その2 眠れる魔人の子ら
大きな建物の扉が開き、俺たちはホムに誘われるまま、奥へと歩みを進めた。
「ここに、お眠りです。」
その先に更に扉があり、中は天井の高い大きな部屋だ。中央制御室とでも言ったところか。壁にずらりと納まっているのは、何かを管理する装置群には違いない。もっとも、今は静まり返っている。
俺の母星の科学技術とは方向性が異なると言うべきか、まるで異質なテクノロジーの産物だ。恐らくは、魔素の存在を基礎とする魔人の魔法科学とでも呼ぶべき代物なのだろう。
ホムが案内する先には、背の低い箱型の何かが並んでいた。
俺の母船の、深層睡眠ポッド室を思わせる雰囲気がある。
但し、個別に仕切られているのではなく、密閉された横に長い区画が部屋の奥に向かって右と左に伸びており、中には人影がずらりと並んで横たわっているのが、外からも判った。
のぞき込んで表情と背丈を見れば、確かに子供のようだ。ウィルよりも幼い子供ばかりに見える。魔人の寿命は知らないが、人族で言えば皆10歳以下ではなかろうか。
角はホムと同じくらい小さく、揃って華奢な体つきで、端正な顔立ちだ。確かに神と崇められるべき、見目麗しい種族だった。
装置の制御部と思われる場所が、箱の隅で薄っすら淡く緑色に灯っている。この色は、俺たちには安全の意味だが、魔人族ではどうなのかな。
「魔人族は、魔素に依存する種族です。」
「この地底でも魔素が枯渇し始めたため、長老達は最後の賭けに出たのです。」
「ここから遥か北にある、魔素が豊富な火の山を目指して旅立ちました。」
「魔素が濃く、皆で暮らせる場所を見つけられれば、迎えに戻る予定でしたが、」
「それが五百三十八年前ということか。」先ほどのホムの言葉を思い出した俺だ。
「そうです。」
◇ ◇ ◇
「この子らを残していった訳は?」
「魔素の薄い外界を旅するのは、危険が伴います。特に子供らは魔素の汲み上げ能力が低いので、旅の途中で命を失う恐れがありました。」
「この子らを見守る大人は残らなかったのか。」問い詰めたのは、ゼーレだ。
「数名がここに残りましたが、その者達は魔素の枯渇で死に絶えました。」
ホムの話によれば、子らを眠らせて代謝を下げることで、この地底で枯れゆく魔素で生命活動が維持できるギリギリの状態にあるのだという。
だが、これ以上に魔素が増えることはあり得ない。漸減する魔素がこの装置の機能を維持できなくなった時、この子らはそのまま死を迎えるのだろう。
何と言う事だ、この子らのそんな運命を、俺は見過ごすことはできないぞ。
ここでボットのタローが割り込んできた。
「ホム殿よ、魔素なら私が供給する事ができる。この子らを目覚めさせたときに、この子らを導く成人した魔人は、もうこの星にはいないのだろうか。」ボットからわざわざ声を出して、伝えてきたのだ。
ホムは、驚いた顔で宙に浮くボットを見た。こいつはホムンクルスのくせに、やたらと表情が豊かな奴だ。
「これは、これは、人族による造りの細やかなゴーレムとお見受けしておりましたが、あなたは意思を持ち自立行動ができる、素晴らしい!」
「私はタローと言う。ここの装置群とは全く異なる人族の科学技術で稼働している。」
「ほう、魔素を消費しない技術。魔人には選択できない方向性ですが、」
「皮肉なことに、魔素を必要としない私に、魔素が作れるとしたら驚いてもらえるかな。」
俺は頭の中でタローに伝えた。「おい、大丈夫なのか。そんな事をばらして、」
「問題なかろう。反撃してくる必然性がないからな。それに、お前もこの子らを助けたいのだろう。」
「魔素を作れると言われたか。」ホムが、疑わし気に確認をしてきた。
「できる。とりあえずは、今宿っているこのボットで、最大限の魔素を産んでみせよう。」
ボットの作動音が僅かに高まった。内蔵する融合炉のプラズマ温度を下げたのだ。
ゼーレとウィルが直ちに反応した。ホムも、突然の変化に驚いている。俺にも、先ほどのゴーレム戦で払底した魔素が、汲み上げられるようになったのが感じられた。
部屋の照明が明るさを増した。部屋の壁に埋め込まれた装置群のあちこちに、光が灯って命を吹き返した。子供らを収めているスリープポッドの箱の隅が、眩しく緑色に輝いた。
「おお、誠に! これほどの魔素があれば、この子らを目覚めさせ、ここで生活を続けることができましょう。」
「その後をどうするか、だな。この子らを導く大人がいなくては、」ゼーレが、問題点を指摘してきた。
しばらく状況を見ていたウィルも、「俺たちの村に来てもらってもいいけどさ、神様の子供じゃあ、多分付き合いきれないんじゃねーの。俺たちの方がさ。」彼なりの言い方で思うところを口にした。
ホムも、返す言葉がないようで、黙ってしまっている。
「とりあえず、この子らが魔素の枯渇で死ぬ運命は回避できるわけだが、」
俺は考えた。「タロー、師匠に繋いでもらえるかな。」
しばらくすると、ボットの表面に師匠の顔が映った。俺は、これまでの経緯を事細かに師匠に説明した。
これを見ていたホムは、「どうやら人族の科学技術とやらは、魔人のそれを越えておりますな。」とつぶやいた。
「うーむ、これはまた難題を押し付けよってからに、」ボットのスクリーンに映った師匠はしばらく沈思していたが、やがてニヤリと笑った。
「ジローよ、私に相談するでなく、あ奴を頼ったらどうじゃ。」
あっ、キュベレか。その考えはなかった。
しかし、考えてみればそれもいいか。なんたって、この星の守護者なんだからな。
(続く)




