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第四十三話 逆首四の字固め/アマリアの抱擁

 2025.12.1 全体的に加筆修正を行いました。

 マカレーナ女学院の校門前にて。

 いつもの早朝訓練をして朝食を食べ、今日は所用で休みのアントニオさんの代わりに私が御者をしてパティを学校へ送ってきたところだ。

 パティは卒業式まであと数日を残すのみとなり、それまで悔いの無い学校生活を楽しく過ごして欲しいものだ。


「マヤさまぁ! 行ってきまぁす!」

「ああ、行ってらっしゃい」


 学舎へ向かう彼女の、あの純粋な笑顔を見ていると心が洗われる。

 パティ…… 私はゆうべ、君のお母様で二度も悶々してしまったんだ。

 そこから洗われたのだよ。


---


 ガルシア侯爵邸の庭で。

 午前はスサナさんとエルミラさん、ローサさんと四人で訓練だ。

 ローサさんが参加しているときは剣術中心でやっている。

 私もそこそこ上達したからなのか、ローサさんは躊躇(ちゅうちょ)せずに猛攻撃をしてくるようになった。

 しかも真剣の『白百合』を使っていて、際どいところで(かわ)すのがやっと。

 勿論殺気は感じられないけれど、うっかり斬ってしまわないように刀を止められるのか不思議なくらいの勢いである。


「マヤ様、紙一重で全て(かわ)すのはお見事です。ですが私を気になさらないでもっと討ってきて下さい」


 つまり、私からローサさんへの攻撃は全く余裕があるということだ。ひぇー

 屋敷の庭では、カキンカキンカキンと凄い勢いでローサさんと私の刀が討ち合っている音がしている。

 スサナさんとエルミラさんは手を止め、ほげーっと私たちの討ち合いを眺めている。

 お互いを信じ合っていないと大変危険な訓練であるが、「拳で語り合う」という言葉があるように、ローサさんと気持ちが通じ合っているのはとても嬉しいことだ。


 お互い猛攻撃をしていると、ローサさんに一瞬の隙があり腕に当たるすんでのところで刀を止めた。


「マヤ様、参りました。短い期間でずいぶん上達なさいましたね。お見事です」

「ローサ様、ありがとうございます」


 高速の動きが出来るようになった女神様の身体強化のおかげであるが、それでも付け焼き刃の状態から形を習得するのに苦労したよ。


「ほぇぇ…… とうとうマヤさんが勝っちゃったよ。私たちなんてまだ到底ローサ様に勝てないのに」

「まったくだ。マヤ君の成長ぶりは目を見張る物があるよ」

「マヤさん! 次は私と体術で勝負ですよ! えいや!」


 スサナさんがいきなり私の方へ飛び込み、回し蹴りをしてきた。

 彼女はあれで脚が長いから、典型的な日本人体系の私ではなかなか真似が出来ない。

 回し蹴りはなんとか(かわ)したが、蹴りの連続攻撃が来る。


「ほらほら! マヤさんは魔法ばかりに頼っているから体術はまだまだだね!」


 おっしゃるとおりです……

 スサナさんは足技中心で、小技大技入り乱れて攻めてくる。

 私は手足で受け止めて(かわ)すのがやっとだ。


「隙あり!」


 スサナさんは首四の字固めで私を仕留めたつもりが、体勢が崩れて逆首四の字固めになってしまった。

 くっ 苦しいけれど、これは!?

 スサナさんの股間に、私の顔面が突っ込んだ状態だ。

 すぅぅはぁぁ いい匂いがするぞ。


「マヤさん! こうですか! こうですか!」


 ちょっと待て! 普通ここでキャーッと言いながら離すだろ!

 く、苦しい…… でもイイ匂い…… 苦しい…… イイ匂い……


「スサナ! なんて格好でマヤ君を絞めてるんだ!」

「あっ えっ!? ああああああああっ!?」


 エルミラさんが大声で怒鳴る。

 何とスサナさんは完全に恥ずかしさを忘れて、私を絞めるのに夢中だったようだ。

 彼女は顔を真っ赤に染め、慌てて逆首四の字固めを解いた。

 スサナさん、絶対私を男として見ていないだろ。

 エルミラさんとローサさんは、私をジト目で見ている。

 私は悪くないぞ。


「マヤさん、あ、あの……」

「何も無かったよ。何も…… うん」

「そ、そうだよね。うんうん」


 何も起こらなかったことにして、スサナさんは納得したようだ。

 前は胸は押しつけていたくせに、それ以上の接触では乙女になってしまうのか。


 その後はエルミラさんと体術の訓練をする。

 ローサさんはいつも訓練に参加しているわけではないので、今日はこの時点で終了。アベル君の育児に戻る。

 エルミラさんはさっきのスサナさんとのことで不満そうな顔をしていたが、拳を交えているとそれも段々と無くなり一体感が出てきた。

 実際、下半身も交えてしまった仲なので、そういう間柄になるものだろうか。

 汗が滲む身体でガッツリと組み合う。おおっ 同じじゃないか。

 あと、エルミラさんの汗はスサナさんよりもっとイイ匂い過ぎてツラい。


 ――午前の訓練が終了しお風呂で軽く汗を流した後、自室でスサナさんに締められている時を思い出して一人悶々プレイをしてしまった。

 訓練で疲れても、私の分身君は常に元気らしい。


---


 昼食の時間だ。珍しく侯爵閣下が席に着いている。

 わざわざ行政官庁舎から帰ってきたのだろうか。

 食事中に侯爵はこう言う。


「エリカ殿、マヤ殿―― 緊急の知らせがあってね。食事が終わったら話があるから、執務室へ来てくれないか」

「「わかりました」」


 昼食後に執務室へ。早速侯爵から話が始まった。


「夕方に話そうと思っていたこととは別件だ。それは後日にすることにして、急ぎの案件が発生したので今からそれを話そう」

「お願いします」

「実はここから南西へ百キロ弱、エンデルーシア区にあるラガの街が今日の未明から魔物に襲われているそうだ。まだデモンズゲートは見つかっていない。エンデルーシアの領主、グアハルド侯爵を尋ねてもらえれば詳細を教えてくれるだろう。人命もかかっているので、これから急ぎでラガへ出発してくれないか?」

「わかりました。どんな魔物かも連絡が来てますか?」

「実はな…… あのムーダーエイプだ」

「なっ……」


 ――ドキドキドキドキドキドキドキ


 私は急に動悸が走った。

 魔物は私の今の力ならばそれほど強い相手ではないのだが、パティのボロボロになった姿が強く頭に残っていて、大事な相手を失うのが酷く怖いのだ。


「はぁ…… はぁ…… はぁ……」

「マヤ殿!?」

「マヤ君。ちょっと! 大丈夫!?」

「ああ、大丈夫だよ…… 出発の準備してくるから……」

「いいの? 一人で?」

「マヤ殿、無理はしなくて良いからね」

「はい……」


 私は執務室を退室し、自室へ向かった。

 そして準備を始めようとするが、動悸が止まらず手が付かない。

 パニック障害だろうな……

 十代だった昔、強い不安で過呼吸になったことがある。

 そうだ…… アマリアさんに(すが)るしかない……

 私は震える身体でアマリアさんの部屋を尋ねる。


 ――コンコン 「マヤです」


「どうぞ、お入りになって」

「はぁ…… はぁ…… 失礼します……」

「マヤ様! どうしたの?」


 アマリアさんが私を見て仰天するような反応。

 私はそんなに酷い顔をしてるのか。


「これからラガまで魔物を退治に行くのですが、その魔物がムーダーエイプで……」

「なんですって!?」

「はぁ…… はぁ…… 怖いんです。パティの大怪我を思い出して……」

「そういうことね…… いいわ。マヤ様、こっちへいらっしゃい。今から、あなたに祝福の魔法をかけますから」


 祝福の魔法まで頭になかったから、自然にアマリアさんの元へ向かったのは彼女に対して心から何か求めたいことが常にあったのかも知れない。

 カルロス君は幸い、ご飯食べてお腹いっぱいになりベッドでぐっすりお昼寝中だ。


 アマリアさんと私はソファーに腰掛け、アマリアさんはゆっくり私にキスをした。

 唇から唇へ魔力が伝わってくるのがわかる。

 とても暖かくて、身体全体にスッと染みこんでくるような感覚だ。

 段々と楽になり、動悸も徐々に落ち着いてくる。

 自然にアマリアさんの唇を吸ってしまったので、アマリアさんは舌を私の口の中に入れてきた。

 お互いの舌先がつつき合うように絡む。

 長いキスが終わり、アマリアさんは私を胸の中で抱いた。


「――我慢しなくていいのよ」


 と彼女は言い、元々胸が半分溢れているようなドレスの両肩をずらし、胸を(はだ)けさせた。

 いやらしい気分ではない。

 私は赤ん坊のように無心で彼女の胸を吸った。

 ここからも彼女の魔力を感じる。

 なんて慈母愛に満ちた魔力なのだろうか。

 その間、彼女は優しく私の頭を撫でてくれていた。


 ――いつの間に動悸は完全に治まっていた。


「落ち着いた?」

「はい、ありがとうございます」

「気をつけて…… 行ってらっしゃい」


 アマリアさんとは叶わぬ恋故に、今の行為はとても切なくなる。

 中学生が女の先生に恋をする、そんなドラマも昔あったよな……

 私の部屋の前まで戻ると、エリカさんがεのように口先を(とんが)らかせ待っていた。


「マヤ君。察してはいたけれど、アマリアさんのところへ行っていたのね。私じゃ祝福は使えないからなぁぁぁ」

「ああ、ごめん。もう大丈夫だよ」


 おっぱいを吸っていたことまで察していたかはわからないが、エリカさんは不満げな顔。

 さて、部屋で準備の続きをする。

 着替えはまとめて、エリカさんのリュックに入れてもらう。

 魔物がムーダーエイプだとはっきりしているから、今回は「八重桜」を持って行かない。

 さて、気を引き締めて出るぞ。


 玄関先では、侯爵閣下、フェルナンドさん、ローサさんとアベル君、スサナさんとエルミラさん、ビビアナが見送りに来てくれた。


「何がある分からないから、気をつけるんだぞ」

「マヤさん、助けにならなくてごめんよ。無事で帰ってきてね」

「マヤ君、油断しちゃだめだぞ」


 皆が思い思いの言葉を掛けてくれて、私たちはゆっくり宙に浮かんで南西へ向かって飛んでいった。


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