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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
王国兵士編
2/92

のほほん1

村から出た俺と友達は王都へと続く道を歩き続けた。

村から出る時にもらった数少ない食料を少しずつ食べながら2人で笑いながら歩き、夜は魔獣に襲われないかとビビりながら、冷える体を温めるために体を寄せ合い夜が明けるのを待つ。


5日。ただひたすら王都を目指してかかった日数だ。体は重く、体は汚れきっていて、疲れもあり睡魔に襲われながらも、村長に言われた通りに王国兵たちのいる兵舎へと向かった。


友達は俺より年上だからまだまだ元気だったが、俺はもう限界だ。正直かなりきつい。腹も減った。でも王都は広い。迷ったら最後、気付いたら奴隷になっていたなんてこともあると、村長に脅されていたせいもありなんとか兵舎に辿り着くことが出来た。


王都の兵舎にやってくる薄汚れた服を着た者達は大体が兵志願者だ。兵舎の見張りをしている兵士2人は俺たちを見ても嫌な顔をせずに近づいてきて話しかけてきた。


「もしかして、君達2人は兵士になりたいのかな?」


「「はい!」」


(眠い……体が重い……疲れた)


「どうやら君の友達は限界のようだね」


「ヴィータは情けねぇーなー」


「……うぅ……」


「はっはっは! みんな最初はそんなもんさ。それにこの子は見たところまだ子供だろう?」


「そうだった」


「話は通しておくよ。中に入って休める場所はどこかと聞くといい」


「……ありが……とう……ございます」


うとうとしながらの返事も怒らず優しく接してくれる。いい人だ。言われた通りに2人は兵舎へ入っていく。2人はまだ知らない。その入口が地獄への入り口だったということを……。


見張りの兵がなぜ優しく接するのか。その理由はすぐにわかる。理由は簡単、怖い顔をして見張りをしていれば志願者が怖くて寄り付かなくなるからだ。


そして2人は地獄の鍛錬の日々を味わう羽目になった。


ヴィータと友達は言うなれば頭が悪い。名も無き小さな村の人々はテストをしていたのだ。テスト期間は10歳になってから15歳の誕生日まで。


同年代の子達の中から仲間外れが出るように土地を開拓しておいて、村から出る期日までに子供たちがどんな行動をするのか観察していた。


それに気づいた者達は期日までに交渉、あるいはお金で土地を買うなどなど。頭を使い、考え、行動した。それに気付けなかったのが一緒に王都まで来たヴィータの友達。


ヴィータの場合は仕方なくだったが、それでも両親の話を鵜呑みにせず、どうしようかと対策を練っていれば今もまだ村で家族共々仲良く農民として暮らしていけたかもしれなかったのだ。


そんなテストが行われていたとはつゆ知らず、地獄の門を開けてしまった二人はゆっくりと体を休めた翌日に先輩兵たちがずらりと並ぶ最前列で、見知らぬ志願者数名と立たされていた。


目の前には王国軍の中で頂点に立っていると言ってもいい男が立っていた。


朝早くに先輩兵たちに叩き起こされ、連れてこられた場所は修練場。目の前には物凄い威圧感を放つ圧倒的強者がいる。大人になったばかりの15歳以下の者達は眠気などとうに吹き飛び、目の前にいる強者の威圧感に当てられ背筋をピンと伸ばし、足をがくがくと震わせている。


「……貴様ら……なぜここに立たされているのか分かっているのか?」


(アワワワワ……あの人……ヤバイ……)


ドスの聞いた野太い声を聞いただけで、ヴィータは体中を震わせちびっていた。……いやここにいる志願者すべてが体を震わせちびる……もしくは漏らしていた。


「……わ……わかりません!」


「……ほぉ?」


志願者の1人が何か答えなければと咄嗟に声を振り絞ったのだろう。勇気は認めるが、実に愚かな返答だった。


強者は腰につけていた王国に一本しかない……いや、世界に一本しか存在しない剣を愚かな返答をした志願者の首へと当てた。その志願者の首からはほんの少しだけ血が流れていた。剣を首筋へと当てられた志願者とその周りにいた数名はあまりの恐怖に腰を抜かし、尻餅をつき後ずさっていた。


(何をしたのか全く見えなかった……あの人の近くにいたら絶対漏らしながら逃げてた……)


「貴様ら!!! 誰が座っていいと言った!!!!」


「「「ひゃあああああ!!!!」」」


怒鳴り声を上げるその強者から溢れる威圧感がさらに強くなる。お家帰りたいと泣き始める者もいた。もはやどうしていいかもわからず混乱している者もいる。中には立ったまま気を失っている者もいた。立たなければ殺されると思った尻餅をついていた志願者たちは一斉に立ち上がる。それはもう綺麗にピンと背筋を伸ばして整列していた。


「貴様らは兵舎に入った瞬間から王国に仕える兵になったのだ!!!!」


「「「「は、はい!!!」」」」


「それが規律を守らず、足並みを乱すとは……罰せられたいのか!!!!???」


「「「「も、申し訳ありません!!!!」」」」


「し、しかし……そ、その……規律など……入ったばかりの俺達には……」


「なぁにぃ~?????」


愚かにも口答えしようとした一人に強者の殺気が襲いかかる!

その瞬間白目をむいてそのまま受け身も取らずに倒れた。


自分達に向かって放たれた殺気ではないというのに自分にはどう足掻いてもこの人には勝てないという恐怖を植え付けてきた。


(……漏れちゃった……母ちゃんごめんなさい)


「貴様ら誰が座っていいと言った!!!!!」


「「「「も、申し訳ありません!!!」」」


これは新しく入ってきた者達への洗礼である。大体1年。この数字は目の前で怒鳴っている将軍の威圧感や殺気を受けても耐えることが出来るようになるためにかかる平均年数だ。ヴィータが将軍の全力の殺気を受けても耐えられるようになったのは1年と3ヶ月だった。

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