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第八十七話 ザクロの赤い花

 あれから数日間、午前は王女とエルミラさんとで訓練する日課になり、午後はパティ達と街へ出たり、窓からグラヴィティで飛び出て、王都の外へ一人で魔物や魔素が濃い所にデモンズゲート無いか偵察をしていた。

 今のところ、デモンズゲートは発生しておらずよかった。


 もちろん女王への夜のおつとめも毎晩行った。

 女王もいいがもうそろそろエリカさんの肌も恋しいという時にちょうどエリカさんと二人でデートする機会があり、帰ったらエリカさんの部屋へ連れ込まれ、一週間分ぐらい搾り取られてしまった気がする。

 やっぱり女の子の日だったみたいだ。

 おかげでその晩は、起立するものの不発になってしまったので女王には不思議がられたが、お昼過ぎに思わず悶々したことにして、若いってすごいわねということで済んだ。

 エルミラさんはすっかり王女と仲良しになってそういうことに誘いづらく、今は王女との訓練が楽しいらしくてそっちで発散してしまっているようだ。

 王都を発つまでは何も無いかも知れないなあ。


 そんなある日の午後、そろそろ王都を発つ時が近づいているだろうから、セルギウスのために美味しいリンゴをたくさん置いてある店を探しに、庶民向けの市場を一人で散策していた。

 その午後から悪寒がするが、体調が悪い訳では無いのに何故だろうか。


 リンゴはこの国の寒い北の地方で作られているだけなので王都の市場でも置いている店は少ないが、最初に見つけたお店で自分用に二個だけ買う。

 この世界に来て初めてリンゴの香りを嗅いで、日本をとても懐かしく感じた。

 一個だけ食べてみたら、さすがに日本のリンゴと品種が違っていて酸味がややキツかったが、懐かしい味に感激してしまった。

 リンゴ酒もあるみたいなので、帰る前にお土産で買っておこう。


 先程から悪寒が不快感そのものになってきた。

 魔物!? それにしてもこんな感じ方は初めてだ。

 やってきた市場はマドリガルタの東の街にあるため、外壁が近い。

 気になって仕方が無くなったから、外壁を越えてこっそり偵察に行ってみることにした。


 城壁は数百年以上前の名残で高さが二十から二十五メートルもあるという要塞並みの建造物で、戦争が無い今は城壁そのものが観光名所になっている。

 だがこの高い城壁のおかげで今は魔物避けにもなっているとのことだ。


 道の真ん中からグラヴィティで飛ぶと目立つので、民家の路地から屋根伝いに飛んで人がいない所を見つける。

 グラヴィティだけでは二十メールくらいしか浮くことが出来ないので、風魔法で勢いをつけて外壁をこっそり飛び越えた。

 偵察に出かけたときはいつもこういうふうにやっている。


 マドリガルタの東方向、少なくとも十キロ程の一帯は街が無い荒野か林の空白地帯だということは偵察したときにわかっていたが、何か不快感を感じるのはそこだと確信した。

 よくわからないので風魔法でさらに上昇して広く見渡してみる。

 広めの林が数キロ先に見えるので、そこへ行ってみることにする。


 林に着くと、妙に魔素が濃くなっている。

 何日か前にもザッとそこらを偵察してみたんだが、魔素が濃いということはなかった。

 なのにどういうことだ?


 林の奥に進むと、何十本もある木に赤い花が一気に咲いていた。

 あれはザクロの花! ザクロの木が群生している。

 ザクロの花から魔素が出ているというのか!?

 魔素が生成されているからと言って悪の存在ではなく、魔法使いが魔法を使うための重要な力の源であり、それを切り倒したりすることは返って魔法使いの生命を絶つことになる。


 ザクロの花から出る魔素そのものには不快さが無い。

 不快感の理由が全くわからない…。

 私はザクロの赤い花が咲いている木々をしばらく見つめていた。


 すると急に目眩と吐き気をもよおしてきた。

 吐くのはぎりぎり耐えたが頭がクラクラする。

 目の前で空間がぐにゃりと変形したような現象が起きた瞬間、黒いモヤモヤとしたものが出てきて、巨大な黒い穴が現れた。

 そう、迷うことなくこれはデモンズゲートだ!


 私は唖然としながらそれを見ていた。

 目眩と吐き気が収まった。昼からの悪寒も無い

 次元の歪みにより身体の方に干渉してしまった、そんな気がする。

 街の人たちは普通に動いていたから、魔力持ちだけ? いや、私だけか?


 デモンズゲートは直径が三十メートルはあろうか。

 今まで見たことが無い特大サイズだ。

 こうしちゃいられない。

 魔物が出てくる前にクローデポルタムで穴を塞がないと!


『我、彼方より来たる魔を討つ者也。美しき世界を我は望む。地獄の不浄なる門を清め給え。再び開くこと無かれ。クローデ ポルタム!!』


 よし、デモンズゲートが徐々に縮まっていく。

 ……なに? 穴の縮小が止まった!?

 バカな!! クローデポルタムが効かないなんて!?

 デモンズゲートは直径二十メートルぐらいのところで縮小が停止している。

 そして奥から巨大な何かが出て来そうだ。

 まずい! もう一度クローデポルタムを掛けてみるか!


 結果…、デモンズゲートは微動だにしなかった。

 どうすればいいんだ…。


 そしてとうとうデモンズゲートから出てきたのは、サイクロプスと…最悪だ…、あの黒い球体の魔物が数え切れないくらい出てきた。

 黒い球体の魔物は【ブラックボール】と仮称するが、とりあえずこちらが何もしなければ攻撃はしてこない。

 だが放ってはおけない。

 どうする、どうする、どうする…。


 そうだ! こんな時こそパティに念話で伝えることが出来れば!

 女神サリ様への念話はこちらから出来ないが、パティとならば両方から出来る!

 私は強く念じた。


(パティ! パティ! 助けてくれ! 魔物が出た! 助けてくれ!)


 ………反応が無い。ダメか…。


(マヤ様! マヤ様! どうなさいましたか!!)

(パティ! 念話が届いたんだね!)

(さっきよく聞こえませんでしたが、今なら大丈夫です!

 何が起こったんですか!?)

(王都から東へ八キロほどの林に巨大なデモンズゲートが発生した!

 魔物は今のところサイクロプスが数体と、ブラックボールこと黒い球体の魔物だ!

 サイクロプスよりもブラックボールが一番攻撃力があり危険だ!

 だから林には誰も近づかないで欲しい!)

(マヤ様はどうされるんですか!?)

(ブラックボールは俺一人でやる!

 サイクロプスの他にも魔物が出てきそうだ!

 女王に伝えて王都を護ってくれ!)

(無茶です! マヤ様!)

(時間が無い! 早く!)


 ここで念話が途切れてしまった。

 最低限のことは伝えられたから、後でまたやってみる。

 私一人か… つらいな…。

 おっ おおおお! あいつがいるじゃないか!!


「おーい! セルギウス!! 助けてくれ!!」


 ボワワワワンと煙をあげてセルギウスがすぐに現れた。


『お? なんだなんだ? 魔物だらけじゃねえか!』

「すまん、とりあえずこのリンゴを食ってあのサイクロプスを倒してくれ!」


 私は懐から残ったリンゴ一個をセルギウスに食わした。


『うぉぉぉぉ!! なんだこの美味さは!!』

「後でいくらでも食べられるから、何とかしてくれ。」

『わかった! だがサイクロプスをやるのはやつらが林の外に出てからな。

 ここでコンティヌイフルガル(連続稲妻)を使うと火事になる。』

「まかせた!」


 そうしている間にサイクロプスが十数体も出てきているが、ブラックボールはこれ以上出現してこない。

 穴が開いている間はまだ何か出てくるかも知れないが、セルギウスがサイクロプスを林の外へ誘ってくれているので、穴から出てくるのが途切れるまで待つしか無い。


 問題はブラックボールの倒し方だ。

 あの感じだと数は百を超えているが、あれを一気に殲滅しないとレーザー光線の雨を食らってしまう。

 八重桜をいつも持ち歩いていたのと、庶民向けの市場へ出かけるからいつもの女神革ジャンとカーゴパンツを着ているので攻撃態勢は問題無い。

 いくら女神装備していても前にレーザーを一発食らっただけですごく痛かったのに、あんなにブラックボールがいると死んじゃいそう…。

 だがやるしかない。


 サイクロプスがぞろぞろとデモンズゲートから出てくるのを木陰で見過ごす。

 その間にもう一度パティと念話交信を試みる。


(パティ! パティ! 聞こえるか? おーい!)

(大丈夫ですか!? マヤ様!)

(おお、繋がった!

 巨大なデモンズゲートが発生してクローデポルタムを使っても閉じないんだ!

 エリカさんに言って対策を考えてもらって欲しい!)

(わかりました!

 私は王宮にいましたから、女王陛下にお伝えしました!

 今は騎士団が城壁の周りで護りを固めています!)

(わかった! また連絡する!)


 サイクロプスがデモンズゲートから出てくるのは途切れたようだ。

 ブラックボールがデモンズゲートを防御するように周りを浮遊している。

 殲滅させるのは今しか無い。

 私はデモンズゲートの前に出て八重桜を構える。


「乱れ(みだれすずめ)


 私はローサさんから教わった乱れ打ちの型をブラックボールに向けて放った。


「ぬあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 一気に七割くらいを破壊することが出来たが、残りの三割が私に向かってレーザーの雨を猛烈に降らせる。


「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 体中にレーザーの攻撃を食らい、激しい痛みが電気のように体内を走る。


「まだだ! まだ終わるわけにはいかん! 乱れ雀!!」


 再び乱れ打ちを放つがブラックボールも同時にレーザー攻撃をしてくる。


「くおぉぉぉぉ!!!! でぃえぇぃぃぃ!!!!」


 私は無我夢中で残ったブラックボールに向かって、最後の一つを破壊するまで乱れ雀を討ち続けた…。

 全滅したのを確認したら、安心してその場に倒れてしまった。


---


 痛い…。痛すぎて痛みの感覚がよくわからない。

 あぁ…、これは日本で事故をして死んだときと同じ感覚じゃ無いか…。

 フルリカバリーを掛けようにも、何もかもが麻痺してしまったようで魔力を発動出来ない。

 遠くで雷鳴が聞こえる…。セルギウスがやってくれたのかな。良かった…。

 女神装備を着ていてこのザマだ。服だけ丈夫で中は肋骨が折れてそうだ。

 普通の装備なら肉塊になってたろう、はは…。


 デモンズゲートから…、あれはガルーダか…。

 ムーダーエイプまで出てきた。

 身体が全く動かない。もうダメかもわからないな。

 せっかくみんなと楽しい生活をしてたのになあ。


 いろいろ思い出して涙が溢れてきた。

 一人ここで死ぬのか。

 私の周りは、乱れ打ちをしたときに落ちたザクロの花がたくさんだ。

 ザクロはギリシャ神話で冥界の象徴のようなものだ。

 今の私にはお似合いかも知れない。

 うぅ… ゴフゴフッ

 私は血を吐く…。



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