のほほん23
買った。
買ってしまった。
後先考えずに家を。
買うと決めた後は早いもので、契約書に自分の名前を書き、金貨を渡しておしまい。契約書を2階の適当な棚に入れ、家の外に無造作に生い茂っている雑草をせっせとむしる。
腹が減ったら適当に興味の惹かれた店に入って済ませること数日。
誰が見てもいい家だと言われる程度には見栄えが良くなった。
元々家の中は管理され、手入れもされていたため掃除の必要はなかった。
「綺麗になったであります!」
見栄えの良くなった家を見て満足そうにヴィータは言った。
家の中に入り、改めて家を見て回る。
1人で暮らすには大きすぎるその家だが何とかなるだろう。
この家の持ち主たちが使っていたであろう店舗は、貴族から見れば大した大きさではないが、平民が、商人が見れば大きいと感じるだろう。武器やら防具やらを壁に掛けれるようになっていたり、小物を扱えるように棚が並んでいる。どんな店にも出来るように昔の人達の知恵がつまっている。
「俺には商売は出来ないけど、昔はきっと賑わっていたんだろうな」
次に調合場だ。
たくさんの知識が必要なのだろう。本棚がたくさんあった。本は持ち出されていたが、いくつかそのまま本棚に置きっぱなしだ。その他に材料を置いておける棚があり、機材やらがたくさん置いてある。その昔、薬師が家を買い、家の一部を改築したのだろう。
薬師は主にポーションを作り出す職業だ。
回復魔法の代わりになる回復ポーションや解毒ポーションが代表例だ。
回復魔法が使える人と同様に重宝される。
が、膨大な知識が必要なために薬師の人口が少ない。
これも回復魔法が使える人と同様だ。
「俺には絶対作れないな!」
自慢げに言うことではないが、ヴィータには一生かかってもポーションは作れないだろう。
次に鍛冶場だ。
金床や炉、その他にもハンマーやら作業台がある。
一人前の鍛冶職人が手を入れたのだろう。
知識のないヴィータにはどんなことに使う物なのかさっぱりだった。
「鍛冶か……ここで武器とか防具を……武器……」
武器
その言葉を口にすると何かが引っかかる。
でもなぜ引っかかるのかわからない。
俺が扱える武器さえあれば……
重くて持てない武器……違う……
もっと軽くて……もっと扱いやすい武器が……欲しい……
わからない。
けどそんなことを思う。
もし、もし自分が使える武器さえあれば……と
レフィリア様を……守れるのに……
「…………」
何となくハンマーを持ってみる。
「これで……俺が俺自身の武器を作れば……」
きっと守れる
守れるようになれる
諦めようとしていた決意が信念が覚悟が
ドクンドクンと心臓を強く跳ねさせる
諦めるなと強く訴えていた
将軍は言った
自分の道を探せと
それはこういう事なんじゃないか?
兵としてレフィリア様を守れなくても、それ以外の方法でレフィリア様を守れる道を探せと。
「……お金は……まだある。無くなるまでやれるだけやってみよう」
鍛冶場として設備はあり、その道具もすべてそろっている。必要なのは鍛冶に関する知識と技術。ヴィータは新たな道を見つけ、歩き出す。その先に何があるのか。それはまだわからない。
…………………………
ヴィータは早速、手あたり次第に王都にある店に入っていく。鍛冶職人入門書やら、鍛冶の勧めやら、鍛冶に関する本らしきものをとりあえず買い漁る。
そして家に戻って読みふける。
兵士時代のヴィータの周りには字の読み書きできる仲間がそれなりにいた。
王都内で門番やら、見張りやらをすることはそれなりにある。
そんな時、字の読み書きが出来ないと色々と不都合だった。
例えば道案内を頼まれたとき、地図を書いてくれと頼まれたときなどなどだ。
困っていたヴィータは仲間に教えてもらうことにしたのだ。
その努力の甲斐があり本を読むことが出来ている。
要領の悪いヴィータは本を買い、家に戻った後に材料がないと何も出来ないことに気付き、また店を探す。そんなことを何度か繰り返し、ようやく鍛冶に手を付けられる。
ヴィータが買い漁った本のほとんどに初心者の鍛冶職人は銅を必要とする装備を作れるようになればいいと書かれていた。だからヴィータは持てるだけの銅鉱石を買い、鍛冶場にいる。本と睨めっこしながら鍛冶場をうろうろすること数時間、ハンマーを手に持ち銅を打つ。
カーン!
カキーン!
パキーン!
カーン!
・・・
・・
・
何度も銅を打っても思うようには打てず、形が歪んだり、曲がったり、叩きすぎて折れたりと全くうまくいかない。やけどしたり、指を打ったりと怪我をしつつもようやくそれっぽく出来た。
「……これじゃだめだ」
見本として一本銅の剣を買っておいたのだが、それと見比べると相当ひどい。ヴィータ作の銅の剣? はところどころ歪んでいて、デコボコで、子供が見よう見まねで作ってみたような粗悪品以下の物だった。
「お金はまだそれなりにある。とにかく頑張ろう!」
たった1日程度で心が折れるほどヤワな心ではない。
それこそ5年も、たった1日すら鍛錬にもついていけなかった。
それでも諦めなかったヴィータの心は強靭だった。