第七話 sideラヴィリオ
再会した初恋の少女をあの国から助け出すためと言うのは都合のいい言い訳だ。
俺は卑怯者だ。
俺は、ティアリアを俺だけのものにしたかったんだ。
この想いが恋なのだと気づかされたのはつい最近のことだった。
それまでの俺は、彼女のことなんて忘れていた。
だけど、思い出したんだ。
それからすぐに彼女のことを探した。
ディスポーラ王国の王城に出入りできる少女。身なりはボロボロだったが、美しい顔立ち。
月のような銀の髪。朝露に濡れたような菫色の瞳。左目を覆ったボロボロになった薄汚れた包帯。
小さな唇から出る鈴を転がしたような可憐な声。
信頼する部下に調査を任せていたが、なかなか彼女にたどり着くことは出来なかった。
ディスポーラ王国は、とても小さな国だ。すぐに調査は終わると思っていたが、彼女のことが分かるまでに一年もの時間が経過してしていた。
それにはいくつかの理由があった。
一つは、ディスポーラ王国が小国でありながらもこの大陸で残っていられた理由。
結界だ。
仕組みは分からないが、外敵からディスポーラ王国を守護する物らしい。
そのため、悪意を持った者は国境をまたぐことができないのだ。
調査を始めた最初の頃はそれなりの人数を送り込むことができた。
しかし、調査報告を持って帰国した部下は、二度とディスポーラ王国に入ることは出来なかったのだ。
それはそうだろう。
ディスポーラ王国は、腐っていた。
これで国が成り立っていることが不思議だった。
重い税金。作物の不作。領主の不正行為。それを知っていて何もしない王家。
むしろ、多くの民から搾取するばかりで、民を蔑ろにしていたというのだ。
そんなことを知ってしまった部下は、他国とはいえディスポーラの王家に敵意を向けてしまうのも仕方がなかった。
そうこうしているうちに、ディスポーラ王国に入れる部下が減っていき焦りを感じた時だった。
王家の末の姫の話を部下が聞きつけたのだ。
末の姫の存在は民には知らされていないのだという。
そして、存在を消された末の姫は、王宮内でも虐げらながら生きていたのだというのだ。
父や母、そして姉にバケモノと罵られ。
王家に仕えている家臣、侍女、メイド、下女、兵士、騎士……。
すべての人間に、バケモノ王女と蔑まれ、恐れられていたのだという。
そんな末の姫の容姿を聞いて、俺は確信した。
末の姫は、あの子だと。
部下からの報告では、辛うじて髪色が銀色だということ、十七歳にしては小さすぎる体。
そして、その身に秘めた魔力。
ディスポーラ王国の者は魔力を持たずに生まれる者が殆どなのだという。
対して、マルクトォス帝国ではほとんどの者が魔力を持って生まれる。
初恋の彼女もその身に大きすぎる魔力を秘めていたのだ。
部下には引き続き、ティアリアのことを調べさせたが、彼女についての情報は少なかった。
分かったことは、彼女が虐げられていること。
ただそれだけだった。
だが、部下からの報告に俺はディスポーラ王国を攻め滅ぼしたいとしか思えなかった。
そんなことは無理だと分かっていた。厄介な結界の所為で、父上はこれまで手を出せずにいたのだから。
それに、今の俺はディスポーラ王国に敵意しか持っていない。決して彼の国に入ることは出来ないだろう。
だから俺は考えた。
父上にティアリアを花嫁に向かえる計画を持ち掛けた。
計画は俺の本心を隠していたつもりが、もしかすると父上は俺の気持ちに気が付いていたのかもしれない。
ディスポーラ王国の結界を攻略するために、彼の国の姫を迎え入れたいという。
そんな計画をだ。
帝国は長年ディスポーラ王国の所有する魔鉱山を狙っていた。
魔力のないディスポーラ王国は全く気が付いていないようだった。
ただの険しく、草木の生えない不毛の地と思っているようだが、あの山は考えられない量の魔鉱石が眠っている。魔鉱石は、魔法道具を動かすための重要なエネルギー源だ。
それを輸出すれば国が潤うはずなのに、それをしないディスポーラ王国。
しかし、こちらからそんな助言をする気はなかった。
小国を攻めることなど簡単だからな。だが、ディスポーラ王国の結界の所為でそれが出来ないでいた。
半ば諦めつつも、歴代の皇帝は方法を探っていたのだ。
だから、父上もダメ元で俺の計画に乗ったのだろう。
こうして、俺はティアリアを花嫁に向かえる準備を始めた。
俺の私室の隣に彼女のための部屋を用意した。可愛らしく、そして使い勝手のいい家具を揃え、可愛らしい服をオーダーし、似合いそうな装飾品も購入した。
いざ、彼女を迎えに行こうとしたが、俺は結界を越えられない。
だから、一番信頼している部下のジーンを向かわせた。
事情を知っているジーンももしかすると結界を越えられない可能性は考えられたが、今までの調査結果から、結界内に侵入する際に悪意があるかないかで入れるかが決まるようだった。
入れてしまえば、悪意があってもなくても関係なかったのだ。
まぁ、入るのが大変で今まで手を焼いてきたのだがな。
ジーンは、上手くやったようで彼女を王城まで迎えに行くことに成功したようだった。
そして俺はというと、彼女の到着を皇城で大人しく待っていることなどできず、国境にある砦で待ち続けていたのだ。
そして、ジーンから結界を越えたと連絡を受けて、俺はすぐさまティアリアのもとに向かったのだ。
そして……。
一目で彼女だと分かった。
黒いベールで顔は見えず、昔感じた莫大な魔力も薄れていたが、すぐにあの時の子だと分かったんだ。
だが、その体の細さが想像以上のもので俺は腹の奥が煮えくり返るようだった。
それでも、可能な限り優しい声で言ったつもりが、声が震えていたかもしれない。
「ティアリア……。ごめん……。遅くなって……ごめん。俺は……俺は……」




