいの銅の剣で根を上げませんよ!」


大きなリュックサックいっぱいに銅の剣を詰め込んだ女の子の体は少し震えていた。


「俺が持とうか?」


「必要ないですよ。店主さんはいつも通り過ごしていてください。昼を少し過ぎたくらいには売り切れるでしょう」


そうして女の子は気合いだー! と言いながらどこかへ行ってしまった。手助けしようとすれば何か文句を言われるだろうと判断したヴィータはいつも通り魔獣討伐に出かけていった。

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