表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/374

第五十一話 お庭で労いのランチパーティー

2022.12.19 微修正を行いました。

 あれから数日が経ち、パティが通うマカレーナ女学院にて卒業式が行われた。

 私は参加出来なかったが、ガルシア侯爵夫妻が揃って出かけていった。

 日本の卒業式のよう厳粛にそして涙々の式ではなく、わいわい騒いで賑やかな式とのことだ。

 この国の国民性らしい式だね。

 パティは首席で卒業だったそうだ。

 私の成績なんて中の下ぐらいだったから、身近に飛び級のスーパー才女がいるなんて案外すごいことなのかも知れない。


 ジュリアさんも少しずつガルシア家に慣れていっている。

 エリカさんと一緒に庭で魔法の学習をしているうちに、魔法のコントロールがおかしかったのがだんだん元に戻ったようだ。

 普段は給仕服をずっと着ていて、朝食と夕食を作る手伝いをしつつ、昼間はエリカさんと私とで魔法の勉強をしているから、なかなかハードな一日である。

 ジュリアさんは、エリカさんとビビアナとすっかり仲良くなっており、私と一緒にいる時間が少ないうえにあまり私に積極的には近づいてくれない。

 嫁になりたいというのは、ただの勢いだったのかなあ。


 魔物が襲ってくる頻度は以前よりずっと少ないが、それでもまだやってくる。

 私やスサナさんたちの出番はほとんど無く、街の討伐隊や騎士団が退治している。

 弱いモンスターばかりで、どこのデモンズゲートから流れてきたのかわからない。

 探索にはでかけているが、まだ数えるほどしかデモンズゲートを潰していないので、途方に暮れている。

 エリカさんと別行動をした方が効率良さそうだけれど、黒い球体の魔物が現れたときのように万一の大怪我があった時はフルリカバリーが出来る人がいないと危険だ。

 パティがフルリカバリーを出来るようになっても、空を飛べない。

 将来的にもパーティーで行動を続けるべきだろう。


 私が男爵へ叙爵されるかどうかまだ音沙汰が無いが、あればそろそろのはずだ。

 王都へは行き帰りのどちらかでセレスを経由することになるので、またセシリアさんたちに会える。

 昨日、セシリアさんから手紙がまた来た。

 内容は普段の生活のことと、彼女が私のことをどれだけ好いているか。

 今まで友達がいなかったせいか嬉しいんだろうけれど、ちょっと重い…。

 だが彼女の気持ちを無碍(むげ)にしたくはない。

 また返事を書かないといけないが、こうなると文通だね。


---


 それからまた数日後。

 パティはマルセリナ様の元へ通って、フルリカバリーを勉強中。

 先日一緒にお邪魔したときのマルセリナ様はこの前ほどビクついていなかったが、かなり緊張した様子だった。

 私はそんな偉い者じゃないし、早く普通に接して欲しい。


 さらに数日後のある日、ガルシア家の庭でランチパーティーが行われた。

 何のパーティーはいろいろ提案があって、パティーの卒業記念、私がガルシア家に来て一年の記念、ジュリアさんの歓迎会、ビビアナの歓迎会をしていないから今やっちゃおう会、みんなの誕生パーティーをやっていないからまとめてやっちゃおう会、などとすごく適当な理由のパーティーだったが、侯爵家の使用人であるメイドさんも庭師や御者のおっちゃんも全員参加で、料理はメイドさんの手がかからない作り置きの軽い物で揃え、皆で楽しく過ごすことが出来た。。

 ラフエルからパティのお祖父さんお祖母さんであるエンリケ男爵夫妻と、パティの親友であるカタリーナ様も招かれ、パティは大層喜び、思い出のパーティになったようだ。


「マヤ様、お久しぶりですね。」


「グロリア様、ご無沙汰しております。」


「パティから聞きましたわ。

 またパティの命を救って下さったんですね。

 感謝のあまり言葉もございません。」


「いいえ、とんでもないです。私がちゃんと見ていなかったばかりに…」


「マヤ様、こっちへいらっしゃい。」


 グロリアさんは、この前のように私を優しく抱いてくれた。

 私の魔法の力が上がった影響で、グロリアさんの温かい魔力を以前よりはっきり感じ取ることが出来る。

 グロリアさんは魔法使いで、その血筋で孫であるパティも魔法が使える。

 何だろう。身体に温かで優しい魔力が浸透していく感覚がとても心地よい。

 グロリアさんは何か魔法を掛けているのか?

 そこへアマリアさんとパティがやってきた。


「あら、お母様もマヤ様がとてもお気に入りなのですね。

 【祝福】の上位魔法【グレイテストブレッシング】をお掛けになってますね。」


「アマリアにはわかりましたか、ふふ。

 マヤ様は本当に優しくていい子よ。

 この子はまだ大きな可能性を秘めています。

 でもどこか寂しい、厳しいことが続き耐えていても、時々甘えたい気持ちがあるようです。

 アマリア、パティ。あなたたちでマヤ様をしっかり支えてあげなさい。」


「お祖母様、勿論ですわ。私はマヤ様を愛しています。

 その… 一生添い遂げると…。ポッ」


「あらあら。私はもう曾孫(ひまご)が生まれる心配をしないといけなくなるのかしら。うふふ」


「お祖母様ったら…いやですわ。ふふ」


 ぬぬぬ。グロリアさんには見透かされている。

 祝福の魔法って効果を上げるのはキスやエッチなことをすればいいとアマリアさんやマルセリナ様から前に聞いたような気がするけれど、抱っこするだけで良いグレイテストブレッシングがあるんじゃないか。

 まさかアマリアさんとマルセリナ様は祝福をかけることを口実にして…ええ??

 この国の女性は訳がわからん。

 パティは私と結婚する気満々だし、私もそのつもりだが…。

 私とパティの子供… 想像出来ん。

 そういう会話を聞きながら、私はグロリアさんに抱かれたままである。

 グロリアさんは前世の私と歳が変わらないのに見た目は四十歳前、アマリアさんよりパティに似ていて幼げな雰囲気がある。

 当たってる胸の感触がたまらん。むほほ


「マヤ様、またいつものニヤニヤした顔をされてますね。」


 パティがこちらをジト目で見つめている。

 しまった。私はすぐ顔に出てしまう。


「あらまあ。私みたいなオバサンがこんな若い男の子に女として見られるなんて、とても嬉しいわ。うふふ」


「お母様はお若いですわ。それでもマヤ様にとって私だったら、ピチピチギャルですね。」


 アマリアさんまで何を言っているんだろう。

 ピチピチギャルなんて日本の昭和言葉がこの国にはあったのか。


「ぬぬぬぬぬ… マヤ様ってそんなに年上好きだったなんて…。

 でも、私がお祖母様くらいの歳になっても、マヤ様は私を女と見て下さるということなんですね。

 そういうことなら安心しましたわ。」


 パティは良い方に解釈して一人で納得していた。

 そろそろグロリアさんに抱っこしてもらうのをやめたほうがいいかな。


「ありがとうございます、グロリア様。

 とても落ち着いて、何だか負けない気がしてきました。」


「それは良かったわ。

 もう一度言いますがあなたはまだ秘めた力を持っているはずです。

 この世界を救う力があります。この世界に必要な人です。

 でも疲れたら何時でも会いにいらっしゃい。

 また抱っこしてあげるわね。

 あら、私よりパティにしてもらったほうが良いかしら。ふふ」


「もう、お祖母様ったら…」


 パティは両手を頬に当てて照れていた。

 パティがグレイテストブレッシングを出来るようになったらいいな。

 アマリアさんかマルセリナ様もたぶん出来るんじゃないかと思うから、教えてもらえればいんだが。


「それではマヤ様。私たちはあちらへ行きますから、楽しんで下さいね。」


 パティたち三世代親子はエンリケ男爵のほうへ向かって行った。

 代わって、エリカさんとカタリーナさんの二人がやってきた。


「ねえさっきグロリア様と何やってたの? にっひひひ」 

 エリカさんがいやらしい笑い方で言ってきた。


「グロリア様がグレイテストブレッシングを掛けてくれたんだよ。」


「グレイテストブレッシングですって?

 出来る方が少ないから…、あぁぁ 羨ましいですわぁ」


 それに反応してきたのはカタリーナさんだった。

 彼女とは今まで私とあまり接点が無かったので、意外だった。


「きっとパティも近いうちに出来るようになりますから、カタリーナ様はパティにしてもらえると思いますよ。」


「えっ そうなんですの?

 あぁぁぁぁ パトリシア様のグレイテストブレッシングって、想像するだけでゾクゾクドキドキしますわぁ」


 カタリーナさんは一人抱きしめをしてクネクネしてる。

 この人も変わってるなあ。

 カタリーナさんとエリカさんは学園でのあの講義以来だったと思うけれど、いつの間にか一緒にいるのはそういう同調するところがあるのかね。。


「マヤ君はやっぱり年増好きなのね。

 私は二十六歳になったけれど、その倍の歳の女性も良いなんて私も安泰ね。」


 パティと同じようなことを言っている。

 自分と誰かを比べて安心するという心理はよくあることであるが。


「それよりもさ、カタリーナちゃんも可愛くて気に入っちゃったわ。

 今度からしばらく、カタリーナちゃんも一緒に魔法の勉強をすることになったの。」


「そうなんですの。マヤ様、よろしくお願いしますわ。」


「こちらこそよろしくお願いします。賑やかになりそうですね。」


 あぁ…、またエリカさんの餌食が一人増えたか。

 賑やかどころか騒がしくなって何か起こりそうな気がしてならない。


「毎日ジュリアちゃんとカタリーナちゃんと、両手に花。ぐへへ」


 本当にぐへへと言っちゃう人を初めて見たよ。

 私も一緒に勉強することが多いから、ちゃんとエリカさんを監視しておかないといけないな。


「あの…、マ、マヤ様。この機会にお尋ねしたいことがあるのですが…。」


「はい、なんでしょう?」


「パトリシア様とは…、どどど、どこまでいいいいってらっしゃるのですか?」


 (ども)っているから何を質問しているのか察しはついた。

 彼女はパティの親友だから、大事にしてほしいという気持ちがきっとある。

 無難に応えておくか。


「彼女とは挨拶のキスぐらいですよ。

 まだお若いですから無理なことはしていません。」


「ほっ 良かったですわ。マヤ様は常識的なのですね。」


 エリカさんが横で、何かを知ってそうなジト目で私を見ている。

 パティとは唇を挟むだけの『はむはむキス』までしかしていないぞ。

 胸も触っていない、ぱんつも見たことない。

 少なくともこの国の成人である十五歳になるまで大人の関係はするべきで無いし、アマリア様からもお願いされている。

パティとの将来はどういう成り行きになるのかわからないが、今はこれでいい。

 話題を変えよう。


「カタリーナ様。卒業後将来はどうなさるおつもりですか?」


「私はバルラモン家の、お父様のお手伝いをすることになっていますの。」


「それでは、パティと同じなんですね。」


「そうなんですの!

 バルラモン家がガルシア家にもっとお役に立てるよう、もっと親密になれたらいいですわね。」


「親密になりたいならもっといい方法がありますよ。」


「エリカ様、それはなんでしょう?」


「カタリーナちゃんもマヤ君のお嫁さんになれば、パティちゃんもお嫁さんだしいつでも一緒よ。」


「なっ そんなこと……」


 ほら、カタリーナさんは困ってるし、エリカさんはなんてこと言うんだ。


「それも一つの方法ですわね。

 パトリシア様と死ぬまでずっと一緒にいられるなんて、素敵!」


 おーい、カタリーナさんは何を言ってるのかな。

 いくら綺麗な彼女でも愛のない結婚は遠慮したい。


「それはさておき、私はまだ素敵な殿方との出会いがありません。

 跡継ぎは弟がおりますが、伯爵家の長女としての体裁があります。

 どこかに良い相手が見つからないかしら…。」


 友達でもいれば紹介したいが、そういえば私にはこの世界で男友達と言える人がいない。

 いや、セシリアさんがいる。

 でも男の娘はどうなんだろうか…


「マヤ様。もしお友達に素敵な方がいらっしゃいましたら、ご紹介して下さいまし。」


「はい…。」


 すみません。男友達無しのボッチです。


「じゃあ私たちはちょっと抜けるね。にひひ」


 エリカさんは不穏な笑みで、二人でどこかへ行ってしまった。

 カタリーナさんの無事を祈るとしよう。


 ジュリアさんとビビアナが向こうのテーブルにいるので、行ってみるか。

 彼女らはパーティーが終わったらそのまま片付けに入るので、給仕服のまま参加している。


「あ、マヤさんだニャ。おーい。」


「やあビビアナ、ジュリアさん。楽しくやってるかーい?」


「ナニ変なしゃべり方になってるニャ。エリカに毒されたかニャ?」


 うーん、否定が出来ない。


「マヤ様こんにちは。

 ビビアナちゃんが作ったタコスという食べ物を初めて食べたんですが、辛いけれどとても美味しいですね。気に入っちゃいました。」


「ジュリアの『かすてぃら』と『えっぐたると』がすごく美味しいニャ。

 でも一番美味しいのは、ジュリアが焼いたただの『焼き魚』ニャ!」


 魚が好みなのは猫らしいな。

 ジュリアさんが来てから、ポトルガ風のメニューが増えてガルシア家の食卓はますます充実してきている。

 ジュリアさんはビビアナとも仲良くやっているようで良かった。


「マヤ様、最初は貴族様のお屋敷でお世話になるなんて、とても不安で仕方がありませんでした。

 もしかしたらいじめられるんじゃないかと。

 でも、このお屋敷の方たちはとても優しくて、思い切ってこちらに来て良かったです。」


「私は旅の途中で無一文になってしまって、たまたま魔物に襲われていたここの侯爵令嬢であるパティの御一行を助けたら、いろいろ良くしてもらってずっとここでお世話になっているんです。」


「でも私、普通の魔法スか使えなくて…」


「そこは縁と運ですよ。私もそうだったんですから。

 それでジュリアさんは私の『たまたま』で魔力量が飛び抜けて多くなった。

 あとポトルガのメニューが食べられる!」


「マヤ様のおかげでスね。うふふ」


「エリカさんは何か変なことしてきてませんか?」


「エリカ様はちょっとエッチだけれど、優しくてくれて…

 あっ この前はいろんな物をたくさん買ってもらえまスた!

 私ではとても買えない高い物まで…。」


 うーむ。エリカさんは『お嬢ちゃん、おじさんがいい物たくさん買ってあげるから、おじさんといいことしようよ。』のノリに思えて仕方がいい。

 まあ私に対してもよほど強引にということは今まで無かったよな…。


「ジュリア、心配するニャ。

 エリカが変なことをしたらあてしがひっかいてやるニャ。」


「あはは… ありがとう。」


「ジュリアもあてしもマヤさんと結婚するニャ。これからずっと一緒ニャ。」


 ビビアナがジュリアさんのほっぺにすりすりしている。

 ビビアナがすると微笑ましく思えるのに、エリカさんが同じ事をするといやらしい。


「あの…マヤ様。」


 ジュリアさんが近づいて、小声で話しかけてきた。


「今晩、マヤ様とお話をしたいんでス。

 お部屋にお邪魔してよろスいでしょうか?」


「え? あぁ、いいですよ。」


「じゃあ楽しみにしてまスね。」


 そう言って、ランチパーティが間もなく終了する時間なので、彼女らは片付けの準備に入っていた。

 ジュリアさんから急にお誘いを受けたが、どうしたんだろう。

 今も会話らしい会話をしたのは久しぶりだったし、何か期待していいのかな。


 エンリケ男爵夫妻は昨日と今晩も泊まりで、パティたちは親子三代水入らずで過ごしている。

 エリカさんは部屋で何か忙しそうだし、スサナさんとエルミラさんは給仕服姿で忙しそうだったので、私は夕食の時間まで暇を持て余していた。


 この時間を利用して、空飛ぶ乗り物の図案を描いていた。

 私に技術的知識は無い上に、この世界にスマホも何も持ち込めなかったから、唯一私の記憶だけで絵を描いている。

 幸い私は旅行好きで乗り物好きでもあったから、四苦八苦しながらもプライベートジェットのような絵を描くことが出来た。

 十人くらいは乗れるだろうか。

 さすがに強度なと中身まで作ることは不可能だと思うので、この乗り物をグラヴィティで浮かせてジェットエンジン部分から風魔法で噴射させ、時速百キロで動ければ御の字だ。

 これと侯爵からの紹介状を持って、後日ブロイゼン人の馬車工場へ行ってみることにする。


 夕食は、エンリケ男爵夫妻も加わって賑やかな食卓になった。

 エリカさんとアマリアさんが、時間差はあるが私のほうをチラ見してニヤッとしていた。

 二人して一体、何かあるのか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ