【Cheat Ability No.70】特定領域展開型・どこでも講習(ブートキャンプ・フロム・ヘル)
「……はぁ。今日は13日の金曜日でも、厄日でもないはずなんだけど。どいつもこいつも、最後まで説明を聞かずに飛び出していって、挙句の果てにこれかしら」
フェアカさんは、先ほどからチカチカと光る「返品希望」の念波を無視し、紅茶のカップをソーサーに戻しました。その瞳には、商売人としての冷静さを通り越し、教育者――あるいは「矯正者」としての、ドス黒いまでのやる気が宿っています。
「お客様は神様なんて言ったのは誰かしらね。神様ならルミナリエ様だけでお腹いっぱいだわ。……いいわ、あんまりにも性根が腐った勇者候補生たちには、少しばかりの特別カリキュラムが必要ね」
フェアカさんは、ワゴンの奥に隠されていた、古びた、けれど禍々しい輝きを放つ黒板消しのような魔導具を取り出しました。
「こういう時のチートは……『どこでも講習』がいいわね」
それは、フェアカさん専用にカスタマイズされた特殊な隔離空間生成能力。対象者を精神世界、あるいは物理的な亜空間へと強制的に引きずり込み、フェアカさんが設定した「教育プログラム」を完遂するまで、文字通り一歩も外に出られないという地獄の講習会です。
「『どこでも講習』――発動。講習内容は『勇者としての最低限の傾聴力、および契約書の熟読』。時間は……向こうの感覚で三百年くらいかしら。こっちでは一瞬だけど」
フェアカさんが指を鳴らすと、広場の片隅で「返品だ!」「話が違う!」と騒いでいた例の逆張り少年と反射男が、唐突に現れた黒い渦に飲み込まれていきました。
「……あ、そちらのお客様。その講習は『講師である私の機嫌が直るまで』終わらない仕様ですので、たとえ精神が真っ白になってもアフターケアですのであしからず」
渦の向こうからは「教育」という名の絶叫が聞こえてきますが、フェアカさんはどこ吹く風で、新しい茶葉をポットに入れました。
「チート、チートはぁ、いらんかねぇ……。強制的な再教育、終わらない講習、そして叩き込まれる礼儀。……力を持つ前に、まずは人の話を聞く耳を持つことね」
ご拝読ありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?
フェアカさんの「勇者モード(スパルタ教育者)」が発動しました。あの二人は、しばらく地獄の教室でフェアカさん(プリグラムアバター)の講義(お説教)を受けることになりそうですね。




