記憶の光
街を出てからしばらくは特に何事もなく順調に依頼書にあった場所へと向かう。途中何度か行商らしき人々とすれ違うと案外安全な道なのかもしれないと思いつつ歩いて行く沙毅。
「んー?やっぱ街の近くだから魔物もそんなにでねぇなぁ」
今もそう呟きつつ狼型魔物「ウルフェン」を相手に立ち回りを研究していく。
余談だがウルフェンは俊敏性にすぐれ、相手が格上か窮地に陥ると仲間を呼ぶ習性がある。それ故冒険者に成り立ての新米冒険者は先輩冒険者から遭遇したら街の方へ逃げろとまでいわれているのである。
しかし今回の場合、沙毅にとってはそこらの野良犬がじゃれついて来た程度にしか考えていない。
それもそのはず現在の沙毅は不死である。たとえ腕を飛ばされようが喉を食いちぎられようが死ぬことはない。否、死ねない。
なお、体を離れた四肢は残っていようがいまいが魔力により再生すると考えられている。
「こいつらスピードだけは早いって忠告されたけど確かにはやいな」
今も横から飛びかかってきたウルフェンを半身になりかわすと老人から貰いうけた日本刀を鞘ごとウルフェンの腹を突き上げる。
そのまま頭に叩き付け無効化するとさらに次の獲物に対応する。
「ふぅ…まだ多少違和感があるけど大分慣れてきたな」
襲い来たウルフェン12匹(最初は5匹だったが次々に仲間を呼ばれた)を撲殺すると一息つくとともに水筒の水を口に含む。
なお水筒は雑貨屋で安売りしていたためついでに買っておいた。
「余計な時間食っちまったな」
まだ明るいうちに出たはずが廃墟につく頃には辺りはすっかり夕暮れになっていた。
「…あれ?」
冷や汗を額に浮かべながら廃墟を…正確には自ら張った廃墟の結界に綻びが無いかを見る。
「…こんなに強く張たっけ」
冷や汗をだらだらと流しながら自らの成果を見る。そこには大抵者をも通さぬ鉄壁が存在していた。
「いやいやこれ下位の竜種でもいなきゃ破れんやんか」
正確には世界の秘境と呼ばれる場所に存在する最上位竜種が最低20匹は必要なのだがその数は両の手では余るほどしか存在しない。
「…まぁいいか」
そういうとさっさと廃墟の中へと入っていき念入りに隠し、結界を張り保護していた魔方陣を展開、光に包まれると次の瞬間にはあの場所に立っていた。
「ここは相変わらず静かな場所だな」
そこにはかわらず幻想的な光景が在った。
かすかな足音を響かせ、それのもとへ行く。
月明かりに優しく照らされ穏やかにまるで寝てるように彼女はそこにいた。
「ただいま、フィー」
色々と言いたいことや話したい事があった。だがこの一言にはそれらすべてが込められている。
自然と涙が溢れてくる。止めようにも後から後からフィーと過ごした思い出と共に。
ここには時に置き去りにされた二人しかいない。
辺りには月明かりに照らされた草がただその声なき哀しみに揺れていた。