640 地に足がつかない感じです
本格的な冬到来を感じさせる寒さとも、オリオール家はわりと無縁である。
「はい、どうぞなの~」
「ありがと」
道場のリビングに入った俺とリソ君に、セーレたんがお茶を淹れてくれた。 お盆にティーセットを乗せてとことことやってくる姿は微笑ましく、だけど十分に板についている。
俺の肩の上には我が娘もいて、俺のお茶の香りを一緒に楽しむ。
「……ふぅ、あったかい」
「えへへ~」
一口飲んでほっと一息つくと、ハニーがほにゃ~んとした笑みを浮かべてくれる。 オープンキッチンの向こうでお袋も同じように微笑んでいて、「やっぱりそっくりだよなー」と、いつもの感想を抱く。
隣の席でリソ君も両手でコップを持ち、俺のマネなのか「ぷはぁ♪」と煙を吐くように大きくひと息ついている。 いとかわゆし。
セーレたんのおかげで暖房の利いた家を出て、朝から道中の顔を切るような寒さにブラザーと二人で「寒い寒い」と連呼しながらやってきたのだが、こっちでもやっぱり暖房が利いていてぽかぽかである。 おかげで、チャロちゃんはせっかく休みなのに向こうの家の中で丸く……はなっていないが、のんびりくつろいでいる。 コンロとしても使える暖炉のあるリビングで、チャロちゃんは目を細め「ごろごろ」と聞こえてきそうな幸せそうな表情でテーブルに突っ伏していた。 ま、たまにはそんな過ごし方もいいだろう。
それにしても、暖炉二台に魔力をフルチャージしてなお、けろりんとしている我が妹様の魔力量はすさまじい限りであった。
だだっ広く寒い体育館のような道場に、セーレたんの気の抜けた声がこだまする。
「ふわあ~」
ハニーは白い服の袖口どうしをくっつけ、両手を白い花のように咲かせて高く掲げた。 バレーのトスのやり方としては間違っているが、この場合はそれで正解である。
そこへタイミング良く、大きなボールが落ちてくる。 セーレたんの身体と同じくらいの、本当に大きなボールである。
「る~ん」
そのボールが可愛らしい声を出す。 長く白い耳が爆風にさらされ、桃色の髪と一緒に真上へ舞い上がった。 朱い瞳は、気持ちよさそうに細められている。
ボールの役をしてくれている、るーちゃんであった。
マイシスターの「波動ナントカ」的な魔力の風を受け、丸めた身体をゆっくり縦回転させながら上空へと飛んでいく。
三角座りの状態で両足を抱えてくれているおかげで、ひらひらのレースのついたスカートまでもがまくり上げる心配がないのが幸いである。
「わー♪」
更にその上空。 大きな照明の並ぶかまぼこ形の天井のすぐ下を、手足をいっぱいに広げた金髪の幼児がすーっと横切っていく。 ウチのリソ君である。
もちろんニアちゃんがミューティレートしているのだが、リソ君の小さな身体に隠れて見えない。 たぶん背中にくっついているんだろう。
セーレたんでさえ空を飛ぶのは怖がるのに、ブラザーはすっかり慣れたものである。 すっごく楽しそうだ。
「……どうしたの?」
ぽかーんと口を半開きにして見上げていると、真正面からエミーちゃんに声をかけられた。
やや生地の厚い黒いワンピース姿でソフト剣を手に持ち、俺の顔をまっすぐ見つめて可愛らしく小首をかしげている。 先端にだけ緩やかなウェーブを残した茶色の長い髪が、つややかな光を宿している。
「いや……」
実際の年齢よりも二つも三つも上に感じる大人びた雰囲気に、やっぱり姉妹だよなーと思いながら口を開く。
「いつもながら、非常識な光景だなーってさ」
「……」
なぜか、半眼になったエミーちゃんの目から白けたビームが突き刺さる。
いやまあ、言いたいことは俺にもよーく分かってるけど。
「……ごめん、続けようか」
「うん」
こっちはこっちで練習を再開しよう。 エミーちゃんは小さくうなずくと、俺の方を向いたまま後ろに二歩三歩と下がっていく。
今日は精霊の日、みんなで稽古をする日である。
しかし、今日はニコとくりむちゃんの姿はない。 二人は魔術六級の試験を受けに、学校へ行っているのだ。
ということで、俺達も魔術、というか魔力コントロールの練習に励んでいた。
「それじゃあ、見ていてね」
まっすぐ正眼に剣を構えたエミーちゃんに、俺もうなずき返す。
俺も知らなかったが、彼女が持っているのは硬化魔術の練習専用のソフト剣だ。 柄の先端に魔石が埋め込まれているのはもちろん、剣身の部分にはクッションが厚めに巻かれていて、しかも魔術の影響が及ばないようになっている。
でないとクッションごと硬化しちゃうからな。 そうなったら、もはや棍棒かハンマーである。
それでも当たったら危ないので少し距離を取ってもらい、俺も念のために同じ硬化魔術用のソフト剣を持っている。
「……」
エミーちゃんが無言で剣を振り上げ、ぴたりと止めて目をつむる。 魔術はまだ発動していない。
半活性化体質にリソースの大半を奪われているエミーちゃんは、他に使える魔力が極端に少ないのだ。 エミーちゃんに頼まれて調べたことがあるけど、きっと俺の半分にも満たないだろう。
予想通りだったのか、そのことにエミーちゃんがショックを受けている様子はなかったけど――それ以上に、俺の触手を使った「調査」の方が身に堪えたようであった。
軽ーくオド全体の様子を見ただけの段階で、「お、お願い、もう許して……!」と息絶え絶えに嘆願されてしまった。
「……はあああああっ!!」
しばらく集中を続けた後、頭上のソフト剣から黄色いオーラはほとばしった。 ただし巻かれたクッションにより、全体的にぼんやりとした輝きを放っている。
直後、それが勢いよく振り下ろされた!
ぐるぐる巻きで太さの増した剣は、まるで雷神の鉄槌のごとし。 その風圧もまたすさまじく、間合いの倍は離れていた俺の顔を叩き前髪が舞い上がった。 思わず目をつむりそうになり、なんとか細めるだけでやり過ごす。
幸い、かなり早いタイミング――両腕が水平になったあたりでストップをかけていたようなので、床を叩かずに済んだ。 さもなくば、床板をブチ抜いていたんじゃなかろうかと思うほどの迫力である。
「ど、どう……かしら?」
「お、おお」
構えを解いたエミーちゃんが、身じろぎしながら上目遣いに俺を見る。 ついさっきまでのド迫力など見る影もない。
それどころか、わずかに呼吸を乱し、ほんのりと頬が上気しているところは色っぽくさえあった。
「い、いや、すごいね……」
他に言いようがないなコレ……。 それを聞いてはにかんでいるエミーちゃんは愛らしいんだけど。
ちなみに瞬間的な発動によって魔力を節約するのは、親父の剣術を参考にしたものである。 そもそも、それが本来の使い方だ。
親父に比べると発動から攻撃にタイムラグがあるし、それ以前に発動までに時間がかかりすぎるので実戦にはまだまだ使えるとは言えない。 剣筋のコントロールにも四苦八苦している感があるし。
でも、それらの問題がクリアされれば間違いなく必殺技になり得る。
文字通りの「必殺」になりすぎて使えないという、どーしよーもない欠点が残るけど。
「――という感じかな?」
当たっちゃった際の危険性についてはエミーちゃんもよく解っているので、そこには触れないでおく。 以前、親父の木剣をスッパリと切断したコトは、いまだに記憶に新しい。
まあとにかく、使える回数や時間の限界を把握する意味も兼ねて、練習あるのみだな。
「うん、そうね」
俺のコメントに、エミーちゃんは表情を引き締めて何度も首を縦に振って応えた。
素直なリアクションに口元を緩め、そこで言い忘れていたことに気づいて手を叩く。
「ああ、それと」
「ぅん?」
「……次から、剣は横に振ろうか」
その方が思い切って振れるだろうし、うっかり床板をブチ抜く心配もせずに済むだろう。
けっこうギリギリだったしな……。
「そ、そうね……」
床へ向けた俺の視線に気づき、エミーちゃんはちょっぴり肩を丸くした。
――セーレたんの一人バレーが、いつの間にかリソ君とのキャッチボー「る~」に変わっていたのに気づいた頃。
「やっほーっ♪」
ガラガラと入り口の引き戸を開け、今日も元気にエルネちゃんが顔を出した。 しなやかな片腕を高く上げ、まっすぐに整えられた髪と短めのメイド服のスカートを踊らせながらの登場である。 スカートと黒タイツとの間にチラリと覗く白い絶対領域が、ますます色っぽくなってきている気がする。
先に来たエミーちゃんや向こうの家の方でお仕事中のアナさんの代わりに、自分ん家の家事をあらかた済ませてからこっちへ来ているというのに、疲れた様子などはまったくない。
「……うわ、楽しそー」
キラキラ輝くエルネちゃんの笑顔が、ぽかーんと上の方に向く。 視線の先を追うと、空中を三角座りでジャイロ回転しながら漂っているるーちゃんが、エルネちゃんに向けて小さく手を振っていた。 可憐なビジュアルと大きな窓から差し込む日光おかげで、宇宙飛行士というよりは若干アグレッシブな天女という感じである。
それにしても……ソレを見て「楽しそー」で済ませるこの娘も、なかなかタフな精神をお持ちであった。
「おおっ、やってますねー」
更に彼女の後ろから、エーデルさんもひょっこりとあどけない笑顔を覗かせた。 黄緑のツインテールが上下に弾む。
エルネちゃんと同じワインレッドのメイド服なのはもちろん、童顔に加えて背丈もさほど変わらないので、エルネちゃんと同級生かヘタをすると年下のようにも見える。 エプロンドレスにつけた大きなリボンも可愛らしいしな。
ただし……ソレは正面ではなく、ご立派な胸に乗っかってほとんど真上を向いている。
ちなみに、エルネちゃんより五つ年上の十六歳である。
「とーうっ!」
「んぷっ」
エルネちゃんは小走りで板の間の道場に入ってくると、さっそく俺をハグしてきた。 俺はソフト剣を持った手を下げて自然体で受け入れる。 抵抗しても無意味なのだ。
「遅くなってゴメンねー」
「ふも」
いや、今日はむしろいつもより早かったよ。 急いで来たんだろう、ふにょんとした感触越しにやや早い心臓の鼓動が聞こえる。
それが落ち着くのを待ち、着替えたての服が二人の体温で温かくなってきたところで、ちょっと強引に引き剥がす。 放置していると、いつまでも解放してくれないコトもよーく解っているのだ。
「あはっ、髪の毛ボサボサー」
身体を離したエルネちゃんが、俺のヤマアラシのようになった髪を手櫛で直してくれる。 その原因となったエミーちゃんは、俺の横で苦笑いしていた。
そういえば俺の髪、けっこう伸びてきたなー。
今まで飛びっぱなしだったリソ君とるーちゃんもようやく地上に帰還し、エーデルさんのところに集まっている。 セーレたんはリソ君の髪を手で、そしてエーデルさんは胸元から取り出した櫛でるーちゃんの髪を整えていた。
「ちょっと休憩にしましょー!」
『はーい!』
エーデルさんの一声で、俺達は壁際に置いてあった水筒のところに集まる。 敷物やコップも準備済みだ。
稽古を始めるときに持ってきたのだが、中身のジュースを用意してくれたのはエーデルさんである。 彼女はエルネちゃんと一緒に来たのではなく、るーちゃんと一緒に来た後はお袋と二人でおやつを作っていたのだ。
まだお昼までにはちょっと時間があるけど、そっちの方は一段落ついたみたいだな。
「はい、旦那さまっ」
「……ありがと」
何枚か合わせて十分な広さを確保している敷物に腰を下ろし、エルネちゃんからコップを受け取る。 不意に使われた呼び方に返事が遅れた。 ……細い首に巻いているチョーカーが目に入り、ちょっと照れくさい気分になる。
次に隣に座ったハニーもジュースを受け取ったが、その横に座らせたリソ君に渡してから、改めて自分の分を受け取った。 さすがお姉ちゃんである。
その間にエミーちゃんとるーちゃんもエーデルさんからコップをもらい、ゆっくりと飲み始める。
ちなみにニアちゃんは相変わらずブラザーの頭の上だ。 座ったまま、サラサラの金色の髪を持ち上げて遊んでいる。
「試験、終わったかな」
俺もジュースを飲んで一息ついたから、ずっと気になっていたことをぽつりと零す。
みんなの視線が俺に集まり、エミーちゃんが代表するように、チラッと時計を見上げてから応えてくれた。
「うん、そうかもしれないわね」
俺もさっき時計を確認したが、微妙な時間だ。
よほどのことがない限りは落ちるような試験ではないし、ニコもわん子ちゃんも十分に練習と勉強をしてきたのだから、結果の心配はしていない。 セーレたんやるー君の表情にも、そんな感じは見られない。
でも結果が判るのは、早くても学校のある明後日だろう。 くりむちゃんの家は学校の向こう側にあるので、わざわざこっちに来てくれなくてもいいよと言ってある。
「ところで、身体は大丈夫?」
そう言いながら、水筒を挟んで正面に座るエミーちゃんの顔色をうかがう。
マイシスターは圧縮した魔力で人を上空に吹っ飛ばすという非常識訓練をしていたけど、けろけろけろり~んとした笑みを見せている。 圧力を高めることで魔力消費を抑えることができたんだろう。 むしろ、適度に魔力を使えてスッキリしたようにも見える。
「なんとか……ね」
「よかった」
じーっと見つめると、ちょっと恥ずかしそうに視線を逸らせてこくりとうなずく。 若干疲れているようではあるが、顔色もいいしフラついている様子もなかったから大丈夫だろう。
俺も久し振りに硬化魔術を使った素振りができて、スッキリした。
るーちゃんも、いっぱい空を飛べて満足そうな笑みを浮かべているが……全然魔術の練習になってなかったな。 ま、その代わりに三半規管の鍛錬にはなっただろう。 よく酔わなかったものだ。
リソ君もまた、普段では飛べない高さを満喫できてご満悦だ。
「エミーは何していたの?」
「うん、硬化魔術の練習をね」
「ふうーん」
俺の右側に横座りをしているエルネちゃんが、妹に話しかける。
ところで……さり気なくスカートの裾をたくし上げるの、やめようね。 斜め向かいのるーちゃんもマネし始めたから。
ぼんやりと朱く光る瞳を流し目にして、悪女めいた魅力に背筋がゾクゾクする。
「そういや、エルネちゃんって魔術の方はどうなの?」
妖しい幼女から視線を外しながら、ふと思ったことを隣のメイドちゃんに聞いてみる。 ついでに、まくり上げたスカートの裾も摘んで直しておく。
五級を取っているのは知っているが、家事以外で魔道具を使っているところはほとんど見たことがない。 武術についてもそうだ。
ちゃんと指が太ももに触れないようにしたにもかかわらず、エルネちゃんはわざと色っぽい声を出して俺の質問に答える。
「あんっ。 ……そっちの方は、今になって苦労してるかな」
そう言って、イタズラっぽく赤い舌の先を覗かせた。
「最低限だけ覚えて、あとは家事と勉強に専念してたからねー」
「そっか」
全然そんな風には見せないけど、この娘も陰の努力家だもんな。
……陰の策士でもあるが。
「だから、エーデさん達にビシバシしごかれてるよぉ~」
「へえー」
俺も含めた、全員の視線がエーデルさんに向かう。
るーちゃんにジュースのお代わりを注いでから、「んー?」と可愛らしく首を横にした。 ツインテールが耳のように跳ねる。
ついでに胸も。
「わたし達ほどじゃなくっても、自衛くらいはできた方がいいもんねー?」
公園の砂場で子供達の中に混ざっていても違和感のなさそうな顔をしてるけど、こう見えてもラピヨーネ家――リリちゃん付きのメイドさん。 全身に護衛用の魔導具を仕込んでいるという。
ぴょこぴょこ動いているツインテールだって、付け根の髪飾りを通じて動かしているんだもんな。 硬度を増せば、ムチや警棒の代わりになるらしい。
「周りにあるものは何でも使うのが、わたし達の流儀だよっ」
「へえ……」
俺の目がその髪を見ていたからか、エーデルさんが言葉を付け加えてくれた。
今もエルネちゃんは、彼女たちからいろいろと教わっている。 つまり、護身術もそうだということか。
俺の右側で、ニヤニヤしながらさり気なーく距離を詰めてきているこのエルネちゃんが、ねえ……。
ちなみに反対側では、セーレたんがとっくに俺の腕にしがみついている。
「テーブルナイフって、重心が後ろにあるから刺さりにくいんだよね~」
「……」
マンガとかでは見たことあるけど、本当に投げたりするんだな……。
エルネちゃんは、着実にメイドさんレベルを上げているようだ。
既におやつの支度ができていたこともあり、ちょっと早めにおやつタイムに入った俺達。
お昼の鐘が鳴ってからずいぶんと経ち、それでものんびりまったりリビングで過ごしていると。
『ごめんくださいませ~!』
「ん?」
玄関から、聞き覚えのあるようなないような、女の人の声が。 お客さんだろうか? オープンキッチンの向こうにいたお袋が「は~い」と返事をして、俺達のいるテーブルを通り過ぎて部屋を出ていく。
ココのリビングテーブルは六人掛けなので、お袋とエーデルさんは向こう側にある小さいテーブルを使っているのだ。 ニアちゃんも今は、向こう側でお茶にシュガーを入れるお仕事をしている。
こっち側にはエルネちゃんも含めた未成年組が座り、リソ君のことはエルネちゃんが見てくれている。
「あの声って、確か――」
俺の正面にいるエルネちゃんが、俺の知らない名前を挙げた。
聞くとココのご近所さんのようで、だから声に聞き覚えがあるような気がしたのかーと納得。 俺ももうちょっと、ご近所付き合いをしないといけないかなあ。
だがお袋が応対に出たので、今日はいっかとお喋りに興じていると。
「ジャスちゃ~ん」
開けたドアから、お袋が顔だけを出してちょいちょいと手招きをした。
「ちょっと来て~」
「ん? ……うん」
なんだろうと首をひねりながらも、素直に席を立つ。
どうも、お客さんは俺に用事があるらしい。 なんだろう?
「こんにちは、ジャス君」
「あ」
こぢんまりとした玄関にいたのは、ジョギングなんかでときどき挨拶をする顔見知りの奥さんだった。 向かいの家の人である。
子供らしく「こんにちはー!」と挨拶をし、お袋の隣に立つ。
「実はね、ジャス君にお願いしたいことがあって」
「はあ」
まだ子供でありながら、この俺が「御使い様」であり、この家のオーナーでもあることは周知の事実。
だからこそお袋が呼んだんだろう俺に、奥さんは腰をかがめ、にっこりと微笑んで話を持ちかけた。
「不躾なお願いなんだけれど――」
「えっ」
……その思いがけない内容に、俺は目を見開いた。




