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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
王国兵士編
21/92

のほほん20

医務室へ運ばれた後もヴィータは泣き続けていた。


ただただ悔しくて。


以前、レベルが上限になってしまった時とは違う。ただひたすらに悔しくて泣いた。


泣き続けた

届かない

どれだけ足掻いても届かなかった


将軍の背中はとても大きく、いつかきっと追いつきたいなどと考えたこともあった。そのすべてが叶わぬこととなった。絶望し、すべてを諦めてしまった時とはまるで違う。


レベル上限に縋っていた時とは違う。


レフィリアを守りたい

守れるようになりたい


それを叩き折られてしまったことへの悔しさだ。


「…………」


「落ち着いたようだね。以前のようにならなくてよかった」


「俺は何も出来なかったであります」


「そんなことはない。君は3度の戦争を戦い抜いてきたじゃないか」


「そんなものたまたま……」


「それも実力のうちと言う。君の周りにはそのたまたまに恵まれず生き残れなかった者達がたくさんいただろう?」


「……それは……自分が役立たずだから……」


「そうかい? 少なくとも私は将軍が全力を出して、逃げ出さなかった兵なんてほとんど見なかったけどね」


「日々鍛錬している仲間達なら、皆逃げ出さないであります」


「君は自分を随分と低く見ているようだね。まぁ……仕方がないか。とにかく、しばらくは絶対安静だ。それまでにこれからの自分の生き方を探すといい」


「……はい」


自分の生き方を探せ。


そんなことを言われてもヴィータには何もない。何をしたいのかなんて毎日、必死に鍛錬について行くことで精一杯だったヴィータに思いつくはずもなかった。体が順調に回復していく中、考えてみてもやはり思いつかない。結局、体が全快してもやりたいことなんて見つからなかった。


「体は全快したか、ヴィータ」


「はいであります!」


「あの時とは違い、受け入れているようだな?」


「……思うことはありますが、チャンスをもらったのに活かすことも出来なかったであります。認めるしかないであります。さすがは将軍。今まで戦ったすべての者達より圧倒的でありました」


全快したヴィータが向かったのは将軍のいる事務室だ。


「……そうか。さて、ヴィータよ。これからのことは考えられたか?」


「何も……思い浮かばなかったであります」


「そう簡単に見つかるものではないか。それもそうだろうな。5年、お前を見続けてきて、いつからか並々ならぬ意思を感じていたからな」


「結果が出なければ意味はないであります」


しんみりとした空気が漂う。ヴィータも兵を辞めることになることを受け入れているようだ。スッキリとした顔をしていた。


「そうか……。これを持っていくといい」


「これは?」


「退職金だ。兵として雇われていたお前は多少の蓄えはあるだろうが、これからの自分の道を探すにはやはり金は必要だ」


「こ、こんなに受け取れないであります!」


ヴィータの渡された退職金の入った袋には、他の辞めていった者たちよりも多く金貨が入っていた。このお金を持って村に帰り、計画的に使えば10年は何もしなくていいほどだった。


「受け取れ。5年、兵として働いただけではない。3度の戦争を生き抜き働いた功績。そして王と姫を守った功績。そして俺の選別だ」


「し、しかし」


「いいから受け取れ!」


「は、はいであります!」


5年間叩き込まれた兵としての在り方と、将軍の有無を言わさぬ物言いに逆らえず、退職金を受け取ってしまった。


「ヴィータよ。兵として苦楽を共にできたこと誇りに思う。これからお前は我々に守られる側だ。元気で暮らせよ」


「っ……はい。将軍、い、今までお世話になったであります!」


「あぁ」


「失礼するであります!」


将軍も忙しい身だ。いつまでもヴィータと話している余裕はない。それを知っているヴィータは言いたいこともたくさんあったがそれを呑みこみ、事務室から出ていく。


「儘ならないものだな……」


ヴィータが出ていった後、将軍がポツリと誰にも聞こえないくらいの小さな声でそう言った。


…………………


ヴィータは静かに兵舎から出ていく。兵舎にいる数少ない兵たちの何人かに背中を叩かれたりもした。5年前、ヴィータが兵舎の前に友達と一緒に辿り着いた時は今にも倒れそうなくらいフラフラだった。


「5年……あっという間だったな……」


兵舎の入口の前で思いにふける。思い出せるのはつらく厳しい日々だけだが。


「……さて、どうしよう」


今のヴィータには、兵として過ごしていた時に与えられた服と靴、そして退職金と5年間ほとんど手付かずだった給金だけだ。


「このままここにいても兵に戻れるわけじゃない。王都を歩き回ればきっとやりたいことが見つかるはずだ」


ヴィータは歩き出す。新たな道を探すために。

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