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第七十一話 俺はプレイボーイじゃないぞ

 2024.9.27 軽微な修正を行いました。

 朝になった。

 結局、エリカさんと素っ裸になってベッドの中にいる。

 彼女はまだ寝たままだ。

 服を着て窓の外を見ると、セルギウスが言っていたように雨が降っていた。

 雨足が強いから、今日はメリーダで足止めかな。


 廊下にはボーイが控えているのでベルで呼んで、朝食はルームサービスで。

 パティもわかっているだろうから好きにやっているだろう。

 ルームサービスの食事が運ばれた頃にはエリカさんが目が覚めていた。

 朝食はトーストとコーヒーだけだが、エリカさんが寝ぼけて裸のまま朝食を食べようとしていたので、せめてガウンを着てよと(うなが)す。

 朝食を食べ終えたら……


「ええ……? 雨が降ってるんだ。じゃ、また寝る……」


 エリカさんはガウンを脱いでまた素っ裸で寝てしまった。

 私も何もすることが無いので、せっかくだからラミレス侯爵の男の娘令嬢であるセシリアさんに手紙を書くことにした。

 マカレーナ出発前に、ガルシア侯爵がラミレス侯爵宛の親書で私たちが寄ることを書いてもらったのと、セシリアさんにも手紙を書いて一緒に送った。

 セシリアさんはあれからも月に三、四通ほど律儀に手紙を送ってくれている。

 人によっては重いと思うかも知れないが、私は前世もそれほど友達が多くなかったので、私のことを思ってもらえるというのは有り難いと思わなくてはならない。


 メリーダからセレスまで六十キロほどの近い距離にあるので、今手紙を出せば明日か明後日には届くだろう。

 私からも返事をよく書いていることなので、メリーダまで着いたよぐらいの内容で手紙の封をした。

 さて…… どうしようか。

 とりあえずパティとエルミラさんの部屋へ遊びに行ってみた。


---


 エルミラさんは本を読んでいて、パティは何故かおめかしをしていた。


「あ、マヤ様! ちょうど良かったですわ。雨で出発はしないでしょうから、せっかくですから劇場へお誘いしようと思っていたところですの」


「劇場かあ。確かに宿へ向かう途中で見かけたね」


「マヤ君、二人で行ってきなよ。私はずっと本を読んでいるから」


「エルミラさんも行かないの?」


「宿で借りた本が面白くてね。読み出したら止まらないんだ」


 意外に文学女子のエルミラさんだが、私たちに気を遣ってる部分もあるんだろうな。

 いつか埋め合わせはしておきたい。


---


 一度部屋に戻り、エリカさんに置き手紙を書いておいた。

 受付にはセシリアさん宛ての手紙を出してもらうことと、私たちの部屋は連れが在室中だから掃除はしないで替えのタオル等をドアの外へ添えておくように頼んだ。


 受付で傘を貸してもらう。

 この国は雨が少なめであまり傘を差す習慣が無いので、馬車移動するか平民は濡れたまま歩くことが多い。

 貸してもらった傘は見た目が貴婦人の日傘っぽくて、布はぱんつと同じ材質みたいだけれど、ナイロンやポリエステルにしか見えない。

 本当に石油製品をブロイゼンで作っているのだろうか。

 地球ですらナイロンが発明されてからまだ百年も経っていないというのに。

 

「マヤ様、雨の中のデートって初めてですわね。こうしてくっ付いて歩けるのも嬉しいですわ。うふふ」


 昔はアイアイ傘ってあったよねえ。

 黒板に傘の絵と二人の名前をいたずら書きするやつ。

 実はちょっといいなと思っていた女の子と書かれてしまうが、何も進展しない。

 劇場へデートといえば、マカレーナでパティと劇場デートの後に魔物の大群が現れて事を思い出してしまい嫌な気分になったが、今は忘れよう。


---


 十分も歩けば、メリーダの劇場へ着いた。いかにも歴史ありそうな建物だ。

 パティが受付係に通行証を見せたら係はビックリして、桟敷のVIP席へ案内された。

 侯爵という身分は領主や王都内の一部しかいないから驚くのは仕方なかろう。


 係にオペラグラスを貸してもらったが、前回はテレスコープの魔法を教えてもらおうと思っていたのに、すっかり忘れてしまっていた。

 これは後で現れた魔物のせいにしておく。


 劇の内容はプレイボーイと四人の美女の話で、どこかで聞いたような。

 そうだ。『セ◯リャの色◯師と石の◯客』というとても有名な中世の著作物で、今の私が読むとどうも耳が痛い話なんだが、何故パティは私をここへ一緒に連れてきたのか気がかりになる。

 話と全く立場は違うが、公爵夫人や農夫の娘なんてアマリアさんとジュリアさんみたいで、もうブルブル震えてくる。

 地球の話では美女四人もプレイボーイの結末も悲惨であったが、実際に観劇をしたらカ◯メンモドキの劇と同じようにハッピーエンドになってしまった。

 プレイボーイがたくさん良い思いをして漁師の娘と結婚をし、他の三人の美女も不幸にならずスッキリとした話になっているのは、やはりここのお国柄だろう。

 私は何人もの女性を好きになって、優しくしてもらい楽しく過ごせるのはこの国民性のおかげでもあるんだな。

 全部見てきたわけではないが、私はこの国が好きだから魔物からは何としても護りたい。

 観劇が終わり、私たちは劇場のロビーで少しくつろぐ。


「うふふ。マヤ様、如何でしたか? まるでマヤ様みたいでしたね」


「い、いや…… 私はあんなプレイボーイではないつもりなんだけれどね」


「マヤ様は四人どころじゃないですよ。私、エリカ様、ビビアナ、エルミラさん、マルセリナ様、ジュリアさん…… あとお母様だって」


「それってプレイボーイの内に入るのかな。ハハハ……」


 みんな身内で仲良しこよしというのも変わってるよなあ。

 だからこそみんなに許してもらえているのかも知れないが。


「勿論みんな大好きだし、大事にしたいと思ってる。それどころか、侯爵閣下、ローサ様、カタリーナ様まで私の周りの人みんな大好きなんだよ。私が今ここにいるのはみんなのおかげなんだ」


「マヤ様……」


 パティは私を見直したような表情で頬を少し赤く染めていた。


「でもマヤ様、男色には走らないで下さいね。うふふ」


「はっはっは。そんなわけないよ」


 あぁ…… セシリアさんのこともあるし、侯爵閣下のマッサージはどうなんだろうね。

 私自身は性的に男好きというわけじゃないからそれはいいんだけれど、セシリアさんとはキスしてしまったし毎度の手紙の内容も遠回しながら恋愛感情があるのがわかる。

 侯爵閣下はいつももっこりが弛緩(しかん)してるから、純粋にマッサージが気持ち良いだけだと思いたい。


「マヤ様、私もうお腹ペコペコですわ。お昼にしましょう」


「そうだねえ。どんな物が食べたいのかな?」


「私、高くて堅苦しいお店よりも、大衆的なお店が良いですわ」


「ここに来る途中、近くに軽食堂があったからそこにしよう」


---


 雨が降り続いているので傘を差し、お店に向かう。

 現代地球でのファーストフード店のようなところだ。

 ベーコンと溶けたチーズがたっぷり入ってるパン、チュロス、ミニコロッケ、フライドポテト、オレンジジュースとたくさん頼んでしまった……

 だがパティは大喜びでベーコンチーズパンを食べている。私も食べたがこれは美味い!

 塩気が強くて脂いっぱいのベーコンにベトベトチーズ、身体に悪そうなものはだいたい美味いのだ。


 食事の後は、近くの国立博物館へ行ってみることにした。

 内容は古い出土品や古い武器、美術品など考古学的なものだ。

 もしかしたら私がこの世界にやっていくことのヒントがあるのかも知れない。

 パティも入場は初めてのようなので、楽しそうな顔をしている。

 十三歳でこのようなものに興味があるのは、さすが才女だ。


 最初に目に付いたのが、古い女神サリ像。

 二千年前のものが出土……

 って、やっぱりあの女神様はそれだけ長生きしているんだねえ。

 右腕が取れちゃっているけれど、大聖堂の女神像と違って古い方がより本物に近くて美人に見えるのは何故だろう。

 当時はちょくちょく下界に降りて人間との付き合いがあったのか。


「マヤ様どこを見てるんですか? 女神像の胸にまで興味がおありですか。ふーんそうですか」


「綺麗だなと思っただけで、そんなにエッチな目で見てないよ」


 パティの中では、今更かも知れないが私はエッチな男になってしまっているようだ。


 五百年前に魔物との大戦があったころの武器が展示されている。

 今のこの世界よりもっと厚くて重そうな洋剣や鎧、なんと八重桜のような日本刀もあってこちらはあまり形が変わっていない。

 この国の歴史では魔物との戦いについてあまり残っていないが、クローデポルタムの魔法が存在しているように魔族の国アスモディアではいろいろあるかも知れない。

 魔女アモールは五百年前のこと知っているだろうから、機会があれば聞いてみたい。

 そういえばセルギウスは何歳なのか、今度聞いてみよう。


 その他、たくさんの彫刻や昔の硬貨、壁画の一部も展示してあり、銅貨一枚という安い入場料にしては充実していたと思う。

 この博物館では特別大きく得るものは無かったが、少なくとも鍵はアスモディアにあるだろうという考えは深まった。


 博物館の建物から出ると、雨足が弱まっている。

 夕方までには時間があるので、パティの提案で近くにある神殿の遺跡まで歩いて行くことにした。

 私が傘を持って、パティが腕を組んで……

 私の二の腕にふくよかな胸が当たっている。

 わざとらしさは感じられないが、中身おじさんはこの時間を楽しむことにしよう。


---


 数分歩いて、遺跡に着く。

 もう二千年以上前の建造物で崩れかけているギリシャの神殿のよう、というより天界の女神サリ様の神殿にそっくりだった。

 聖なる鎧を纏った戦士が集結していそうな雰囲気であったが、生憎この雨では観光客も疎らだった。

 私は一秒間に何発パンチを繰り出せるか、邪魔にならないところで今度やってみよう。

 朽ちている石の建物だから危ないので中は入れないけれど、パティと外周をぐるっとゆっくり散歩をした。


「マヤ様、このような二千年も昔の建物の近くにいると、昔の人も私たちと同じように歩いていたと思うとロマンを感じますわね」


「そうだねえ。二千年前も、私たちと同じような恋人同士がこうして歩いていたかも知れないね」


「恋人同士…… マヤ様ったら。うふふ」


 どうも我ながら歯が浮くような言葉だったが、パティはこのように言われるのが好きみたいだ。

 前にも言ったが彼女は恋愛小説大好き少女で、ハー◯◯インは昔流行っていたなあ。


「マヤ様、また雨が強くなりましたわ。寒いですし、もう宿に戻りましょう」


「そうだね。宿も近いし帰ろうか」


 劇場、食堂、博物館、遺跡と宿からちょうどぐるっと回ったコースになったので都合が良かった。


---


 宿のロビーまで戻る。


「雨のデートも楽しかったですわね。ではお夕食の時にまた……」


 パティと別れて、エリカさんがいる部屋に戻った。


「あ、マヤ君おかえり」


 エリカさんはベッドの上で裸のままあぐらを掻いて座っていた。

 案外エッチなポーズでそそる。


「え? エリカさん今までずっと寝てたの?」


「あー、起きたり寝たりいろいろ」


「お昼ご飯は?」


「食べるのも面倒で、朝食べてから何にも……」


「うーん、別に…… いや、軽い物を頼もうかな」


「じゃあルームサービスでパンと飲み物を頼むね」


 私はボーイを呼んで食事を頼み、簡単な物なので程なくしてガリシアパンを切った物ととコーヒーを持って来た。

 テーブルに置かれたコーヒーを、エリカさんは裸で立ったままカップを持って飲み始めた。

 行儀は悪いけれど、後ろ姿が何故かすごく格好良く見える。


「どうしたの? 見とれちゃった?」


 そう言われると何か悔しいが、自意識過剰でもないスタイルの良さだから私は何も言えない。


「パティちゃんとのデート、楽しかった?」


「うん。博物館へ行ってね、俺の目的をはっきりさせようと思ったら、いつかアスモディアの魔女に昔のことを聞かないといけないかなと思って」


「そう…… どうしても行くのね」


 エリカさんはそれ以上何も言わなかった。

 彼女は食事を終えると、そのままシャワールームへ向かった。

 夕食の時間までまだ時間があるので、私は上着を脱いでシャツとぱんつだけになってベッドへ寝転んだ。


 寝転んだまましばらくしてエリカさんがシャワールームから上がってきて、裸のまま私に近づき、いきなり激しいディープキスをしてきた。


「ねえマヤ君……」


「ん?」


「欲しいの」


 エリカさんは何か思い詰めたような表情をして、私をたくさん愛してくれた。

 魔女が私のことをどうするのかが気になるんだろうか。


---


 夕食の時間になると、何事も無かったかのように四人で楽しく会食が出来た。

 エルミラさんはあれから本当にずっと本を読んでいたらしい。

 熱中すると止まらないタイプなんだねえ。

 何の本なのか聞いてもはぐらかされて教えてくれなかった。

 そういう場合の女子は少し過激な恋愛小説やレディースコミックの場合が多い。


 夕食を終えて部屋へ戻ると…… もう寝るしかないな。

 シャワーは夕食の前に浴びたばかりし…… うーむ。

 するとエリカさんがミニスカスーツからまた裸になった。


「ねえ、マヤ君も裸になろう。このほうが楽でいいでしょ」


 ああ、エリカさんはやっぱり裸族の人か。

 部族的のことではなくて、自宅や部屋ではずっと裸の人のことだ。

 彼女の部屋にぱんつとブラが脱ぎ捨てているのもそれだろう。

 何故か勝手に入室した時はいつも服を着ているが…。

 そういうことで、私も脱いで全裸になった。


「私は誰よりマヤ君をいっぱい味わうわ。あなたの身体の隅々まで全部知り尽くしてやるから」


「俺はエリカさんの食べ物かな」


「ベッドの上で四つん這いになって、うつ伏せてお尻だけ立てなさい」


「は?」


 と思いつつも、エリカさんとは慣れすぎてしまっているので、素直にお尻を突き出す恥ずかしい体勢になってあげた。

 エリカさんがじーっと見ているようだ。


「はぁ はぁ はぁ やらしー…… ここ、すごく綺麗ね。じゅる……」


 何が綺麗なんだろう。

 それからエリカさんは何かに目覚めたように、今まで私がしてきたことを真似て楽しんだようだ。


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