のほほん11
レフィリア姫の見識を広める旅は多少のいざこざはあったが、旅自体は問題なく終えることが出来た。王はレフィリアとの会話の中、学問で得た知識だけだったものが、旅を終えたことでしっかりと自分の考えを持てるようになったと成長を感じることが出来て満足している様子だった。
将軍が推薦したヴィータも旅の中で少しは得るものがあった。
ほんの少しの変化、ヴィータをよく見ている者でなければ気付けないほどの微妙な変化。将軍はそれをしっかりと感じ取っていた。ヴィータの中でただ漠然と家族を守りたいという思いの中に、レフィリア姫を守りたいという気持ちが芽生えていた。
(優しかったなぁ……温かくて、他の人とは何かが違うんだよなぁ……)
護衛の任に就いたヴィータを厳しいながらも激を入れてくれたオランド隊長。
なんだかんだ言いつつフォローしてくれたアリア先輩。
その2人以外の親衛隊と兵たちはヴィータに対してとても厳しい……いや敵対していたと言ってもいいだろう。嫌味ならまだよかったが、暴言など当たり前だった。ヴィータはそれは自分が悪いと受け入れていた。決していい気分ではないのだが。それを諫め続けたのがレフィリアだった。レフィリアが慈悲深い心で接し続けたことでヴィータの中に今までなかった気持ちが芽生えたのだ。
ヴィータは今日も鍛錬について行くことが出来ていない。けれど今までとは目つきが違う。負けたくない、怒られたくない。罰を受けたくない。そういう感情で鍛錬をおこなっていた。そのヴィータが少しずつ、ほんの少しずつ変化していた。
もっと強くなってレフィリア様を守れるようになりたい。
漠然とした決意が、少しずつ確固たる決意に変わり始めているのだ。
鍛錬中ヴィータはいつものように城へと目を向ける。以前、レフィリアと目が合った気がしたその日から、たまにレフィリアが城の窓から修練場を見に来るときがある。それに気づく者はヴィータ以外いない。
以前、レフィリアもなぜかたまたま覗いた修練場で一人の兵と目が合った気がしていた。その日から気晴らしに修練場を見に行くことがある。するとやはり一人の兵と目が合うのだ。気のせいだと思ったが、何となく気になったから手を振ってみたのだ。手を振ると、その兵は周りの兵に気付かれないようにこっそりと手をあげ返してくれる。たまに見つかって怒られているが。
そしてヴィータもたまにやってくるレフィリアが笑顔で手を振ってくれることに喜び、手を挙げ返す。兜を装備しているため、レフィリアはその人がだれか気付いていないが、ヴィータとレフィリアの密かな挨拶は、ヴィータにとっては決意を再確認する時間に、レフィリアにとっては退屈な城での小さな楽しみの一つになっていた。
「……ふぅ……ふぅ……ふぅ……今日も乗り切ったぞ……」
鍛錬を終え、兵舎へ戻り鏡を覗く。
【26】
「32まであと6か……あと6で鍛錬についていけるようになればいいけど……」
26、レベルだけ見れば兵士たちの中でも上位に入るだろう。けれどヴィータの実力は最下位と言っていい。劣等感はある。けれど護衛の旅のおかげで少しだけ前を向くことが出来るようになった。
あと6。レベルが上限の32になった時、鍛錬について行けるようになっていれば……とわずかな希望を胸に日々努力する。
これが兵に志願してから3年と2ヶ月経ったヴィータの気持ちだった。
……………………
そして3年と4ヶ月が経った頃、ヴィータは2度目の戦争を経験することになる。王国の周辺にある、決して大きくない国が土地の権利を巡り対立。お互いの意見を受け入れられない両国が痺れを切らしたのだ。敵国は自分の軍事力が王国より優れていると、脅してきたのが戦争になるきっかけだったとかなんとか。
「さて兵士諸君。我々屈強なる兵があの愚か者共より劣っていると思うかな?」
将軍は静かにそう言った。兵士たちは反論しない。
「では我々はあの愚か者より優れていると思う者はいるかな?」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「そうだ!!! 我々は強い!!! 弛まぬ鍛錬で鍛え上げられた我々があのような愚か者共より劣っているはずがないのだ!!!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「さぁ!!!! 見せてやろうではないか!!! 我々の強さを!!!! そして思い知らせてやれ!!!! 我々の強さを!!! そして二度と愚かなことが出来ぬように徹底的に蹂躙してやれ!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
「我々は王を!!! 国を!!! 民を!!! 家族を!!! 恋人を!!! 友を守るために存在する!!! あの愚か者共に我々の強さを死をもって思い知らせてやれ!!! 俺に続け!!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
ついに戦争が開戦し、将軍の雄叫びと共に馬を走らせる。それに続くように兵たちが雄叫びを上げ将軍について行く。