53 しーしーパラダイス
な、なんだったんだろう?
結局、自己紹介して揉みくちゃにされただけで終わってしまったんだが……。
なんか転校生っていうよりは、空港に来日した韓流スターというか、どっかの河川敷に現れたアザラシの赤ちゃんというか、そんな扱い。
もう頼むから、オシリの割れ目に指を……い、いや、何でもない。
ほんと、お母さんパワーって凄いわ。
確か、通うのは〈火の日〉と〈風の日〉だったっけ? 一週間は五日で、「精霊の日」がいわゆる日曜日で休みだから、残りの平日四日の中で、行く日と休む日を交互にしよう、って事になっているのだ。 ちなみに「火の日」がちょうど月曜に当たる。
週二日はちょっと少ないんじゃないか? って思ってたけど……体力的にも精神的にも、むしろそのくらいで良かったよ。
ところで帰り道なんだが、静かな二等区内だけを歩いて戻って来れた。 聞いてみたら、行きは俺達に大通りを見せるためにちょっと遠回りしたらしい。 嬉しかった。
で、昨日は休みで妹様も一緒に一日ぐったりしてたおかげで、何とか回復しての今日。
「さあジャス様っ♪ セーレ様っ♪ そ、そろそろ行きませんかっ!?」
「まま、したくしてるよー?」
「あ……そ、そうでしたね……」
「おにぃ~♪」
「はいはーい、せーれたーん!」
「きゃは~ん♪」
「あ、あの、そろそろ……」
「まだだよぉー」
何故か本人よりもテンションの高いマールちゃんを宥めながら、セーレたんをなでてお袋が二階から下りてくるのを待っている俺。
なんか、俺が保護者みたいなんだが……。
コン、コン。
『マールちゃ』
「はい奥様っ準備できてます行きましょう!!」
「…………」
「おにぃ~、いくの~?」
まあ、一昨日の夜から俺達の話を聞いて悶えまくってたからなぁ。
普段真面目な分、一度壊れると修理に時間かかるんだよな……。
扉が開いた瞬間にロケットスタートしそうな、マールちゃんの手綱を俺が握って。
……さあ、行くとしますか。
「こんにちは~♪」
「こ、こんにちは……」
「ヴェオラさん、こんにちはー♪」
「……こ、こんにちゎ~」
今日は、二等区内を通って直接やって来た。
昨日は気づかなかったけど、ここは二等区の端っこのようだ。 ちょうど道の向かい側から一般の住宅地っぽかったし。 家の外見や大きさで分かった。
道中は宙に浮くんじゃないかと思うくらいのステップを踏んでいたマールちゃんも、さすがに入口まで来ると通常モードに戻った。
「あ、オリオールさん! こんにちはー!
ジャス君は、私の名前覚えてくれたんだね、ありがとー♪」
「セーレたんもおぼえてるお。 ねー?」
「べ、べおらしゃ~ん……」
「あああっ♪ セーレちゃんもありがとー!」
「ひゃっ……あ~ん」
「か、かわいいぃぃぃ~っ!!」
カウンターからひょっこり顔を出して挨拶してくれた紫の髪のお姉さんだったけど、名前を呼ぶとカウンターから出て来てなでてくれた。
ちょっとおどおどしてたセーレたんも、なでてもらって慣れてきたようだ。 にっこりしているし。
そしてマールちゃんがヴェオラさんと挨拶している間に、お袋が記帳し入場料? をちゃりーんと箱に入れて手続き完了。 一回いくらのシステムらしい。
「……あ、すみません! お部屋は分かりますか?」
「はい、大丈夫ですよ~」
「では、行きましょうか」
「はーい、またねー」
「またね~」
手を振りながら教室……じゃなかった、年少部屋? の前へ。
つーか受付のすぐ近くなので、まだお姉さんに手振り続けてます。
「奥様、開けますね……失礼します」
マールちゃんもお姉さんに会釈して、俺の手を引いて中へ。 お袋とセーレたんも続く。
「こんにちは~」
「こんにちはー」
「オリオールさんだったんですね、こんにちは」
「はじめましてー」
お、今日は三組だけか? と思ったが。
「あら、はじめまして」
「こんにちは!」
子供が遊んでる部屋の真ん中に、若いお母さんと、この前も見かけた学生っぽいお姉さんがいた。 つまり四組。
……あのお姉さん、ひょっとしてバイトか何かかな?
「はじめまして~、オリオールと申します~」
「メイドのラリマールと申します」
「ジャスパーです! 三しゃいです!」
「……しぇーれ」
初めての人もいるので、まずはお母――お姉さんにごあいさつ。 少しずつ慣れてきた様子のセーレたんもごあいさつ。 まだ少しアレだけど。
それにしても、たぶん二人目や三人目を産んでる人もいるだろうに、お姉さん達はみんな若い。 十代後半から二十台前半くらいかな?
『まあ、えらいわねー♪』となでてもらった後、世間話に入ったお袋とマールちゃんから離れて、俺はセーレたんと部屋の中央へ。
「おねえさん、こんにちはー」
「こ、こんにちゎ」
「うふふふ、こんにちはー」
「ジャス君とセーレちゃんだったわね、こんにちはー♪」
子供と遊んでいたお母さんも俺達をなでてから、バイトさん? に会釈してお袋達の話に入っていった。
「じゃあ、何して遊びましょうか?」
「うーん」
黒髪のおさげをした、顔のそばかすがちょっと素朴な感じのバイトさんに言われて、周りを見てみる。
さっきのお母さんと遊んでいた男の子は絵本を見てるし、他の子の三人の内、毛布を掛けられて部屋の隅でお昼寝中の子が二人。 そして残りの一人の男の子は、オモチャ箱から色々放り出して勝手に遊んでいる。
セーレたんの為にも、できれば他の子と絡んでみたかったが……。
「んん? オモチャが良い……」
「ぅあーー!」
「……ぅえっ!? あっ、はいはい、どうしたなのかなー?」
「おーう! こえーーー!」
俺達に声をかけようとしたら、本を見ていた子が、その本を持ってお姉ちゃんに後ろから体当たり。 そして何やらゴネ始めた。
「えーっと、ご本読んでほしいのかな?」
「やーーーう!!」
「はいはーい! ……ああー、この子達どうしよー」
「おもちゃであそぶー。 セーレたん、いくよー」
「はぃ~♪」
なんか、お姉ちゃんが俺達をどうするか困っているようなので、俺達は気を利かせることにしよう。
ほっとして本の子の相手を始めたお姉ちゃんを横目に、オモチャ箱が並ぶ一角へ。
せっかくだし、そこにいる子に話しかけてみようか。
「ねーねー」
「うーーーーーーーーーー」
「あにょー」
「う゛あーーーーーーーーーーー」
「えっと」
「ばーん! ばーーん!」
……なんか、小さい動物のぬいぐるみを両手に持って、振り回したり叩き付けたりしている。
何かのごっこ遊びかな……。 なかなかバイオレンスだ。
「だーーーーーーーーっ!!」
「おわっ!?」
「ひゃうっ!?」
と思ったら、いきなり放り投げた! ぬいぐるみは二つとも絨毯に叩き付けられて、別々に転がっていく。
俺達よりも身体が大きいから俺もビックリ。 セーレたんもちょっと怯えて、俺にしがみ付く。
「わんわーーん! ばーばーーー!」
そして、足元にあった別のぬいぐるみを掴むと、また振り回す。
……わ、訳が分からん。
「ど、どうしよー」
「おにぃ~」
妹様が不安そうに俺の顔を見るが、俺にもどうして良いやら。
俺の知ってる赤ちゃんって、セーレたんとエミーちゃんだけだしな。
俺以外で男の赤ん坊って初めて見たけど……ちょっと怖いぞ?
「……う。 おしっこーーーー!!」
「――えっ!? はいはい、今行く」
「いやーーーー!!」
「ええっ!? ちょっと、行かせてー!」
「やーーーーー!!!」
「いたっ! 痛い痛い~っ」
暴れていたジャイ○ン君は急におしっこと言い出し、気づいたお姉ちゃんが行こうとすると本の子がガシッとズボンを掴んで、その本で凶器攻撃を始める。
「ママーー! おしっこーーーーーー!!」
『――わーーっ!? ちょーーっと待ちなさいよぉーーーっ!』
大声で叫ぶその声にご歓談中のお母さんが気づいてくれて、慌ててやって来た。
そして重そうなジャイ○ン君を両手であっさり持ち上げると、ラグビーボールのように抱えて扉へ走って行く。
うん、お母さんもパワフルだな……。
「ふぇ……! うわぁああああああああん!!!!」
「びぇ……! びゃああああああーーーーー!!!」
と思ったら、今度は寝てた子達が急に泣き始めたぞ!!?
「ええっ!? 今度はなにっ!!」
「やーーーー!!」
「痛いっ!? 痛いってばぁ~」
『――――まさか!? あああーーー』
『あっちゃーー、うちの子もびっちょびちょ』
ど、どうやら、片方の子がお漏らししちゃったらしいな。
二人のお母さんが駆けつけてたが、かなりの量のようで……。
「何か拭く物は……私、園長さんを呼んできます」
「私も行くわ~」
「う、うわぁー……」
「おにぃ~、どしたの~?」
状況を察したマールちゃんとお袋が、拭く物か何かを取りに行ってくれたみたいだが――。
どうしたらいいの? 俺達?
――ちょっぴり漂ってきたアンモニア臭から離れ、誰もいなくなった保護者席で途方に暮れる俺達であった。
三歳児、パねぇっす。
「よしよーし」
「ひゃあん♪」




