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「お前、今日から俺の抱き枕な」
「え?」
カイ王子の膝の上に乗せられたままの私は、彼が何と言ったのか理解出来なかった。
「もう一度おっしゃっていただいてもよろしいでしょうか…?」
「今日からお前、アイリ・ハルスカイネは俺の抱き枕だ。異論は認めん」
「いやいやいや。認めんって、可笑しくありませんか?そもそも抱き枕って何です?!」
上半身をひねってカイ王子の胸に手を付き、顔を見る。
「こんなに深く眠れたのは、久しぶりなんだ。頼む」
私の質問に答える気のないらしい王子は無表情にそうを言った。腰に回された腕に力がこもる。無表情とはいえ、感情がない訳ではないようだ。
私は気を静めるために深く深呼吸をした。
「でも、私は侍女で、あなた様は王子です」
「そんなことは気にしなくていい」
「…フラスタイン公爵家の令嬢とのご婚約前に、そのようなことはあってはなりません」
フラスタイン公爵家と王子の婚約はまだ公表されていないことだ。だが、私は大公の娘。女といえ、大きな権力を持つ大公家の人間なのだ。国のことに関しては最新の情報を持つようにしている。
生まれながらの貴族などいない。父様や母様にそう教えられてきた私は、知識を持ち、自分の考えを持つことで貴族であろうとした。無知とは、どんなに愚かか私は知っている。
「さすがハルスカイネ大公の娘といったところか。耳が早い。だが、それは貴族院の者たちが勝手に決めたことだ。俺も父上も賛成していない」
貴族院とは、その名の通り貴族によって構成された組織だ。主に国王と共に政治を行っている。リドネ王国で唯一大公の称号を持つハルスカイネ家は貴族院には属していない。大公家と貴族院。この2つの勢力のバランスが保たれていることでリドネ王国は成り立っている。
国王や王子が公爵家との婚約に難色を示していることはもちろん知っていた。婚約は正式に決まっているわけではない。だから、公表されないのだ。ちなみに、大公家は王子の婚約話に中立の立場を貫いている。
「夜に王子の部屋で過ごしていると世間に知られたら、何もやましいことがなくても、立場が危うくなることは間違いありません」
私の立場はどうでもいいのだ。問題は、私の立場ではなくて、大公家の立場。中立であろうとしている大公家の邪魔は、絶対にしたくない。末の娘が問題を起こしたところで、揺らぐような家ではないが、相手に問題がある。大公家が唯一従う王族。それも、時期国王と称される王子とあれば、大公家を揺るがす可能性はないとは言えない。
「そのときは俺が責任を取るから安心しろ」
王となる人間の発言とは思えない。なんて自分勝手なんだ。あのときは、こんなことを言う方ではなかったのに。
「無責任なことをおっしゃらないでください。カイ王子はこの国の王となるお方。出来もしないことを簡単に口にしないでください」
「いいや、俺は責任を取れる。絶対だ」
「ですから、軽々しくそのようなことをおっしゃらないでくださいと言っているのです!貴方の言葉ひとつで国に混乱を招くことを自覚なさってください」
素の私が出始めてしまった。侍女としての顔が、崩れ始める。でも、敬語が外れなかっだけ褒めてほしい。
「……」
王子は私の叱責に黙り込んでしまった。
無表情だったその顔に浮かんだのは、僅な驚きと戸惑い。
「…申し訳ありません。出過ぎたことを申しました。どんな罰でも甘んじて受けます」
腰を抱く力が緩んだ一瞬に立ち上がり、深くお辞儀をした。顔を上げないままに王子の言葉を待つ。
「では、抱き枕になれ」
真剣な雰囲気が一瞬でぶち壊された。
頬が引き攣るのを抑えられない。
顔に力を入れて表情を取り繕い、ゆっくりと上体を起こした。王子の緑色の瞳を正面から見つめる。
「…分かりました。王子の所望通り、抱き枕になりましょう。抱き枕とは、つまり添い寝でございますよね。カイ王子が眠るまででしたら、お付き合いいたします」
久しぶりの投稿となります。いかがだったでしょうか。
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