第十九話 猫耳メイドが萌え萌えキュン
2025.10.20 本作てこ入れのため、副題変更、大幅に改稿しました。
私はいったい誰が好きなんだろう。
アマリアさんには甘えたい、抱かれていたいという気持ちで切なくなる。
また、中身五十歳のおっさんからすると大人の女性というのは、男性側が無理に気遣いする必要が無いからだ。
平たく言い換えれば、おっさんがJKと対等に話すことは難しいし、機会すら巡り会うことは至難だ。
アマリアさんには先日部屋に誘ったことについて忘れて欲しいと言われた。
私の無意識で発動した魅了魔法で衝動的に動いたとはいえ、あの情熱的なキスはどうしても忘れることが出来ない。
もしかしたらローサさんにも魅了魔法が掛かっているかも知れないのに、そういった動きは無い。
多分、相手が自分に対してある程度好感を持っていないと効き目が無いのだろう。
ああ…… 彼女がカルロス君を抱いているときでも、私は遠くから見つめてしまう。
当然彼女は既婚者なうえに、お世話になっている侯爵を裏切ることは出来ない。
この前は愛していると言ってくれたが、家族のように大切だとも意味が取れる。
そういうことにしておこう。
私のことを一番想ってくれているのはパティだろう。
健気で、焼き餅焼きで、一緒にいて楽しい。
しかし彼女はまだ十二歳だ。
私も男だし身体が若くなったので肉欲はそれなりにあるが、彼女はまるで娘のようだから理性が強く働く。
性的な衝動が出そうな気持ちにはならない。
彼女もまだ行為を行うには身体も心も出来ていない。
しかし十二歳にしてはお胸の発育が素晴らしく、顔が年齢なりなのでこのアンバランスさが成長期そのものなのだろうな。
エリカさんはどうだろうか。
彼女未婚だし歳上だが、恋愛出来る条件は問題無い。
私をよく揶揄っているのは興味があるからだろうが、他にどういう意図があるのか。
ガルシア家の屋敷は女性中心で、おじさんばかりだけど少数ながら男性がいるし、侯爵という立場上、外からの男性の出入りもある。
だが、男性にちょっかいを掛けているのは見たことがない。
揶揄うだけでそれ以上のことはないが、男の子が女の子にいたずらするのも好きのサインと同じことだろうか?
あれか! 最近日本の漫画で流行っていたウザ絡みの後輩みたいな!
いや、ウザ絡みの姉もあったな。どちらかといえばそっちだ。
で、彼女は服の上からもわかるナイスボディだけれど、私はヘタレなのでたまたま見えたぱんつを見ることしかできない。
たまたまが多いのは否定しないぞ。
勉強はとても熱心に教えてくれているし、私に対して何かしら思いが強いのはよくわかっている。
スサナさんとエルミラさんは、私のことをあまり異性として意識していない節があるけれど、時々思わせぶりの行動もあるし、つかみ所が無い。
言葉より拳で語るほうがずっと多いからね。
そういえば今度、エルミラさんと一緒に買い物へ行くことになっていたよ。
ビビアナはこの前私を「あてしのものニャ」のようなことを言っていたが、エリカさんと言い合っていた勢いだろうか。
なかなかプライベートで話すことも無いので、そうだ今度デートに誘ってみるか。
近頃パティとも仲良しだから、パティに正直に言えば嫌な顔はしないと思うが……
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午後の休憩の時、何かおやつを貰おうと厨房の近くに行ってみたら、ちょうどビビアナとマルシアさんがいた。
「この子ったら本当によく働くし、料理が上手で美味しいし、メイドの皆さんも娘のように可愛がっていて、いい子だよ」
マルシアさんがそう言いながらビビアナの頭をなでなでしていて、ゴロニャーンという笑顔をしていた。
うまくやれているようで良かったよ。
「ビビアナ、今度買い物とご飯食べに行かないか?」
「ニャニャニャ!?」
「あらデートのお誘いかい? 良かったねえ。じゃあ明日にでも行っておいで。仕事は私たちでやるから」
「ありがとうございます、マルシアさん」
「マルシアさんありがとうニャ。楽しみだニャ!」
「ビビアナちゃんずっと頑張ってるし、羽を伸ばさなきゃ。マヤさん、もっと早く誘ってあげてたら良かったのに」
「ははは、ビビアナがここへ来てからずいぶん経っちゃいましたね」
そうだなあ、徽章を届けて貰ったお礼もまだだったし、何かプレゼントできるかな。
その日の夕食の後ビビアナもいる場で、パティに二人で出かけると話してみた。
パティは何故かニヤッとした表情で快く了解してくれた。
「ビビアナの料理は本当に美味しくて、毎日一生食べてみたいわぁ」
「ニャんだ、そんなことならパティとあてしがマヤさんと結婚すればいつでも食べられるニャ」
「まぁ!」
ビビアナは得意げに踏ん反り返っている。これがドヤ顔だ。
パティは両手で頬を押さえて照れていた。
おいビビアナ…… 今さらっととんでもないことを言ったよな?
それに人間族と耳族って結婚できるの?
「あの…… ビビアナ。冗談じゃなくて俺と結婚したいのかい?」
「耳族の女は強くて頼もしい男が好きニャ。ビビッと来たら早く捕まえるニャ。ただ強ければいいって訳じゃニャいから、ビビッと来たのはマヤさんが初めてニャ。マヤさんはどんどん強くなっているから、あてしの目は間違いなかったニャ」
ビビアナだけに、ビビッと来たのか。
確かに押しかけ女房のような勢いで屋敷にやって来たからな。
徽章を落としてなかったらどうなってたんだろう。
外れないようにしていたはずなのに、落としたのはまさかサリ様の仕業ではないだろうな。
「ビビアナの気持ちはわかった。俺はビビアナことが好きだけれど、まだ自分で気持ちがわからないんだ。結婚できるかどうかはもう少し時間が欲しいな」
「わかったニャ。明日のデートからあてしのことをよく知ってもらうニャ」
「マヤ様の活躍ならきっと叙爵出来て、一夫多妻の資格が持てますわ。ご精進くださいませ。うふふ」
私が一夫多妻ねえ。
パティは焼き餅のくせに、ビビアナの言葉には彼女が随分寛容に見えた。
彼女にとってどこら辺が浮気との線引きなのか、私にはまだよくわからない。
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ある日、私が自室にて魔法書を読み、一部を書き写したりして勉強していた時のことだ。
パティは学校へ行っている。
エリカさんもどこかへ行ってしまったので、故に自習である。
彼女は自分の収入源のためにも魔法薬を作っており、時々街へ売りに出ている。多分今日もそうだろう。
嵩張る液体薬より、粉薬にして折った紙に包んで、何件か取引がある街の薬屋へ卸している。
アレでも高名な魔法使いなので、高く買い取ってくれるそうだ。
そろそろ休憩しようか。頭を使ったときは糖分が欲しくなる。
部屋こそ良い部屋を借りられているけれど、私は貴族ではないのでチリンチリンと呼び鈴を振ってもメイドはやって来ない。
そもそもガルシア家はそこまでメイドがべったりついているわけでなく、アマリアさんたちはお茶の時間である定時におばちゃんメイドがお茶とおやつを持って来てくれるか、お茶だけなら自分の部屋にある魔動具のポットで自ら沸かしている。
私は厨房へ向かい、ちょうどビビアナが何か仕込みをしていたところで、お茶とお菓子を頼んだ。
部屋へ戻り約十分後、ビビアナがお茶とデザートを持ってきてくれた。
「お待たせニャー 今日はオレンジティーとフランにゃ」
「ありがとう」
フランとはカスタードプリンのことで、見た目は円形のチーズケーキを切った物のようである。
食感は、日本にもある焼きプリンよりやや硬めだが、味は良く似ている。
タコス同様、メキシコにもそんなデザートがあったはずだ。
ビビアナが作ってくれており、私が気に入ったのでよく作ってくれるようになった。
メイド服の彼女はポットからお茶を注いでくれる。
うーん…… オレンジの良い香りだ。
「今日のフランは一段と美味しそうだなあ」
「そうだニャ! このフランは会心の出来だニャ。早く食べてみるニャー」
ビビアナはそう言いつつ、もう一つのカップにオレンジティーを注ぐ。
フランも二皿ある。
ちゃっかりと自分も休憩するために、私の部屋でお茶をするつもりだろう。
まあ、ダメだと言う理由が私には無い。
しかも猫耳メイドだ。コスプレじゃない、本物の猫耳メイドだ。
こんな娘とお茶するなんて、美味しいに決まってるじゃないか!
――はっ!? 思い出した!
こんな機会こそ、美味しくなるアノ魔法を掛けてもらうんだ!
「あの、ビビアナ。ちょっとお願いがあるんだけど」
「何だニャ? 早く食べたいニャ」
「もっと美味しくなる魔法というか、おまじないなんだけれどね。それをビビアナにやってもらいたいんだ」
「うニャー どんなのだニャ?」
「今から私がやってみるから、よく見ていて欲しい」
「わかったニャ」
私は立ち上がり、日本で流行っていた正規(?)の振り付けをビビアナに披露する。
「では…… ドキドキー♪ ワクワクー♪ ニャンニャンー♪ 美味しくなーれ♪ 萌え萌えキュン♪」
私の振り付けを見ていたビビアナが、目を見開き、無言で固まっている……
ええ? ウケていない? そんな……
「ど、どうかな……?」
「う…… うニャ……」
あれえ? やっぱりダメなのか……
この世界じゃ、奇異に見えたかも知れないな……
諦めるしかないか……
「うニャァァァァァ!! マヤさんがそんなことをするなんて! すごく可愛いニャ! あてしもやってみたいニャ!」
「ええっ そうなの?」
「あんな可愛いダンス初めて見たニャ! すぐやってみるニャ!」
「お、おう…… じゃあ今度は、二人でやってみようか」
私たちは対面になって萌え萌えキュンダンスを始める。
ビビアナは尻尾をみょんみょんと動かして、ワクワク楽しそうだ。
「いくよー!」
「うニャー!」
「「ドキドキー♪ ワクワクー♪ ニャンニャンー♪ 美味しくなーれ♪ 萌え萌えキュン♪」」
ビビアナは作法通り、両手でハートを作って萌え萌えキューン!
す、すごい! リアル猫耳メイドの萌え萌えキュンは破壊力が桁違いだ。
可愛すぎるぅぅぅぅぅ!
「実に良かった! 次は本番だ! このフランに萌え萌えキュンのおまじないを掛けてくれ!」
「あいニャー!」
私は腰掛け、メイド喫茶の席に座っている客のごとくデザートの前でワクワクと待つ。
日本のメイド喫茶でやってもらって、何年ぶりだろうか?
私も途中まで声掛けをする。
「行くニャー! ドキドキー♪(ドキドキー♪) ワクワクー♪(ワクワクー♪) ニャンニャンー♪(ニャンニャンー♪) 美味しくなーれ♪ 萌え萌えキュン♪」
萌え萌えキュンのハートビームがフランに降り注ぐ。
――感無量だ。ぐぬぬ…… 涙が出そう。
猫耳メイドビビアナ手作りのプリンを食べる……
ああ…… 最高に美味いよ……
身体が光の砂になって融けてしまいそうだ――
「ビビアナ…… とっても美味しいよ。今まで食べたプリンの中で一番美味しい!」
「それは良かったニャ。今度はあてしが食べるフランに、マヤさんが萌え萌えキュンして欲しいニャ」
「そ、そうだね。じゃ……」
「あてしの給仕服を着るかニャ?」
「えー それはいい……」
ビビアナが突飛にメイド服を脱ごうとする仕草をしたが、制止する。
着替えも無いのに…… というか私の前で下着姿になっても抵抗が無いのか?
聞かなかったことにして、私は立ち上がり萌え萌えキュンダンスを始める。
「では、僭越ながら……ドキドキー♪(ドキドキー♪) ワクワクー♪(ワクワクー♪) ニャンニャンー♪(ニャンニャンー♪) 美味しくなーれ♪ 萌え萌えキュン♪」
ビビアナも同じように後から声掛けをして、座りながら踊ってくれた。
猫の糸目が…… か、可愛い…… 鼻血出そう。
今度は、にくきぅ手袋をはめてもらいたい。あ、売れてないから作るしかないのか……
「うミャー! マヤさんが萌え萌えキュンをしてくれたら本当に美味くなったニャ!」
名古屋弁かな……
魔力を僅かに込めてみたけれど、まさかねえ。
でも、ビビアナが喜んでくれて良かった。
それからフランを二人で美味しく頂きました。
オレンジティーがちょっと冷めちゃったけれど。
リアル猫耳メイドと萌え萌えキュンして一緒に食べられるなんて、今日は良い思い出の日になりそうだ。
事故で早死にしたけれど、この世界へ来て後悔は無い!




