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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
鍛冶職人編
22/92

のほほん21

ヴィータはまず王都の中心にある商業地区へと足を運んだ。


その商業地区の中心地に立ち並ぶ建物は貴族御用達の店だ。

貴族向けの店が多いためか平民の姿はあまりない。

貴族向けの服屋、武器屋、防具屋、細工屋。

どれもこれもが豪勢で平民のヴィータには立ち寄りがたい雰囲気だ。


店の中に入ったのは兵だったときに、貴族同士の言い争いの仲介に行った時くらいだろう。あまりにも煌びやかな店で肩身を狭く感じていた。


ヴィータには一生ご縁がない地区だろう。


(この辺りはいつも通り落ち着かないな……次だ)


その中心地から少し外れると、貴族から見れば大したことのない、平民たちから見れば高級店が立ち並ぶ地区となる。それなりに高価なものが並ぶ地区のため、何が起こっても対処できるようにと兵が配置されている地区だ。


商人として成功を収めた人達が、今日もさらなる高みへ近づくために日々努力している。


やはりこの場所もヴィータには居心地が悪いようだ。


(うーんうーん、入っちゃいけないような気がする)


そそくさと別の地区へと移るとガラっと雰囲気が変わる。


そこはたくさんの人々が行き交う。平民たちがよく利用する店が立ち並ぶ地区だ。貴族たちから見ればはしたないと言うかもしれない。一人でも多くの客に店に入ってもらおうと大声で客寄せを行なう人達が多い。


この地区に冒険者ギルドがある。


活気がある地区だが、その分問題も多い。そのため問題があるたびに兵が動いていてはたまらないと、よほどのことがない限りは冒険者ギルドの連中に任せる方針を取っているのだ。


ある人は食材を求め、ある人は装備を買いに、ある人はギルドに依頼をと様々な人が行き交うためとても騒がしくもあり、活気もある。露店を出す商人も多いため、ヴィータも気軽に気になった物を手に持つことが出来る。


(冒険者かぁ……兵士として役に立てなかったのに、冒険者なんてやってもな……)


冒険者は実力主義だ。力ないものは魔獣の餌に、力あるものは貴族なんて目じゃないほどの富を稼ぐことが出来る。手配されている魔獣を倒せば名声を、運が良ければ国からスカウトも来るだろう。


実力主義である以上、自分の力に自信を持てないヴィータの次なる職の候補には上がらなかったようだ。


(商人もなぁ……算術出来ないしなぁ)


農民の出のヴィータは学問を習うことなどできなかった。そして習おうとも思わなかった。兵になるまでは流され体質で自分の目標など持たずに過ごしてきたのだから。ヴィータの頭の中に今から必死に勉強するという未来を思い描くことは出来なかったようだ。


(……無理だ。将軍に立ち向かう事よりも無理だ)


商人たちからしてみれば、将軍に立ち向かうことが出来るヴィータは凄いのだが、それをヴィータが知ることはない。商人として日夜お金を稼ぐということは、ヴィータには不可能だろう。職の候補には上がらなかった。


ある程度王都を歩き続けているが、ヴィータの心に響くような職は見つけられなかった。


「まだ1日目だ。それにお金はたくさんある」


自分にそう言い聞かせる頃には日が傾き始めていた。


「宿を探さなきゃ。あの建物からいい匂いがする。ちょっと高そうだけど行ってみよう。お金だけはたくさんあるしね」


たまたま通った近くの宿からいい匂いがした。その匂いにつられて宿に入っていく。王都に数多くある宿屋で中級程度の宿だ。ちょっと贅沢をしようとお金を貯めた平民が立ち寄る宿だ。


兵達は自分達に与えられた仕事を終えると、与えられた給金を手に王都へと繰り出す。


ある者は本を買うなど、兵としてやっていけなくなった場合などのために備える。

ある者はたまには豪勢な食事をと上手い酒や飯を食べに行く。

ある者は性欲を満たすために娼館へ。


ヴィータは一日一日の仕事をこなすことで精一杯だった。鍛錬もそうだ。日々夜遅くまで頑張っていたヴィータは贅沢などしたことなかった。


「いらっしゃい」


「えっと今日ここに泊まりたいんだけど」


「部屋は空いてるよ。銀貨2枚で夕食のみ、銀貨3枚で朝食もつくよ」


「じゃあ、朝食付きでお願いします」


「毎度あり!」


宿なんて泊ったことのないヴィータは緊張しながら気前の良さそうなおっちゃんに銀貨3枚渡した。


「宿は初めてかい?」


「は、はい」


「かなり若いもんな! しっかし鍛え抜かれたいい体してるじゃないか。冒険者にでもなりに来たのかい?」


「あ、いえ。戦うことは向いていなかったから、別の仕事を探そうと思って。今日は今までの自分にご褒美をと」


「は~ん。ま、頑張んな! 王都で成功すれば毎日いい思いできるさ!」


「はい!」


「夕食までもう少しかかるから、先に部屋に行って休んでな! 出来たら呼びに行くから」


「ありがとうございます」


部屋の鍵を受け取り、少し迷いつつ部屋に辿り着いた。ヴィータが過ごしていた兵舎なんて目じゃない。綺麗に扱われている部屋、しっかりとセットされたベットがある。


兵舎にあるヴィータが使っていた部屋はボロボロで、ベットも硬く、寝心地が悪く慣れるまで時間が掛かったものだと。まだ兵舎を出て1日目だというのに思い出に浸っていた。


「レフィリア様のベットはに比べたらあれだけど……気持ちよく寝れそうだ」


一平民が営む宿と王族の使う物を比べてはいけない。

食事を終えたヴィータは久々に腹いっぱいになるまで飯を食べた。


「パンとスープおかわり自由……最高だった」


柔らかいパンなどほとんど食べたことのないヴィータにとってこれ以上に無い贅沢だった。兵舎での食事は硬いパンに、ほぼお湯と言っていいスープだったのだから。


またいずれ来ようと思うヴィータだった。

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