第二十一話 パティの誕生日パーティー
2023.10.17 微修正を行いました。
今日はパティ十三歳の誕生パーティーが開催される日。
貴族向けの公式的なパーティーで、私やビビアナは会場で手伝い、エリカさんは貴族だから参加するが一応形だけ。
私たちは日を改めて個人的なパーティーを行う予定だ。
前にも聞いたとおり、食事はガルシア侯爵家指定の料理店からコックが数名出張して、お屋敷の厨房で料理を作るケータリング形式で行われる。
ガルシア家の食卓はどちらかと言えば庶民派だから平民であるメイドのおばちゃんたちが作る家庭料理で十分で、ビビアナが来てからさらに食卓が賑やかになった。
今日のメイドさんたちは日本式で言う配膳をすることになるが、ビビアナを含めた若いメイドさんたちはパーティーホールスタッフとして、スサナさんとエルミラさんはボーイの衣装で、かく言う私もボーイをやることになっている。
私は元の世界でホテルの仕事をしていたから、パーティーセッティングやホールスタッフの仕事はお手の物だ。
そういう話をガルシア家や周りのみんなに話したら、何故か意外な顔をされた。
夕方前まで準備で大忙しで、準備の取り仕切りと司会進行は勿論フェルナンドさんだ。
そろそろ時間になり、パーティーの招待客が続々とやってくる。
多くはパティの学校のお友達だが、ガルシア侯爵家に取り入ろうとしている貴族の息子と思われる者や、マカレーナの街に住んでいる大人の貴族も何人もいるとのこと。
その人たちは誕生日パーティーを口実に貴族の社交場として来るから、別室をいくつか用意してある。
そして誕生日パーティーが始まる。
「それでは、パトリシア様よりお誕生日の挨拶がございます」
「皆様、今日はお忙しいところ私のためにお集まり頂きましてありがとうございます。
今日、私は十三歳になりました。
これまで無事に成長が出来たのも、皆様のおかげでございます。
まだ未熟な私ですが、皆様に喜んで頂けるよういっそう精進してまいります。
短い挨拶でございますが、どうぞ今晩は楽しんでくださいませ」
侯爵閣下が隅の方にて、立派に成長したなあと言いたげそう。
うるうるとした表情でパティを見ていた。
うむ、短い挨拶はいいことだぞ。
日本では校長先生や社長の話は長くて怠かったからなあ。
「次は、マカレーナ女学院生徒会会長、カタリーナ・バルラモン様より代表でご挨拶です」
「カタリーナ・バルラモンでございます。
パトリシア様、お誕生日おめでとうございます。
本日はお招き頂いてありがとうございました。
パトリシア様はお若いですが大変聡明な方で私たちの目標になっています。
先日、魔物が学校へ襲ってきたとき、強力な魔法で私たちを助けて下さいました。
私たちの命の恩人です。改めてお礼を申し上げます。
私たちは、次の春には卒業でそれぞれの人生を歩むことになり寂しいですが、どうかそれまでも私たちと楽しく同じ学び舎の友としてお付き合い頂けると嬉しいです。
パトリシア様の今後のさらなるご活躍をお祈りします」
彼女はパティの親友でバルラモン伯爵のご令嬢、カタリーナ様。
歳は十七歳らしいが大人びた雰囲気の女性だ。
明るいブラウンで長いドリルカールの美人さん。
卒業が同じ時だからパティと同級生なのか。
「カタリーナ・バルラモン様からのお言葉でした。
それでは、パトリシア様がバースデーケーキの火を消されたら乾杯の合図とさせて頂きます。パトリシア様、お願いします」
パティはふぅっと十三本のろうそくの火を消した。
「乾杯!」
拍手喝采で宴遊がスタートする。
さあ私もこれから大忙しだ。
パティは淑女たちに囲まれ、エルミラさんまで淑女に囲まれている。
どうやらイケメン女子エルミラさん目的の淑女も多いようだ。
パティと同年代の貴族息子たちは近づけないのか、侯爵令嬢で飛び級の才女は高嶺の花だからか遠目で見ている雰囲気もある。
ダンスが始まった。
ここぞとばかりに貴族息子たちが集まり、淑女たちも一緒に代わる代わるパティとダンスを踊っている。
「セリオ・エステバンです。どうぞ私とも踊って頂けますか?」
隣町エステバン伯爵の息子で、キザっぽくていけ好かない感じだ。
歳は十五歳ぐらいだろうか。
ボーイの仕事をしながら二人が踊っているのをチラ見する。
「パトリシア様…… ボクと……」
「きゃっ!」
ダンスが終わるときに彼は強引にパティにキスしようとしたが、振り払われる。
こんにゃろ~!!
エルミラさんが鋭い眼光で睨んだら彼は退散した。
ありがとうエルミラさん!
ほんとに惚れちゃうよ。
しかしエステバン家の坊ちゃんは今後も何かしでかすかも知れないから、気をつけないといけないな。
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夜が更け、パーティーはお開きになった。
その後も私たちは片付けに大忙しで、一段落したのは間もなく日が変わろうとしていた時だ。
広間の隅にある椅子で休憩していると、パティが私を呼んでいる。
「パティ、まだ起きていたの?」
「マヤ様、私と踊って頂けますか?」
「え?」
「上のバルコニーへ参りましょう」
私たちは屋敷の階上にあるバルコニーへ上がった。
私は若い頃に飲み屋の女の子と少し踊ったことがあるけれど、今も踊れるだろうか。
「私は踊りが下手なんだ」
「かまいませんわ、マヤ様。私がリードします」
私たちはジルバを踊り、パティはクルクルと、私は適当にステップを踏みながら踊った。
「マヤ様、お上手じゃないですか。
前にもどなたかと踊ったことがありますのね。
妬きますわ……」
ダンスが続き、ジルバからだんだんとチークダンスのようになる。
「マヤ様、キス、してくださらないのですか?
あの時、見ていらしていたんでしょ?」
私は無言でパティの顔をジッと眺めた後、軽く口づけをした。
「嬉しい。ファーストキスだったんですよ。
あの時は…… とても怖かったんですから……」
パティは怖いのと安堵の両方のような表情でほろりと涙を浮かべ、私はもう一度キスをした。
ごめん!!
私はここに来て君のお母さんと熱烈なキスをしてしまいました!
あとビビアナともペロペロチューをしてしまいました!
「マヤ様…… 初めてお会いしたあの日からお慕い申しております。
いいえ、愛しております」
女の子に恥を掻かせてはいけないし、私も素直な気持ちを言おう。
「パティ、私も愛しています」
私はパティの頭を撫でながら、しばらく抱き合った。
そしてお姫様抱っこをしてパティの部屋の前まで送る。
「マヤ様ったら。うふふ」
「パティ、おやすみ」
私はまたパティにキスをし、そこで別れた。
――あれえぇぇぇぇ??
私のガラでもないのに、何でこんなドラマチックな話になってるの?
現代社会のパーティーのイメージで書いてますので、本当の中世のパーティーとはかけ離れていると思いますがご容赦下さい。