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第四十三話 逆首四の字固め/アマリアの抱擁

2022.10.8 微修正を行いました。

 マカレーナ女学院校門前にて。

 いつもの早朝訓練をして朝食を食べ、今日は所用で休みのアントニオさんの代わりに私が御者をしてパティを学校へ送ってきたところだ。

 パティは卒業式まであと数日を残すのみとなり、それまで悔いの無い学校生活を楽しく過ごして欲しいものだ。


「マヤさま~! 行ってきま~す!」


「ああ、行ってらっしゃい。」


 彼女のあの純粋な笑顔を見ていると、心が洗われるようだ。

 パティ、私は君のお母様で昨日は二度も悶々してしまったんだよ。

 洗われたのはそういうことだ。


---


 午前はスサナさんとエルミラさん、ローサさんと四人で訓練だ。

 ローサさんが参加しているときは剣術中心でやっているのだが、私もそこそこ上達したつもりでローサさんは躊躇せずに猛攻撃をしてくるようになった。

 しかも真剣の『白百合』を使っていて、紙一重で躱すのがやっと。

 勿論殺気は感じられないけれど、うっかり切らないように刀を止められるのかどうか不思議なくらいの勢いである。


「マヤ様、紙一重で全て躱すのはお見事です。

 ですが私を気になさらないでもっと討ってきて下さい。」


 屋敷の庭は、カキンカキンカキンと凄い勢いで刀が鳴っている音がしている。

 スサナさんとエルミラさんは手を止めて、ほげーっと私たちを眺めている。


 お互いを信じ合っていないと大変危険な訓練であるが、「拳で語り合う」という言葉があるようにローサさんと気持ちが通じ合っているというのはとても嬉しいことだ。


 お互い猛攻撃をしていると、ローサさんに一瞬の隙があり腕に当たるすんでのところで刀を止めた。


「マヤ様、参りました。短い期間でずいぶん上達なさいましたね。お見事です。」


「ローサさん、ありがとうございます。」

 

 女神様の身体強化のおかげであるが、それでも付け焼き刃の状態から形を習得するのに苦労したよ。


「ほえ~ とうとうマヤさんが勝っちゃったよ。

 私たちなんてまだ到底ローサ様に勝てないのに。」


「まったくだ。マヤ君の成長ぶりは目を見張る物があるよ。」


「マヤさん! 次は私と体術で勝負ですよ! えいや!」

 

 スサナさんがいきなり回し蹴りをしてきた。

 スサナさんはあれで脚が長いから、典型的な日本人体系の私ではなかなか真似が出来ない。

 回し蹴りはなんとか(かわ)したが、蹴りの連続攻撃が来る。


「ほらほら! マヤさんは魔法ばかりに頼っているから体術はまだまだだね!」


 おっしゃるとおりです…。

 スサナさんは足技中心で、小技大技入り乱れて攻めてくる。

 私は手足で受け止めて躱すのがやっとだ。


「隙あり!」


 スサナさんは首四の字固めで私を仕留めたつもりが、体勢が崩れて逆首四の字固めになってしまった。

 く、苦しいけれど、これは!

 すぅ~はぁ~ スサナさんの股間はいい匂いがするぞ。


「マヤさん! こうですか! こうですか!」


 ちょっと待て! 普通ここでキャーッと言いながら離すだろ!

 く、苦しい…


「スサナ! なんて格好でマヤ君を絞めてるんだ!」


「あっ えっ!? ああああああああ~」


 何とスサナさんは完全に恥ずかしさを忘れて私を絞めるのに夢中だったようだ。

 彼女は顔を赤らめて、慌てて逆首四の字固めを解いた。

 スサナさん、絶対私を男として見ていないだろ。

 エルミラさん、ローサさんは私をジト目で見ている。

 私は悪くないぞ。


「マヤさん、あ、あの…」


「何も無かったよ。何も…、うん。」


「そ、そうだよね。うんうん。」


 スサナさんは、何も起こらなかったということで納得したようだ。

 前は胸は押しつけていたくせに、それ以上になると乙女になってしまうのか。


 その後はエルミラさんと体術の訓練を少しして、ローサさんはいつも訓練に参加するわけではないのでローサさん中心に剣術の訓練をお昼前までした。

 お風呂で軽く汗を流した後、自室でスサナさんに締められている時を思い出して悶々してしまった。


---


 昼食の時間だ。珍しく侯爵閣下が席に着いている。


「おお、エリカ殿、マヤ殿。緊急の知らせがあってね。

 食事が終わったら話があるから、執務室へ来てくれないかね。」


「「わかりました。」」


 昼食後に執務室へ。早速侯爵から話が始まった。


「夕方に話そうと思っていたこととは別件だ。

 それは後回しにして、実はここから南西へ百キロ弱、エンデルーシア区ラガの街が今日の未明から魔物に襲われているそうだ。

 まだデモンズゲートは見つかっていない。

 エンデルーシアの領主、グアハルド侯爵を尋ねてもらえれば詳細を教えてくれるだろう。

 人命もかかっているので、これから急ぎラガへ出発してくれないか。」


「わかりました。どんな魔物かも連絡が来てますか?」


「実はな。あのムーダーエイプだ。」


「な…。」


 私は急に動悸が走った。

 魔物は私の今の力ならばそれほど強い相手ではないのだが、パティのボロボロになった姿が強く頭に残っていて、大事な相手を失うのが酷く怖いのだ。


「はぁ… はぁ… はぁ…」


「マヤ君。ちょっと! 大丈夫!?」


「ああ、大丈夫だよ…。出発の準備してくるから…」


 私は執務室を退室して、自室へ向かった。

 そして準備を始めようとするが、動悸が止まらず手が付かない。

 そうだ…、アマリアさんに(すが)るしか…。


 私はアマリアさんの私室を尋ねた。


 コンコン。「マヤです。」


「どうぞ、お入りになって。」


「はぁ… はぁ… 失礼します。」


「マヤ様! どうしたの?」


「これからラガまで魔物を退治に行くのですが、その魔物がムーダーエイプで…。」


「なんですって!?」


「はぁ… はぁ… 怖いんです。パティの大怪我を思い出して…。」


「そういうことね。いいわ。マヤ様、こっちへいらして。

 今からまた、あなたに祝福の魔法をかけます。」


 祝福の魔法まで頭になかったから、自然にアマリアさんの元へ向かったのは彼女に対して何か求めたいことが心にいつもあったのかも知れない。

 カルロス君は幸い、ご飯食べてお腹いっぱいになりベッドでぐっすりお昼寝中だ。


 アマリアさんと私はベッドに腰掛け、アマリアさんはゆっくり私にキスをした。

 唇から唇へ魔力が伝わってくるのがわかる。

 とても暖かくて、身体全体に染みこんでくるような感覚だ。

 自然にアマリアさんの唇を吸ってしまったので、アマリアさんは舌を私の口の中に入れてきた。

 お互いの舌先がつつき合うように絡む。

 キスが終わり、アマリアさんは私を胸の中で抱いた。


「我慢しなくていいのよ。」


 と、彼女は元々胸が半分溢れているようなドレスの両肩部分をずらして胸をはだけさせた。

 私は赤ん坊のように彼女を吸った。

 ここからも彼女の魔力を感じる。

 なんて慈母愛に満ちた魔力なのだろうか。

 彼女は優しく、私の頭を撫でてくれた。


 いつの間に動悸は治まっていた。


「落ち着いた?」


「はい、ありがとうございます。」


「気をつけて…、行ってらっしゃい。」


 私は自室に戻って出かける準備をした。

 着替えはまとめて、エリカさんのリュックに入れてもらう。

 魔物がムーダーエイプだとはっきりしているから、今回は「八重桜」を持って行かない。

 さて、気を引き締めて出るぞ。


 玄関へ行くと、エリカさんがεの口先をして待っていた。


「マヤ君。察してはいたけれど、アマリアさんのところへ行っていたのね。

 私じゃ祝福は使えないからなあ~」


「ああ、ごめん。もう大丈夫だよ。」


 玄関先では、侯爵閣下、フェルナンドさん、ローサさんとアベル君、スサナさんとエルミラさん、ビビアナが見送りに来てくれた。


「何がある分からないから、気をつけるんだぞ。」


「マヤさん、助けにならなくてごめんよ。無事で帰ってきてね。」


「マヤ君、油断しちゃだめだぞ。」


 皆が思い思いの言葉を掛けてくれて、私たちはゆっくり宙に浮かんで南西へ向かって飛んでいった。


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