第三十一話 祝福の魔法
2026.3.16 全体的に見直し、加筆修正を行いました。
夕方前になり、少しだけ元気が出てきた。
部屋にフェルナンドさんがやって来て、ガルシア侯爵から話があるとのこと。
そして、夕食前に応接室にはガルシア家の皆が集合する。
応接室にはガルシア侯爵、アマリアさん、体調が回復しつつあるパティ、ローサさん、エリカさん、フェルナンドさんが集まった。
「マヤ君、改めて魔物討伐ご苦労だった。この功績に応じて、私はマヤ君に男爵の称号を叙爵することに決めた」
「??? じょ、叙爵ですか? ――その、閣下…… 私は叙爵する資格はありません。パティの側にいながら守り切れず大怪我をさせてしまいました」
現時点で叙爵をされるなんて考えもつかなかった。
もっと何年も後かと思っていたのに、マカレーナへ来てまだ一年も経っていないのに……
しかも今回のことで功績を挙げたと思っていない。
「マヤ様、気に病むことはございませんわ。お父様は、マヤ様が魔物を退治した結果について叙爵を決められましたし、私は私自身のミスで怪我をしてしまいました。それをマヤ様が治してくださったのですから」
「パティの言うとおりだ。あれほどの大型の魔物を百体以上も入り込んでいたのに、早いうち倒せたのはマヤ君のおかげだ。マヤ君の力が無ければ、街が壊滅してたくさんの領民が死んでいたんだ」
「――私の力、ですか……」
「そうだ。君の力だ」
パティも擁護してくれる。
有り難いことだし、ここにいる中で私を責める人はいないのはわかっている。
折角の厚意を受け取らなければ、ガルシア家の人たちを裏切ることにもなる。
ここは素直に受けるべきか。
「本当は子爵の位をあげられるほどの功績だが、法律で男爵までしかあげられない。どうか受け取って欲しい」
「謹んで承ります……」
「尚、叙爵は国王陛下もってのみ行われるので、マヤ殿にはいずれ王都へ行ってもらう。審査や手続きがあるので二ヶ月ぐらいかかるが、しばらく待って欲しい」
私は無言で一礼して応接室を退室した。
「アマリア…… 頼む」
「はい、あなた」
私はそれでも納得いかなかった。
たまたま光魔法に目覚めただけで、目覚めていなかったらどうなる?
運に任せきりではダメだ。私は何だ、何だというのだ。
「マヤ様、こっちへいらっしゃい」
いったん退出した私をアマリアさんが追って呼び止め、彼女の寝室へ連れて行かれた。
部屋に入ると、アマリアさんは私を抱きしめた。
いつもなら嬉しいけれど、今はそういう気分にならない。
「俺は…… いや、私は怖いんです。愛している人を…… パティを失うことがどれほど怖かったのか。パティを好きになる資格があるのか。たまたま目覚めた力で助かっただけなんです」
アマリアさんに抱かれたまま、私は思っていることをまるで独りでに話しているように口を開いた。
「マヤ様、誰もあなたを責めることはありません。
娘を助けてくださったことは事実ですし、とても感謝していますよ。
私は初めてお会いした最初の日からあなたの中の力を確信していました。
エリカさんも、あなたに何かを感じて光の魔法の勉強を早めに勧めたんでしょ?」
「それは……」
「私はあの時、【祝福】をしてあげていたんですからね。うふふ…… みんなあなたのことを信じているのよ」
「ううう…… うっく……」
私はアマリアさんに抱かれたまま泣いた。
みんなが私を信じてくれていることの有り難さが、身に染みている。
扉の外では、それをこっそり聞いていたパティが泣いていた。
アマリアさんってなんでこんなに暖かいのだろう。
グロリアさんも旦那さんの前で堂々と私を抱いてくれたし、そういう家系なのだろうか。
――そうだ。中身が五十歳のおっさんが、二十も年下のアマリアさんに慰められるのも情けない。
どうして―― 若返ったら心が弱くなったのか。いや、感受性が若返ったのだろうか。
単純に身体だけが若返っただけではない気がしてきた。
(女神サリ視点)
うーん…… しばらく見ないうちに大変なことになっていたのね。
パティちゃんが死にそうだったなんて想定外だったから、私もしくじったなあ。
でもマヤさんが光の魔法を使えるようになって、これで土台が整ったわけよ。
そろそろ私と通信出来るようになるかな?
(マヤ視点)
アマリアさんのおかげで心のつっかえが取れ、夕食はとても美味しく食べられた。
ガルシア家って本当の家族みたいでいいな。
家族で食卓を囲むなんて一生無いかと思っていた。
こんな私を受け入れてくれたガルシア家のためにも、報いなければいけない。
――私は部屋に戻る。
ベッドで寝転び、ボーッと休んでいたらノックがあった。
扉を開けると、パティだった。
「入ってもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
「私…… まだきちんとお礼を言えてませんでした。マヤ様…… 私の命を救って頂いて本当にありがとうございます。どうか私のことはマヤ様のモノと思っていつまでも……」
彼女は永遠の愛の誓いと思えるような言葉を言った後、顔がポッと赤くなる。
改めて思うと、私がこんな美少女と一生を共にしても良いのか実感が湧かない。
「うん…… これからもよろしく…… あれは運が良かったんだよ。祝福を…… あっ」
思わず口が滑った。アマリアさんから祝福のキスを受けたことを……
しまった…… 寄りによってパティの前で…… ブルブル
「聞きましたわよ。お母様から祝福の魔法を受けていたんですってね。それでどんなふうに魔法を掛けられていたんですか? まさかお母様とキ、キスを…… はわわわわ」
「いやあ そのぉ キスをしたら魔法が良く効くって言われたものだから…… ハハハ」
「まったくお母様ったら! お母様もマヤ様が好きだから、目が離せませんわ!」
私は正直に話した。
パティはさっきの照れ顔から、酷く呆れた表情に変わる。
彼女が半狂乱になることも覚悟したが、意外に反応が緩い。
「私も【祝福】の魔法が出来ますから、今度から私がして差し上げます! 祝福魔法の最大の効果は…… その…… お互いが…… は、裸になって…… 契りを……」
「えぇぇぇぇぇ!?」
またそんな大胆な!
十三歳ではダメでしょうに!
「まさかとは思いますが、もうお母様と!!??」
「いやいやいやいや! 侯爵閣下にも申し訳ないし、そんなことは断じて無いよ~ そんなことは……」
「それなら良いですが、じゃあ私が今からキスして祝福の魔法を掛け直しますね!」
「じゃあ…… よろしくお願いします……」
良かった…… 勢いで服を脱いでしまうかと思った。
パティはコクッと頷き、ゆっくりと唇をつける。
彼女の暖かい魔力が流れ込んできているのがわかる。
そしてパティの思いが伝わる甘いキス。
「くふぅ……」
パティは私の唇をはむはむするように、いつもより長い長いキスをする。
私はベッドに座ったままパティに押し倒されてしまった。
パティはスイッチが入っちゃったのか、十三歳の女の子からここまで積極的に迫られるのはどこで知識を得たのだろうか。
うーん…… 恋愛小説を読むのが好きみたいだからそこからなのかも知れない。
「マヤ様……」
パティは唇を離し、私の名をつぶやく。
祝福の魔法のおかげか、私の気分まで暖かくなった。
「このまま、抱いていてもいいかな?」
「ん……」
私はパティのふっくらした身体を……
んん? ふっくら?
私の胸に被さってるこの感触は、もしかして胸があれからまた大きくなったのか?
十三歳でこの大きさは……
むほっ 将来が楽しみである。
「マヤ様…… とうとう男爵閣下になられるのですね」
「まだ決まったわけでは無いよ」
「お父様は国王陛下の信頼が厚いですから、きっと大丈夫ですわ。お父様って、ああ見えてすごいんですよ」
うーん、侯爵閣下と国王陛下の間に何があったんだろう。
パティに聞くと侯爵は昔、王都でしばらく暮らしていたらしい。
その時謀反を企てていた輩を捕らえた上に、それらによって冒されていた経済的損害を建て直したそうだ。
それは確かにすごい。領地の運営も良好のようだし、政治的手腕は有能なんだろう。
「さあ、そろそろお休みの時間だね。そうだ。エリカさんから聞いて、マルセリナ様からお呼びがあったんだ。明日はパティも大聖堂へ行ってみる?」
「そうですね、お邪魔で無ければ。うふふ」
「邪魔じゃないよ」
パティと軽くキスをして、彼女は部屋を退出していった。
――その頃エリカさん、きっとまた地下室で拗ねているに違いない。
「くぅ~ せっかくお姉さんが慰めてあげようと思ったのに、部屋の前へ行ったらパティちゃんといちゃいちゃしてぇ~ スンスン」
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翌日のお昼。
パティと私は、大聖堂内にあるマルセリナ様の書斎で彼女と話していた。
「エリカ様からお話は伺いました。マヤ様、まずはこの街を救って頂き本当にありがとうございました。教会を代表してお礼を申し上げます」
「いえ、マルセリナ様から回復魔法を教えてもらったから、パティの命を救うこともできました。感謝の念に堪えません。」
「マルセリナ様、私からもお礼申し上げます。ありがとうございました。今回のマヤ様の功績によって、男爵の称号を授かることになりましたの」
「え、それでは貴族になられるということは、私とも…… あっ」
「私とも?」
マルセリナ様まで何か口を滑らせてしまったようだ。
き、気になるなあ。
だが素直すぎるマルセリナ様はそのまましゃべってしまう。
「その…… パトリシア様といらっしゃる機会にお話しした方がよろしいのでしょうか。私、マヤ様のことをとてもお慕いしております」
「――!?」
私はマルセリナ様の言葉に硬直してしまう。
お慕いしておりますだなんて、幻聴ではないのか?
パティがマルセリナ様の発言について問う。
「それって、マヤ様のことを愛してらっしゃるという意味でございますか?」
「はい、そうです。ご一緒に光魔法の勉強をしているうちにマヤ様の暖かさに触れまして、女神サリ様の力までも感じるんです……」
「サリ様の……」
「はい。私は元々男性に縁がありませんでしたから、もうマヤ様しか…… マヤ様以上の男性はこの先出会うことは無いだろうと。それに私も歳を取るばかりですから……」
マルセリナ様は、パティに向かって照れ顔で一生懸命話していた。
パティがいるのに、まさかここでマルセリナ様から愛の告白を受けるとは思いもしなかった。
きっとパティは不機嫌な顔をしてると思ってチラッと見たら……
「マヤ様! マルセリナ様から告白されるなんて素晴らしいですわ!」
「ええっ!?」
てっきり、いつものように焼き餅を焼くと思っていた。
いくらパティがマルセリナ様のことを尊敬しているとはいえ、一夫多妻が当たり前の国は尊敬していれば恋敵にはならないのだろうか。
マルセリナ様は二十三歳。
この国では十五歳から結婚が可能で結婚適齢期は十八歳から二十歳と言われているから、焦るお年頃なのかも知れない。
「それでマヤ様が貴族になられるということであれば一夫多妻制が認められますから、パトリシア様だけでなく私にも希望が……」
マルセリナ様の白い顔がますます赤くなる。
桃みたいで美味しそうにも見えた。
「マルセリナ様のお気持ちはわかりました。しかし…… パティの他にもお互い好いている女の子たちがいますから気持ちの整理がつかないというか……勿論マルセリナ様のことは好きです」
「まあ、そうですのね。承知しました。もしかして、その中にはエリカ様もいらっしゃるのですか?」
「そういうことになります……」
「マヤ様は、メイドの耳族の娘、うちの討伐兵の二人にまで好かれているんです。しかもお母様にまで。一体どうなっているんでしょうねえ」
パティが私をジト目でチラッと見る。
焼き餅なのか寛容なのか、どっちなんだい?
地球で仲良くしていた女の子にも、コロコロと言うことが変わる子がいたが……
「パトリシア様の奥様にまで好かれているなんて、マヤ様はすごいのですね」
「うっ……」
パティから少々嫌みっぽく言われてしまう。
好かれているのはありがたいが、人妻じゃ不安がありすぎる。
でもアマリアさんはすごく素敵な女性で、惹かれないほうが難しい。
「マヤ様、もう一度エクスプロレーションで見させてもらってもよろしいですか?」
「はい、わかりました」
私は前のように両手を差し出し、マルセリナ様の白磁のような綺麗な手で握られた。
ん? 前回は白絹のような手と言ってたような。
「マヤ様から、パトリシア様のとても暖かい魔力をたくさん感じますわ。これは祝福の魔法を掛けられたのですね。とても想いを込められています」
パティが真っ赤な顔をして照れているが、あれだけチュッチュしてたらねえ。
マルセリナ様はこのままエクスプロレーション探査を続けている。
「マヤ様の魔力容量が前回と比べて桁違いに増えています。フルリカバリーの後にライトニングカッターをたくさん使えたのも納得いきます。闇属性、水属性、光属性…… あら、風属性にも目覚め始めてますわ」
「やったぁ!」
私は万歳で喜んだ。
風属性魔法。圧縮空気の魔法が扱えるようになったらいろいろ応用が利く!
決して風でパンチラをさせたいわけではない。
「マヤ様、この魔力容量だとフルリカバリーが一日に十数回は使えると思います。
私でも一日に一回だけしか使えないので、とてつもない魔力容量なんですよ。
エリカ様からお聞きになられたと思いますが、マヤ様の力を悪用しようとする者が出てくるでしょう。
最低限の方にだけ知っているように周りの方にも周知徹底をお願いします。パトリシア様もよろしくお願いします」
「「わかりました」」
「やはり、マヤ様から女神様の強いご加護が感じられます。本当に不思議で、それも私がマヤ様に惹かれている理由の一つなんです……」
マルセリナ様はまた照れ顔になったが、いつ見ても可愛いな。
それにしてもサリ様のご加護の力ってそれほど強いのか?
ご加護がありながらこの先怪我をすることがあったら、死んでいてもおかしくないと考えるべきなのか。
「次はパトリシア様にもエクスプロレーションをやってみましょう」
「え? 私もですか? お…… お願いします」
むほっ パティも何か暴かれるのか? おっと不純な動機はいかん。
「これは…… マヤ様の強い魔力を感じます。まるでマヤ様の魔力が注ぎ込まれたような……」
「もしかして…… 私が光属性に目覚めた時に身体が光っていたのを覚えてますが、そのときにパティが側にいて光を浴びたからでしょうか?」
「考えられますね…… それからパトリシア様は確か、風属性魔法が使えなかった思いますが…… これで目覚めているのがわかりました。恐らくマヤ様の影響でしょう」
「私…… そんなことになって…… 私の身体の中にマヤ様が入ってるなんて嬉しい……」
そういう言われ方すると何だかエッチだぞ。
私の力でパティの風属性まで目覚めさせることが出来たなんて、自分自身でも何が何だかわからない。
私は本当に何者なのか、いつかサリ様にきちんと聞かねばならない。
「パティ、良かったじゃないか。これからは風魔法が使えるようになるんだね」
「えぇ、これでお母様と同じ四属性の魔法が使えるようになりますわ。
四属性以上は上級魔法使いの仲間入りになりますから、私ももっと精進しなければいけませんね」
三属性以下でも上級魔法使いになれるらしいが、よほど突出した力を持つ場合である。
その例外とは、マルセリナ様の光属性だ。
――さて、マルセリナ様のお昼休憩を私たちが占有してはいけないので帰ることにする。
「あまり長居をしてもいけませんから、これでお暇します。マルセリナ様、ありがとうございました」
「あ、マヤ様…… お待ちください」
マルセリナ様が私を呼び止め、耳打ちで私に話しかけてきた。
ゾクゾクゾク―― 耳に当たる吐息がこそばゆい。
「私もいつか【祝福】の魔法を掛けて差し上げますね。うふふ」
むひょ、どういうふうに祝福の魔法を掛けてくれるのか楽しみだ。
大聖堂を後にし、帰り道に歩きながらパティがブスッとした顔で話しかけてくる。
「マヤ様、先ほどマルセリナ様から何を言われたんですか?」
「またおいで下さいと言っていたよ」
「ふーん、そうですか。それだけなのに、内緒話みたいで変ですわね」
またジト目で見つめられる。何だかんだで気になって仕方ないんだな。
お屋敷に帰ると、早速エリカさんにお願いして風属性魔法の勉強を庭のテーブルで始める。
珍しくパティも参加しており、エリカさんはまたパティに怒られるのでパンチラはしてこないようだ。
これは良い傾向なのか残念とも言えるが、勉強は集中出来たと思う。
【第二章 了】




