第六十八話 マドリガルタへ向けて一日目
2024.9.21 軽微な修正を行いました。
初日のお昼はオラージャという小さな街でお昼ご飯を食べることにした。
マカレーナから約六十キロも進んだわけで、通常の馬車よりずいぶん速いペースだ。
午後も、もう六十キロ走って毎日百二十キロ進むことが出来れば、四日とちょっと走って五日目の午前中にはマドリガルタへ到着しそう。
勿論何も障害がなく順調に走った場合の計算だ。
雨が降ったり魔物が現れたらもう二、三日は伸びるだろう。
雨の中、セルギウスを走らせたらかわいそうだ。
小さな街なので庶民的な食堂しか無かったが、鶏肉のパエリアなど美味しく頂いた。
食堂の脇に馬車を停めておいてセルギウスに人参を十本あげたけれど、あっという間にペロリと食べてしまった。
人参ばかりよく飽きないな。
食事が終わって皆が休憩している間、私は街の市場へ出かけ、人参は少ししか無かったのでそれだけ買い、ボニアートというスペイン版サツマイモを多めに買っておいた。
マカレーナでも料理の材料に使われていたポピュラーな芋である。
一個食わしたが、これはアスモディアにもあるようで感想も無く普通に食べていた。
カボチャも買っておいたけれど、今は切るのが面倒なので晩ご飯にあげよう。
食事も入れて一時間半休憩したら、再び北上する。
オラージャを出たらしばらく街が無いので、街道の人通りが少ない。
セルギウスが牽く馬車はスピードを上げる。
「ヒャッハー!!」
「オラオラ停まれ! 荷物と有り金全部頂戴するぜ!」
二十人のくらいの盗賊集団が道を塞いで来た。
何故盗賊はどこでもヒャッハーなのか。共通語なんだろうか。
「おい! 停まれって言ってんだろ!」
「うわわ! ヤバい! 突っ込んでくるっっ!」
「ぎゃあ!」
「ぶべべ!」
「ぽげぇ!」
驀進しているセルギウスは無言で物ともせず、まるで覇者が乗っていた黒い馬の如く、道の小石を蹴飛ばすように盗賊を三人くらい吹き飛ばしていった。
ちょっとヤバいんじゃない?と思うくらいだったが、もう後ろから見えなくなったので吹っ飛んだ盗賊の無事を祈ろう。
エルミラさんはボーッと車窓を見てるだけだし、パティとエリカさんは昼寝をしている。
エリカさんはミニスカなのに大股を広げ、透け透けパンツが丸出しという酷い格好で寝ているが、それだけこの馬車の乗り心地が良いということだ。
オイゲンさんたちの技術力に感謝したい。
セルギウスの驀進の甲斐あって、夕方前にはマカレーナから約百キロあるカントスという街に着いた。
時間的にはもう少し先まで行けそうだが、もっと小さな街しかないので良い宿が無いはずだ。侯爵令嬢であるパティや、エリカさんもあれで一応だが男爵令嬢なので、あまり庶民向けの宿を使うのは好ましくない。
なので中途半端に進まず、今晩はこの街で宿を取ることにする。
この世界では電話も無ければネット予約も出来ないので基本的には飛び込み利用になる。
宿街の一件目を尋ねたが……
「申し訳ございません。生憎満室でございます」
こんなに早い時間に満室とは不思議だな。
受付のお姉さんがお目々ぱっちりで可愛かったのに残念だ。
だがまだ宿はたくさんある。大丈夫だろう。二件目――
「お客様、恐れ入りますが本日は満室でございます」
うーん、今日はこの街で何かあるのだろうか?
お祭りという雰囲気では無さそうだが。
受付は五十くらいのおばちゃんだったけれど、美人で声がセクシーだった。
三件目、少し格が落ちるが――
「はい、四名様でしたら二人部屋が二つございますが、これが最後で満室になります。いかがなさいますか?」
と、受付の髭のおじさんが言う。
これ以上時間を掛けてもしょうがないので、この宿に決めることにする。
皆も了承してくれた。
二室一泊分の銀貨四枚銅貨二枚を支払い、部屋割りを考える。
「わ、私がマヤ様と一緒のお部屋に…… と言いたいところですが、まだ恥ずかしいですので…… お二人のどちらかにお譲りします……」
「はいはーい! わたしわたし!」
前にもエリカさん、宿で似たような返事をしていたよね。
エルミラさんは苦笑いをしている。
一部屋にベッドが二つのツインルームタイプだけれど、今までパティと一緒には寝たことが無いし、着替えなど気を遣うだろう。
本音を言うと私はエルミラさんとイチャラブしたい気分だが、エリカさんとパティを一緒の部屋にすると性的な教育に悪いので、必然的に私はエリカさんと一緒の部屋にせざるを得ない。
そうして各自部屋に入ってもらうが、私は宿に馬車を預かってもらわなければいけないので、セルギウスに宿の裏にある馬車預かり所まで馬車を引っ張ってもらって、セルギウスを馬車から切り離した。
『俺は厩舎に入るわけにはいかないから、これでいったん帰るからな。
明日の朝、また呼んでくれ』
「じゃあ人参とカボチャを晩飯用に持って帰ってよ」
『ああ、召喚で呼ばれたら自分自身しか帰られなくて、物はダメなんだ。
だからそれは明日食べるよ。ありがとうな』
セルギウスはポムッと消え去った。
それを見ていた馬車係と厩舎係のおっさんたちがびっくりしていた。
魔獣の存在はとくに秘密ではないのだが、この国では一生に数回見られるかどうかの極めて希な存在なので、びっくりする人は多いらしい。
貴重な馬車なので、馬車係のおっさんに銀貨一枚ものチップを渡して、しっかり見てもらうことにした。
車輪がロック出来るので早々に盗まれてしまうことは無いと思うが……
夕食には少し早いので、私たち四人は街へ繰り出した。
あまり観光するような土地ではないが、市場をまわったりして、特に久しぶりに異郷の地を歩いたパティとエルミラさんは羽を伸ばせたようで良かった。
夕食は、【ヴェンタ・デル・ガト】という、ガストロパブ形式の大衆食堂へ。
ジャンクフードが多く、パンに牛肉を挟んだものや、フライドポテト、鶏肉のチーズのせなどを頼んだ。
お屋敷ではあまり食べないメニューなので、パティが飛びついて夢中になって食べていた。
エルミラさんと私はお酒を遠慮したが、エリカさんはビールを飲みながら生ハムとチーズをつついている。
お腹いっぱいになったところで私たちは宿に帰ったが、エリカさんはまだ飲み足りないようで、宿にある酒場で一人飲み直しに行ってしまった。
エリカさんはなかなか帰ってこないので、先に寝ることにする…。
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翌朝目が覚めると、あれ? 私のズボンとぱんつが下げられている。
そしてエリカさんは隣のベッドで素っ裸になって大股開きで寝ている。
まさかエリカさんは……
服や下着は床に脱ぎ散らかしてある。
いくら何でもこれはどうなのかと思ったが、明るいところで改めてエリカさんの部分をジッと観察してみると、へーこんなふうだったんだなと何故か感心してしまった。
でもこんな状態じゃ今後もパティと一緒の部屋にはさせられないな。
私はぱんつを下げられたまま服を全部脱いで、シャワーを浴びに行った。