第五十一話 お庭でみんな集合のランチパーティー
2025.11.13 文章を全体的に見直し、話の流れを丁寧にするため加筆修正しました。また、タイトルも変更しました。
マルセリナ様との出来事から数日が経ち、パティが通うマカレーナ女学院にて卒業式が行われた。
直接の家族でない私は参加出来なかったが、ガルシア侯爵夫妻が揃って出かけていった。
日本の卒業式のよう厳粛にそして涙々の式ではなく、わいわい騒いで賑やかな式とのことだ。
この国の国民性らしい式だね。
パティは首席で卒業だったそうだ。
私の成績なんて中の下ぐらいだったから、身近に飛び級のスーパー才女がいるなんてすごいことなのだ。
ジュリアさんも少しずつガルシア家に慣れていっている。
エリカさんと一緒に庭で魔法の学習をしているうちに、魔法のコントロールがおかしかったのがだんだん元に戻ってきたようだ。
普段は給仕服をずっと着ていて、朝食と夕食を作る手伝いをしつつ、昼間はエリカさんと私とで魔法の勉強をしているから、なかなかハードな一日である。
ジュリアさんは、エリカさんとビビアナとすっかり仲良くなっており、私と一緒にいる時間が少ないうえにあまり私に積極的には近づいてくれない。
嫁になりたいというのは、ただの勢いだったのかなあ。
魔物が襲ってくる頻度は以前よりずっと少ないが、それでもまだやってくる。
私やスサナさんたちの出番はほとんど無く、街の討伐隊や騎士団が退治している。
弱いモンスターばかりで、どこのデモンズゲートから流れてきたのかわからない。
私とエリカさんも時々探索しに出掛けているが、まだ数えるほどしかデモンズゲートを潰していないので、途方に暮れている日々だ。
エリカさんと別行動をした方が効率良さそうだけれど、黒い球体の魔物が現れたときのように万一気を失うほどの大怪我があった時は、リカバリー魔法が出来る人がいないと危険だからだ。
パティがフルリカバリーを出来るようになっても、空を飛べない。
将来的にもパーティーで行動を続けるべきだろう。
私が男爵へ叙爵されるかどうか未だに音沙汰が無いが、あればそろそろのはずだ。
王都へは行き帰りのどちらかでセレスを経由することになるので、またセシリアさんたちに会える。
昨日、セシリアさんから手紙が来た。彼女からはよく来る。
内容は普段の生活のことと、彼女が私のことをどれだけ好いているか。
今まで友達がいなかったせいか嬉しいんだろうけれど、こう毎回似たような内容だとちょっと重いな……
だが彼女の気持ちを無碍にしたくはない。
また返事を書かないといけないが、こうなると文通だね。
それからまた数日後。
パティは大聖堂のマルセリナ様の元へ通い、フルリカバリーを勉強している。
この日一緒にお邪魔したときのマルセリナ様は、この前私が彼女に「神の使い」扱いされたほど畏れ敬うほどではなかったが、まだ緊張している様子だった。
私はそんな偉い者じゃないし、早く普通に接して欲しい。
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さらに数日後のある日、ガルシア家の庭でランチパーティーが行われた。
何のパーティーはいろいろ提案があって、パティーの卒業記念、私がガルシア家に来て一年の記念、ジュリアさんの歓迎会、ビビアナの歓迎会をしていないから今やっちゃおう会、みんなの誕生パーティーをやっていないからまとめてやっちゃおう会、などとすごく適当な理由のパーティーだったが、侯爵家の使用人であるメイドさんも庭師や御者のおっちゃんも全員参加で、料理はメイドさんの手がかからない作り置きの軽い物で揃え、皆で楽しく過ごすことが出来た。
ラフエルからパティのお祖父さんお祖母さんであるエンリケ男爵夫妻と、パティの親友であるカタリーナ様も招かた。
パティは大層喜び、思い出のパーティになったようだ。
「マヤさん、お久しぶりですね。」
「グロリア様、ご無沙汰しております」
「パティから聞きましたわ。またパティの命を救って下さったんですね。感謝のあまり言葉もございません」
「いいえ、とんでもないです。私がちゃんと見ていなかったばかりに……」
「マヤさん、こっちへいらっしゃい」
グロリアさんは、この前のように私を優しく抱いてくれた。
私の魔法の力が上がった影響で、グロリアさんの温かい魔力を以前よりはっきり感じ取ることが出来る。
グロリアさんは魔法使いで、その血筋でアマリアさんとパティも魔法が使える。
何だろう。身体に温かで優しい魔力が浸透していく感覚がとても心地よい。
グロリアさんは何か魔法を掛けているのか?
それにしても…… 前世の私と同性代のオバちゃんなのに、肌の張りの良さと胸の膨よかさ、そしてイイ匂い。
これなら血を引くパティが歳を取っても安心だな。
そうしているうちに、アマリアさんとパティがやってきた。
「あら、お母様もマヤ様がとてもお気に入りなのですね。【祝福】の上位魔法【グレイテストブレッシング】をお掛けになってますね」
「アマリアにはわかりましたか、ふふ。マヤさんは本当に優しくていい子よ。この子はまだ大きな可能性を秘めています。でもどこか寂しい、厳しいことが続き耐えていても、時々甘えたい気持ちがあるようです。アマリア、パティ。あなたたちでマヤさんをしっかり支えてあげなさい」
「お祖母様、勿論ですわ。私はマヤ様を愛しています。その…… 一生添い遂げると…… ポッ」
「あらあら。私はもう曾孫が生まれる心配をしないといけなくなるのかしら。うふふ」
「曾孫…… 私にこ、子供ですか! お祖母様ったら…… いやですわあ」
――ぬぬぬ。グロリアさんには見透かされている。
祝福の魔法って効果を上げるのはキスやエッチなことをすればいいとアマリアさんやマルセリナ様から前に聞いたような気がするけれど、抱っこするだけで良いグレイテストブレッシングがあるんじゃないか。
まさかアマリアさんとマルセリナ様は祝福をかけることを口実にして…… ええ?
アマリアさんはともかく、マルセリナ様は…… 私の考えすぎだよな。
グロリアさんに冷やかされたパティは、曾孫と聞いて何を想像しているのだろう。
そういう会話を聞きながら、私はグロリアさんに抱かれたままである。
この柔らかそうなおっぱいがたまらん。生でぱ◯◯ふされてみたい。
「マヤ様、またいつものニヤニヤした顔をされてますね」
パティがこちらをジト目で見つめている。
しまった。私はすぐ顔に出てしまう。
「あらまあ。私みたいなオバサンがこんな若い男の子に女として見られるなんて、とても嬉しいわ。うふふ」
「お母様はお若いですわ。マヤ様にとって私は、ピチピチギャルですね」
アマリアさんまで何を言っているんだろう。
ピチピチギャルなんて日本の昭和言葉がこの国にはあったのか。
「ぬぬぬぬぬ…… マヤ様ってそんなに年上好きだったなんて…… でも、私がお祖母様くらいの歳になっても、マヤ様は私を女と見て下さるということなんですね。そういうことなら安心しましたわ」
パティは良い方に解釈して一人で納得していた。
そろそろグロリアさんに抱っこしてもらうのをやめたほうがいいかな。
「ありがとうございます、グロリア様。とても落ち着いて、何だか負けない気がしてきました」
「それは良かったわ。もう一度言いますがあなたはまだ秘めた力を持っているはずです。この世界を救う力があります。この世界に必要な人です。でも疲れたら何時でも会いにいらっしゃい。また抱っこしてあげるわね。あら、私よりパティにしてもらったほうが良いかしら。ふふ」
「もうっ お祖母様ったら……」
パティは両手を頬に当てて照れていた。
パティがグレイテストブレッシングを出来るようになったらいいな。
アマリアさんかマルセリナ様もたぶん出来るんじゃないかと思うから、教えてもらえればいんだが。
「それではマヤ様。私たちはあちらへ行きますから、楽しんで下さいね」
パティたち三世代親子はエンリケ男爵のほうへ向かって行った。
代わって、エリカさんとカタリーナさんの二人がやってきた。
カタリーナさんとエリカさんが知り合ったのは、学園で行った講義以来だと思う。
いつの間にか一緒につるんで仲良くしているのか。
「ねえさっきグロリア様と何やってたの? にっひひひ」
エリカさんがイヤらしい笑い方で言ってくる。
「グロリア様がグレイテストブレッシングを掛けてくれたんだよ」
「グレイテストブレッシングですって? その祝福魔法は出来る方が少ないから…… あぁぁ 羨ましいですわぁ」
私の言葉に反応してきたのはカタリーナさんだった。
彼女とは今まで私とあまり接点が無かったので、意外だった。
「きっとパティも近いうちに出来るようになりますから、カタリーナ様はパティにしてもらえると思いますよ」
「えっ そうなんですの? あぁぁぁぁ パトリシア様のグレイテストブレッシングって、想像するだけでゾクゾクドキドキしますわぁ」
カタリーナさんは一人抱きしめをしてクネクネしてる。
この人もパティが大好きだけれど、なんか変わった人みたいだ。
エリカさんとは、そういうところで同調しているのかねえ。
「マヤ君はやっぱり年増好きなのね。私は二十六歳になったけれど、その倍の歳の女性も良いなんて私も安泰ね」
パティと同じようなことを言っている。
自分と誰かを比べて安心するという心理は、よくあることだが。
「それよりもさ、カタリーナちゃんも可愛くて気に入っちゃったわ。今度からしばらく彼女も一緒に魔法の勉強をすることになったの」
「そうなんですの。マヤ様、よろしくお願いしますわ」
「こちらこそよろしくお願いします。賑やかになりそうですね。」
あぁ…… またエリカさんの餌食が一人増えたか。
賑やかどころか騒がしくなって何か起こりそうな気がしてならない。
「毎日ジュリアちゃんとカタリーナちゃんと、両手に花。ぐへへ」
本当にぐへへと言っちゃう人を初めて見たよ。
私も一緒に勉強することが多いから、ちゃんとエリカさんを監視しておかないといけないな。
カタリーナさんがオドオドとしながら私に話しかけてくる。
「あの…… マ、マヤ様。この機会にお尋ねしたいことがあるのですが……」
「はい、なんでしょう?」
「パトリシア様とは…… どどど、どこまでいいいいってらっしゃるのですか?」
吃っているから何を質問しているのか察しはついた。
彼女はパティの親友だから、大事にしてほしいという気持ちがきっとある。
無難に応えておくか。
「彼女とは挨拶のキスぐらいですよ。まだお若いですから無理なことはしていません」
「ほっ 良かったですわ。マヤ様は常識的なのですね。」
エリカさんが横で、何かを知ってそうなジト目で私を見ている。
確かにちょっと嘘だけれど、パティとは唇を挟むだけの『はむはむキス』までしかしていないぞ。
胸も触っていない、ぱんつも見たことない。
少なくともこの国の成人である十五歳になるまで大人の関係はするべきで無いし、アマリア様からもお願いされている。
パティとの将来はどういう成り行きになるのかわからないが、今はこれでいい。
話題を変えよう。
「カタリーナ様。卒業後将来はどうなさるおつもりですか?」
「私はバルラモン家の、お父様のお手伝いをすることになっていますの。」
「それでは、パティと同じなんですね」
「そうなんですの! バルラモン家がガルシア家にもっとお役に立てるよう、もっと親密になれたらいいですわね」
「親密になりたいならもっといい方法がありますよ。」
「エリカ様、それはなんでしょう?」
「カタリーナちゃんもマヤ君のお嫁さんになれば、パティちゃんもお嫁さんだしいつでも一緒よ」
「なっ そんなこと……」
ほら、カタリーナさんは困ってるし、エリカさんはなんてこと言うんだ。
「それも一つの方法ですわね。パトリシア様と死ぬまでずっと一緒にいられるなんて、素敵!」
「――」
カタリーナさんは何を言ってるのかな。話が滅茶苦茶で声も出なかった。
いくら綺麗な彼女でも愛のない結婚は遠慮したい。
「それはさておき、私はまだ素敵な殿方との出会いがありません。跡継ぎは弟がおりますが、伯爵家の長女としての体裁があります。どこかに良い殿方がいらっしゃらないかしら……」
友達でもいれば紹介したいが、そういえば私にはこの世界で男友達と言える人がいない。
セシリアさんは男だけれど、男の娘だから男が恋愛対象なんだよなあ。
「マヤ様。もしお友達に素敵な方がいらっしゃいましたら、ご紹介して下さいまし」
「はい……」
すみません。男友達無しのボッチです。たぶん無理……
だがこの時、将来のカタリーナさんの結婚相手が大変な相手だと、彼女と私も知る由が無かった。
「じゃあ私たちはちょっと抜けるね。にひひ」
エリカさんは不穏な笑みで、二人でどこかへ行ってしまった。
カタリーナさんの無事を祈るとしよう。
――ジュリアさんとビビアナが向こうのテーブルにいるので、行ってみるか。
彼女らはパーティーが終わったらそのまま片付けに入るので、給仕服のまま参加している。
「あ、マヤさんだニャ。おーい!」
「やあビビアナ、ジュリアさん。楽しくやってるかーい?」
「ナニ変なしゃべり方になってるニャ。エリカに毒されたかニャ?」
うーん、それは否定が出来ない。
「マヤ様こんにちは。ビビアナちゃんが作ったタコスという食べ物を初めて食べたんですが、辛いけれどとても美味しいですね。気に入っちゃいました」
「ジュリアの『かすてぃら』と『えっぐたると』がすごく美味しいニャ。でも一番美味しいのは、ジュリアが焼いたただの『焼き魚』ニャ!」
魚が好みなのは猫らしいな。
ジュリアさんが来てから、ポトルガ風のメニューが増えてガルシア家の食卓はますます充実してきている。
ジュリアさんはビビアナとも仲良くやっているようで良かった。
「マヤ様、最初は貴族様の屋敷でお世話になるなんて、とても不安でした。もしかしたらいじめられるんじゃないかと。でも、このお屋敷の方たちはとても優しくて、思い切ってこちらに来て良かったです」
「私は遠い外国から旅の途中で無一文になってしまってね。たまたま魔物に襲われていたここの侯爵令嬢であるパティの御一行を助けたらいろいろ良くしてもらって、それ以来成り行きでここでお世話になっているんです」
「でも私、普通の魔法スか使えなくて……」
「そこは縁と運ですよ。私もそうだったんですから。それでジュリアさんは私の『たまたま』で魔力量が飛び抜けて多くなった。あとポトルガのメニューが食べられる!」
「マヤ様のおかげでスね。うふふ」
「ああそうだ。エリカさんは何か変なことしてきてませんか?」
「エリカ様はちょっとエッチだけれど、優しくてくれて…… あっ この前はいろんな物をたくさん買ってもらえまスた! 私ではとても買えない高い物まで……」
「それって下心では……」
「アハハハ……」
うーむ。エリカさんは『お嬢ちゃん、おじさんがいい物たくさん買ってあげるから、おじさんといいことしようよ。』のノリに思えて仕方がいい。
まあ私に対してもよほど強引にということは今まで無かったよな…。
「ジュリア、心配するニャ。エリカが変なことをしたらあてしがひっかいてやるニャ」
「あはは…… ありがとう」
「ジュリアもあてしもマヤさんと結婚するニャ。これからずっと一緒ニャ」
ビビアナがジュリアさんのほっぺにすりすりしている。
ビビアナがすると微笑ましく思えるのに、エリカさんが同じ事をするとイヤらしい。
「あの…… マヤ様」
ジュリアさんが恐る恐る小声で話しかけてきた。
「あのぅ、今晩マヤ様とお話をしたいんでス。部屋にお伺いスてもしてよろスいでしょうか?」
「え? あぁ、いいですよ」
「じゃあ楽スみにしてまスね」
ランチパーティが間もなく終了する時間なので、ジュリアさんはそう言ってからビビアナたちと片付けの準備に入っていた。
うへへ。女の子が夜に部屋へ来るんだって。
彼女とじっくり話をするのは久しぶりだし、何か期待していいのかな。むふふっ
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エンリケ男爵夫妻は昨日と今晩もガルシア家に泊まり、パティたちは親子三代水入らずで過ごしている。
エリカさんは部屋で何か忙しそうだし、スサナさんとエルミラさんは給仕服姿で忙しそうだったので、私は夕食の時間まで暇を持て余していた。
この時間を利用して、空飛ぶ乗り物の図案を描いていた。
私に技術的知識は無い上に、この世界にスマホも何も持ち込めなかったから、唯一私の記憶だけで絵を描いている。
幸い私は旅行好きで乗り物好きでもあったから、四苦八苦しながらもプライベートジェットのような絵を描くことが出来た。
十人くらいは乗れるだろうか。機体は作れてもさすがに燃料を使うジェットエンジンは無理なので、魔法を使う見せかけのジェットエンジンにする。
この乗り物をグラヴィティの魔法で浮かせ、仮のジェットエンジン部分から強力な風属性魔法で噴射させる。
時速二百キロくらいで飛ばすことが出来れば御の字だ。
この図案と侯爵からの紹介状を持って、後日ブロイゼン人の馬車工場へ行ってみることにする。
夕食はエンリケ男爵夫妻も加わって、賑やかな食卓になった。
食事中に向こうの席でエリカさんが私のほうをチラ見し、ふひひと悪そうな顔で微笑んでいた。
なんだなんだ? 嫌な感じだなあ。
食事が進み、今度はアマリアさんが私を見て一瞬だが妖しい微笑みをしていた。
うへえ…… 二人して、何かあるのか?
その理由は、この一時間後に起こることでわかった。




