その1 魔法戦
高出力の雷魔法に連撃されている。
しかも、とても速く飛んでくる。この速さは尋常ではない。
ときおりこちらからも攻撃魔法を放ちつつ、俺は茂る下草に足を取られながら、緑濃い森の中を逃げ回っていた。
俺の反撃は、相手の展開した魔法の盾に阻まれて、真っ白に輝いては空しく弾け飛ぶ。これほどの連撃、しかもあの強力な盾を維持する相手は、かなりの術者だ。
「魔素量では、お前を遥かに上回るようだな。魔族か? 厄介な敵に遭遇したものだ。」タローが頭の中で俺に伝えてきた。
五回に一度は被弾して、俺は生命力を削がれ続けている。普段なら難なくかわせるはずなのだが、攻撃魔法の飛翔速度に不覚を取る。
今日は気楽な山歩きのつもりだった。
魔族の里に通じるという、迷いの森とやらを探索に来たのだ。こんな時に頼りになる竜族の友人とも、先ほど別れたばかりだった。
まさか戦いになるとは思わず、軽装備で出掛けて来たのは迂闊だった。それでもこのローブには、ある程度の魔法耐性と敏捷性の付加がある。
うっ、また被弾した。ちりちりと焦げた匂いがツーンと鼻に抜ける。
「賢者のお前でも、避けられないのか?」頭の中にタローの声が響く。
「早いんだ、あの魔法の飛翔速度が!」俺は呻きながら答える。
「俺の生命力を見ながら、七割を切ったところで回復魔法の発動を、お前のほうで繰り返してくれ。」
「了解だ。」
頭の中のタローが、魔法を使う訳ではない。タローが俺の魔素を使って、回復魔法の発動を繰り返してくれるだけだが、それでも俺が回避と反撃に専念できるのは有利だ。
俺の体が淡く発光して傷を癒すが、それが目立ったものか、すかさず次弾が飛んできた。
うん? 弾いたぞ。回復で淡く光った俺の体を、雷撃がスルリとかすめたようだ。
「発動中に、攻撃を弾いたな。」タローがすぐさま指摘してきた。
俺の回復魔法は、言うまでもなく光属性だ。相手の攻撃を弾いたとすれば、もしやあの雷撃には闇の属性が含まれているのではないのか。
雷魔法を闇属性で推進しているのか? だから到達速度が速いのかもしれない。まるで、あの魔人が乗ったという魔動機の推進機構のようじゃないか。だが、そうだとすれば、もしかしたら、
「なるほど、試してみる価値はある。」俺の考えを読んだタローが同意した。
また飛んできた雷魔法に向けて、俺は光の波動を投げてみた。
回復魔法でも治療魔法でもない。術式を用いない、単なる波動なので素早く打ち出せる。
ふむ、思ったとおり雷魔法は弾かれて方向を僅かに変え、飛翔速度はちょうど半分になった。そう、これが卓越した術者が出せる最大飛翔速度のはずなのだ。
闇と光の波動が対消滅を起こして、その場に魔素が還元生成され、俺はそれを回収することができた。正確に、俺が消費した魔素の二倍の量だ。
速度の落ちた雷魔法には対処できる。どうやら、この劣勢から抜け出せそうだ。
取り込んだ魔素には、若い女の精気がまとわりついていた。
よーし、反撃の開始だ。
回収した魔素はこちらの魔法に投入できる、魔素切れを心配する必要がなくなった俺は、相手との距離を詰め始めた。
「上空20mに到着した。」タローから報告がきた。同時に、俺の視野に淡く仮想ビューが重なって広がる。これは上空から俯瞰したマップだ。俺はここ、そして敵はあそこにいる。
濃い緑の木々の合間から見上げれば、銀色に輝く搭載艇が小さく浮かんでいるのが見えた。高々度に浮かべていた搭載艇が、降りて来てくれたのだ。これで俺は死なずに済みそうだ。
「よし、そこで待機。周囲の警戒を頼む!」タロー本体からの援護は頼もしい。
「直線距離で50m。敵の魔法の盾は、地面から45度の傾きで展開されている。」
「なるほどセオリー通りか、では次は斜めから打ち込んでみるか。」
もちろん、搭載艇の重力子ビームを絞って使えば、上空からでも敵を弾き飛ばすことが、何なら射貫くことだってできるだろう。レーザーで瞬殺も可能だろうが、これは最後の手段だな。
俺は全属性魔法を駆使する事ができる、いわゆる賢者だ。
魔素量では相手に及ばずとも、全ての属性を操る高度な技量を持っている。
相手の攻撃に闇属性が付与されているのが判った以上、俺は光の波動による反発と闇の波動による引き寄せを駆使して、相手の放った攻撃魔法を自在に制御できるはずだった。
相手は懲りずに連撃してくる。いや、被弾しなくなった俺の様子を見て、更に攻撃の手数を増やしたようだ。
当惑しているのだろう。それにしても魔素量が凄まじいな。
俺は、相手の魔法の盾が視認できる距離まで、じりじりと接近した。
周囲の光をじんわりと飲み込むような、薄暗い灰色の障壁が地面から斜めに立ち上がっていて、敵はその陰に身を置いて、こちらに向けて攻撃を畳み掛けてくる。
立ち上がって身を晒した俺は、相手の連撃を一瞬すべて空中で受け止め、光属性波動の反発を推進力に、相手の盾の中心に向けて斜め上から最大出力で叩きつけた。
バリンと大音響がして、暗い障壁が弾け飛んだ。その陰にいた魔導士が、衝撃で後ろに飛ばされ、地面に叩きつけられるのが見えた。
俺はすかさず倒れた敵に駆け寄り、拘束魔法をかけた。気絶しているようだが、念の為だ。
小柄な体躯、フードの中には白い肌、流れる黒髪がこぼれる。やはり女だ、大きな怪我をしている様子はない。
「生き物係」の俺としては、生き物を、特に人間は殺さないのを信条としているけれど、さあどうしてくれようか、この女。
「右からの熱源を探知! 距離7m! 急速接近中!」頭の中にタローの声。
俺の視野に重なる仮想ビューの右方向に、黄色のアラートが輝いた。すかさず俺は左に飛んで回避する。
「姫様に触れるな!」声と共に、凄まじい速度で振り下ろされた大剣の風圧が、俺の頬をかすめた。
全身を黒い縞模様が入った金色の体毛に覆われて、軽装の鎧をまとった猫型(虎かもしれんな?)獣人族の剣士が、金色の眼を爛々(らんらん)と光らせて立っていた。
仲間がいたか、そしてまた女だ。今日の俺には女難の相が出ていただろうか。
魔法では発動に時間がかかり、敵の剣技に後れを取るかも知れない。俺は素早く腰の片手剣を抜いて、相手に対峙した。
右手の剣の柄から、俺は得意な風属性の波動を流す。刀身が青白く励起して、ヒュルヒュルと風をまとい始める。左手には魔法の盾を、接近戦に備えて厚く展開した。
「ほう、風の魔法剣か。少しはできるようだが、魔導士風情が剣で私に敵うものか。」女剣士は不敵に微笑んで、大剣を両手持ちで構えた。大剣は鈍く沈んだ色をして、輝かず、むしろ周囲の光を吸いこむように見えた。(続く)
ラノベ、面白いですよね。
異世界もの、楽しいですよね。
暇を持て余して、私も書いてみました。いろいろとオマージュを散りばめながら、
よかったら読んでみてください。




