第三十三話 sideラヴィリオ
ティアリアの処置がなされている間、俺は生きた心地がしなかった。
医務室に着いた時、ティアリアの胸の鼓動が止まったのだ。
医者はすぐに蘇生術を使って何とかティアリアの命を繋いだが、予断を許さない状況に変わりはなかった。
時折、医務室の中から医師の鋭い指示が聞こえていた。それが聞こえるということは、ティアリアはまだ生きている証拠だった。
祈るように長い時間医務室の扉の前で立ち尽くす。
どのくらいの時間が経ったのだろう、医務室の扉が開いて、医者が俺に言った。
「手は尽くしました……」
そう言って、医者は蒼白な顔で俺の顔を見た。
俺は、深く息を吐いてから医者にその続きの言葉を促した。
「はぁぁ……。それで」
「今夜が峠です。もしもの時のお覚悟をお願いします……。私の力不足です……。なんとお詫びをしていいものか……」
「いや、お前は力を尽してくれた。ティアリアの傍に居ても?」
「はい。手を、手を握って差しあげてください」
「ああ」
消毒液の匂いがする医務室の奥のベッドに横たわるティアリアを見て、俺は気が付けば彼女の元に駆け出していた。
処理のためにベールの取られたティアリアを見て、俺は胸が苦しくて堪らなかった。
青白い顔、真っ青な唇。銀色だった髪は、黒髪へと変わっていた。
浮き出た鎖骨と折れそうなほど細い首には、これまでになかった紋様が現れていた。
ベッドの側に膝を付き、ティアリアの左手を握る。
恐ろしいほど冷たい手だった。
少しでも俺の熱を分けられればと、その手を両手で包み込む。
そうしていると、背後から医者が声を掛けてきた。
「皇子殿下にいくつか報告があります……」
そう言った医者の声はとても疲弊していた。それでも、医者は言葉を詰まらせながらも処置中に感じた違和感や、ティアリアの体について報告した。
「妃殿下の右腕ですが、中ほどから綺麗に落とされていました。妃殿下の体から大量の血液が失われた原因がそれなのですが……。不思議なことに私が処置をする前には血が止まっていたのです……。恐らくですが、何らかの魔術か何かで腕を切断されたと思われます。妃殿下の体から失われた血液は、腕を切断された際に出た物だけだと思われます。私どもで止血のための縫合と輸血はしましたが、腕を切断されたショックと大量に流血したことで、妃殿下はとても弱っている状況です。現在輸血している血が体に馴染めば回復すると保証します。しかし、血が馴染まなければ体が拒絶反応を起こして……」
「そうか……。ティアリアの鎖骨や首に見たことのない紋様のようなものがあったが……」
「それなのですが……」
「言え。お前を咎めたりなどしない」
「はい……。大変言いにくいのですが……、以前から施されていた魔術的な要因によって、首や鎖骨、両肩、臀部、両太腿に、魔方陣のような赤い紋様が出たようなのです。妃殿下の背中には……、魔術的な印が彫られていました……。傷の様子から、かなり幼い時に施されたものと思われます。私は魔術については全く知識がないのですが、背中に彫られた模様から赤い紋様が伸びているように感じました」
「そうか……」
ティアリアの背中については、ローザから聞き及んでいた。しかし、目隠しをして入欲の世話をしているローザには指先の感覚で、背中に何らかの法則性があるような何かが彫られた形跡があるとの報告を受けていたのだ。
ティアリアは、それを隠したがっていることを肌で感じたローザだったが、何かあった時のためにと、念のため俺に報告したと言っていた。
医者からの報告と、ティアリアの様子、真っ赤な髪の女。
そして、倒れる前まであったはずのティアリアの魔力の枯渇。
バラバラだったパズルのピースを繋げた俺は、すべてはディスポーラ王国に繋がっていると、そう感じていた。




