【Cheat Ability No.73】因果回帰・限定的な巻き戻し(リミテッド・リワインド
定休日が明け、ワゴンにやってきたのは、血走った目で「やり直したい」と訴える一人の勇者でした。
「フェアカさん、頼む……! 巻き戻しのチートをくれ! あの時、あっちの道を選んでいれば、あいつを死なせずに済んだんだ!」
フェアカさんは、カウンターに肘をつき、興味なさげに彼を眺めました。
「……あら、あなたギャンブラーね」
その一言に、勇者は息を呑みました。フェアカさんは構わず、真っ黒な砂時計を取り出して机に置きました。
「いいわ。これは『因果回帰・限定的な巻き戻し』。ただし、これは商品じゃなくて『交換』よ。代償として、あなたが今持っている勇者スキル『不老』を天界銀行に預けてもらうわ。つまり、あなたは巻き戻すたびに、普通の人間と同じように寿命を削り、老いていくことになるけれど」
「……構わない! 貸してくれ!」
フェアカさんは冷たく微笑み、砂時計の「制約」を並べ立てました。
「いい? 欲をかかないことね。このチートには厳格なルールがあるわ。第一に、このチートを獲得した現時点よりさらに過去へ遡ろうとした瞬間、あるいは遡った地点でチートの存在が確定する前に矛盾が生じた場合、スキルは消滅するわ。第二に、同じ時間を100回再スタートしても、その因果は摩耗してスキルごと消える。そして、これが一番重要よ……」
フェアカさんは勇者の目を覗き込みました。
「巻き戻ったら、あなたは『その時点のあなた』に戻るわ。遡る前の経験値も、取得物も、そして何より――『巻き戻したという記憶の痕跡』さえも、一切引き継げない。ただ、過去の自分をなぞるだけになるかもしれないわね」
「記憶も残らない……? それじゃ、同じ間違いを繰り返すだけじゃないか!」
「さあ、それはあなたの魂の強さ次第ね。無意識の違和感を拾えるか、それともただの無限ループに沈むか。……それでも契約するかしら?」
勇者は震える手で砂時計を掴みました。「あいつ」を救いたいという一念が、恐怖を上回ったようです。
「……あ、そちらのお客様。説明した通り、その『巻き戻し』は遡った瞬間に未来の記憶を失う仕様ですので、救えなかった事実に気づくことさえできなくても返品不可ですよ?」
フェアカさんは、砂時計を抱えて駆け出していく勇者の背中を、薄情な目で見送りました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。命がけの博打、摩耗する因果、そして無意識への賭け。……記憶さえ残らないやり直しに、一体何の価値があるのかしらね」
ご拝読ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
何も残らない「巻き戻し」を売るフェアカさん。救いがあるようでいて、その実、最も残酷なチートかもしれません。




