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第七十二話 王都マドリガルタに到着

 2024.9.27 軽微な修正を行いました。

 マカレーナを出発して四日目の朝。

 三日目の昨日は雨で一日足止めを食らったが、今朝はすっかり雨が上がり青空が広がる良い天気だ。

 宿で四人皆朝食を食べて、出発する。

 メリーダからこのまま北上するとセレスへ向かうが、今日はここから北東へ方向へ変えて王都マドリガルタへ向かう。


 宿をチェックアウトして、路面がまだ濡れていて道端の草も潤っている。

 未明までは雨が降っていたようだ。

 宿の裏で馬車を預かってもらってる場所まで行き、セルギウスを召喚した。

 セルギウスは地面を見つつ……

 

『おお、昨日はやっぱり雨が降っていたんだな。見た感じ、一日中か』


「うん。観光したりで時間を潰したよ」


『じゃあ今日は一気に進むからな。忘れ物は無いな?』


「エリカさんの荷物もちゃんとチェックしておいたから大丈夫だよ」


「あのね。私は片付けが苦手だけれど、そこまで忘れっぽくはないわよ」


 そんなことを言っているうちにエルミラさんがセルギウスに人参をあげて、ハーネスを取り付けて、出発の準備が整った。

 さすが真面目なエルミラさん。


『みんな乗ったな? 出発するぞ』


 セルギウスが引っ張る私たちの馬車は街中のメインストリートをゆっくり進み、検問を抜けてメリーダを離れていった。

 マドリガルタ向けの街道を走り、人や馬車が疎らになってくるとスピードを上げる。

 目測で時速四十キロぐらいだろうか。

 勿論一般の馬車と比べたら常識的なスピードではないが、路面の状態や特製馬車の乗り心地と耐久力を考えたらバランスが取れていると言える。


---


 お昼までになんと百キロも進んで、ナバルという街に着いた。

 途中で何かヒャッハーと聞こえた気がするが、たぶんセルギウスが始末しただろうから気にしない。

 ここで昼食休憩する。市場で漏れなく人参やカボチャも調達した。

 セルギウスは大食らいで、マカレーナでジュリアさんが調達してくれ分の人参はこれで無くなっている。


 午後の行程は、何も無ければマドリガルタの街に入って宿に泊まり、王城へ向かうための準備をして翌朝女王陛下にお目にかかることが出来ればと思っている。


『さあ、人参腹一杯食ったから、どんどん進むぜ』


 乗り物酔いをしないか心配である。

 ちなみに移動中のトイレ問題は、食事をするお店で必ず用を足したり、前にも言ったように所々に茶屋があるのでそこのトイレを借り、せっかくなのでそこでチュロスなどの軽食を買っておやつにしている。

 何も無い所でどうしても必要なときは、草むらや木の陰、荒野では少し大きめ石がけっこうあるのでその陰で用を足している。

 パティの時はエルミラさんがついて見張っている。

 私はそういう趣味は無いんだが、この前はエリカさんが石の脇でしているところを馬車から見えちゃった。

 いくら他に通行人がいないからって、もっと隠れろと。

 私が注意しても変態扱いされそうなので、見ていなかったことにした。


---


 ナバルを出発した。

 セルギウスの快足で夕方にはマドリガルタのいわゆる首都圏内に入るが、通行人や馬車が多くなり思ったように進まない。

 そろそろ私も御者台に座ることにした。

 夕食が食べられそうな時間には、マドリガルタ市街の検問前に着いた。

 メリーダと同じように通行証のおかげで検問を難なく抜ける。


 マカレーナも街としてはかなり大きいが、マドリガルタはさすが王都だけあって規模が違う。通りの馬車や人もずいぶん多い。

 中心部は五階建て前後の欧風の建物が無駄なく整然と建ち並んでおり、且つ無機質さを感じない温かみがある街並みの風景だ。


---


 王宮の目と鼻の先でガルシア家指定の宿【メゾン・ノーブレ・エン・マドリガルタ】に着くことが出来た。

 王宮の敷地が広すぎてどこがどこまでなのか、目と鼻の先という表現さえもおかしくなるくらいだ。

 王宮に泊まることは可能だそうだが、マドリガルタに到着した最初の日は王宮の都合もあるので外の宿で泊まることが普通だという。

 さすがに高級貴族しか泊まらない宿なので、敷地は広いが建物はそれほど大きくなく、別荘のような落ち着いた雰囲気だ。


 パティがすぐ出かけるというので、セルギウスと馬車は玄関前に待機してもらっている。


 中へ入ると、執事っぽい格好をしている宿の支配人が出迎えてくれた。

 フェルナンドさんと同じくらいの歳に見えるが、こちらはややガッチリ体型で多少のクレーマーが来てもなめられない感じがしている。

 この宿には予め連絡がしてあり、支配人は承知済みとのことだ。


「遠いところをお疲れ様でございました。ずいぶんお早い到着でびっくりしました。私は当館の支配人、ベニグノ・ルシエンテスと申します」


「ご無沙汰しております、ルシエンテス支配人」


「あぁ…… パトリシアお嬢様がこんなにご立派になられて。私のことを覚えていらっしゃるとは、感激でございます」


「あの時は大変お世話になりました。支配人もお元気そうで何よりです」


 パティはカーテシ-で挨拶をする。

 さすが才女。当時は八歳だったろうが記憶力はとても良い。

 パティの良いところは、相手の身分が下であっても特に世話になっている年長者に対してはきちんと敬意を表していることだ。


「なんと勿体ないお言葉で。さあ、皆様お部屋をご案内しますので、早速夕食を準備します。」


「その前に王宮へ到着の報告だけして参りますので、帰ってきてからでも余裕あるかしら。エリカ様とエルミラさんは先にお部屋で休んでいて下さい。マヤ様、参りましょう」


「かしこまりました。そのように計らいます。いってらっしゃいませ」


---


 私たちは二人で再び馬車に乗り、数分掛けて王宮の門の前まで来た。

 門の前には当然のように六人の門番がおり、長い槍を持っている。

 もう暗くなっており、門は閉まっていた。

 門番の一人が私たちにこう言う。


「申し訳ございません。王宮の出入りはもう時間が過ぎておりますので、日を改めてお越し下さい」


 パティは馬車から降りてこう応えた。


「承知しております。貴方たちの責任者、ドミンゲス門番長はいらっしゃるかしら。

 私はゼビリャ区領主レイナルド・ガルシア侯爵の娘、パトリシア・ガルシアです」


「は、は、はい!! 直ちに呼んで参ります!!」


 彼はびっくりし慌ててその門番長を呼びに行った。

 数分もしないうちに、鎧を着た筋骨隆々で髭面のおっさんが走ってやって来た。

 パティはたぶん一回だけ会って、しかも一介の門番の名前まで覚えているなんて、下の者に慕われる風格があるだろう。

 普段の彼女とは違う一面が見られた。

 私みたいなのと結婚しても良いんだろうか。


「ハァ ハァ ハァ… パトリシア様はいずこへ!?」


(わたくし)です、ドミンゲス門番長」


「あああ! なんとお美しいお姿に! 確かに面影があります!」


「ドミンゲス門番長。私は女王陛下へ、今回叙爵を受けるこのマヤ様と一緒に到着したことを報告して頂こうと寄っただけですの。よろしくお願いできるかしら」


「しょ、承知いたしましたあ!」


「可能であれば、私たちはそこのノーブレエンマドリガルタに宿泊しておりますので、面会可能な日時を宿の支配人にでも後ほど伝えて下さるかしら?」


「承知しましたあ!!」


「それでは失礼します」


 こんなことを思ってはいけないが、単細胞風のおっさんで簡単に済んでしまった。

 私たちは宿に戻る。そして玄関前にて……


『よっしゃ、これでしばらくは俺様の役目は無いな。帰りの日か…… まあ何かあったらまた召喚してくれ』


「おお、ありがとうセルギウス」


「セルギウスさん、ありがとうございます。チュッ」


 パティはセルギウスの頬に軽くキスをした。


『お、おおお! 人間の女の子にキスをしてもらえたなんて初めてだ! ヒヒヒーン!!』


 あ、ヒヒヒーンだなんて鳴いたの初めて聞いた。

 やっぱり馬じゃないか。あいつ面白いなあ。


 そうしてセルギウスはボムッと消えた。

 しまった、馬車を仕舞ってもらうのを忘れた…と思ったが、私たちの部屋は戸建てのコンドミニアム形式になっており、建物に横付けして置いておくだけだった。

 そこまでは私が引っ張って行く。


 コンドミニアムは白くてセレブの邸宅のようで、中は好きに使って良いらしい。

 エリカさんとエルミラさんはもう部屋に入っていたが、まだ部屋があるので今晩は一人一室使うことにした。

 エリカさんは残念そうにεの口をしていたが、私は元々ぼっち属性なのだからたまには一人になりたいのだ。


 夕食の準備が出来たようで、今晩はステーキのコース料理だそうだ。

 ちょっとしたものはコンドミニアムのキッチンで作ってくれて、手が込んだメニューは本館から運ばれる。

 この宿の客層からして年齢がやや高めのベテラン給仕さんが多いが、三十代半ばのめちゃ美人な給仕さんがいて興奮してしまった。


 食卓は勿論道中の四人で。


「あの…… 使用人の私がこの場にいてもよろしいんでしょうか?」


「エルミラさんにはいつもお世話になっていますし、今回は私もマヤ様のお供ですから仲間として一緒にいるべきですわ。何より食事は人数が多い方が楽しいでしょう」


 パティは懐が厚い。尊敬してしまったよ。


 エルミラさんは次々と運ばれてくる高そうな料理に感激し、生きてて良かったと半泣きしそうな表情で食事をかみしめていた。

 この熟成の牛肉ステーキは私も初めて食べた。

 柔らかく、じわじわと肉の味が感じてきてとても繊細なものだった。

 日本のステーキにはない別な方向の深い味わいのものが食べられたのは、私もこの世界に来て良かったと思わざるを得ない。


 食事の途中、王宮から連絡が来たと支配人から話があった。

 明日の午後二時頃には来て欲しいということだ。

 泊まりも王宮で良いらしい。

 あの門番のおっさんは仕事が早いな。


 食事を終えて部屋に戻ろうとすると、エルミラさんに呼び止められる。


「あの…… マヤ君。後で部屋へ行ってもいいかな?」


 エルミラさんと二人きりになるのは久しぶりだったので、二つ返事で了承した。

 それを見ていたエリカさんは、まあいいかというような表情で部屋に戻っていった。

 もう十分楽しんだでしょ。何だい、ゆうべのプレイは。


---


 私は部屋のお風呂に入って身体を綺麗にし、ベッドに寝転がってそわそわしながらエルミラさんを待つ。

 エルミラさんのいいニオイ、早くクンカクンカしたい。

 お、ノックがしたからエルミラさんかな。


「や、やあマヤ君……」


「おいでよエルミラさん、隣に座って」


「うん……」


 ベッドに並んで座る私たち。

 エルミラさんは何故か自信なさそうな表情だった。


「あのねマヤ君。男の子同士の愛って素敵だよね」


「は?」


「愛があれば性別なんて関係ないよね」


「あの…… まあ…… 完全否定するわけじゃないから…… うん」


「へぇ! マヤ君もわかってくれるんだ!」


「あやや、あの……」


 セシリアさんとはキスしてしまったけれど、彼……いや彼女を受け止めたりアレをどうしちゃったりするのは考えて事も無かった…… はず。

 エルミラさんは一体どうしちゃったのか。

 あ…… メリーダの宿で一日中読んでいた本か!

 あの宿はなんて本を置いてるんだよ……


「見たいんだ!」


「な、何をかな……」


「君が一人でしてるところさ。フンフンッ」


 エルミラさんの鼻息が荒くなってる。

 私もエルミラさんには前にいろいろお願いをしたから、やるべきだろうか……


「じゃあエルミラさんも服を脱いでくれるかな……」


「わかった」


 エルミラさんはシャツとズボンをゆっくり脱いで、上下白の素っ気ない下着姿になる。

 そして下着も脱ぐと、白くて無駄な肉が無い肉体美とも言える裸が現れた。

 前より筋肉がついている気がしたが、私はすぐに反応してしまった。

 エルミラさんはベッドの上で正座になって私をじっと見ている。


「その前に、エルミラさん…」


 私はエルミラさんとねっとりキスをし、彼女の肌の匂いをしっかり嗅いだ。

 相変わらず良い匂いで、いつまでも嗅いでいたいくらいだ。


「じゃあ、始めるから……」


 綺麗な女性に見られていると興奮するものだ。

 エルミラさんは艶めかしい息づかいで私を観察するように見ている。

 あ…… 早く終わってしまってエルミラさんに勢いよく……


「すごいよマヤ君! これが男の子なんだね! 次はベッドの上で四つん這いになって、うつ伏せてお尻だけ立ててくれないかな?」


「は?」


 ゆうべも全く同じ事をエリカさんも言ってたぞ。

 それは出かけている間に、二人が時間差でたまたま同じ本を読んでいたということなのか?

 まあ愛するエルミラさんがそう言うなら、私はうつ伏せて枕を抱え、お尻を突き出す体勢になった。


「はあぁぁぁぁ… これが()()…… とても綺麗だよ…… フンフンッ」


 エルミラさん鼻息荒くして興奮しすぎ。

 ()()って何だろう。

 結局エルミラさんは何かに目覚めたようにそれで満足してしまい、肝心のことを忘れて部屋へ帰ってしまわれましたとさ。


 真面目な話、性癖とは人それぞれであり、自分の本当に好きなものに目覚めて、それが問題無く消化される事が出来るなんて、実は僅かな人だけと思う。

 他人に迷惑を掛ける性癖なんてしばしばで、事件になっていることは日常茶飯事だ。

 私もエルミラさんの匂いが大好きでたくさん嗅いでいるから、こうして信頼できるパートナーと楽しむことが出来るなら、まして愛するエルミラさんのためなら喜んでやってみよう。


 後日、それがとんでもない事に進むとは想像もしなかった。


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