第三十二話 森の中の穴『デモンズゲート』
2024.10.14 軽微な修正を行いました。
ガルシア家にあるエリカさんの部屋にて。
エリカさんが気にしていた、ムーダーエイプの出所を調査するため二人で話し合っていた。
魔物の大群は北の方からやってきていて、大群が比較的まとまっていたから近いところに出所があるのだろうと。
マカレーナからの北の街道から外れたところに森があって、そこが怪しいという結論になった。
その森までは馬車で半日ほどであるが、せっかく風魔法を覚えたので、上位のグラヴィティで浮いて風の魔法で噴射して飛ぶって方法を考えついた。
「マヤ君はいいけれど、それだと私は魔力が尽きちゃうよ」
「エリカさんはグラヴィティだけ掛けて、私に捕まっていればいいですよ」
「あら、いいの? マヤ君とラブラブ飛行楽しみだなあ。うっひっひ」
その邪な笑いは何だろうね。
---
屋敷の庭で早速試験飛行だ。
グラヴィティで浮いて、足から風魔法を発動させてロケットやVTOL戦闘機の噴射ノズルのように向きを変え、方向を調整する。
停まるときは身体を起こして逆噴射だ。
実際にやってみるとあらぬ方向へ飛んだり、風量の調節が難しくて周りのいろんな物が飛んで行ってしまう。
それでも下で見ているスサナさんたちは「すごいっス~」なんて叫んでいる。
ああ、エリカさんを連れて行くときはいつものミニスカじゃぱんつ丸見えになるから、ズボンを履いてもらおう。
「エリカさん、飛んで出かける時はズボンを履いてきて下さい。ぱんつ見えて恥ずかしいから」
「私ズボンなんて持ってないわよ」
「じゃあ早いうちに買ってきて下さいね」
「あーもうっ わかったよ」
「危険な場所へ行くんだから、綺麗な脚を護れるようなズボンを選んで欲しいんですよ」
「もう、マヤ君ったらそんなに私のことを考えてくれてるのね。うふ」
体勢によっては丸見えどころか丸出しになってしまうから、人がいる場所を飛ぶときはこっちも恥ずかしくなるわ。
街の外へ出て飛んでみた。
グラヴィティでは二十メートルくらいまでの上空しか浮かぶことが出来ないのでちょっと目立ちそうだが、街道の上を飛ばないと木に引っ掛かりそうだからやむを得ないか。
草原があればなるべく街道を外れよう。
飛行速度は、自動車が一般道を走る速度である時速五十キロから六十キロまでが妥当だろうか。
風を切って飛ぶのは案外きつい。
ゴーグルを装着すれば少しはましになるかもしれないが、フルフェイスのヘルメットの代わりに兜を被っても視界が悪くなるからなあ。
まったく鶴や亀の戦士の術はどうなってるんだ。
---
結局飛行訓練には三日ほどかかって安定して飛べるようになった。
侯爵閣下に魔物の出所調査をするために夕食前に執務室で報告をする。
侯爵は屋敷の近くにある行政官庁にいることも多いので、屋敷では朝夕しか捕まらない。
「わかった。私もどこから魔物が出てきているのが調査を考えているところだった。だがたった二人で大丈夫なのかい?」
「エリカさんと二人までしか行けない理由があるんですよ。これを見てもらえますか?」
私はちょっと浮いて少しだけ移動をしてる状態を閣下に見せてみた。
「ほぉぉぉ! そんなことが!! さすがだよマヤ君。森までどのくらい時間がかかるのかね?」
「馬車なら半日か道が無い場所もあるのでもっとかかると思われますが、飛んでいけば一時間余りで着くと思います」
「なんと! 革命的な速さだ! だが闇魔法が使える者がほとんどいないのが残念だ。君たちはとても強いけれど、気をつけて行ってほしい」
「承知しました、閣下」
まだ魔物の焼却処分と骨の埋め立てが残っていて、騎士団らはそっちのほうが大変のようだ。ご苦労様です。
---
その翌朝、しばらく良い天気が続いていたので今日も良かろうと、調査へ出かけることにした。
万一の野営も考えて干し肉やビビアナ特製のビスケット。
紅茶が入った入れ物にパティが軽く火の魔法をかけてくれたので、効力が切れるまで魔法瓶のように長い時間温かいままだそうだ。
お昼の弁当はもちろんビビアナのハムサンドだ。
あとエリカさんの結界魔法があるので雨風も凌げる。
エリカさんの格好は、ブルゾンにカーゴパンツ…… 何コレ作業着?
だが作業着の女性は格好いいと思うし大好きだ。
私は女神様からもらったいつもの上下黒の革ジャンとカーゴパンツである。
ちなみに劇場へ着ていったスーツは、あのまま魔物と戦ったので汚れてしまった。
運良く破れていなかったから、高かったしメイドさんに頼んだら洗ってくれるかな。
さて、出発しようと思うがエリカさんをどういう体勢で運んでいこうかと考え、後ろから抱っこして飛んだら髪の毛がわしゃわしゃと顔に当たる。
おっぱいが掴みやすくてエリカさんが変な声を出すので、エリカさんに荷物を背負ってもらい、髪の毛をアマリアさんみたいに団子にしてもらって、私がエリカさんを負ぶって飛ぶことにした。
「エリカさん、お団子ヘアスタイルも似合ってますよ。私は好きです」
「そう、ありがと。うふ―― あっ あなたがアマリアさんを好きなのはそういうこと!? むむむ」
私は笑って誤魔化した。だが事実である。お団子頭は大好きだ。
スサナさんとエルミラさんに見送られて出発し、街の中を極力上を飛んで北の街道沿いの上を飛んでいく。
意外に人に気づかれないもんだ。
女の子を背負うと「胸が当たってる」というシーンをよく見かけるが、服装のせいもあるかもしれないがエリカさんの豊乳でも思っているほどふにょっと感じないぞ。
というか、後ろから耳をはむはむしないで欲しい。感じちゃうじゃないか。
街道を十キロほど進んだやや背丈がある草原の中で、明らかに魔物の大群が通った跡が上からだとよく見える。これを辿ってみよう。
跡は森がある方向へ一本に続いている。さらに進んでみると、ビンゴだった。
「これは明らかにこの森から出てきてますね」
「あいつらデカかったから、かえってわかりやすかったわね。これが飛行型の魔物だったらわからないところよ」
森の中から、強引に木や草をかき分けている道のようなものが出来ている。
このまま跡に沿って森の中をゆっくり飛んでいくことにした。
森の中にいる生き物は小動物や、普通のサイズの鹿や猪が中心で、不思議なほど魔物がいる気配が無い。
だが魔素はかなり濃いので、魔素を発している植物が多くあるのは確かだ。
魔素が濃いと魔力がすごい勢いで回復しているのがわかる。
さらに奥へ進むと…… あれは……
モヤモヤとした黒い穴が木と木の間に浮いている。
「エリカさん、あれは!?」
「きっとあの穴から魔物が出てきていたに違いないわ」
私たちは魔法を解除して地に降り立った。
この穴が、女神サリ様が言う【歪み】なのか。
穴からは何も出てくる気配は無い。
ただ出てきていないだけで、また魔物が出てくる可能性は十分ある。
早く閉じた方が良いのだが、どうするんだ?
「さて、どうしたもんですかねえ」
「まさかとは思ったけれど、前に師匠から昔のこんな言葉を聞いたことがあるわ。『古の英雄、魔現る門を閉づ』と」
「つまりこの穴を閉じる方法があるってことですか!?」
「こんなこともあろうかと、師匠が持っていた古代の魔法詠唱文が書いてある魔法書の写しを持って来たのよ。どこかに書いてあるかなぁっと――」
エリカさんは食料と一緒に持って来た分厚いノートのようなものを見て探している。
「あ、もしかするとこれだわ!」
エリカさんが一人でブツブツと詠唱を空読みしている。
魔力を込めなければ読んでも発動しないということだろう。
「よし、これ持ってちょっと離れててちょーだい」
エリカさんはノートを私に渡し、魔力を集中させた。
『我、彼方より来たる魔を討つ者也。
美しき世界を我は望む。
地獄の不浄なる門を清め給え。
再び開くこと無かれ。
クローデ ポルタム!!』
穴の周りが一瞬光り、穴がどんどん小さくなりすぐ消えてしまった。
やっと中ニ病的な魔法の詠唱が登場したわけだが、もしかして無詠唱魔法を長々と勉強するより詠唱した方が簡単なんじゃないかと思う。
だがこの魔法の場合詠唱してる十数秒の間に敵は待ってくれないし、誰かが魔法使いを守っていたとしてもその間に魔法封じの魔法を掛けられたらダメなので、戦闘重視で進化し実戦では無詠唱の方が圧倒的に有効だろう。
地球でも戦争によって技術が発達するものもあったから、そういうことだ。
詠唱魔法は滅多に使われないので、進化せずに古代の魔法として残っているわけだ。
魔法の出力が終わると、エリカさんがフッと倒れそうだったので支えた。
「マヤ君、この魔法を使ったら魔力がすっからかんだわ。ここは魔素が多いから回復が早いと思うけれど、ちょっと休ませてね……」
私はエリカさんを木の根元に座らせたらもうスヤスヤ寝ていた。
隣に座って、彼女の手を握り森の息吹を感じながらボーッとしていた。
(女神サリ視点)
およよ! マヤさんお手柄じゃないの!
まさかこんなに早くこの世界の歪みを発見してくれたなんて!
この調子でどんどんやって欲しいわね。
(マヤ視点)
エリカさんが目を覚ましたようだ。
「マヤ君…… おはよう。どれくらい寝てた?」
「二時間くらいかな」
「ずっと手を握ってくれていたのね…… マヤ君は優しいね……」
エリカさんは再び頭を私の肩に寄せた。
「もう少しこのままでいさせて……」
「うん」
いつもと違うお団子ヘアスタイルなのでドキドキする。
「こうして外で二人っきりなんて、初めてかしら……」
「そうだねえ。そういえばそうですね。ここじゃちょっとロマンに欠けるかな」
「そんなことないよ…… ねえ、マヤ君……」
エリカさんは頬を寄せ、キスをしてきた。
いっぱいいっぱい大人のキスをした。
「続きは…… 帰ってからにしましょ。ふふ」
「お昼も過ぎたし、サンドイッチを食べましょう」
「そうね。お腹が空いたわね」
「これは森でピクニックですね」
「可愛いデートでいいじゃない」
「やっぱりビビアナのハムサンドは美味しいなぁ」
「悔しいけれど、私は料理が苦手だからね」
「魔法が得意ならそれでいいじゃないですか」
「ふふ ありがと」
そうしてイチャイチャと食事をして、帰ることにした。
魔力が出発したときよりも多く回復していたので、一時間ほど掛けて順調に帰り着いた。
侯爵閣下へ報告しようと執務室へ行ってみたが……
「侯爵閣下はまだお帰りではないか…… ねえ、エリカさんの部屋へ行きましょう」
「え? えぇ」
そして地下にあるエリカさんの部屋に入った。
私の分身君がさっきからまた元気すぎる。
「エリカさん、もう我慢できない」
「え? ちょっちょっと。」
私はエリカさんのズボン越しに、鼻を当てて深呼吸をした。
「スゥゥ ハァァ―― エリカさんの匂い…… とてもいい匂いだ」
「ちょっとやだっ そんなとこ恥ずかしい……」
まさか私がお団子ヘアとズボン姿のエリカさんにこれほど萌えるとは思わなかった。
少しマンネリもあったので、気分が変わって良いぞ。
私はエリカさんの上着を脱がせ、ズボンを下ろし、ベッドに寝かせた。
「優しくしてね……」
どうしたんだろう。やはりいつもと違いしおらしい。
余計に興奮して、エリカさんはもう準備OKだったので、すぐに……
---
「マヤ君、いつもより燃えちゃったね」
「エリカさんが今日は特に愛おしく思ったからですよ」
「そんなに思ってくれてるなんて嬉しいわ」
プライベートではちょっとくらいバカップルになったほうが良かろう。
「じゃあ着替えてくるから、また後で」
---
途中でフェルナンドさんを見かけたので、侯爵閣下がお帰りになったら報告があるので私たちを呼んできて欲しいと伝えた。
二時間もするとメイドさんが部屋へ呼びに来た。
エリカさんと私は、侯爵閣下に一部始終を報告した。
「うーむ、そうか…… ご苦労だったね。
だがこれで終わったわけではなさそうだね。魔物は広範囲にいるし、外国にも魔物がいるわけだから、その穴は世界にたくさんあると考えて良いだろう。
しかしエリカ殿しかその古代魔法が使えない上に、使用魔力量がとてつもなく大きいとは参ったなあ」
「それなら私が古代魔法をたぶん使えるようになると思うので、大丈夫と思います」
「おおマヤ殿、やってくれるのかね」
「はい。前にも旅に出ると申し上げましたが、ある事情でそういう穴を塞ぎに世界をまわることになりそうです」
「なんと。君は一体何者なんだ……」
「パティやエリカさんには前に話をしましたが、閣下にもお話ししますのでくれぐれも内密に……」
私は侯爵に、パティたちに以前話したよう私がこの世界に降りた経緯を話した。
「まさか女神サリ様と直接お会いしているなんてにわかに信じがたいが、マヤ殿のいろいろ不思議なことについては合点がいく。ここは君を信じるか……」
「ありがとうございます、閣下。
閣下にお願いしたいことはまず国中の穴を探す調査団を集めて、わかったところから私たちが穴を塞いでいきます。
恐らく北の森のように魔素が濃いところが怪しいです。
ひとまず国内の魔物の出現が落ち着いたら外国へ行こうと思います。
外国からも我が国へ魔物が流れてきていると思われますから、世界の平和は我が国の平和です」
私たちはこの穴を【デモンズゲート】と名付けた。
「気の長い話だが…… あいわかった。陛下にも伝えよう。
ちょうど叙爵の機会があるから、その時に改めて陛下に話してみるのも良かろう」
「はい。それで旅に出るのはエリカさんはもちろんですが、パティとビビアナも行きたいと言っております。
スサナさんとエルミラさんはガルシア家の防衛もあるから代わりがいないと難しいと。」
「エリカ殿とビビアナは問題無い。パティは間もなく卒業するから、その後でならばかまわない。
スサナとエルミラは国内が落ち着くまで待って欲しい。代わりの者は考えよう」
「承知しました。外国へ出かけることについては追々ということで、まず国内のデモンズゲートと魔物の掃討が先決です。
新たにデモンズゲートが出現する可能性も高く、急に大型の魔物の大群が襲ってきたのは北の森のデモンズゲートがそうかもしれません」
「うむ。いざとなれば私も戦うし、君たちばかりに任せても鈍ってしまうからなあ。アマリアとローサだって強い。だから気にしないでやってくれ」
「それを聞いて安心しました。それでは閣下、これで失礼します」
---
執務室を出た後、エリカさんの部屋で。
私は女肌が恋しいのと、彼女に甘えたかった。
「ねえ、エリカさん。夕食が終わった後にね…… もっと一緒にいたい」
「マヤ君ったら…… ほんとにどうしちゃったの?」
「今日でエリカさんのこと、もっと好きになったみたい」
彼女は照れながら私の腕にしがみついてきた。
その晩はエリカさんと時間を掛けてまったり楽しんだ。
一日に何度も、若い身体ってすごいなあ。