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そだ☆シス  作者: Mie
帰還編
653/744

616 素敵な少女達に、カンパイ

 濃紺色から金色へと変わりつつある空の下。

 澄みきった早朝の街に、白いもやが次々と吐き出されては溶けていく。


「あはっ♪ 今日は寒いよねーっ」


「……元気だねえ」


 頬に朱みを差したエルネちゃんが、長い髪とメイド服のスカートをひらひらさせながら俺の右側を併走している。 家々の隙間から射し込む朝日が彼女の自慢の髪を琥珀色に輝かせ、足元の石畳を照らす。

 基本的にはテンション高めのエルネちゃんだが、冷え込んだ日はそれはもうどんよりと落ち込む。 というのに、今朝は厚手のタイツではなく薄いニーハイソックスを穿いてのご登場である。

 たまにひざ上のスカートの隙間から見える肌色に思わずドキッ! ……とするよりも、寒くないのかなぁと心配してしまう。


「エルネちゃん、元気~」


「もっちろん!」


 俺の左を走るセーレたんも金色の髪をふわふわさせながら、ふわふわ~とした笑顔でメイドさんを見ている。 ひざ丈のスカートの下にはしっかりと白いタイツを装備しており、気温の低さからやはりこの子のほっぺもほんのりと朱くなっていた。 とても可愛らしい。

 朱いのは俺もそうなんだろうが……そんな自分の顔を想像しても仕方がないので、左右の美少女達を眺めて癒されておこう。


 静かな早朝の住宅街に、エルネちゃん一人の靴音がリズミカルに響く。 俺とハニーは歩法を使っているので無音だ。

 今朝のジョギングはこの三人。 お袋は走らないと言っていたので二人かと思っていたら、アナさんやエミーちゃんよりも先にエルネちゃんがやって来たのだ。

 いつも以上のご機嫌っぷりに「何かいいことでもあったの?」と聞いてみたが、返ってきたのは「ナイショ!」というお言葉とウィンクだけであった。


「朝から走るのって……気持ち、いいよねっ♪」


 エルネちゃんは胸の前で両手を握り、軽く息を弾ませながらもニッコリと笑った。




挿絵(By みてみん)



 朝の高い青空が見えるようになった頃、マールちゃんとエミーちゃんを加えた五人で道場に着く。


「うわっ、寒っ……」


 先にエミーちゃんと二人で重たい扉を開けて道場へ。 中に入るなり、俺は今日になって何度目かの言葉を口にした。 俺の隣でエミーちゃんも自分自身を抱きしめてぶるっと震えていた。

 セーレたんもこっちに来たがっていたが、住居部の暖炉に魔力(ひ)を入れるようお願いしておいてよかった……。

 チャロちゃんが休みである今日、マールちゃんとエルネちゃんとで暖炉を使うのはちょっと厳しい。 他にもあちこちで魔力を必要とするからな。


「はぁ……そうね。 でも、気が引き締まるから……私は嫌いじゃないかな」


「ははっ、エミーちゃんらしいね」


 白い息をゆっくりと吐きながら両手を下げ、エミーちゃんが薄暗い道場を見上げる。 お姉ちゃんとは対照的に、この子は普段からわりと寒さに強い。 ちゃんとタイツは穿いてるけどな。

 体質のおかげか性格の違いか……たぶん両方だろう。


「さて、明かりはっと」


 俺はその場で回れ右をし、入口のすぐ横にあるパネルを見つけて一気に魔力を注ぐ。 天井に並ぶ大きな照明に少しずつ光が灯り、やがて道場全体を明るく照らし始めた。

 学校の体育館に比べれば全然だけど、家の部屋からすると高さも広さも段違いの道場内部。 やっぱり、その照明に必要な魔力量もそれなりだ。

 特に今日の稽古では魔導具の練習をする予定なので、エミーちゃんにやってもらうとその余裕がなくなってしまう。


「ごめんね……」


「気にしないの」


 申し訳なさそうな顔でうつむこうとするエミーちゃん。 俺はすぐに駆け寄り、彼女の頬に手を添えて止めた。


「ひうっ!?」


 エミーちゃんはビクンと身体を跳ねさせ、目を丸くして固まった。

 常に半活性化状態の彼女は、頬も温かい。 逆に俺の手の方が冷たくてビックリさせちゃったな。


「あ、あっ、あぁ……」


 とか言いつつ、更にもう片手も添えて完熟トマトみたいになっていくエミーちゃんの顔を見てニヤニヤしている俺は、我ながらなかなかの「いぢめ」っ子である。 「イジ(・)メ」っ子ではないのであしからず。

 ……せっかくの恵まれた才能をコンプレックスにして、その笑顔を曇らせてほしくないんだよ。

 だから俺はクールに微笑みながら顔を近づけ、彼女の瞳を見つめながら諭(さと)すように言う。


「それはエミーちゃんの個性だから。 それに、大きくなったら余裕も出てくるよ。

 ……分かった?」


「わ、わひゃっは! わひゃっひゃかや……」


「うん、よろしい」


 おおっと、だんだんエミーちゃんが涙目になってぷるぷるしてきた。

 このくらいでやめておこう。




 ――道具庫にある魔導具の点検を終えると、居住部にて幼なじみーズのみんなを待つ。

 マールちゃん達が温かいお茶を用意してくれているのだ。


「寒かったああああああーーーーっ!」


「うひゃああっ!?」


 玄関に出て、みんなの先頭にいたニコといつも通りに手を合わせようとしたら、それをスルーされてほっぺを両手で挟まれた!

 ムチャクチャ冷えていたヤツの手に、思わず女の子のような悲鳴を上げてしまった。

 しかも「ぺちん」って、ちょっと痛かったぞ!


「こんっの……!」


「ひっひー」


 俺もカウンターをお見舞いしてやろうと思ったが、俺の手は既にエミーちゃんの頬とエルネちゃんの淹れてくれたお茶のおかげでぽっかぽかである。 やってもヤツを喜ばせるだけだとは……ッ!


「ま、負けた……」


「あっはっは、元気出しなよー!」


 打ちひしがれている俺の肩を叩き、ニコは嬉しそうに後ろにいるセーレたんとエミーちゃんと手を合わせてから奥のリビングへと入っていった。

 ちくしょう……お前はせいぜい、メイドちゃんの淹れてくれた勝利の美酒(おちゃ)に酔いしれるがいいさ!

 本当に美味しいからなっ!


「……よっ、くりむちゃん」


「寒かった」


 さっさと気を取り直し、ロシアの人が使っていそうな帽子を被ったわん子ちゃんを欧米的なハグでお出迎えすることにする。

 この子の場合、身長差で俺の方が抱きしめられる形になるけどな。


「よしよし」


 ふかふかのコートに顔を埋(うず)めて「とっても温かいなー」と思っていると、優しく頭をなでなでされてしまった。

 表情も柔らかいし、春に生まれる予定だという下の子にとって、本当にいいお姉ちゃんになりそうだよな。

 おかげで元気が出たよ。


「やあ、よく来たね」


「みゅーっ♪」


 次に、もこもこの服にマフラーを巻き、白い毛玉のようになったリリちゃんに向かって両手を広げる。 その間にくりむちゃんは、セーレたんやエミーちゃんとハグを始めた。

 それを見ていると、ぱふっと音を立ててうさちゃんが俺の懐に収まった。 見た目通り、綿のような軽さである。


「上でリソ君が待ってるよ」


「むーんっ」


 俺に顔を埋めてお返事が面白くなっているが、うさ耳を左右に振って俺の服に顔をすりすりしてくる姿は可愛いったらありゃしない。

 みんなを待っている間にお袋がリソ君を連れてきて、二人は勉強部屋でリリちゃんを待っている。 ちなみにニアちゃんは後で来るって言ってた。

 で、次はお兄ちゃんの番だ。


「ふふ。 冬の足音は、静かなものだね」


「お、おう。 そうだね……?」


 コートが男の子用だから普通なのかと思っていたら、今日のるー君はそういうキャラできたか。 いかにも芝居がかった言い回しが、目を細めてクールキャラを演じている今のこのコにはけっこう似合っている。

 ちょっとだけ、ツェリさんの息子のユーリさんっぽい。


「……ん?」


 それでもハグはするだろうと両手を広げたら、どうやらるー君は握手するつもりだったらしい。 お互いの手がすれ違ってしまい、しばし見つめ合ってしまう。


「……」


「……」


 このコの意向に沿って、俺も握手で応えた方がいいか。

 そう思って右手を出し直そうとしたところ。


「……るーっ」


 俺の顔と自分の出した手を交互に見たるー君は、その手を引っ込めて抱きついてきた。 よく分からんけど、お芝居はもういいらしい。

 存分にハグをしたるー君は後ろの二人とも抱き合い、待っていたリリちゃんと手を繋いで奥へと歩いていく。


「ええっと」


 最後は、みんなの後ろでずっと直立不動を保っていたツェリ先生である。

 ワインレッドのメイド服は少し生地が厚いみたいだが、それでも上着もなしでよく平然としているな……。


「……ど、どちらがいいですか?」


 じーっと灰色の瞳で俺の顔を見つめてくるメイドさんにも、いちおう挨拶の仕方を聞いてみる。

 すると、まさに「白魚のような」というたとえがふさわしい手がすっと伸びてきた。

 この人もハグで来るかと思ったけど、握手だったか――。


「では、こちらで」


「ひいいいいいーーーーぃっ!?」


 また俺の手がスルーされ、すべすべだが冷え冷えの手が俺を包んだ!

 し、しかも首っ! 頸動脈ですよ!!


「素晴らしい声でお鳴きになりますね」


「ひぃぃぃぃぃ……!」


 雪の降る空のような目を細め、薄い笑みを浮かべて俺を見下ろす白銀のメイド様。

 クールな中に色気をも兼ね備えた微笑みはるー君以上……さすがユーリさんのお母さんである。


「……大変失礼を致しました」


 だが直後、謝ったツェリさんは俺を優しく引き寄せて包み込んだ。 すぐに温かくなり、全身から力が抜けていく。


「冷たくなくなりましたか?」


「はふぅ」


 なんと温かい……。

 完敗であった。



 お茶で身も心も温めて落ち着いてから、俺も含む子供達は道場に移って魔導具の練習を始めた。

 道場はたとえ本物の戦闘でも耐えられる特別仕様。 無害な練習用の魔導具では、壁どころかガラス一枚傷つけることもない。

 しかし水属性だけは身体にかかると風邪を引きそうなので、それ以外を使うことにする。


「うふふふふ~ん♪」


 長い光の帯をくるくると回し、マイシスターが可憐に舞っている。 そういった魔導具もあるのだ。

 腕の動きを追いかけるように帯が光の残像の尾を引いてハニー前方で踊る様子は、あたかも新体操、いや妖精のように見える。

 なびく髪の金色とリボンの金色とが複雑な波を描き、それを操るあの子の蒼い瞳がますます輝きを増して――。

 まあとにかく、俺の触手とは月とスッポンである。

 完敗であった。


「……」


「えへっ」


 見とれている俺と目が合ったセーレたんは、嬉しそうに魔導具を持った手を天にかざした。 そうして頭上でリボンを回すと、全身がまばゆい光の螺旋に包まれていく。

 キラキラしてとってもキレイなんだけど……なんか、魔法少女の変身シーンみたいだな。

 無論、裸になったりはしないが。


「やああああっ!」


 片やエミーちゃんは、最近は珍しい剣を持って、やはり光の軌跡を描く神速の剣舞を踊っていた。 硬化魔術の練習である。

 だがいくら練習用のソフト剣とはいえ、この子の場合はそれでも当たったら痛いどころでは済まない……。 もしかすると痛いと感じる暇さえなく吹っ飛ばされるかもしれないので、みんなとは十分な距離をとって練習している。

 長い髪をポニーテールにし、真剣な表情でスカートをなびかせながら剣を振る。 カッコイイのに、同時に可愛らしさもある反則の舞いであった。


「……すごい」


「かっこいいー!」


 二人の様子に、道場の隅っこで魔導具で魔力精製の練習に励んでいるくりむちゃんとニコが、手を止めて見入っていた。

 ちなみに、フローリングの床に柔らかいラグを敷いてその上に座っている。 それも道具庫に置いてあったものだ。

 教えているるー君も相づちを打つ。


「うん、すごいね」


 そう言いながら手元の石を光らせているるー君。 ……でもそれ、生まれて初めて「自作」した魔導具なんでしょ?

 さすがに石を加工するのは職人さんにやってもらったそうだが、魔法陣は確かにるー君自身が下書きしたものらしい。 うらやましい限りだ。

 しかしるー君からは、むしろ俺の方がうらやましいって言われるけどな。

 ニアちゃんに、いつでも魔法陣の鑑定をしてもらえるからって。


 ……で、俺はというと。


「うぇーい」


 重たい物を持ち上げるのに使う反重力板の上にあぐらをかき、更に一方向に風を吹かせる筒を両手に持って、床スレスレの高さを適当に飛び回っていた。

 不安定で揺れる板の上で身体のバランスをうまく取りながら、三つの魔導具の出力を同時に微調整して自由自在に飛び回るという、それなりに高度なテクニックなのだが……。


「うわあー! ジャス君、楽しそー!」


「……わたしも、やってみたいな」


「ふふ、ジャス君らしいね」


「ぶおーん、ぶおーん。 パラリラパラリラ……」


 華麗に舞い踊る美少女コンビと比べると、子供が遊んでいるようにしか見えない。 いや、実際に半分は遊んでるようなモンなんだけどさー。

 まあいいやーと、その後も開き直って遊んでいると。



「みんなー! そろそろ、おやつの時間――」


「ん?」


「ぷふっ!? あははははははははっ♪」


 呼びに来たエルネちゃんが、コマのように回転しながら宙を滑る俺を見て噴き出し、お腹を抱えてこてんとひっくり返った。


「あはははははっ! じゃ、ジャス君が、まわっ、回って……♪」


「……」


 完敗である。 でも……。

 あんまり脚をバタバタさせていると、見えるよ?




 ――そして次の、十一月最後の日。

 さしあたって特に急いでしなきゃいけないこともなかったので、その日は一日「リソ君と遊ぶデー」と決めて朝から遊んでいた。

 初めはセーレたんも一緒だったんだけど、今日はお袋と一緒に道場の当番なのでしばらくしたら抜けてしまった。

 俺も手伝おうかと言ったのだが、「そのままリソちゃんとニアちゃんと遊んであげて」と言われ、その隙にリソ君からお腹に腰の入ったイイ「ふぁんちー!」を食らうなどして、今に至っている。


「おにー! はやうーっ」


「ヒヒーン!」


 午後になってもまだ肌寒いにも関わらず、俺は庭でシャツの後ろから触手で作ったぶっとい下半身を露出し、ブラザーを乗っけてお馬さんゴッコに興じていた。 更に、頭の上にはニアちゃんが乗っかっている。

 ひとしきり走り回りと、お次は馬の下半身を暴れさせてじゃじゃ馬を演じてあげると、リソ君はケンタウロスとなった俺の背中の上で飛び跳ねて喜び、その頭の上のニアちゃんもまた跳ねて喜んでいた。

 もちろん、二人には命綱……というか手綱をくっつけて、万が一落ちても地面に激突しないようにしている。

 その辺に抜かりはない。


「ほら、落ちないように気をつけるんだぞー!」


「わあああああーーーっ♪」

「きゃっふうーーーんっ♪」


 二人とも大喜びだな。 よかったよかった。

 けっこう重たくなってきたリソ君を受け止めるたび、馬の下半身が引っ張られてチト腰に負担がかかるのだが……まあ、あともう少しくらいなら問題はない。

 気を良くした俺は、額から触手の角を生やしてユニコーンに進化してみた。 二本生やしてバイコーンでも大丈夫だぞ?

 ……だからどーした、って感じだけど。


「ああっ、また何かして遊んでるーっ」


 そろそろ腰が辛くなってきた頃、玄関の方から私服姿のエルネちゃんがひょっこりと現れた。

 あれ? 今日は学校じゃなかったっけ。


「うん。 でも、もう終わったよ」


「そうなんだ」


 そう言ってこっちに歩いてきながら、長いストレートの髪を後ろに払うエルネちゃん。 何気ない仕草に、少しずつ「おませ」ではない色気をまといつつある。

 まだ十一歳だけど、もう高校三年生なんだもんなあ。


「卒業、ほとんど決まったから」


「おおっ!? おめでとう!」


 ほぼ、ということは確定じゃないのか……? でも、エルネちゃんがそう言うなら決定も同然なんだろう。

 心からお祝いの言葉を贈ると、エルネちゃんは嬉しそうにはにかんだ。

 もうお袋達は知ってるんだろうか? まだだったら早く知らせないと!


「さ、そろそろ終わりにしようか」


「えーっ!」


 すぐ同意してくれたニアちゃんに対して、マイブラザーはもう少し続けたかった模様。 でもゴメン。 早くみんなに知らせないと、というのもあるんだけど。

 兄ちゃんさ、そ、そろそろ体力と腰が……な?


「ほ、ほら、のど渇いたろう? ホットミルクを作ってもらおうよ」


「みるくうーっ♪」


「……ほっ」


 なんとか説得に成功し、胸をなで下ろしながらリソ君も下ろす。 エルネちゃんはくすくすと笑っていた。

 可愛らしいお客さんにも、温かいお茶を出してあげないとね。 ……俺も飲みたいし。

 ニアちゃんがブラザーの手を引っ張り、先に二人で玄関の方に向かう。


「さあ、エルネちゃんも――」

「ジャス君って」


 中へどうぞ、と言おうした途中で、エルネちゃんと声が重なった。

 さんざん運動して寒くなかったこともあり、「ん?」と小首を傾げて先に話を聞いてみる。


「……ジャス君って、いいお兄ちゃんだよね」


「そ、そうかな」


 俺の目を見つめて穏やかに微笑むエルネちゃんに、ちょっと気恥ずかしさを感じて横を向く俺。

 いや、俺自身は「こんなんでいいのかな?」ってずっと思ってるからさ。


「そうだよ。 セーレちゃんにとってはもちろんだけど、リソ君やニアちゃんにとってもそうだし……エミーも、ジャス君のおかげでずいぶんと女の子らしくなったし」


「あ、ありがとう……?」


 セーレたん達については、実際にお兄ちゃんなんだからともかく……。

 エミーちゃんが女の子らしくなってきたのは、本人の努力だと思うんだけどなあ。 我が家の家事から勉強会の準備まで、本当に積極的に手伝ってくれてるし。




「それに――私にとっても、ね」




「えっ」


 頬を掻いていた指を止め、思わずエルネちゃんを見上げる。

 確かに、さり気なくエルネちゃんのフォローをしたことは何度かあったけど、まさかそんな風に思ってたなんて――。


「ねえ、ジャス君」


「……ん?」


 少し声のトーンが下がった呼びかけに、俺は考え事をやめて真っ直ぐに向き合う。 エルネちゃんは腰を屈めて視線を下げると、タイツが土に汚れるのも構わず、地面にひざをついた。

 視線の高さが逆転し、俺の方が彼女を少し見下ろす形になる。



「ジャス君ってさ――。

 将来、もう一人メイドさんを雇うつもり、ない?」



「……え」


「どういう意味?」なんて言葉は、俺の口からは出てこない。 ……でも、なんで?

 高校の家政科を卒業予定。 しかも、魔導具メーカー大手のラピヨーネ家で研修を受けたとあれば、メイドさんとしてけっこうなエリートになるハズ。

 オルスターマイナは別格としても。

 就職先なんて引く手あまただろうし、ツェリさんだって「できれば来てほしい」と言っていたくらいだ。

 なのに――まあ、この歳で仕事もあって御使いだったりもするけど、だけどまだ初学生である俺に雇ってほしいだなんて。


 俺が瞬きを繰り返していると、彼女はそっと俺の手を取り。


「んふっ。 もちろん、ジャス君さえよければ――」


 頬を朱く染め、恥ずかしそうに微笑むと。

 俺の指の関節を含むようにして、唇をつけた。




「お嫁さんでもいいし……愛人でもいいよ?」




「ちょ!?」


 愛……って、あーた!? 上目遣いでなんてコト言うのよ!! 内容以前に、ちょっとあまりにも早過ぎやしませんかねえ?

 君にもまだ早いと思うけど、俺なんてまだ六歳だぞ!?


「早い、とは思わないんだけどなあ~?」


 逆に遅かったくらいじゃない? と。 エルネちゃんはトンデモないセリフとは裏腹に、とっても可愛らしく小首を傾げて見せた。

 くりくりっとした大きな瞳に、小悪魔的な笑みを浮かべて。


「……だって、ジャス君だし?」


 いやいやいやいや!? 俺だからって、可愛い顔をされても余計に意味が分からん!

 フライングにもほどがあるでしょうに……。

 そしてまた俺の心の内を読んだのか、エルネちゃんは更に衝撃的な言葉を放った。



「そう? 初学校のときもたまに見かけたけど、高校じゃ当たり前だよ?」



「……」


 な、なに? その常識……。





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