第1話 目覚めは見知らぬ病室で
お久しぶりです、矢代にございます。
偉大な先駆者様諸氏の手掛けた作品やゲームに触れて回ったことで「宇宙船を題材にしたお話を書きたい!」という熱が生まれたので、勢いに任せて執筆を始めてみました。
初挑戦のジャンル、かつ99割自己満足の作品ですが、楽しんでいただければ幸いです。
目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。
開かれた視界に映りこむのは、不自然なほどに白く、妙にのっぺりとした天井。
清潔感と無機質さが奇妙に同居するその天井は、どう見ても「見知った俺の家の天井」ではなかった。
「……?」
寝起きでぼんやりとした頭に困惑を覚えながら、俺は周囲を見渡す。
視界に入ってくるのは、白い天井に白い壁、締め切られたペールグリーンのカーテン。そして、周辺に設置された機械と、俺の上に覆いかぶさった真っ白なシーツ。
自分の知るそれよりもどこか未来的な景観でこそあったが、遅れて鼻をついてくる薬品の独特な香りと、低く聞こえてくる機械の駆動音も相まって、「ここは病院の一室なのではないか」と推測するのに、さほど時間は要さなかった。
のそりとその場で上体を起こせば、まくれたシーツの中から、薄手の入院着を着た俺の身体があらわになる。
こんな格好で寝かされていたということは、俺は間違いなく、ここに入院していた患者ということになるのだろう。
「……なんで?」
寝起きのかすれた喉から、困惑の言葉が零れ落ちる。
記憶の限りでは、俺は至って健常な人間だ。直近で病気に罹った覚えもないので、こうして病室に寝かされるような理由はないはずなのだ。
というか、そもそもここはどこの病院なのだろうか。
それに、俺はここに来る前、どこでなにをしていたんだったか?
事故にあったか、事件にでも巻き込まれたか。あるいは、もっと重篤な何かがあったのか。記憶の本棚を探ろうとするが、そこにある重要な記録は修正液をぶちまけたかのように真っ白で、手がかりらしい手がかりは全くつかめなかった。
疑問の嵐に首を傾げていると、不意にどこからかプシュ、という音が聞こえてくる。
自転車の空気入れを取り外した時にも似た、圧縮された空気が一気に解放される音。
出所を察知し、そちらへ首を回してみれば――そこには、白い服を着た女性が立っていた。
「あら、〈レン〉さん。目を覚まされたんですね」
少し驚いたそぶりを見せつつ、女性――おそらくは看護師さんと思しき人物が、俺の名前を呼びつつにこやかに笑いかけてくる。
「えっと、はい。……あの、ここは病院、ですよね?」
「はい、このコロニーの総合病院ですよ。もう動けそうでしたら、先生を呼んできても大丈夫でしょうか?」
「は、はい。お願いします」
それだけやり取りすると、看護師さんはまたにこやかに会釈してから、その場を立ち去って行った。
「……ん? コロニー?」
ややあって、俺は今しがたの会話に違和感を覚える。
振り返ってみれば、先ほどの看護師さんは確かに「コロニーの総合病院」と口走っていた。
普通、病院を紹介するときに「植民地の病院」なんて紹介の仕方はしないはず。だというのに、あの人の口ぶりはまるで「今日は晴れですね」と答えるかのように自然なものだった。
――ふと、ひらめきが脳裏を走る。
シーツを押しのけてベッドから立ち上がった俺が向かう先は、締め切られたカーテン。
シャッ、と金具を鳴らして開け放たれた先、窓の向こうから見える光景に――俺は、思わず目を見開いた。
そこにあったのは、街並みだ。
だが、それは俺のよく知る光景とはかけ離れたもの。
空へ向けて湾曲する地平線。
見あげた先に広がる無機質な灰色の「天井」。
そして、そこから地上に向けて巨大なシャフトが繋げられた光景。
それは、どこからどう見ても、俺が知る現代日本のそれではない。
「スペース、コロニー……」
窓の外に広がっていたのは、空想の中で語られる、典型的な「スペースコロニー」の中の風景。
巨大なリングの中に築き上げられた人類の新たなる生活圏が、俺の目の前に悠然と広がっていた。
一体全体、これはどういうことだろうか。
スペースコロニーが実用化した、なんて話は聞いたこともないし、よしんば実現していたとしてもこんな場所に平凡な一般日本人である俺が存在している理由も検討が付かない。
今のこの状況が夢だと考えるのがいちばん自然な説なのだが、それにしてはどうにも「五感に伝わる情報」が鮮明過ぎるように思えてならないのだ。
なにか、この状況の手掛かりになるような情報はないだろうか。
そう考え、窓の外に広がる光景をつぶさに観察していた俺の視線が――ある一点でくぎ付けとなった。
それは、ビル群の一角に掲げられた看板だ。
空中投影されたホログラムという、現代日本人からすればなじみのないテクノロジーで造られた広告映像。その中に、ひどく聞き覚えのある単語を見つけたのだ。
「エルサ、クルセイダー、メディオ……全部、シップメーカーの名前……?」
〈エルサ・コンステレーションズ〉。〈クルセイダー・ダイナミクス〉。そして〈メディオテクノロジーズ〉。
広告映像の中を乱舞する単語たち。それはどれも、俺がよく知る「企業の名前」で――
それを認識した俺の頭の中で、ふいに電撃のようなひらめきが走った。
見覚えがある、なんてレベルじゃない。
俺は、間違いなくこの世界を知っている。
「ここ――――〈スタユニ〉の中……?」
目を見開いた俺の口からこぼれたのは、あまりにも荒唐無稽な、しかしどこか確信じみたつぶやき。
何百時間もの時を費やして遊んできた、俺の半生の象徴とも言えるゲームのタイトル。
その中に構築された世界に立っているという、あまりにも荒唐無稽で、しかし強い確信を抱かせる光景が、俺の目の前に広がっていた。
初日は3話連続更新、以降はストックが切れるまで毎日19時に更新します。




