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第四十九話 ジュリアさんの仲間入り

 2025.12.3 全体的に文章を見直しました。加筆しています。

 私とジュリアさんがガルシア家の屋敷に帰り着いたのは昼下がり。

 天気が良かったので、エリカさんがガーデンテーブルで一人本を読んでいた。

 私たちはそこへ向かう。


「あら、マヤ君おかえりなさい。日帰りだと思っていたのにどうしたの?」

「グラドナのほうで黒い球体の魔物が二度現れてね。ちょっと手こずったんだ」

「え!? またあいつが出たの!!? 怪我は?」

「怪我はしたけれど、ミディアムリカバリーで治ったよ」

「それなら良かったけれど…… ほんとに気をつけてね。で、なあにその子は?」


 ここから問題だ。さてどう説明しようか。


「は、はズめまスて! (わたス)()リア・カルネイロというグラドナの魔法使いデございまス! マヤ様のお嫁になりに、こツらへ来まスた! どうかよろスくお願いスまス!」

「はへ!???」


 あぁぁぁぁ…… いきなり言っちゃった。

 ジュリアさんは深々と頭を下げているが、エリカさんは目が点になっている。

 ジュリアさんは、何故かグラドナにいたときより(なま)りがキツい。

 ズリアって……


「ちょっとマヤ君! お嫁ってどういうことよ!?」

「ああ…… いろいろあり過ぎたんだよ」


 私はグラドナで起きた経緯(いきさつ)について、エリカさんに詳しく話した。

 ジュリアさんは緊張して縮こまっている。


「ふーん、この子もだけれど、マヤ君も思いきった決断をしたわね。マヤ君のフルリカバリーかぁ」

「それでジュリアさんにも魔力量測定と、マジックエクスプロレーションを掛けてみてほしいんだ」

「わかったわ。私の部屋へ行きましょ。よく見たら、この子イモっぽくて可愛いじゃない。ハァハァハァ…… ジュリアちゃんだっけ? お姉さんと仲良くしましょ。ふひっ」


 エリカさん気持ち悪い。ラミレス家のお風呂以来、趣味が変わってないか?

 オリビアさんの時も同じ反応だったし。


「あのぉ、マヤ様…… こツらの方は……?」

「おっと。私はちょっと名の知れた魔法使いの、エリカ・ロハスよ。マヤ君の恋人なの。以後お見知りおきを。ふふ」

「よ、よろしくお願いしまス……」


 ジュリアさんはビクビクしながらエリカさんにお辞儀をした。

 無理もない。露骨に変なお姉さんとして自己紹介してしまったのだから。


---


 お腹が空いているので、ジュリアさんを連れて厨房へ寄る。

 来なくても良いのに、エリカさんも来た。

 ビビアナがいたので、タコスを作ってくれることになった。


「エリカも食うかニャ?」

「じゃあお願いするわ。」


 ビビアナは即行でタコスを三つ作って渡してくれた。

 せっかくなので、ビビアナにもジュリアさんを紹介した。


「おお、仲間かニャ! あてしもマヤさんと結婚するニャ。よろしくニャぁ」

「えっ!? そうなんですか? 私も料理は得意なんでス! よろしくお願いしまス!」


 相変わらずビビアナは軽いが、楽でいい。

 ジュリアさんは特に耳族に偏見は無いようで、ビビアナとは仲良く出来そうで良かった。

 料理が得意なら、厨房に入ってもらっても良いな。

 ビビアナがサッと作ってくれたタコスを食べて、ようやく腹を満たすことが出来た。

 ジュリアさんはタコスを初めて食べたらしく、大変気に入ってビビアナも喜んでいた。

 ついでにエリカさんもおやつ代わりに食べている。

 まだお昼ご飯から時間が経っていないのに、太らなきゃいいけれど。


 屋敷の中をいろいろ案内する。

 廊下で給仕服姿のスサナさんとエルミラさんを見かけたので、彼女らにもジュリアさんを紹介した。


「私スサナ! よろしくね! マヤさん、また女の子が増えたね。にひひ」

「あの…… エルミラです。よろしくお願いします。マヤ君、また今度私と…… ううん、また後でいいよ」


 スサナさんはともかく、エルミラさんはコミュ障っぽい反応だった。

 さっき言いかけたことから察するに、私との時間がますます減るかもしれないと思っているのだろうか。

 彼女との時間を作らないとなあ。

 そして、遠回りになってしまったがエリカさんの部屋にやってきた。


「うわぁぁ 魔法書がいっぱいなんでスね。あら? これは……」


 ジュリアさんが、ベッドの上に脱ぎ捨ててある黒い透け透けぱんつを発見し、手に取って眺めている。

 この前のパティと同じ事になっているじゃないか!

 そのぱんつも使用済みだろっ


「はわわわわわわっ こ、これが噂の透け透けぱんつ! (わたス)、初めて見まスた!」

「あらそう? じゃあ今度買い物へ連れて行って、プレゼントしてあげるわ。むふっ」

「ああああっ ありがとうございまス!」


 確かに田舎じゃそういうランジェリーショップは無いから珍しいんだろうけれど、ジュリアさんはぱんつに何か思い入れがあるんだろうか。

 それより、ジュリアさんは目をキラキラさせながらぱんつに夢中で、エリカさんは彼女に夢中で、私が空気になっている。


「あぁ、すみません。わたス緊張しちゃって、訛りが出てしまってまスね。ちょっと意識したら普通の発音も出来るんです」


 あ、訛りが元に戻った。

 ご家族や村の皆さんも訛っていたけれど、確かに彼女は訛ったり標準語にいろいろだ。


「じゃあ魔力量測定器で計ってみるわね。ジュリアちゃん、この板に手を乗せてちょうだい」

「はい……」

「え…… えぇっ? えぇぇぇぇぇ!!!???」

「な、なんでスかね?」

「この子、38112もあるじゃない! 私の三倍以上よっ! どうなってるの?」

「それって、多いんでスか……?」

「たぶん、元のあなたの魔力量の百倍以上になってるんだよ。」

「へっ? えぇぇぇぇっ!!??」


 やっぱり私のフルリカバリー+αの影響か。

 一気に百倍以上の魔力量になったら、身体がついていけなくて魔法のコントロールが聞きにくくなっているのかも知れない。


「次はマジックエクスプロレーションをしてみるわ。ジュリアちゃん、両手を出してみて」

「こうですか?」

「ふふふ 可愛いお手々をしてるじゃない」


 エリカさん、ヤバいな。

 このまま放っておいたら、もしかしたらジュリアさんを取られてしまうかも知れない。


「うーん…… さっき聞いた土水風の属性はあるわね…… えっ? これって…、闇?  ジュリアちゃん、闇属性魔法が使えるようになってるかもしれないわ!」

「や、闇ですか?」


 おいちょっと待てよ。

 光属性のフルリカバリーを使ってなんで闇属性が目覚めるんだ?

 ジュリアさんの変化の場合、フルリカバリーが干渉したわけじゃなく、私の魔力が直接ジュリアさんに影響を及ぼしたと考えるべきか。

 私が無我夢中で魔力注入したものだから……

 パティやエリカさんの時もそうなのかもしれない。


「エリカさん、私がフルリカバリー使っているときの魔力そのものが干渉してしまったのかも知れないよ」

「そう考えるしかないのかなあ。だとしたら、フルリカバリーを掛けなくても、マヤ君が直接魔力を注入した魔法使いは、何らかの大きな変化があるかもしれないね」

「でも何が起きるか分からないから怖いよ。命を失うことも、もしかしたら……」

「今度マルセリナ様にまとめて相談してみるか……」

「あ、あの…… 私どうなっちゃうんですか?」

「せっかくの魔力量と闇属性だ。私と魔法の勉強をしよう! 勿論マヤ君もね。」

「わぁっ すごい! ありがとうございます!」


 話はまとまった。

 稀少な闇属性魔法が使えるとなれば、間違いなくその魔法使いは重宝される。

 ガルシア侯爵にはまだ話せていないが、彼女を雇って貰える条件としては文句なしだろう。

 問題は先生が、バイセクシャルのエリカさんしかいないこと。

 エッチな授業にならなきゃ良いが。


「じゃあ私たちはジュリアちゃんの日用品を買ってくるよ。お金は私が出すから」

「いいの? 金貨一枚くらい出すよ」

「ジュリアちゃんのためなら安いもんよ。ふひっ」


 どうも不純な動機にしか見えない。

 ジュリアさんを別の意味で守らないとなあ。


---


 エリカさんの部屋を出て、玄関まで行く途中。

 いつも侯爵閣下と一緒に行政官庁へ行ってるフェルナンドさんを、この時間では珍しく見かけたので話しかけたみた。


「あれ? フェルナンドさん早いですね。閣下もお帰りに?」

「いえ、私だけ所用で早めに帰ってきたところです。それで、その子は?」

「訳ありで、グラドナから連れてきたジュリアさんです」

「それは初めまして。ガルシア家執事のフェルナンドと申します」

「は、初めまして。ジュリア・カルネイロと言います。マヤさんのお嫁になりに来ました」

「えぇ? マヤ様、これは……」

「あの…… そのことについて夕食の前にいろいろ報告したいので、ガルシア家の皆さん全員を応接室に呼んで頂けますでしょうか? 勿論フェルナンドさんもご一緒に」

「はい、かしこまりました」


 フェルナンドさんはきょとんとした表情をしていた。

 久しぶりに登場したフェルナンドさんだが、屋敷にいるときはほとんど毎日会っている。

 ジュリアさんとエリカさんは買い物へ出かけてしまい、私は自室に戻った。

 はぁぁ……

 グラドナへ出発してからたった一日半だというのに、いろんなことが有りすぎだよ。

 疲れたああああ……


---


 いつの間にか自室のベッドで眠ってしまい、パッと目が覚める。

 一時間半ほど寝てしまったようだ。

 もう夕方になっているので、皆が帰宅している頃だろうか。


 家族会議の前に、エルミラさんの部屋へ寄ってみた。

 また今晩マッサージをお願いしたら、表情がパアッと明るくなって快く了解してくれた。


 そして家族会議。

 ガルシア侯爵、アマリアさん、ローサさん、パティ、フェルナンドさん、エリカさん、ジュリアさん、私が応接室にいる。

 ジュリアさんはガチガチに固まっている。

 そりゃ会社で言えば、社長もいる役員会議の中に、一人ポツンと新入社員がいるようなものだからな。


 私はグラドナで起きたことを一部始終と、黒い球体の魔物の危険性、ジュリアさんの適性と身体の変調を報告した。

 ジュリアさんも緊張しながら、自己紹介した。


「みっ 皆様初めまスてっ (わたス)、グラドナで討伐隊の魔法使いをやっていた、ジュリア・カルネイロと申しまス! 二十歳でス! この度、マヤ様に魔物から命を助けて頂いて、お嫁になりに来まスた。料理も得意でス。とても我が儘なお願いとは十分承知しておりまスが、どうか、この屋敷に置いてやってくださいっ」


 ジュリアさんは精一杯の自己紹介を終えて、深々と頭を下げた。

 緊張してまた(なま)っている。


「うーん…… ジュリア殿の気持ちはわかったし、それは私も良いと思う。マヤ殿の結婚相手か(めかけ)が増えても、パティさえ大事にしてもらえれば私が干渉することでは無いからね。それで我が家での処遇は、魔法使いについては直属兵部隊に加わること。手が空いている時はエリカ殿に魔法を教えてもらうこと。それ以外は厨房の手伝いをすること。使ってもらう部屋はエルミラたちの近くにある空いている場所をフェルナンドに案内させよう。食事はウチの従者たちと一緒にしてもらうこと。それでいいんじゃないかな。当然給金は出すから安心してくれたまえ」


「ありがとうございまス!」


 ジュリアさんはまた深々と下げたが、緊張は(ほぐ)れてきたようだ。

 ガルシア侯爵の心の広さ、問題内容把握と即決判断の能力はさすがだね。

 あっという間に決まってしまった。


「ま、まあ…… マヤ様のお嫁さんが増えることは私も(とが)めませんわ。私のことをちゃんとかまって下さるなら」

「パティの好きそうなおやつをたくさん作ってくれると思うよ」

「そうなんですの!?」

「ドーナツや、チュロス…… あとポトルガのお菓子も作れまスよ。エッグタルトやドース・デ・オヴォシュといって卵黄を使った甘いお菓子、ススピーロというメレンゲを焼いたお菓子とか……」

「なっ なっ…… 何ということでしょう! 是非お願いしますわ!」

「承知スまスた。うふふっ」


 焼きもちパティが一番難関だったが、これなら何とかなりそうか。

 そんなにポトルガのお菓子が作れたんだ…… さすが国境の村だ。

 ジュリアさんは料理が得意だったから、パティを食べ物で釣るには都合が良かった。

 また明日にでもジュリアさんに何か作ってもらってお茶会をしよう。

 アマリアさんはパティの反応にあまりいい顔をしていなかったが。

 パティを太らせないように、ジュリアさんには言っておかなくちゃ。


「ジュリアさんも田舎のご出身なのね。私も田舎のラフエル出身なの。同じ田舎の魔法使いで何だか親近感がありますし、可愛い子ね。今度私の部屋で髪の毛をセットして、化粧をしてあげるわ」

「ははいっ ありがとうございまス! 奥様には恐縮でスっ」


 アマリアさんもそうだった。似たもの同士で仲良くなれそうかな。

 こうしてガルシア侯爵家の一員としてジュリアさんが加わった。


 家族会議は解散し、ジュリアさんとは分かれてそれぞれで夕食をとった。

 私はまだ平民なのにずっと貴族のガルシア家と一緒に食事をしているのは、何とも申し訳ない気持ちになる。

 最初にこの屋敷へ来たときからの流れというか、パティたちを魔物から助けたことと、パティのお気に入りになってしまった理由が大きいが、本来はエルミラさんたちと食べることになっているはずだ。

 でも(まかな)い料理は私たちの料理のついでに作るだけで使っている食材も共通のメニューが多く、内容は良いとのことだ。


 さて、パティたちは夕食前にお風呂に入ったみたいだから、私もお風呂に入ろう。

 その後はエルミラさんのマッサージが楽しみだ。むふふっ

 この二日間、いろいろあり過ぎて疲れたからなあ。


---


 お風呂から上がって自室でしばらく休憩しているとノックがあって、エルミラさんがやってきた。

 前回と同じシャツとショートパンツ姿で、白くて長い脚が眩しい。

 マッサージをしてもらいながら、話をする。


「ジュリアさん、健気でいい子だね。グラドナでの話を聞いたよ。お母さんを守って…… うぅぅ……」


 エルミラさんは涙もろい女性だった。

 エルミラさんとも仲良くやっていけそうで良かったよ。


「マヤ君、彼女の大怪我を魔法で治したそうじゃないか。もう大司祭様よりすごいんじゃないのかな?」

「いやあ、まだまだ知識が足りないから教えられることばっかりだよ」


 ――コンコン


 ドアノックがあった。誰だろう?


「どうぞー」

「あ、あのー マヤさん……? はわわわわわわわっ 失礼しまスた!」

「あっ! 待って! ただのマッサージだからっ」

「え…… そうだったんでスか。びっくりしまスた」


 ジュリアさんだった。

 私がうつ伏せになっていてエルミラさんが私の股の間で腰の辺りを(さす)っている体勢だったから、ソレっぽく見えたのかも知れないな。


「それで、何かありましたか?」

「いえ…… 何から何までお世話になって、ありがとうございまスた! どうかこれからもよろしくお願いしまス! それだけを言いたかったので…… それでは失礼しまス!」


 ジュリアさんは深くお辞儀をして退出していった。

 本当に性格が良い子だなあ。

 比べちゃいけないけれど、たぶん周りの女の子の中では一番気配りが出来るのかも知れない。


「律儀な子だね」

「真面目で優しいところが気に入ってね」

「私のことはどう思っているのかな?」

「エルミラさんは、純粋で、強くて、ボーイッシュだけれど女の子らしくて、それでいてお姉さんみたいで、あとは…… スタイルがいいところかな?」

「ありがとう。私のことを良く見てくれて」


 実はエルミラさんの一番好きなところは、知ってる女の子の中で最もいい匂いがするからだなんて、絶対言えない。

 一通りマッサージが終わったところで……


「マヤ君、そろそろ…… いいでしょ?」

「うん」


 私はドアの鍵を掛けた。

 エルミラさんとのラブタイムが始まる。


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