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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
23/92

のほほん22

ヴィータは今、王都の所々に設置されているベンチに座っていた。

傍から見れば、職を無くして困っている兄ちゃんだ。


「ふぅー……どうしよ」


宿で朝食を取った後また王都をフラフラと歩き続けていたが、結局何も思うこともなく、一息つこうとベンチに座ったのだ。


「このまま何もしないでだらだら過ごすのは嫌だな……。将軍もやりたいことを探せって言ってたし。お金無くなるまで色々やるしかないよな……最悪、村に戻って頼み込めば農民に戻れるかな……」


ヴィータは12歳になるまで農民として過ごしてきた。村に戻って村長に頼み込めばきっと農民に戻れるだろう。退職金の残りが少なくなったら視野に入れようと考える。


……それでいいのか?


レフィリア姫を守りたいんじゃなかったのか?


お前は……本当にそれでいいのか?


そんな声がどこからか聞こえてくる。


(……でも俺はその力がない)


力がないから諦めるのか?


その程度の決意だったのか?


(違う……けどどうしようもない)


「ふぅ……」


兵を辞めたことを後悔しているのだろうか?

受け入れたのではなかったのか?

未練があるのか?

レフィリア姫を守れなくなったことをそんなに簡単に受け入れてよかったのか?


そんなことを考え始めたヴィータは、考えることから逃げるように歩き出す。目的もなく、目標もなく、ただただ意味もなく歩く。


ただ闇雲に歩き続けているヴィータはだんだんと人気のない場所へと無意識のうちに向かっていた。活気のある王都の中でその場所だけが置いて行かれているような。人気のまったくない場所へ。


「……まるで時間が止まっているみたいだ……」


どこを見ても人の気配を感じられない。長い間、人の手が及ばなかったのかたくさんの草木が生い茂っている。けれどどこか見入ってしまう。


そんな場所。


門が2か所あるが、そのどちらも開いておらず、兵士もいない。ヴィータが5年も王都で過ごしてきたにもかかわらず初めて立ち寄るその場所は新鮮だ。


その門の2か所の間に時代に取り残されたように静かに佇む大きな家があった。

その家はまるで自分自身のように見えた。

日々努力して必死に追いつこうと同僚の背中を追いかけ続けた自分のように。

それでもどうすることも出来ず、一人取り残された自分のように。


気付いた時にはヴィータはその家の近くに立っていた。


家の近くに立札があり、許可なく立ち入ることを禁ずると注意書きが書かれていた。興味があれば役所に来てくださいとも書かれていた。


「…………」


「気になりますか?」


「はひ!」


ヴィータは突然声を掛けられ変な声を出してしまい顔を赤くする。

後を振り向くと身なりのいい男が立っていた。


「ここは現在空き家になっています。たまにこうして様子を見に来るんですが、気になるなら入ってみますか?」


「えっと……じゃあお願いします」


「わかりました。なら鍵は持っているので早速入りましょう」


男についていき家の中へと入る。


「一階は店を開くために設計されています。店舗の他に鍛冶場、ポーションを作る調合場がありますね」


「色々あるんですね?」


「この建物自体かなり古いですからね。いろんな人が出入りしたのでしょう」


1階だけで見る人が見れば大喜びしそうなくらいの設備だ。人気が無かった割りにには家の中はとても綺麗だった。何に使っていたのかわからない、いろんな道具が置きっぱなしだ。


「いろんな物が置いてありますけど……これは?」


「以前住んでいた人の私物か何かでしょうね。場所が場所なので、使えそうな道具はそのままサービスとして提供していたらしいです。そうやって設備だけは充実してしまったようです。鍛冶場も元々は物置だったそうですよ」


「へぇ~」


「そろそろ2階へ行きましょうか」


「あ、はい」


男に2階へ案内されて、ヴィータは驚いた。部屋は4部屋あり、そのどの部屋にもベットがあった。それだけならまだ驚かなかっただろうが、キッチンもありリビングもある。


極めつけは風呂があった。


風呂は貴族や王族が楽しむもので、ヴィータのような平民は皆濡れたタオルで体を拭くのが当たり前だ。


「これって……風呂?」


「そうですね」


「風呂って確か……貴族の人達が使うような……」


「この建物は元々貴族が使っていたものだそうですよ。それを時代の移り変わりによって大商人が入り、職人が入りと……」


王国が建国され、王都が完成した当初は貴族の家として存在していたらしい。

時代の移り変わりによって貴族は別の地区へ引っ越した。

その後に大商人が家を買い改築、1階は店に変わった。

今でこそ廃れて人気が全くないが、以前は商業地区の中心だったそうな。


門が近くに2つあるのは、王都が出来た当初、王国と同盟国を繋ぐ道があり、商業地区として設計されて、人の出入りが激しくなることを予想してとのことだ。予想通り様々な人々が出入りし、王都の中で最も活気がある場所だった。


時代が変わり、王都の区画整理が行われることになった。盛んな商業地区だったが、商業地区から離れれば離れれるほど、移動が大変だったり、廃れてスラム街に変わったりと問題もあった。


正門から城を繋ぐ大通りを商業地区の中心として、区画整理を行った結果、最も中心たる土地に貴族たちの利用する店が並び、そこから少しずつランクが下がるように、平民が店を構えるようになった。


王都の中心に商業地区が出来たことにより、元ある商業地区は次第に廃れていく。わざわざ遠くまで足を運ぶ必要が無いと、人々は中心にある商業地区へ行くようになった。そうして門は次第に使われなくなり、閉まりきりに。


土地の価値が低くなったことでその後も何人もの商人やら職人やらが使いやすいように改築しつつ、住み始めたが、時代の流れには逆らえずに今に至ったらしい。中には借金をして商売を始めた者もいたらしいが、借金を返せずに夜逃げしたとかなんとか。


そんなこんな色々あり、設備やら夜逃げした人が残していった道具やらが置きっぱなしになっている。


「そんなこんなで今に至るわけですが、色んな人が出入りしてここまでいい物件になってしまった手前、撤去するのはもったいないと、中の手入れなどをしていたわけです」


「確かに部屋も道具もみんな新品みたいだ」


「ですが、売れ残ってしまってもう何十年も経つそうです。維持するのも大変なため、撤去することになったのですよ」


「撤去……」


「えぇ、今日はそのために立札を取りに来たんですよ。お客様が最後のお客です」


「……最後……もし買うとしたら?」


ヴィータにはこの家が自分のように思えた。

男の話を聞いて余計にそう思った。

置いて行かれないように必死について行こうとしたヴィータ。

時代の流れに抗うように生き残ろうとした家。

最後の最後まで諦めずに。


「本来ならば金貨200枚……いえもっとするでしょう」


「……無理だ……」


「ですが、もはやこの家の価値はほとんどない。なので金貨10枚でどうでしょう?」


「金貨10枚ですか?」


「えぇ、この家の中にある物はすべてお客様の私物にして構いません。もしお金が用意できないならローンでも構いませんからね」


ローンと言う言葉の意味はヴィータにはわからなかったが、幸いなことにヴィータの退職金には15枚の金貨があった。


「お金はある……けど、もしダメだったらこの家は売れるのですか?」


「もちろん売れますよ。かなり安くなってしまいますけどね……」


不安はある、まだ自分の道も決まっていない。けどヴィータの心は決まっていた。


「買うであります!」

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