のほほん24
カーン!
カーン!
カキーン!
バキ!
パキーン!
ベキ!
・・・
・・
・
ヴィータが鍛冶をするようになってからというもの、ヴィータの家から本当に鍛冶をしているのか疑問になるような音が聞こえたり聞こえなかったりしていた。材料が無くなるまでひたすら銅を打ち続け、汗だくになりながらも気にせずただ打ち込む。
何日も何日も打っては、本を読み、打っては本を読む。材料が無くなれば、食料を含め、家に何日も篭れるほど大量に買い込みまた同じことを繰り返す。
カーン!
カーン!
カーン!
「や、やった! 初めて見本と同じくらいになったぞ!」
見本と遜色ない銅の剣を作り、喜びの声を上げるヴィータ。
掛かること2週間。運よく出来上がった銅の剣だ。
その一本以外はガラクタと同じだった。
キーン!
コーン!
バキーン!
何度も、何度も、何度もハンマーで銅を打ち続ける。
そしてまた材料を買いに行く。
「……お金が……」
将軍から渡された退職金。
そのうちの7割は家を買うために使い、残りは本と銅鉱石と食料、その他雑貨を少々、それで使い切ってしまった。
ヴィータは頭が悪い。
考え無しに手あたり次第に買い漁ってしまったのだ。銅鉱石を大量に買い漁った結果、相場が上がり、銅鉱石一つとっても馬鹿にならないほどの値段になってしまっていた。それでも気にせず買ってしまっていたのだから、お金の減りが早いのは当然のことだった。
退職金はたくさんあるから大丈夫と高を括っていたせいで今の手持ちは5年間ほとんど使わなかった給金のみだ。あと1週間ほど家に篭れる分のお金はある。あるが使ってしまえばそれでおしまいだ。
「……か、稼ぐしかない……。銅の剣しかないけど、王都周辺に出る弱い魔獣なら狩れる……はずだ!」
計画性のないヴィータだった。
ヴィータはすぐさま冒険者ギルドへ行き、登録をした。
一般の兵士たちは給金だけでは夜、遊びに行くには心許ない。
普通に使えば数日でなくなってしまう。
ではどうするのか。
兵たちは必死に考え答えを出した。
王国の要請で魔獣討伐を命じられる時に、本来であれば魔獣から手に入る素材はすべて王国のものになるのだが、こっそりと自分の懐へ入れて小遣い稼ぎをするのだ。そうやって日々やりくりしていることを、同じ兵士であるヴィータは知っていた。
兵士の頃のヴィータでも倒せる魔獣はそれなりにいた。もちろん同僚がいたからこそ怪我しても多少は何とかなっていた。
慎重に行けばきっと大丈夫。
そう言い聞かせ人生で初めて一人で王都の外へ出た。
「自分が打った武器で魔獣を倒すことになるなんて、昔じゃ考えられなかった」
今のヴィータには枷となる重装備は装備していない。その辺に売っている普通の服に、自作した銅の剣だけ。
銅の剣は重いと言えば重いが、鉄製の大剣に比べたらとても軽い。
身軽になったことで王都の周りにいる魔獣程度なら、何とかなっていた。
怪我をしないように、慎重に慎重を重ねて魔獣の急所を狙い倒す。
兵士であった時に集めていた素材を袋一杯になるまで集めて冒険者ギルドへ戻る。
冒険者ギルドで素材を買い取ってもらう。
半日程度で銀貨1枚。
冒険者の中でもかなりの稼ぎだ。
冒険者の大半は戦う術を持たない人が、戦ったことも無い魔獣に挑み死ぬ。
一攫千金を狙う人も大抵は初見殺しに合って死ぬ。
ヴィータは5年間兵として鍛錬し、戦争を生き抜いてきた。
魔獣とも戦ったことがあり経験豊富だ。
どんな魔獣にも油断せず確実に倒せる時を狙う。
その戦い方が功を奏し、そしてレベルも高いこともあり稼ぐことが出来ていた。
「毎日頑張れば、兵士の時より稼げそうだ」
兵士がもらえる給金は一月銀貨13枚。寮、1日3食付きと聞こえはいいが、死ぬ危険がある仕事ではとっても安い。
もちろん、兵として活躍して偉くなればもらえる給金も待遇も良くなる。
ヴィータは常に下っ端だったため、給金も待遇も良くなることはなかった。
お金が底をつくかもしれないという危機に陥ったヴィータは、鍛冶をするついでに王都の治安維持をするようになった。