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4話 信仰心と僧帽筋 ―2―

「ふぅ……とりあえず、俺の後頭部は守られた」

「軟弱ねぇ」


 マーサが俺を見て嘆息する。


「後頭部にもっと筋肉をつければ平気なのに」

「出来るか、そんな器用なこと!」


 お前、見たことあるか?

 後頭部ムッキムキなヤツ!

 ベンチプレス的な物を頭で「おりゃぁああ!」してるヤツ!?

 なんなら後頭部が八つに割れてるヤツとかさぁ!?


「むぅ。これだから、異世界人は……無意識にモテてハーレムフラグをっ! まったく、ぷんぷんです!」

「おいコラ、俺を連れてきた張本人」


 なんで俺が非難されなきゃいかんのだ。

 つか、あんなカッチカチなハーレムは御免だ。


 やっぱあれなのかね。

 国王があーゆー人間だと、国民も少なからずそれに影響を受けるのかね。


「マーサもカッチカチなのか?」


 この診療所の責任者なら、それはさぞや立ちっぱなしの動きっぱなしなのだろう。そして、それはそれはカッチカチなのだろう。

 どんなもんかと太ももを掴んでみる。


 ――ふにっ。


「ぅにゃぁあああ!?」


 なんか、柔らかかった。


「なっ、ななななな、何すんのよ、このスケベ! 変態! 筋肉不足!」


 真っ赤な顔で叫びながら、ニャーミックス肉球アタッチメントを俺の頬へ押しつける。

 うにゃーうにゃーうにゃーうにゃーと、肉球型のアタッチメントがうどんをこねるように俺の頬をむにむにと揉みほぐす。こねくり倒す。

 ……やめろ、煩わしい。


「あたっ、あたしは、診察と患者への薬の投与がメインの業務だから、サスーンコアを砕いたりとかしないから、そ、そんなに筋肉が発達してないのよっ! 悪かったわね、ふにゃふにゃでっ!」


 照れるポイントと怒るポイントが著しくズレている気がするのだが。

 しかし、そうか……

 あの鋼鉄みたいなカッチカチを筋肉という一言で片付けてしまうのか、この国の人間は。……相容れない人種だな、異世界人。

 あんなもん『肉』に含んでいいレベルじゃねぇよ。

 ここのナースを前線に投入してみろよ。もしかしたら、魔獣にも負けないかもしれないぞ。


 なんてことを考えていると、アミューがなんかわなわなと震え始めた。


「これまで仕事一筋で恋愛なんかしている暇もなかった系のお堅い美少女への、さりげないスキンシップ……からの、フラグ…………これだから異世界人は! ぷぅっ!」

「おい、だから張本人!」


 お前だからな、俺をここへ連れてきたのは!?


「お、恩人でなけりゃ、ホント、た、ただじゃおかないところなんだからね! こ、今回だけは、大目に、見るけども…………軟弱な筋肉、気にしてるんだから、二度としないでよね! 気にしてるからっ!」

「いや、マーサくらいの柔らかい方が好きだけどな、俺は」

「好っ…………え、エロ助ー!」


 うにゃーうにゃーうにゃーうにゃー

 うにゃーうにゃーうにゃーうにゃー

 うにゃーうにゃーうにゃーうにゃー

 うにゃーうにゃーうにゃーうにゃー


 ニャーミックスやめろ!

 俺の頬がこしのあるうどんになったらどうしてくれる!?


「ま、まったく! 男って、ホント、まったく……『エロ助なり~』とか言っていればいいのよ、あんたなんかっ」

「ちょっと待て! 『アレ助』的なキャラがこっちにもいるのか!?」


 またパクったのか、えぇ、女神様よぉ!?


「か、顔が怖いナリよ、アキタカ~…………さん」

「やっぱパクったのか?」

「あの、テレビも、どこかの遺跡にはあると思うんです。ただ、放送局がありませんで……」

「異世界で最も使えない物のひとつだな、テレビ」

「仕方がないので、紙芝居としてパクりました」

「パクり認めちゃった!?」


 まぁ、もう世界の名前からして『アミュネット・バンバ』とかいう、パクり臭全開の世界だからな。


「そ、そんなことより、ほら、ステータスの確認をしませんか? マーサさんにナースのみなさんのおかげでレベルアップしてるかもしれませんし」

「いや、でも……システムボイスは聞こえてないぞ?」

「…………え? でも……」


 じぃ~っと、アミューがマーサを見る。


「女神様に、感謝……してます、よね?」

「え、あたし? うん。してるよ。女神様のくださったアイテムのおかげで、本当に多くの人が救われるんだからね。感謝しまくり。女神様、最高!」


 そんな言葉に、アミューはにへらっと笑って大きな胸を撫で下ろす。

 マーサは、確かに女神を信仰してくれるようになったらしい。

 では、なぜレベルが上がっていないのか?


 いや、そりゃレベルは高くなるほどに上がりにくくなるのは分かるが……

 ここにいるナースが全員女神に感謝してくれれば、一つくらいレベルが上がってもよさそうなものなんだけどなぁ。


 と、診療所内を見渡すと……


「はぁ……女神の使者様、素敵……」

「お優しい方……」

「筋肉、育ててあげたい……ぽっ」


 なんか、複数のナースが『俺を』見ていた。

 ……つか、最後の人、あんまこっち見ないでくれるかな。


「ぷくぅぅう! これだから異世界人はっ! むぅ! むぅ!」

「いや、俺のせいかよ!?」

「根こそぎですか!? 除菌クリーナー『ドメスティック』ですか!?」

「いや、それのCMで確かに『根こそぎです!』的なこと言ってたけども!」

「美女もぬめりも根こそぎですか!?」

「ぬめりは知らねぇよ! ……いや、美女も根こそぎじゃないけども!」

「アキタカさんなんて、『膝枕妖怪フトモモ~ンーくるぶしを添えてー』です!」

「なんでちょっとフランス料理っぽいネーミングにした!?」


 アホのアミューが妙に元気にボケ倒すせいで、俺は自然とそれにツッコミ……そして。


「ごふっ!」


 HPが尽きた……いや、尽きかけだ。

 RPGなら、ウィンドウの色が危険を知らせる警戒色に変化していることだろう。


「大丈夫ですか、アキタカさん!? 一体、なぜ……」

「お前の……せいだ…………っ」


 やばい……

 寝てない上にHPを使い切って……マジで死にそうだ。

 少し寝なければ…………よ、横に、なろう……この際床の上でもいいから。


「アキタカさん……あの…………」


 心配そうに俺の顔を覗き込むアミュー。

 そして、不意に頬を染め、呟くように言う。


「わたしでよければ……しましょうか? ……その、ヒザ、枕……」

「……え?」


 アミューの膝枕。

 して、くれるのか……?


 もし、してくれるなら……きっとぐっすりと眠れるだろう。

 なにせ、女神様の膝枕なのだから。


 なにより、アミューの膝枕なのだから。


「…………じゃ、じゃあ……頼めるか?」

「はいっ」


 幾分嬉しそうな顔をして、アミューが頷く。

 嬉しそうに見えるのは、俺の願望か……? 


 そっと、俺の頭を持ち上げて、体勢を整えるアミュー。

 もぞもぞと動く気配がして、そっと……俺の後頭部が載せられる。アミューの――ヒザに。


 ゴリッ……


「硬いわ……っ!」


 それが、俺の意識に残った最後の言葉だった。……つまり、寝た。

 意識を手放し、俺は泥のように眠った。







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