第七十話 メリーダの街へ
今朝出発したカントスの街から二十キロくらいしか進んでないが、朝の出発が少し遅かった上に魔物討伐があったので昼食を取ることにした。
マイモナという小さな街。市場にある食堂で食事をする。
その前にセルギウスに人参をあげておかないと。
チーズクリームパエリアなんてうまいに決まってるだろ!というメニューをみんなで頼んで、特に食べ盛りのパティはむしゃむしゃとすごい勢いで食べている。
行儀が悪いと注意するアマリアさんもいないので、余計に美味そうだった。
私はサイクロプスが焼けたのを見てあまり食欲が無かった。
そもそも日本で一般市民をやっていたらスーパーマーケットでパックになっている肉ぐらいしか見ていないので、動物の解体や自分で切り捨てた魔物さえもなかなか慣れない。
この国では人間のご遺体がそこらに転がってるわけでは無いが、動物の解体や丸焼きはまったく普通に行われているので、パティ達はそこまで抵抗が無いのだろう。
「マヤ様、お食事はもういいんですの?」
「ああ、あまり食欲が無くてね。パティがみんな食べてもいいから。
私はセルギウスの人参を市場で買ってくるから。」
「そうなんですの…。お気を付けて行ってらっしゃいまし。」
パティは続けてパクパクと美味そうに食べていた。
あんなに食べていたらすぐ胸が成長するはずだ。
二十代を過ぎてあの勢いで食べていたら一気に太り出すだろうが、アマリアさんを見ていたら太る体質ではないのかもしれない。
市場に出かけて、人参、少し高かったけれど洋梨みたいなものもあったので、皆やセルギウスのおやつにも買っておいた。
店員さんが珍しく猫耳族の女の子で、顔つきは微妙に違うけれどだいたいビビアナみたいな顔だから、このお店の娘のように白毛の子を見かけると「あれ?ビビアナ?」と思ってしまうことがある。
飼い主か猫好きでもなければ猫の個体の区別がつかないのと同じことだろうか。
薄手のシャツにショートパンツという姿は実に可愛らしかった。
帰ってくる頃には皆の食事が終わっていたので、すでに馬車に乗り込んでいたので、洋梨を一個だけセルギウスにあげてから出発する。
洋梨でもセルギウスはすごく喜んでいた。
今後も食べられそうな物を見つけたら買っておいてあげよう。
マイモナの街から六十キロほど北上したらメリーダの街へ着く。
セルギウスの脚力なら夕方にならずに到着できそうだ。
メリーダ区の行政中心核はラミレス侯爵がいるセレスの街であるが、区の名前と同じメリーダは商業都市として大きく発展している。
メリーダではオルティス伯爵が周辺を統括しているというパティの話だが、特別面識があるわけでもないし、お互いが気を遣うだけなので、今回は面会を遠慮する。
途中にあるフランカ、アメンドラの街を通過して、二時間余りでメリーダの街の手前まで来た。
セルギウスのおかげで馬車とは思えないスピードで進んできたし、馬車の方も乗用車と変わらないくらいの乗り心地でとても快適だった。
ここでも検問所があるので、再び私は御者台に座って御者のふりをする。
検問官にはちょっと変な目で見られたが、ガルシア侯爵家発行の通行証を見せたら、最敬礼をされてあっさり通してくれた。
貴族様パワーはありがたいことだ。
この世界に来てパティに出会わなかったらどうなっていたんだろうねえと、時々考えてしまう。
『マヤ、雲行きが怪しいな。明日は雨かも知れない。』
「雨なら止むまでここ滞在するさ。晴れたらまた呼ぶから。」
『わかった。』
メリーダまでたった一泊で来られたんだ。焦る必要は無い。
セルギウスが濡れて、私たちが馬車の中というのも気が引けるからね。
宿は決まっていて、以前パティ達が泊まったという五つ星の宿だ。
建物は古いが五つ星だけあって一目で豪華と分かる。
私は先に裏へ馬車だけ預けに行き、宿のランクを考えて馬車係に銀貨二枚ものチップを渡す。
馬車をセルギウスから切り離し、彼はポムッと消えた。
ここでも奇異な目で見られたが、高いチップをあげたんだから、世の中いろいろあるんだから騒ぐなよと係に念を押しておいた。
係は素直に聞いてくれたので良かった良かった。
受付でチェックイン。受付が広ければロビーもやたらと広い。
係は三十歳ぐらいのベテラン風であるが、金髪お団子ヘアーでキリッとした顔立ちの超美人お姉さんだった。じっと眺めていたいくらいだ。
だが手続きは淡々と進んで、やはりここでも二人部屋二つになってしまった。
一人部屋は元々無いらしい。日本でも観光ホテルはだいたいそうだ。
お値段は二部屋一泊で、ランクはそれほど高くない部屋だが、金貨一枚とそこそこ良い値段だ。
エリカさんアレの時は声が大きいから、部屋はわざと離してもらった。
サイレンスの魔法で黙らせることも出来るが、息がちょっと苦しそうみたいだから極力使うのはやめておくつもり。
日本のホテルで働いていたときでも、会社内の身内同士で部屋を離して欲しいという要望がよくあったのを思い出したよ。上司のいびきがすごくうるさいとかね。
雨が降ってもいけないので、夕食は宿の中のレストランで取ることにした。
ここもお高いところだろうから、この革ジャンとカーゴパンツじゃダメかねえ。
エリカさんと私、パティとエルミラさんと別れてそれぞれ部屋に向かった。
部屋は三十畳くらいあって無駄に広く、クィーンサイズのベッドが二つドカンと並んでいる。
来客も可能なようにソファーとテーブルも大きくしっかりしている。
食事の前にお風呂へ入るか…と。
「ねぇ~ マヤくぅ~ん。
せっかくこんないいお部屋なんだから、一緒にお風呂へ入りましょう~にゅふふ」
まあ、十分予想の範囲内だったな。
エリカさんも私もパサッと服を脱いで裸になった。
「ちゃんと下着も畳んでおいてよ。」
「わかったわよ~ むー」
お風呂だけでも広いねえ。全部で六畳分はあるだろうか。
シャワーでお湯の掛け合いっこをしていたら私もムラムラ来てしまい、その場で連結。
解結したら二人で湯船に入って、私が後ろから抱っこする体勢で。
あぁ…、ずっと若いときも全く同じことがあったなあと思い出してしまった。
「ねぇ~ マヤ君。」
「なんだい?」
「マヤくぅん…」
「どしたの?」
「私、すごく幸せ…」
「そうか…」
「ずっと一緒にいられたらいいね…」
「うん…」
普段はちょっとやかましいエリカさんだけれど、落ち着いているときは会話らしい会話でなくとも通じ合っている感じがする。
ずっと一緒かあ。何年後か、私たちはどうなってるんだろう。
私たちはお風呂から上がり、レストランへ行くための服を着る。
私は貴族ブラウスに黒いズボン、エリカさんは…さっきとあまり変わらないミニスカスーツだった。
パティとエルミラさんとは約束した時間にロビーで落ち合った。
牛肉とマッシュルームのパエリア、豚肩ロースのプランチャ(焼肉)、トマトソースのモツ煮、アヒージョ、シーザーサラダなど肉料理が目立ち、デザートはパティが大好物のプリンだった。
どれもとても美味しい。それどころかこの国の料理はすごく美味しくて自分の口に合っていたからあまり気にしてこなかったから、日本で食べていた料理を忘れていた。
おにぎり、ラーメン、お好み焼き、うどん、あんこ餅…また食べたいなぁ~
こんなことならば料理の勉強をしておくべきだった。
素材の問題があるが、うどんくらいならばこの国の物でも出来そうな気がする。
「マヤ君、私はしばらく宿のバーで飲んでいるから、どちらかとごゆっくり…ふふ」
「あ、あぁ…マヤ君。私は部屋で一人になってゆっくり本を読みたいから、パトリシア様とお二人で…はは」
「いいんですの? じゃあお言葉に甘えて…うふふ」
二人とも気を遣ってるなあ。
パティはニコニコ顔で私の腕を組み、私とエリカさんの部屋へ向かった。
部屋に入ると、ベッドを椅子代わりにして二人で並んで座る。
エリカさんとエッチなことをしたのはお風呂だったから、ベッドは綺麗なままなので良かった…。
「私もうお腹いっぱいになっちゃって、こんなに膨れてしまいましたわ。」
「あらら、私たちの子供はいつ生まれるのかな?」
「嫌ですわもう~ マヤ様ったらデリカシーがないんですから。」
からかってみたが怒っていないようで、パティはむしろ照れている。
それから片手同士で手を繋いでそれをどちらかの膝に置いた状態で、いろいろ語り合った。
愛し合っている者同士で手を繋ぐことはとても大事だと思っている。
滅多にしないことだが、今回は私が日本にいた時の話をたくさんした。
食べ物の話が中心になってしまったが、パティは目をキラキラさせながら聞いてくれた。
二時間ばかりおしゃべりをしたところで…
「マヤ様、今日はゆっくりお話が出来て楽しかったですわ。
マヤ様の秘密がいろいろ分かった気がします。
そろそろエリカ様が帰ってらっしゃる頃ですから、これで失礼しますね。」
他の女性のことまで気配り出来るようになったんだねえ、と思った瞬間、一夫多妻制に驕り高ぶっている自分になっていることに少し嫌気がさした。
だが前世は誰一人幸せにしてあげることが出来なかったから、せっかくこの世界に来たのだから私の力で誰かが幸せになってくれるのならば、そうしてあげたい。
私はパティを抱き寄せて、軽くキスをしたらパティは部屋を退出していった。
それから上着を脱いでベッドで寝転んで少しくつろいでいたら、エリカさんが戻ってきた。
「あ~ん、もう!
バーで飲んでても、いきなり身体目当てで声を掛けてくるいけ好かない貴族男ばっかり!
やっぱりマヤ君が安心するわぁ~」
「エリカさん、わかったから酒臭いよ。」
何を期待してバーに行ったんだ。
エリカさんは私に抱きついてむっちゅう~とキスをしてくるが、その通り酒臭い。
酔っ払いは面倒くさいので、そのままベッドに寝転がした。
「ねぇ~マヤ君。私のこと愛してる?」
「愛してるよ。」
「あーーーん、マヤ君かわいいい!」
エリカさんが私を押し倒して上に乗っかってきたので、もうどうにでもして下さいという気分でそのまま寝転がっていたら、私のズボンとぱんつをおろし、エリカさんはミニスカスーツのままぱんつだけを脱いで…
………どうにでもされてしまいました。