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BY THE WAY 〜少しだけ立ち止まる美容院  作者: 末紀世(まつきよ)


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4/6

「いつもの常連客」



午後の光が、店のガラス越しに柔らかく差し込んでいた。


外は初夏。


湿気を含んだ風が、

街路樹の葉をゆっくり揺らしている。


「今日は静かですね」


勝田修也が言った。


店長は予約表をめくりながら、

小さく頷いた。


「まあな」


ペン先を動かす。


「今日はガクさんも、

 ユメナちゃんもオフだ」


何でもない調子だった。


「久しぶりに、

 少し落ち着く日になるかもな」


店内には、

いつものジャズが流れていた。


そのとき。


扉が静かに開いた。


音はほとんどしない。


だが——


空気が少しだけ変わった。


一人の女性が入ってくる。


背筋が伸びている。


歩く速度はゆっくり。

焦りはない。


だが、

迷いもない。


派手ではない服装。

だが、

質の良さが分かる。


年齢は、はっきりしない。


若くも見えるし、

落ち着いても見える。


受付が顔を上げた。


「あ、いらっしゃいませ」


声の調子が、

ほんの少しだけ柔らかくなる。


女性は軽く頷いた。


言葉はない。


だが、

来店の目的は伝わっている。


「本日も、

カラーリングとトリートメントでよろしいでしょうか」


女性は小さく頷いた。


動きが自然だ。


慣れている。


何度も来ている人の動き。


少し離れた場所から、

勝田はその様子を見ていた。


(あの方か)


月一ペースで来る。


静かだ。


だが——


なぜか、

目に残る。


そのとき。


カウンターの奥から、

店長が出てきた。


歩みが止まる。


女性と目が合う。


店長の表情が、

ほんのわずかに緩む。


「どうもねぇ」


柔らかい声だった。


女性の口元も、

ほんの少しだけ動いた。


それは、

笑ったようにも見えた。


他の客には見せない表情だった。


「今日は暑いねぇ」


店長が言う。


女性は、

軽く首を傾ける。


短いやり取り。


だが——


距離が近い。


勝田は、

その様子を見ていた。


(仲いいんだな)


古くからの常連客。


それだけのこと。


たぶん。


「お待たせしました」


別のスタッフが声をかける。


女性が席に座る。


ケープが広がる。


ふわり。


布が肩に落ちる。


女性は鏡の前で、

静かに自分の髪を見つめていた。


何かを確かめるように。


指先で、

髪をひと束持ち上げる。


触れる。


重さを感じる。


ゆっくり、

元の位置へ戻す。


言葉はない。


だが、

考えている。


時間が流れる。


カラー剤が塗られる。


ブラシの音。


やわらかな匂い。


温度。


沈黙。


店内には、

穏やかなジャズが流れている。


勝田は、

時々その席を見ていた。


派手なことはない。


特別なこともない。


だが——


目が離れない。


施術が終わる。


髪が整う。


艶が戻る。


女性は鏡の中の自分を見て、

ゆっくり頷いた。


小さく。


確かに。


満足している。


立ち上がる。


会計は、

すぐに終わった。


帰り際。


店長が言う。


「まったねぇ♪」


軽い口調で手を振る。


女性は、

ほんの少しだけ笑った。


扉が開く。


外の光が差し込む。


女性は振り返らない。


そのまま歩いていく。


背筋はまっすぐ。


足取りは静か。


だが、

確かなリズムがある。


扉が閉まる。


店内に、

いつもの空気が戻った。


勝田は、

しばらくその背中を思い出していた。


(あの人……)


不思議だ。


よく来る。


静かだ。


だが——


この店に、

ずっと前からいるような気がする。


だが。


胸の奥に、


小さな違和感が残る。


この店には、


まだ何か知らないことがあると。


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