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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
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のほほん25

ヴィータの日課はこうだ。


朝早く目覚めると顔を洗い、朝食を取り歯を磨く。そして半日魔獣を狩り、昼食後、集めた素材を冒険者ギルドへ持っていき買い取ってもらう。午後からは鍛冶場に入ってひたすら銅の剣もどきを作り続け、夜になったら夕食を食べ、歯を磨き、就寝まで本で鍛冶の知識を叩き込む。


ただし頭に知識が入っているかどうかはわからない。ヴィータの頭は悪いのだ。


「そう言えば、銅鉱石がそろそろ無くなりそうだった。買いに行かなきゃ」


昼、ヴィータは銅鉱石が無くなりそうだったことを思い出し、店へと向かい大量に銅鉱石を買い漁る。


「あれは……最近やたらと銅鉱石を買い漁ってる小僧だな」


そこには銅鉱石の相場を上げてしまっている原因たるヴィータを見るドワーフの男の姿があった。ドワーフの男はヴィータの後を追い、ヴィータが住み始めた家まで辿り着く。


辺りにはヴィータ以外人影は一切ない。


「こんなところに住み始めるアホがいるとは……」


昔は商業地区の中心地として多くの賑わいを見せた土地。

しかしそれはすでに過去の話。今や王都のデッドスペースだ。


家は立派だ。

家は。


それ以外はすべて不便な場所だった。店が並ぶ商業地区までそれなりに時間が掛かり、外に出るにも近くにある城門は閉まっているためわざわざ遠回りをしなければならない。


生活をするという意味ではただただ不便な場所だった。


ヴィータにとっては不便に感じることはない。日々鍛えていた体は多少遠くても疲れることはない。デッドスペースであるため、騒音を気にしなくて済むし、どれだけ大きな音を立てても苦情を言われることも無いのだ。


「銅鉱石を買い漁って何をしておるんだか」


キーン!


ベキ!


バコッ!


カーン!


ガコーン!


「何だこの酷い音は……まさか、鍛冶をしておるのか?……これで?」


家からあまりにも酷い音しか聞こえてこない。


ドワーフ族の8割、いや9割は鍛冶職人だ。生まれた時にはもうハンマーを持たされ、物心ついた頃には鍛冶をしていると言われるほど、鍛冶に対する熱意がある。ドワーフ族がその鍛冶職人の金属を打ち付ける音を聞けば、その鍛冶職人の実力を知ることが出来るらしい。


カチーン!


ゴチーン!


バコッ!


ベコッ!


カチン!


「う、生まれたてのドワーフよりひどいぞ……これでは初心者以下ではないか!」


あまりにも酷いのだろう。

ドワーフの男はワナワナと体を震わせていた。


ベコッ!


カーン!


ガチン!


「ええい!!! もう我慢出来ん!!! このままでは鉱石がもったいない!!!」


ドワーフの男は全力疾走で家に無断で押し入り、鍛冶場へと行った。


「ふぅ……またダメだった」


「当たり前だろう!!! なんだその適当な打ち方は!!!!」


突然後ろから大声で叫ばれビクリと体を震わせたヴィータ。


「だ、誰ですか!?」


「あーあーあーあー!!! 適当に打つからそんなグニャグニャになるんだ!!! その辺に転がってるガラクタはお前が打ったんだな!?」


「えっと……そうであります」


「なんてもったいないことを!!! もう一度打ってみろ!!!!」


「は、はいであります!」


名前も知らないドワーフの男の怒りは尋常ではなく、逆らえるものではなかった。その気迫は将軍に似ている。テキパキと準備をしてハンマーで打つ。


カチーン!


「馬鹿者が!!! たった一回打っただけでダメ出しした奴はお前が初めてだ!!! ええい!! 貸せ!!!」


「うわっ!」


我慢出来なくなったドワーフの男が強引にヴィータからハンマーを奪い取り、ヴィータを押しのける。


「よく見ておれ小僧!!! ハンマーはこう使うんだ!!!」


カーン!!

カーン!!

カーン!!


ドワーフの男は手慣れた手つきで、速く正確に的確に銅の形を変えていく。

時には細かく打ち調整し、時には大きく振りかぶり強く打つ。


カーン!!

カーン!!

カーン!!


そうして出来上がったのは初心者のヴィータが見てもわかるほど、見本より何倍も出来のいい銅の剣だった。


「凄い……見本で買ってみた武器よりしっかりしてる気がする……」


「気がするじゃないわ! ドアホウ!! そんな半人前以下の人間が作った剣と一緒にするでないわ!!!」


「も、申し訳ないであります」


「小僧! お前、鍛冶を始めたばかりの知識すらないアホだな!?」


「な、なぜそれを!?」


「見ればわかるわ!!! 師はどうした? なぜ師を探さんのだ!?」


「師……あ……そっか、その手があった」


ポンと手を叩くヴィータを見て、頭を抱えてしまうドワーフの男。


「こ、小僧。お前さてはどうしようもないほどの馬鹿だな?」


「……ぅ……頭が悪いことは自覚してるであります」


「こんな小僧が鍛冶をしようなど……世も末だ……」


「例えどんなことを言われようと構わないであります!」


「……ほぅ?」


ドワーフの男の言うことを肯定しかしなかったヴィータだが、鍛冶ははっきりと続けると言った。そのヴィータに少し興味を示したドワーフの男。


「なんと言いますか……こう……こう……とにかく作りたい物があるであります!」


「それであのガラクタを作り続けたのか?」


「ぐ……本に書いてあった通り初心者は銅の剣を……」


「どんな物を作ろうとしてもあれはガラクタだ! 全く! 鉱石を無駄にしおって」


ドワーフの男がヴィータが生み出し続けたガラクタを見てため息をつく。

ヴィータは申し訳なさそうな顔をしているが、やめる気はない。

自分の武器を作るという目標を持っているからだ。

ドワーフの男が見本の銅の剣の他にもう1本の銅の剣を見つけた。


「これはなんだ? これも見本か?」


「これは俺が自分で打ったであります! まぁ、これ1本出来た後は1度もうまく打ててないでありますが……」


「ふ~ん(使われた跡があるが……そこそこだな)」


ヴィータが打った銅の剣をじっくりと眺めているドワーフの男


「えっと……どうかしたでありますか?」


「いや……これはお前が打った後、誰か使ったのか?」


「自分で使ったであります。手持ちのお金が底を尽きかけてしまって……」


「自分で使っただと? 小僧。お前なぜ鍛冶を始めようと思った?」


ヴィータは少し悩んだ後、ドワーフの男の目をしっかりと見てこう言った。


「自分の武器を作るためであります」

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