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2話 異世界のジョーシキ、ヒジョーシキ ―1―

「え? この国を出るんじゃないのか?」

「そんな、ゲームじゃないんですから、一つの国を出るのはそこまで簡単なことではないんですよ?」


 国王を救ったので、この国のイベントはもう終了かと思ったのだが、なるほど、言われてみれば確かにそんなお手軽なのはゲームくらいのものか。

 いや、魔法とか使っちゃったもんだから、すっかりゲーム気分だった。


 俺たちは今、砦にある食堂で飯を食っている。

 国王陛下自ら「一緒にどうだ?」と言ってくださったのだが、「恐れ多いです」と丁重にお断りしておいた。「どうだ?」と一緒に、物凄い風圧のウィンクを飛ばされたので、『いのちだいじに』を選択した結果だ。


 で、「ではせめて、腹ごしらえだけでも」と、宰相を名乗る男に勧められ、アミューと二人で飯をご馳走になっている。

 いろいろ聞きたいこともあったし。

 気を遣ってくれたのか、国王を『あんなん』にした俺を忌避しているのか、周りには誰もいない。……前者であってほしいと切に願う。


「この国にはまだまだ苦しんでいる人がいるんです。その人たちのことも救ってあげてください」


 魔境ヤギの角周りの肉という、この国での高級食材を使った料理を食べつつ、アミューが言う。……つか、この肉微妙に美味しくないな。

 飯の水準も低そうだ。


「この国の人を救うのはいいとして、アミューが治めている世界ってのはこの国だけじゃなくて、惑星、その上の銀河とかよりもっととてつもない広さなんだよな? こんなペースで間に合うのか?」


 俺だって年老いていく。

 女神の力を使ったところで、救える人数にも限度がある。

 国王とか皇帝とか、ある程度の権力者を救って、あとはその権力者に頑張ってもらう――くらいが関の山ではないのだろうか。


「その通りではあるのですが……まずはこの国を救わなければいけないんです」

「その理由は?」

「この国が、最も信仰を稼ぎやすいからです!」


 ん?


「なので、ここで頑張って、がっしり信仰を稼ぎましょう!」

「稼ぐって言い方がちょっと気になるんだけど……要するに、ここの連中はちょっと頑張ると女神を信仰してくれそうだと」

「はい!」

「で、ここで頑張って『女神様、バンザーイ!』的な脚光を浴びたいと?」

「はい……えへへ」

「自分のためじゃねぇか!?」


 なんだその自己顕示欲!?


「ち、違うんです! 世界のためなんです!」


 アミューは両手を顔の前で振って懸命に否定する。


「この世界には魔王が存在するんです!」


 ついさっき「ゲームじゃないんですから」と言ったその口が、物凄くゲームっぽいことを語り出した。


「何もない空間に世界を作るには、世界を固定しなければいけません」

「難しい話か?」

「なるべく簡単に説明します」


 そうして、簡単に説明してくれた内容が以下だ。


 世界の素となるものを無の空間に垂らしても、重力もないその空間では世界は固定されない。そのため、上と下(この上下は便宜上そう呼ぶが無の空間では上や下という概念も存在しない)その両方から同じ強さで圧を掛けて世界の素を固定させる必要があるのだそうだ。


 そして、固定された世界の中に、様々な宇宙や惑星、国や街を作っていくのだという。


「しかし、そうなると一つ問題が起こります」

「『上』がアミューたち神だとすると……」

「はい。……『下』に、わたしたち神と同等の力を持った者が存在します」


 その存在は、神たちが自身の分身として生み出したモノであるのだが、世界が固定された瞬間から、その世界によって『下』へと閉じ込められてしまう。

 世界を生み出すために生み出されたソイツは、生まれた直後に閉じ込められ……負の感情にまみれて神と同じ時間生き続けるのだという――


「人はそれを『魔王』と呼びます」


 神と同じ力を持った負の存在。――魔王。

 なるほど。

 そんな扱いを受ければ、誰だって闇墜ちしてしまうだろう。


 魔王ってのは、世界を作る際に必ず誕生してしまう犠牲者なのかもな。


「魔王は、おのれの上に生きるすべての生命を怨んでいます。特に、幸せな者たちを。だから、破壊しようと手下を生み出し、襲わせます」

「それが、魔族か」

「はい。そして、魔の力に飲み込まれた獣たちが魔獣です」


 魔獣は知能を持たないため、魔族の味方というわけでもないそうだ。


「神と魔王は同等の力を持っています。ですから、わたしの力をもってしても、魔王を倒すことは出来ません。そこで必要となるのが――」

「信仰、か?」

「はい」


 信仰は神に力を与え、魔王の力を削ぐのだという。

 逆に、信仰のまったくない世界では神の力は削がれ魔王の力が蔓延るのだという。


「ますますゲームみたいだな」

「ゲームではありません。それが、現実なんです」


 とは言っても、現代日本で生まれ育った俺に言わせれば……って、待てよ?


「じゃあ、すった……俺がいた世界にも魔王はいたってことか?」

「あぁ、すったもけですか?」

「それをわざと濁したの、なんで分かんないかなぁ!?」

「いましたよ。かなり強力な魔王が」


 ……いたんだ。


「日本にも、その昔魔の者が跋扈していた時代があったでしょう?」

「日本にも?」

「はい。妖怪、という名の者たちが」


 アレ、魔王の手下だったのか!?


「それでも、すったもけの女神はすったもけ人の厚い信仰を力に変えて魔王を討ち倒し、封印したと聞いています」

「封印……なのか?」

「倒すのは相当難しいんです」

「そうか……」

「すったもけの女神も、すったもけ頑張ったんですけどね」

「おい。『すったもけ』を『物凄く』みたいなニュアンスで使うのやめてくれるか?」


 なんだ、『すったもけ頑張った』って。


「ですので。わたしたちもすったもけの女神のように信仰を集めましょう!」

「一応言っておくとな……お前が『すったもけ』って言葉を吐く度に、俺の信仰心は下がっていってるからな?」


 わざと言ってんのか、こいつは。


 しかし、日本を始め、あの世界の人間は信仰心が高い方だったよな。と思う。

 いろいろな宗教に形を変えてはいるが、もしそれらがすべて同じ神が姿と名前を変えたモノを信仰していたとしたら……地球だけで六十億の信仰を得ていたことになる。

 それが、銀河を越えてもっともっと広い世界から集まっていたら、魔王を封印することも不可能ではないと思える。


 逆に、それだけの信仰を得ても封印までしか出来なかったのか、とも思うが。


「ですので、この初心者向きの国で、まずは腕ならしをしましょう」

「こら。仮にも人間が住んで困って悩んでいる国で、『腕ならし』とか言うなよ」

「でも最初の街でレベルアップしておいた方が後々楽ですよ?」

「だからゲームみたいに言うなって!」

「ゲームじゃありません、現実です! ですので、慎重に根気強くレベリングしましょう!」

「レベリングって!?」

「わたし、大体最初の街でレベル二桁にしてから次の街へ行く派なんです」

「ゲームか!?」

「違うって言ってるじゃないですか、もう!」


 こいつは、わざと俺を混乱させようとしているんじゃないだろうか?


「とりあえず、アキタカさん。自分のステータスでも確認してみますか?」

「ゲームじゃん!? ステータスとかあるの!?」


 そう思った時、また脳内に声が響いてきた。




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