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のほほん英雄譚  作者: ビオレちゃん
王国兵士編
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のほほん14

しばらくの休暇を与えられたヴィータ。


そのヴィータが部屋から出るようになった。だがその足取りはおぼつかず、目には意志が宿っていない。何を見ているのかもわからない目で、ゆっくり、ゆっくり食事をとる。


これでも回復した方だ。そしてヴィータは何も考えず、ただただ時間を無駄に浪費していく。どうして報われなかったのか、どうしてこんなにも自分は無力なのかと自責の念を抱き続けている。


そしてまた一日が過ぎていく。


少しするとまたヴィータの行動範囲が少し伸びた。兵舎から出て、王都をフラフラと彷徨う。活気ある王都、活気ある民たち、今のヴィータとは違い王都の人々は自分の仕事、商人であれば商売を、職人たちであれば技術を磨き、自分の目標を定め、活き活きとしている。


今のヴィータはスラム街に住む者達と同じかもしれない。いや、生きることに執着しているスラム街の人達のほうがまだましか。今のヴィータはいつ自殺してもおかしくない。でもヴィータはまだ諦めきれていない、もし諦めていたら自殺しているだろうから。諦めきれていないからこそ、おぼつかない足取りで、定まらない瞳で希望を探していた。


さらに数日が過ぎた頃、ヴィータは一人ポツンと王都の隅っこにある草むらで座っていた。どうやら歩き回っても希望が見つからなかったようだ。どうすることも出来ずただただ座っていた。


「あの……そこの方。どうかされたのですか?」


「姫様! そのような者に近づいては危険です!」


「エレノア、大丈夫ですから」


「……え?……」


たまたま、偶然だった。レフィリアは旅を終えてから、城の息苦しさに耐えきれず、王をあの手この手で説得させることに成功し、視察と称してこうしてたびたびストレス解消のために城から出ていた。


レフィリア本人は一人で出たがっていたが、流石にそれは認められないと、王とエレノアが譲らず、レフィリアが根負けし、エレノアと一緒に視察に出ることになる。生まれた時から傍に仕えたエレノアだからこそ受け入れられたのだろう。


「……ヴィータさんではないですか」


「貴様、何をやっている!? 兵として……」


「エレノアは黙ってなさい!」


「・・・(ギリッ!!)」


レフィリアもエレノアもヴィータのこととなると少し様子が変わる。ヴィータでなければエレノアは淡々と理由を聞き、レフィリアも強く出ないのだが、ヴィータのこととなるとエレノアは敵対心を隠さず、それを理解しているレフィリアも黙っていない。


ヴィータのことを認めているレフィリアと、役立たず以下だと思っているエレノアで対応の違いが出てしまっているのが原因だ。そのことで言い合いになるとエレノアは絶対にレフィリアを説得することが出来ない。旅以来、たびたび言い合いになるのだが、必ずエレノアが言い負かされ、泣きながら許しを請う。


エレノアは絶対にレフィリアに勝てない。むしろ弱みを握られている。役立たずだと思っているヴィータの話題だからこそ、エレノアは許せない……ヴィータを。レフィリアの前であっても目の敵にしているヴィータをこれでもかと言わんばかりに睨み付けていた。


「……ぅ……」


「……はぁ……エレノア、ヴィータさんが怯えているではないですか。少し下がっていてください」


「私はレフィリア様の護衛です! そのような……」


「エ・レ・ノ・ア?」


「うっ……し、しかし……」


「私はあなたの実力を信用しています。少し離れたところにいても問題ないでしょう?」


「……わ、わかりました……。ですがあまり時間は……」


「それもわかっています」


「では……失礼します。(ギリッ!!)」


もやは隠す気はないのだろう。自分にできる最大限の殺気をヴィータに放ち、離れていった。


「はぁ……エレノアもヴィータさん以外のことでは、凄く助けられているんですが……怖がらせてしまってごめんなさい。ヴィータさん」


「……いえ……」


「隣に座らせてもらいますね?」


「……ぇ……あの……」


レフィリアは静かにヴィータの隣へと座る。エレノアが見ていたら発狂していたかもしれない。


「エレノアには内緒ですよ? あの人は色々と頭が固い所があって、うるさい時がありますから」


「はぁ……」


「とても元気がないように見えます。ヴィータさん、理由を教えてもらってもいいですか?」


「その……レフィリア様に話すようなことでは」


「……では、私の悩みから少し話しますね? 聞いてもらえませんか?」


レフィリアはこのまま話しても打ち明けてくれないだろうと判断し、自分のことを話すことにしたようだった。


「レフィリア様にも悩みがあるでありますか?」


いつも笑顔でいるレフィリアにも悩みがあることにヴィータは驚いたようだ。


「もちろんです! 他の者達が聞けば贅沢だと言われるのがわかりきっているので、なかなか相談できないのです。聞いてもらえませんか?」


「……俺のような者でよければ」


「俺のような、などと言わないでください。ね?」


「……はい……」


優しく、慈悲深く、微笑みかけるレフィリアのその微笑みは今のヴィータにとって救いであったことだろう。

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