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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
王国兵士編
20/92

のほほん19

王国と帝国の戦争。帝国将の強襲策は王の首を取るあと一歩手前の所までの事態になり、王も、将軍もその他すべての兵たちもさぞ冷や汗をかいたことだろう。


その強襲策はヴィータの決死の介入、そして帝国将とヴィータの激戦、そのヴィータの王国のヴィータを知る者達なら誰もが疑うような奇跡の時間稼ぎによって、王国の同盟国の援軍がギリギリで駆けつけることが出来、王国を守り切るという結果となった。


もし、ヴィータがレフィリアに対して何の思い入れもなければ、

もし、ヴィータがオランド隊長に自分の意思を主張しなければ、

もし、ヴィータが帝国将の強さに怖気づき飛び出さなければ、


同盟国の援軍が間に合わず、今頃帝国将は王の首を取り、レフィリアは帝国へ連れ去られていた。


仮にその後王の息子が王座に就いたとしても、若すぎる王は王としての役割を果たすことが出来ず、強国として名を連ねることが出来なくなっていた。もしくは滅びの道を歩んでいた事だろう。


強襲策を何とか防ぐことが出来た王国は直ちに王都の警備を強化、同じ手を受けないように強襲、奇襲対策の徹底。それにより多少、王国は数的に不利にはなったが、強襲策を防いだことで士気が上がり均衡を保つことが出来ていた。


王国と帝国は完全に膠着状態になった。互いの兵力も実力もほぼ同じの両国は無駄な兵の消耗を避け、睨み合いの状態が続く。兵糧や物資の消費、両国の土地を狙う国々の介入の可能性。そしてこれ以上は互いに痛みわけではなく共倒れになってしまうと判断した両国は、使者を送り合い、早々に話をつけ、戦争を終わらせることとなった。


今回のヴィータの活躍は王族、貴族、兵たちに瞬く間に広がっていった。王自身も命を助けられたことから褒章を与えるつもりだったのだが、そこで問題が出てきてしまった。


普段のヴィータの周りの評価の低さだ。


ヴィータと共に毎日を過ごしている兵たちは、努力していることは知っていた。けれど帝国将と戦えるほど強いとは思っていない。貴族たちや城の守りを任されているような貴族の出の兵士たちは、レフィリアの護衛の任に就いた親衛隊からまともに護衛が出来ない落ちこぼれという評価を信じていた。


あの時あの王の間で一部始終を見た者はごくごく少数だ。それ以外の者達のほとんどがヴィータの活躍を認めようとしなかった。ヴィータ自身もその時の記憶は無く、実感もない。そんなこんなで褒章の話は無くなったのであった。


戦争が終わり、ヴィータが兵に志願してからちょうど5年が経った。


今日も今日とてヴィータは努力する。


ヴィータの気持ちにはレフィリアを守りたいという確固たる決意がある。そして周りの兵たちに負けたくないという気持ちと帝国将になす術なく負けてしまった悔しさが渦巻いていた。


それでも鍛錬にはついていけない。


「報告は以上です!」


「わかった。一つ聞きたいことがある」


将軍の事務室。王国の様々な報告を受けたあと、将軍はある質問をする。


「なんでしょうか?」


「お前はヴィータのことをどう思っている? 本心で答えてくれ」


「ヴィータ……ですか。はっきり言いますと私も5年、あいつを見てきました。あいつの努力、そしてその精神は誰もが認めることでしょう。しかし、それ以外では兵として何一つ成し遂げることは出来ないと思います。先の戦争での活躍、私は信じることは出来ません」


「……そうだな。このままヴィータが兵として日々を過ごしても、苦しむだけか」


「度重なる戦争で財政も圧迫していると聞きます。もし軍備縮小などがあれば斬り捨てられる筆頭に名を連ねるでしょう。将軍やレフィリア姫、その他数名以外は足手まといだと感じてしまっていますから……」


「わかった。わざわざ時間を取らせてすまなかったな」


「いえ! それでは失礼します!」


(……。ヴィータ。あいつが王国兵として大成する姿を見てみたかった……が、このままでは埋もれてしまうな)


将軍は5年もの間、ヴィータをずっと見続けてきた。将軍自身が持つ志、それを継ぐに相応しい人物として。


将軍は夢見ていた。


自身が軍を率いて、右腕にオランドを、左腕にヴィータを。そして時が来ればオランドを将軍に、ヴィータをその右腕に。さらに時が進めば、いずれはヴィータを将軍にと。それだけの夢を抱けるほどの精神力がヴィータにはあった。だがヴィータにはそれを成せるだけの肉体に恵まれなかった。


ヴィータの活躍を聞き誰よりも喜んだ将軍。ついに開花したかと思っていたが、戦争後の鍛錬は変わらず遅れていた。将軍は決意する。ヴィータに別の道を行かせることを。


……………………


場所は修練場、兵たちが整列する中、将軍とヴィータだけが摸擬刀を腰に差していた。


「ヴィータよ。俺はお前を5年見続けてきた。その努力は、その精神は誰もが認めるところだろう。だがその実力は?」


「…………」


「答えられないか……なら俺が代わりに答えよう。その実力は新兵にすら劣る。5年もの間、お前は王の求めている強さの基準に達することが出来なかった。そのような者をいつまでも兵としておいておけるほど王国に余裕はなく、王の心も広くないのだ。そして……俺もな」


「そ、それは……つまり……」


「そう、つまり兵として役に立てないお前はいらぬということだ」


ヴィータはわかっていた。いつかそう言われてしまうと。悔しさ現すように唇を噛みしめていた。


「だがチャンスを与えよう。その努力を報いさせるチャンスを。先の戦争で王を姫を守り抜いた実力を示すチャンスを。この俺自身が相手になってな。この俺に一太刀浴びせることが出来れば、残ることを認めよう。もし出来なければ……わかっているな?」


「……はい……」


「俺は手を抜かん。本気で行く。だからヴィータ。お前が出せるすべてを俺にぶつけてみせろ」


将軍がそう告げると、平穏だった空気が一瞬にして戦場にいるのと変わらない緊迫した空気に変わる。新人いびりの時に放つ威圧感や殺気は手加減していたとはっきりとわかるほどに。


その場にいた兵たち全員がそれを実感するほどに。


(……お、俺は……む、無理だ……この人に……一太刀浴びせるなんて)


ヴィータの体から汗が吹き出し、体が震える。


「ヴィータよ。諦めるのならこの場を去れ、逃げても誰も何も言うまい」


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


ヴィータは悩む。


戦っても絶対に負ける

どう足掻いても届かない

けれど逃げていいのかと


レフィリアを守りたい

笑顔であってほしい

例え自分の命を失うことになろうとも


ここで何もせず逃げてしまったら、もう戦えない。もう守れない。

ヴィータの目に強い意志が宿る。逃げないという意思が。


「……いい目だ」


「……はぁ……はぁ……ふぅー」


ヴィータは自分より強者の前であっても、逃げ出すことを選ばなかった。

戦うことを選んだヴィータが将軍へ牙を剥く。


…………………


「どうした。もう終わりかヴィータよ」


「……がっ……ぐぅ……ま、まだ……」


現実は無情だ。


どれだけの決意があろうと、圧倒的実力差のある相手には届かない。

ヴィータの体を蝕む重い兜と鎧が、ヴィータの邪魔をする。

将軍の容赦ない一撃がヴィータの体を痛め続ける。

それでもヴィータの目は死んでいない。

今もなお将軍を見据えている。


「もう動けないのか? ならば俺が終わりにしてやる」


「・・・があああああ!」


たった一太刀でヴィータの左腕を折る。それでもまだ終わっていないと摸擬刀を構えるヴィータ。そしてもう一太刀。右腕を折られ、ついに摸擬刀を離してしまったヴィータ。


「ヴィータよ。お前の怪我が治るまでの間、部屋と食事を与えよう。それまでに今後何をするか、考えておけ。……ヴィータを医務室へ連れていけ」


「「はっ!」」


「ううううううう! ううううううう!」


一太刀も浴びせることが出来なかったヴィータが悔し涙を流していた。まだ戦えると、ヴィータを連れていこうとする者達にわずかな抵抗を見せるが体は限界だった。


「全員、今日のヴィータの勇姿を胸に刻み付けておけ。あいつは自分より強い者であっても最後まで諦めず戦い抜いた。その精神は我々の誇りだ。そして今日この時をもってヴィータは兵から守るべき民へと変わる。ヴィータのように最後の最後まで足掻き、民を守ろうではないか」


将軍とヴィータの模擬戦はその勇姿は、見ていたすべての兵の胸に刻み込まれることとなった。ヴィータが兵に志願してからちょうど5年。ヴィータの兵士としての日々は幕を閉じた。


模擬戦戦績、100戦3勝97敗。

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