たえこママの、息子へのゲキ!
(舞台説明)
ここは、メタバース空間のとあるバー、切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。
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昼もひなかの『The Wallet』
ワシントンの法廷からスターリンク経由で世界中に拡散されたサマンサ・ビンガムの偽装ログデータは、瞬く間にSNSを炎上させた。
ハッシュタグ「#JusticeForTaeko」
は世界トレンド1位を記録。
合衆国政府は世論の猛反発とテレコちゃんの突きつけた絶対的な証拠の前に、たえこママへの提訴を完全棄却せざるを得なかった。
嵐は去った。
メタバース空間、白山の片隅。そば屋の居抜きバー『The Wallet』には、いつもの静かで温かい夜が戻っていた。
カウンターの端では、婚約解消のショックと己の無力さから、安スコッチのボトルを抱えて未だに泥酔している息子のラッパーが、うわ言のように過去の栄光を呟いている。
たえこママは、慣れた手つきで特製のトマトおでんを器に盛り付けると、息子の前にコトリと置いた。
「いい加減、立ち直りなよ」
たえこママの声は、決して厳しくはなかった。だけど、数々の修羅場をくぐり抜けてきた、天賦の才を持つ引き締まった響きがあった。
「あのサマンサって女に騙されたのは、あんたが純粋だったからじゃない。自分の言葉を見失って、人道派なんて上っ面の肩書きに目が眩んだからだよ。
ラッパーなら、酒に溺れてる暇があったら、その無残なザマを全部ライム(韻)に変えて吐き出しちまいな」
息子の肩がピクリと震えた!!!
その時、カウンターの特等席に置かれた水槽の中で、怪しく、しかしどこかユーモラスに光る影が動いた。白山商店街の未来を見通す占いタコ、パウロ二世だ。
パウロくんは、水槽のガラス面に吸盤をピタリと貼り付けると、目の前にある「再起」と書かれた特製のボタンを、その長い触手で力強く押し下げた。まるで『お前の明日はこっちだ』と告げるかのように、水槽の中で小さくバブルが弾ける。
「ほら、パウロくんもそう言ってるよ」たえこママがふっと微笑んだ。
息子はゆっくりと顔を上げ、涙とアルコールで濡れた目でトマトおでんを見つめた。そして、震える手でペンを握り、コースターの裏に、新しい、地を這うような泥臭いリリックを書き始めようとしていた。
白山商店街の最高情報責任者(CIO)となったテレコちゃんは、店の片隅でノートPCを閉じ、静かに冷めたお茶をすすりながら、その親子の姿をただ見守っていた。




