小話、炎の誓い
少し遅れてしまいました。
月曜から大学祭の準備が再開し、台本とか作る毎日。
これからも3日間隔くらいになってしまいますが、今後もよろしくお願い事します。
四神
その称号はカルディア日本支部において最強を意味する。
カルディア日本支部に属するものなら誰もが憧れ、その高みを目指す。
魔術師の実力とは、自身の能力の他に魔術基盤をどれだけ操れるかと言うことも重要である。
そして、ある程度の差なら魔術基盤の性能で埋められるのであれば、
四神の称号とは、博士の作り上げた魔術基盤を最も上手に操れる者と言うことである。
これは日本に限った事でなく、カルディア全体の常識。
つまり、カルディアで最強を名乗りたければ、博士に認められることだと。
そして、博士は才あるものしか認めない。それ故、魔術基盤の適合者は数少なく、適合者は発見と同時にカルディアで保護され特殊な訓練を受ける。
例え博士の魔術基盤の所有者になれずとも、適合者と言うだけでその才は博士が認めるもの。魔術師として大成するのは確定だ。
そんな、ある意味出世街道まっしぐらな適合者。
それだけで未来は約束されたも同然だが、
「帰るっ!!」
7歳の私にはそんなこと関係なかった。
別に無理矢理拐われたとか、家族をカルディアに殺されたとかそんなことではない。
カルディアは魔術や魔物についてを両親に説明し、私の才能の重要性を説いた。
両親は渋ったが、当時7歳の私は魔術なんてものを聞かされたら使いたくなるのは当然だ。
私は両親を説得し、カルディアも私の安全を約束したことから私のカルディア行きは決まった。
のだが、
「私、帰るっ!」
「ちょっと、レイランちゃんっ。お、落ち着いて」
「茜うるさい、静かにして」
「えぇ~すごい理不尽...」
そんな遊び感覚で訓練に耐えられる筈もなく、来て3カ月で帰りたくなっていた。
「だって、嘘だったもん。魔法が使えるって言ってたのに、全然だし。勉強ばっかでつまんない。ナニあれ、目瞑ってるだけじゃん!」
「ま、魔法じゃないよ、魔術だよ。それに目を瞑るのは、せいしんとういつって言って魔力を確かめるのに大切だって、お父さんが...」
「茜、なに言ってるの?」
「えぇ~ナニって聞いてきたから...」
同じ適合者で尚且つ同年代と言うこともあり、すぐに仲良くなった私の親友である茜。
気の強かった私が引っ張る形で、いつも茜と遊んでいた。
今回の帰りたい病も、私の中では遊びの一環だったと思う。
「だから、今日はお外で遊ぼう」
「一応聞くけど、帰る気ないよね?」
「あ、あるもんっ!遊んだ後で帰るの!!」
魔物に明確な意思は確認されていないが、魔力の反応で相手を狙う事は分かっている。なので、普段は保護者同伴でないと門の外には出られない。一般人より魔力を持つ魔術師は必ず狙われてしまうからだ。
その事はこちらに来て一番始めに習ったのだが、実際に魔物を見たことない私は気にしていなかった。有り体に言えば舐めていたのだ。私の中では、見たことない魔物より怒った母の方が怖かった。
それに、
――私はもう魔法を使えるもんねっ!――
先生に隠れ、練習した魔術。魔術基盤も無く、ただ火を出すだけのものだったが、周りの子より先に魔術が使えるんだと言う思いが私を後押ししていた。
「大丈夫だよ、茜。魔物が来ても、私が茜を守ったげる」
「う~ん...そっか。なら、安心だっ」
「うん!安心して!」
「でも、門から離れすぎないようにね」
「分かってるよ。晩ごはんに遅れると先生うるさいもんねっ」
「...やっぱり、帰る気ないじゃない」
「ん?」
「何でもない。それじゃ、行こっか」
毎日の勉強は苦手だったけど、茜と遊んだり、先生に誉められたりするのが大好きだった。
お母さん達に会えないのはちょっぴり悲しい時もあったけど、休日にはカルディアに遊びに来てくれたし。
不満はなかった。不安もなかった。
私と茜は博士の魔術基盤をめぐるライバルだったけど、子供の私達には関係なかったし。
先の事はまだ分からなかったけど、こんな日常がずっと続くなら、きっと私は幸せだと思っていたから。
そんな幸せが無くなるなんて考えもしなかった。
カルディアは門を起点に強固な防御魔術で守られており、もしもの時には魔物相手に籠城戦も行えるほど。
そんな門の一部が何故か壊れており、その事に気づいていた私達はそこから門の外へと出た。
「んっ~!お外に出ると何でか空気が美味しく感じるよねっ」
「そぉ?別に味なんてしないけど」
「...なんだか急に帰りたくなってきたよ、私」
「だめよっ。まだ遊んでない。虫採りしよう!」
「チョイスが男の子だよ、レイランちゃん」
嫌々ながらも私について来てくれた茜は、すごくいい子だった。
「あ!蜂だっ!」
「えっ、蜂!?虫採りで蜂狙っちゃうの!?」
「近くに蜂蜜があるかもっ」
この歳から分かるくらい美人で。頭も良くて。
「あれ~、どこ行ったんだろう」
「...」
「ねぇ、茜ったら」
「っ!レイランちゃんこっち!」
「うわぁっ」
魔術師としても、私なんかより才能あって。
「痛っ~!?何するっ!?」
「な、何でこんなところに魔物がっ」
だからこの時、死ぬとしたら私の方だったのに。
「逃げよう、レイランちゃん」
「で、でもこの草村に隠れてたら助けが来て...」
「だめ。あいつらは魔力に反応するから。ここにいてもすぐばれちゃう」
「でもっ」
「!、危ないっ」
グズる私を突き飛ばすように抱きついてきた茜。
さっきまで私のいた場所を抉るようにして現れたのは、黒紫色のナニカ。形としては狼みたいだけど、見るものを不安にさせる気配が全てを台無しにする。身体に纏う黒紫の魔力はあらゆるものを腐らせる効果があり、ヤツの立っている地面がグジュグジュと沸き立っている。
けど、
「ひっ...」
「下がって、レイランちゃん」
普段はオドオドしているけれど、この時の茜は誰よりも頼もしくて。
「...大丈夫。レイランちゃんは私が守ってあげるから」
「~~っ!!」
魔物を睨みつけながら、それでも私を気遣ってくれるその心に泣きそうになった。
「...心を落ち着かせて、慌てず、しっかり相手を見詰めてっ」
「グルァァァァッ!!」
高まる魔力。それに反応し、飛び掛かってくる魔物に向かって
「燃えてっっ!!」
茜が発動した魔術、火球が魔物に直撃する。
「スゴイ...」
魔物を一撃で消し飛ばす程の魔術。並みの大人でも出来ないだろうそれを、このタイミングで使える彼女。始めて見る親友の姿。そんな彼女に誰よりも憧れた。
「怪我はない、レイランちゃん?」
「は、はいっ」
「...なんで敬語?」
絶望は無くなった。このままカルディアに帰って、外に出たことを怒られて、泣きながらも明日が来るんだって。安心したとき
「あぁ、確かに。その年齢でそれほどの魔術。あの方が目をつけるのも頷ける」
本当の絶望が現れた。
「っ!?」
「誰っ!」
黒紫の髪、同色の瞳。見た目はダンディーなオジサンなのに、何故か見ているだけで泣きそうな程不安になる。
「彼女が言うには、どちらかが将来『救世主』の仲間になるらしいのだが。フム、察するに赤毛の少女の方か」
男の手に集まる魔力。それは先程の魔物とは比べ物にならないほどの密度。
あれが当たれば、無事では済まないと幼い心で理解したから
「あの方は物語性を重視していてな。幼少時に友を殺されその復讐に燃える。ありきたりだが王道だろう?故、死ね」
迫る死に反応できずにいた。
「...怪我、ない?レイ..ランちゃん」
「な、んで」
突き飛ばされた私。突き飛ばした彼女。
先程の焼き回し、だけど結果は最悪で。
「子供が反応できる物ではなかったのだが。これは、私の読みが外れたか。相変わらず、あの方の狙いは分からんな」
化け物が何か言ってるけど、耳に入らない。
「だ..て、私たち...友だ」
なんで。
茜が死ぬの?
カッコ良くて、美人で。頭も良くて、魔法も使えて。
絶対、私なんかより、死んじゃいけなくて。
なんで、
「なんで...茜が..」
「たが、これで未来は決まった。だとすればっ!」
「起きろっ!!南方の守護者っっっ!!!」
空から舞い落ちる炎の羽根。
それはカルディア最強の証。
四神・朱雀と呼ばれる炎の守護者にて、
「茜っっ!!」
親友の父。
家に遊びに行ったときはいつもニコニコしていたその顔は、見たことないくらい焦っている。
「やはり、助かる運命なのはもう一人の少女か」
「黙れっ!!」
だが、カルディア最強を前にしても絶望は揺るがない。
「私の役割は終わった。次は十年後だ。それまで、牙を磨くといい。来るべき未来のために」
四神の魔術を物ともせず、男は消えていった。
「くそっ!茜っ大丈夫かっ!」
その声を聞いて、これが現実なんだって、始めて実感して。
「あぁ、う..そ、あぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
目が覚めたとき、これが夢なんだって、そう思いたかった。
セントラル100階、空中庭園
そこはとある天才が自身のために作り上げた私室。
壁や屋根は透明な素材で出来ており、まるで空に浮かんでいる様に感じる。時間帯も合間って一面に星が散らばるなか、一組の男女が向かい合っていた。
「あら、こんな夜分にどうしたんです?」
「...一週間前、カルディアにおいて人型魔物が確認されました」
「まぁ、それは大変です。今すぐ対策をとらなければなりませんね」
女の方は博士と呼ばれ、
男の方は四神・朱雀と呼ばれている。
「...第一発見者は四神適合者の少女。彼女達は何故か壊れていた門を通り、外に出たところを人型魔物に襲われたそうです」
「門が壊れて?それは大変。今すぐ」
「ふざけるな」
博士目掛けて振るわれた炎の剣は、しかし届くことなく力を失う。
「とぼけるのもいい加減にしろ!!全て、貴様の仕組んだことだろうっ!」
カルディアは防御魔術は現代の最高峰と言ってもいい。
例え魔物の大群に囲まれたとしても、3日は耐える。その門が、一部とはいえ破壊されていた。そんな事が出来るのは
「貴様だけだ」
「まぁ、恐い」
怒れる朱雀を前に、博士はまったく動じない。
まるで、何度も読んだ物語を見るように。
「分かるか?まだ年端もいかない子供が、私が生きててごめんなさいって謝った事の重大さがっ!!」
『だけど、代わりに死ぬことも、今は出来ないんですっ』
『あの男を殺すまで』
『全ての決着をつけるまで』
『私は負けない、絶対に。』
『たがら、今は、まって、下さいっ』
「決着をつけた後、死にますからって、どんな思いで誓ったと思う!?」
娘を亡くして辛かった、悲しかった。助けられなかったって自分の不甲斐なさに死にたくなった。
たが、もう一人の娘の様な存在が生きていてくれたことに感謝もしていたんだ。
だけど、もう一人の娘も、結局は助けられていない。
「ここで貴様を殺しても死んだ娘は還らない。だがな、ここで貴様を殺さないと必ず不幸になる子がいるんだよ」
だから、ここで殺す。例え刺し違えてでも
「起きろっ!南方のっ!?」
「無駄ですよ」
たが、その覚悟は呆気なく砕かれる。
いつの戦場でも共に戦った相棒は、起動すらしない。
「先程から聞いていましたが、何をそんなに怒っているのです?」
「なっ!?」
「これは定められた運命。いわば、寿命と同じこと。天寿をまっとうした貴方の娘さんは幸せではないですか」
頭が真っ白になった。
怒りに身を任せ目の前の女を殴り殺そうとするが、
「落ち着いてくださいな」
視線1つであらゆる動きを封じられる。指先も、呼吸も、心臓すら動かない。
「もう一人の女の子だってそう。近い将来、救世主の一人の伴侶になるのですから、大変恵まれた子ですよ?」
「~~~っっっ!!!」
「貴方も物語の重要な鍵を握っているのです。御体を大切に、朱雀と救世主が巡り会うその日まで、全てを忘れ眠りなさい」
抗えぬその言葉に、意識が落ちる瞬間、誓う。
――必ず、この落とし前はつける。貴様は必ず、私、が――
それは、幼き日の誓い。
私より美人で、賢くて、強かった少女はしかし、私の代わりに死んでしまった。
なら彼女の代わりに今を生きる私は彼女の様に、美人で、賢くて、強くなくてはいけない。
私は負けない。誰にも負けない。
だって、強かった茜の代わりに生きているんだもの。負けていいはずがない。
だから、
「アンタにも負ける訳にはいかないのよ」
それは、どこかの女神の予言通り。
「...舐めるな、クソガキ。そんな覚悟で俺に勝てるか」
こうして、守護者と朱雀は激突する。




