たえこママと、息子のフィアンセと合衆国憲法②
ここは、メタバース空間のとあるバー、切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。
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舞台は、メタバース空間の、白山を飛び出し、ニューヨーク州であった。
息子のフィアンセのサマンサからの、リーガル的アドバイスにより、ママと、バーの常連客一行、そしてラッパーの息子と、マツコ似のフィアンセである『サマンサ』は、自由の女神を遠くに臨む
ニューヨーク州最高裁判所(New York State Supreme Court)のコート(法廷)にいた。
「Objection!(異議あり!) 我が国際オークションの利権に基づき、たえこママさんは、相談時の為替相場で、弁護士相談料をを支払うべきです。」
高級スーツを着た相手方の悪徳弁護士が、冷酷な笑みを浮かべてママを指差す。
たえこママは、ニューヨークの厳粛な法廷でもいつもの割烹着姿のまま、だった。
「異議があるのはこっちのセリフだよ! アタシの賽銭箱から1セントたりとも不正に毟り取れると思うんじゃないよ!」
法廷内が緊迫した空気に包まれる中、サマンサが真っ赤なスーツの襟を正すと、ニューヨークの判事に向かって右手をビシッと突き出した。
「Objection, Your Honor! (異議あり、裁判長!)」
法廷内に響き渡る、地響きのような圧倒的なリーガル・ボイス。
サマンサは、法廷の横に並ぶ12人のニューヨーク州民からなる陪審員席へとゆっくりと歩み寄り、彼らの目を見つめながら熱く語りかけた。
「陪審員の皆さん、相手方の請求には法的な『定理』が完全に欠落しています。
彼らからの、相談料および手数料を請求していますが、事前の契約時にその金額を一切『事前告知』していません! これはニューヨーク州法、および国際リーガルコードに対する明確な違反です!」
「な、何だと……っ!?」
あくどい弁護士の顔がみるみる真っ青になる。
「事前告知なき請求書は、ただの恐喝の紙クズに過ぎません! 目先の通信費をケチるフリーWi-Fiの罠と同じように、透明性のない取引は市民の安心を脅かす悪です! 私は、ここにいる誠実なニューヨーク市民の皆さんの良識を信じます。この請求案件について、
不当請求の即時無効を求めます!」
サマンサの、人の欺瞞をすべて聞き抜いてきた、圧倒的インテリジェンスに満ちたマシンガントーク。
それを聞いた12人の陪審員たちは、深く深く頷き、涙ぐみながらお互いに顔を見合わせた。
そして、陪審員代表の男が力強く立ち上がり、判事に向かってサインを出した。
「裁判長、我々陪審員団は、全員一致でサマンサ弁護士の主張を支持します。原告の請求は無効です!」
陪審員団の完全な納得を得た判事は、厳かに木槌をトントン! と打ち鳴らした。
「評決に基づき、判決を言い渡す。被告側の主張を全面的に認める。事前告知のない相談料および請求書は、本日を以て『無効』とする!
さらに、法廷を欺き不当な利益を得ようとした原告側弁護士に対し、本職より直ちに罰則を科す。――お前はこれから、72時間の『社会奉仕活動(ゴミ拾い)』を課すものとする!」
「勝ったわね!」
たえこママは電卓を放り投げる勢いで大喜び。ラッパーの息子も「俺のサマンサ、陪審員のハートまでロックしちまった! マジで最高にリーガルでリスペクトだぜ!」と法廷のど真ん中で歓喜のステップを踏む。
裁判が結盛した後、ニューヨークの街はさらなる大騒動に包まれていた。
マンハッタンのフォリー・スクエアにそびえ立つ、ニューヨーク州最高裁判所の正面にあるあの有名な大階段の前には、全米から集まったニュースメディアのテレビカメラや記者たちがズラリと詰めかけ、黒いマイクの山が設置されていた。
「出てきたぞ!
悪徳弁護士を完全論破した、謎の東洋人ファミリーだ!」
フラッシュが激しく焚かれる中、大階段の上に姿を現したのは、漢服の上に割烹着を羽織り、愛用の電卓を握りしめた、たえこママ。
そしてその隣には、サマンサが凛とした表情で立っていた。
「質問です! カリフォルニアの弁護士がなぜニューヨークのコートで勝てたのか!?」
「あの割烹着の女性が主張する『トップバリュの定理』とは一体何なんだ!?」
アメリカの記者たちから英語のマシンガンクエスチョンが飛び交う。
たえこママが「何言ってるかさっぱり分からないよ! いいかい、アタシの賽銭箱はねぇ!」と日本語でまくし立てようとした、その時。
サマンサがマイクの前に一歩進み出た。
「静粛に(Quiet, please)。我がクライアントが主張する『商取引の透明性』について説明します」
そこからのサマンサのインタープリター(同時通訳&解説)ぶりは、まさに神がかってお見事の一言だった。
他人の言葉を深く『聴く』ラテン語の名の通り、ママの口から出る泥臭い下町の主張を、サマンサは一瞬で脳内で最高峰のリーガル・イングリッシュへと翻訳。完璧な発音と圧倒的な知性で、全米のメディアに向かって華麗にブチ上げてみせたのだ。
サマンサの見事な同時通訳を聞いたアメリカの記者たちは、「オーウ……なんてスマートで論理的なリーガルの定理なんだ……!」「あの割烹着のウー・ジンイエンは、ただのババアではなくビジネスの天才だったのか……!」と、大階段の下で深く感動し、一斉に涙ぐみながら激しい拍手を送り始めた。
全米のメディアがサマンサの知性にひれ伏す中、大階段のど真んで、たえこママの目から大粒の涙がボロボロと溢れ出した。
「サマンサ……サマンサァァァーーーッ!!! あんた、なんて最高の、最高の嫁だよぉぉぉーーーっ!!!」
自分のためにここまで完璧に戦い、全米を味方につけてくれたサマンサの優しさと有能さに、67歳の居抜きババアは漢服の広い袖で顔を覆い、子供のように大号泣した。
その大感動のプレスカンファレンスを、階段の下から眺めていた『The Wallet』の常連客の面々は、完全に置いてけぼりを食らった顔で固まっていた。
「……ねえ、ちょっと待って」
Suicaさんが虚ろな目でPASMOさんの肩を叩いた。
「俺たち、元はといえば『ビッグ・A』の棚から冷凍うどんが消えた話を読まされてたよな? なんで今、ニューヨーク州最高裁判所の大階段で、漢服のババアが全米メディアの前で大号泣するリーガル・カンファレンスを見届けてるんだっけ?」
「俺に聞くなよ……」
PASMOさんも頭を抱えている。
「読者ももう、何の小説を読んでるのか1ミリも分かってないはずだぜ」
「いいじゃないのヨ!」と銀聯カード姐さんが笑い、Unionペイくんも感動している横で、傍聴席から運ばれてきた水槽の中のタコのパウロくんだけは、全米デビューしたママの号泣姿に「人間の国際ローミングはスケールが大きすぎる……」とばかりに、感極まって真っ赤になりながら触足で「パチパチパチ」と小さな拍手を送り続けるのだった。
大階段の片隅では、判決通り72時間のゴミ拾いを命じられた悪徳弁護士が、ニューヨークの冷たい風に吹かれながらビッグ・Aのゴミ袋を持ってトボトボと歩き出している。
「サマンサ、日本に帰ったら、ナノバブル水で淹れた極上のハーブ・フォーと生姜おにぎりセットを、あんたの分だけは一生原価で食べさせてあげるからね!」
「ありがとう、お義母様。原価率の定理としても、それは最高の報酬です」
はちゃめちゃな大暴れの末に、ニューヨークの大階段まで完全に自分たちの定理で支配した『The Wallet』ファミリー。




