580 楽しいお祭りの始まり
使節祭のセレモニーをお城で見ようと、集まったメンバー。
保護者のお袋とメイドさんとしてサポートしてくれるエルネちゃん、メインゲストの鹿耳姉弟、俺が誘ったわん子ちゃんとニコ。 あとは父親の晴れ舞台? を楽しみにしているニアちゃんと、エミーちゃんと俺である。
九人か……うん、やっぱり大所帯だな。
「さて、そろそろか」
ぞろぞろと歩いていけないこともないんだけど、城の周辺は相当に混雑しているハズだ。 パレードのために交通規制もかかっているというし。
ということで、おねだりついでに足についても頼んでいたのだが……。
「ふむ」
「ジャス、どうかした?」
迎えが来るまで外で待っていることもないので、まだ俺達はリビングでまったりしている。 そんな俺に、お茶のお代わりを持ってエミーちゃんが近づいてきた。
お袋は席に座ってにこにこしており、りっくんは「まだかー! まだかー!」と踊る植物のオモチャのようにイスの上でジタバタしている。 ニコも落ち着きはないが、無邪気に「まだかなー? まだかなー?」と首を左右に傾けている様子は見ていて微笑ましい。
マチルダお姉さんはリソ君を嬉しそうに抱きしめたりなでたりしていて、くりむちゃんはさっきリソくんに食べられてヨダレまみれになった我が娘をキッチンで丸洗いしてくれている。
……お立ち台を使わなくても大丈夫、というのがスゴイよな。 こちらに背中を向け、黒くて大きなしっぽが楽しげに揺れている。
「いや、ね……」
俺は、廊下へ続くドアの方へと視線を移す。
メイドちゃんズはいつもの仕事があるので、今はエルネちゃんが玄関前の掃除ついでに迎えが来るのを待っているところである。
まあそれはいいんだけど、問題は。
――誰が迎えに来るのか、その一点に尽きる。
期待しているのは親父なんだけど、城内警備の隊長だからそんな暇はないだろう。 よって除外。
なので、イチバンあり得るのはマリエルさん……ダジャレじゃないぞ? いつものパターンからして、その確率が最も高い。
大穴でトゥキおにーさんが派遣されてくるケースがなきにしもあらずだが、あのヒトも今日は忙しいハズだ……って、いつもか。
アルヴィちゃん本人に至っては、これから公衆の面前に姿を現す公務があるワケだし。
ただ、あのお方がそんな「普通」で済ませてくれるのか――イヤな予感がしてならない。
「いくらなんでも、それは考えすぎじゃない?」
「……世の中にはね、『イヤな予感ほどよく当たる法則』というものがあるんだ」
「そ、そうなの?」
エミーちゃんの可愛らしい顔が不安に曇る……っと、いかんいかん。 どうなるにせよ今更遅いし、なんだかんだで結果オーライにしてくれる点では聖母様のことも信頼している。 ブレーキ役のマリエルさんもいるしな。
ほとんど無意識に手を伸ばすと、エミーちゃんは素直に目を閉じて頭をなでられてくれた。
人前でこういうことをすると嫌がる……というかすごく恥ずかしがるんだけど、俺がいるのは誕生日席なので、テーブルが陰になってエミーちゃんの姿の大部分はみんなから見えなくなっている。 だから、だろうな。
「ま、なるようになるさ」
俺はエミーちゃんの頭から手をどけると、笑みを浮かべながら入れてくれたお茶に口をつけたのだった。
「――想像の斜め上だったか」
迎えが来たとということで、みんなで外に出たところでの……俺の第一声。
「初めまして、王族警護隊のマリエル・フォートリエと申します」
スーツ姿で微笑むキレイなお姉さん――マリエルさんに、マティさんとリック君があっけに取られている。
「ほげぇ~……♪」
「お、王族警護って……はっ!? こらリック、しっかりしなさいっ!」
「ホゲッ!?」
肩書きに気づいて我に返ったお姉さんが、弟くんにエルボーを食らわせてから頭を掴み、地面に叩きつけんばかりの勢いで下げさせて自分も九〇度に腰を折り曲げている。
「し、失礼を致しマシたっ!」
「くすくす……頭をお上げください。 たまたま私の手が空いていただけですから、お気になさらないでくださいね」
微妙にイントネーションのおかしいマティさんに、マリエルさんは優しく肩に手を添えて頭を上げさせ、誰もが安心するような笑みを見せている。
無論マリエルさんの言ったことは方便だし、そもそも本当であったとしても、オルスターマイナを使いっ走りにさせられる人なんぞいるワケもない。 ……王族や聖母様親子を除いて。
で、問題なのはその隣にいるもうひとりのお姉さんだ。
「んふふふ……私はアイリーンというの。 よろしくね?」
「……」
ま、まさかのご本人が来るとは……。 しかも(仮名)さんで。
マリエルさんとうり二つな容姿と服装、まとう雰囲気は対極的に怪しさ全開であった。 ショタお姉さんといい勝負である。
この国では似たもの兄弟姉妹はわりと見かけるため、ブランシェ姉弟は特に疑問を持つことなくわりと普通に挨拶を交わしていた。 俺を除き、唯一正体を知っているハズのお袋も「よろしくお願いいたしますわ~」と、のんきにお姉さんコンビに挨拶をしている。 さすがだ。
ところで……まだ式典まで時間はあるとはいっても、来ちゃってもよかったのか?
そう思っていると、やはり読み取ったらしい(仮名)さんからテレパシーが飛んできた。
《んふふ……心配は無用だ。 無論、式には出るつもりでおるし、身代わりも置いてきたのでな》
《み、身代わりって》
送られてきたイメージに絶句する。
コレはもしかしてリアルタイムの映像なのか、聖母様の部屋に入ってきた俺の知らない誰かが、今の俺と同じように絶句している姿も映っていた。
あまりにも似ていない「身代わりさん」は……全然身代わりになっていなかった。
体格や性別の違いは、カツラだけじゃどーにもならないと思うんだ……。
俺は心の中で手を合わせ、「後でなんとかして大好きな妹に会わせてあげるから、頑張ってください」とエールを送ったのだった。
「アイリーンさんって、本当にマリエルさんによく似ているわよね」
「……まあね」
静かに合掌を終えた頃、初めて仮名さんの姿を見たエミーちゃんが、俺の隣で感心したように呟いた。
まあ、そのように似せてるからな。
「んふふ……いい子達ね」
同じく初対面の幼なじみーズ二人も、彼女に挨拶をして頭をなでられていた。
「えへへーっ」
わん子ちゃんはわずかに小首を傾げていたが、ニコはとても嬉しそうだった。
魔力をまったく感じないという違和感満点の(仮名)さんだが、既に俺という前例がいるのであっさりと溶け込み、そして出発となった。
なんと、車を手配してくれたらしい。 しかも公用の自動車を二台もである。 とはいっても黒塗りではなく、前にるー君に乗せてもらった自家用車と同じ幌馬車タイプである。
なんでもパレードや式典の警備やら何やらで、馬車よりもこっちの方が手配しやすかったらしい。
俺とお袋とで決めた分乗案に多少の疑問が上がったものの、俺の「歳の近いものどうし、打ち解け合うにはちょうどいい機会だろう」という趣旨の言葉に納得してもらい、ぞれぞれの車に乗り込んだ。
「んふふふ……私も打ち解けたかったわ?」
「はいはい、僕と打ち解け合おうねー」
残念そうなセリフとは裏腹にニヤニヤしている(仮名)さんの隣、助手席に俺は腰掛けてひざの上に我が娘を置いた。
あと二人ずつ、二列ある後ろの座席には、お袋とエルネちゃんだけが座っていた。
他はみーんな、マリエルさんの方である。 このお方が何をしでかすか分からん以上、このメンバーがベストであった。
「……ところで、免許あるの?」
「大丈夫よ」
俺の疑問に、仮名さんはにっこりと微笑んで見せた。
で、その種明かしをしてくれる。
《我が運べば、そんなもの必要なかろう?》
《やっぱりか……》
要するに、リソ君をミューティレートするニアちゃん同様、俺達を車ごと「自力で」運んでくれるらしい。
「せめて地面を走ってよ?」
「んふふふ……分かったわ」
後ろでエルネちゃんが笑っているけど、俺からすれば決して冗談ではなかった。
幌越しにも聞こえてくる賑やかな街の様子。 窓代わりのスリットを開いてみれば、大通りの左右にたくさんの人々が歩いていた。 警備をしている保安隊の姿もチラホラと見かける。
屋台や商店などに並んでいる人達も少なからずいたが、その多くは車の進行方向とは逆に向かっていた。 マリエルさんの運転する車の後に続き、俺達の車も人の川をさかのぼるようにして進んでいく。
後ろでもエルネちゃんがスリットを開き、外の様子を見てお袋と楽しそうに話している声が聞こえてくる。
「あ、こっちから行くんだ」
大通りから途中で逸れ、車が知らない道に入ったところで俺が呟く。
すると、隣の運転……していない運転手さん(仮名)が疑問に答えてくれた。 ハンドルの代わりに、彼女は俺達の愛娘を両手に持って遊んでいる。
「ええ。 正門の方は車では入れないから、裏門に回るのよ」
「ふーん」
仮名さんは、ニアちゃんのおしりの付け根の上にある背筋のくぼみ辺りに人差し指を立て、ヤジロベエのように乗せるとふーっと息を吹きつけた。
のけ反った我が娘は、長い碧の髪を垂らして指を軸にくるくると回り始める。
「ふーっ、ふーっ」
「あぁあぁあぁあ~♪」
何とも斬新な子供との遊び方だが……ま、本人が楽しそうだからいいか。
真っ直ぐ進んで区画を越えるにつれて、だんだんと大きくなっていく周囲の家々。 この辺はたぶん二等区だな。
さすがに住宅街とあって、城に近づいているハズなのに人通りは少ない。 まあ、既にパレードが始まっている時間だというのもあるんだろうけど。
ちなみにニアちゃんは、俺と亀井さん――じゃないや。 仮名さんの二人で差し出した指を使って、段違い平行棒の演技をしていた。
……けっこう多才だよな、この娘。
「さっきの道を右に行けば、マリエルの家があるわよ」
「ふーん。 ……えっ」
段違い平行棒なのになぜか鉄棒技であるコバチを繰り出したのを見てビックリしていると、いきなり横からビックリ発言を聞かされて指が震え、我が娘が俺の指をキャッチし損ねた。
しかしニアちゃんは落ちることなく、空中をバタ足で泳ぐと無事に俺の指をキャッチし、何事もなかったかのように演技を続ける。
うむ、人類には不可能なZ難易度の技だな……じゃなくって。
「い、いきなりナニ言うのさ……」
「んふふふふふ」
思わず視線を右に向けてしまったが、既に通り過ぎているのはもちろん、スリットが閉じているので何も見えない。
あまり私生活の想像できないロイヤルメイドさんだけど……そりゃあ、家くらいあるよな。 うん。
やがて巨大な城壁とそれを取り囲む堀、それからたくさん警備の人達が見えてきて、大きな裏門でチェックを受けた俺達の車は城の敷地内へと入っていく。
なぜか俺の御使いの証を出せと亀、じゃなくて仮名さんに言われたのでペンダントを見せたが……一発OKだった。 さすが御使いだ。
城の裏側はわりと広々としていて、あちこちに小さな建物も見える。 実は、王族の方々や今俺の隣にいるお方の住んでいる館もこっち側だ。
道は石畳で舗装してあり、ぽつぽつと木も植えられているが芝地が多く、まさに庭園か公園といった風情である。
「それでは、私は用事があるから失礼するわね……んふふ」
道の途中で車を降りると、引率をマリエルさんに任せた仮名さんはそう言って、背中越しに手を振りながら去っていった。
その先には、特に警備の厳重そうな館があるんだけど……それが何なのかは、みんなには言わない方がいいだろう。
「それでは、こちらです」
背後で、仮名さんに気づいた女性兵士さんが慌て始めたのをさり気なく隠すように、スーツ姿のマリエルさんが俺達に声をかけて石畳を歩き始める。
合流したみんなは初めてのお城にかなり緊張した様子で、揺れるマリエルさんの青髪と、その肩にちょこんと座っているニアちゃんについて歩いていく。
「こ、ここがお城なんだ……」
「すげえ……」
正門側にある大広場は、今ごろは式典の見物客と兵士さん達でいっぱいなのだろう。 しかし、恐らく一般人は立入禁止なんだろうこの近辺は静かで、ところどころに警備の兵士さんが立っているくらいだ。
俺とエミーちゃんが歩く後ろで、鹿耳姉弟が震え気味なひそひそ声で感嘆しているのが聞こえてくる。 かなり緊張しているようだ。 ちなみに俺の前にはマリエルさんがいて、最後尾はお袋とエルネちゃんだ。
ニコもやっぱり緊張しているようで、声も出さずロボットのようにガチガチになっていた。 その隣のくりむちゃんも、不安げな黒い瞳を俺に向けてきたんだけど……。
「コイツのこと、頼むな」
「ん……」
それでもニコのことを気にかけているのを見て、俺は将来の「お姉ちゃん」に任せることにした。 優しく頭をなでてあげてから、マリエルさんの真後ろへ。
お袋はもちろん、ココに来たことのあるエルネちゃんもみんなの後ろについてくれると言うし、だったら俺は前に出て落ち着いている様子を見せた方がいいだろう。
それに。
「……」
実は、俺の右を歩いているエミーちゃんもガチガチだったりする。 平気そうに見えるのは、顔が固まっているからだ。 車を降りて俺を見つけるなり離さない手を握り返してあげると、やっと少しだけ力が抜けた。 笑顔を作る余裕はまだないみたいだが。
帯剣していたり手に槍を持っていたりする見回りの兵士さんを見るたび、エミーちゃんはもともと伸びている背筋を更に伸ばして軍式の敬礼をしている。
先頭にマリエルさんがいるからか、表情を引き締めてビシッと敬礼していた兵士さんも、俺達――特に敬礼をするエミーちゃんを見ると、目元を緩め答礼してくれた。
そしてまた、別の兵士さんが――。
「あ」「あっ」
俺とエミーちゃんの声が、ほぼ同時に重なる。
なんか見覚えのある姿形だなーと思っていたら、なんと親父だ。 横には部下らしい人をひとり従えている。
「よう」
腰にサーベルを帯びた軍服姿の親父は、まず先頭のマリエルさんにキリッとした敬礼をした後、俺達にカッコイイ笑みを見せ手を上げて挨拶してきた。
部下の人が怪訝そうな顔をしていたが、親父が小さな声で何かを言うと納得したような顔になった。
「パパ」「おじさま……っ」
後ろのみんなも気づいたようで、次々に驚きの声と挨拶が始まる。 みんな、急に元気になったな。
親父は立ち止まった俺達一行に近づいてくると、部下の人と一緒に再び一糸乱れぬ敬礼を披露してくれた。
「運よく会えたな……ようこそ、フォルクバング城へ」
「おじさん、かっけー……!」
リック君は鹿耳を上下にぴくぴくさせながら、目を輝かせている。 隣のお姉さんも同様だった。
その後ろにいるニコも「うわっ、かっこいいー!」と喜んでおり、くりむちゃんもパッと見のリアクションこそ激しくないが、黒い瞳をキラキラさせて大きなしっぽを激しく振り回している。
「俺達は職務中につき、これで失礼するよ。 皆、楽しんできてくれ」
運がよかったなんて言ってるけど……親父はこのタイミングを狙っていたんじゃないかな? 城の横をぐるっと回れるこの道は相当に長いから、ある程度タイミングを合わせれば途中のどこかで会えたと思うし。
というか、そもそもここは城の中ではない。
親父は道の端に寄って俺達とすれ違いながら、感激している四人の内、お年頃であるマティお姉さん以外の三人の頭を順番になで、最後にエルネちゃんやお袋と視線を交わしてからそのまま通り過ぎていった。
ところで部下の人がさり気なーく、だが見ていれば分かる程度にはチラチラとお袋を見ていたのは……ま、仕方ないだろう。
「ぁ……」
「よしよし」
ちなみに、親父になでてもらえなかったエミーちゃんがちょっと残念そうにしていたので、代わりに俺がなでてあげた。
式典の方はというと――俺はそれなりに楽しめたが、みんなには多少退屈なものだったかもしれない。
招待客にはイスが用意されていて、そこそこ良い場所も取っていてくれていたものの、やはり周りは大人ばっかりで見晴らしが良いとは言いがたかったし。
城の正面広場の周囲は俺達を含んだ観客がギッシリで、皆の視線の集まる中央部の城に近い方にはビシッと隊列を組んだ親衛隊や楽団が並び、それらを従えるようにしてこの国の偉いさんが何人かいた。 久々の国王様と王妃様も、遠目ながら見ることができた。
その近くには、親衛隊のとは違う軍服を着たキレイなお姉さんが何人かさり気なく控えていたけど……きっと、マリエルさんの同僚さんだろう。 一人一人を注視するとビックリするくらいに美人なのに、遠目にすると周囲に溶け込んでまったく目立っていないのがさすがであった。
現にマリエルさんだって、俺の隣で普通に他の観客に混じって座ってたしな。
やがて楽団の演奏が始まると、城とは反対の正門側から、色鮮やかな巻き布風の衣装をまとったヒミングレアの使節団がやってきた。 観客は拍手と歓声で迎えた。
しかし使節「団」というわりに、百人いるかどうかというくらいに少なかったのは……やっぱり人口の少ない国だからだろうな。 しかも、さまざまな姿をした精霊がその半分近くを占めていたし、そもそも護衛の兵がほとんど見られなかった辺りがさすがである。
つまりは、使節団そのものが強大な戦闘力を有しているってコトだからな。
ハデだったことといえば、アルヴィちゃんが巨大な半透明の翼を広げて上空から降り立ったときくらい。 それも、スピーチ自体はごくごく普通であった。
実は、聖母様の登場シーンは式典のちょっとしたお楽しみになっている。 本人は「考えるのが面倒だ」と愚痴っていたが……今回はニアちゃんの羽を参考にしたようだ。
俺の肩の上で我が娘が喜んでいたぞ。
だけど、式典全体としてはやはり「開会式」的なお堅い雰囲気で進み、そしてつつがなく終了した。
城の正門から出てきた俺達は、そのまま歩いて王城前の大通りにやってきた。 パレードの終わった通りは通行規制が解除され、今は露店がズラッと並び歩行者天国のようになっている。 ものすっごい人混みである。
昼の鐘も鳴り終わり、小腹の空いた俺達はこの辺りで露店めぐりをしながらおやつを買って食べよう、という趣向なのだ。
いよいよ、朝にもらったお小遣いの出番である。 ニコとわん子ちゃんも多少はお金を持って来ていたが、念のためお袋からもお小遣いをあげていた。
「それじゃあ、行きましょう~♪」
「いやっほーい!」
「いえーい!」
お袋の号令に、りっくんとニコが仲よく拳を突き上げて大声で返事をした。
なお、さすがに全員がひとまとまりになって歩くには混み合いすぎているため、子供達は男女に別れることになり、それぞれお袋と……なんと、マリエルさんが保護者役としてつくことになった。
なんでも、今日は俺達が無事に帰るまで一緒にいるようにと言われているそうだ。 そのため、エルネちゃんも女の子グループに混じってマティさんと楽しそうにお喋りしていた。
「それじゃあ、お願いするね」
「はい、お任せください」
にっこりと微笑んでくれるマリエルさんに声をかけ、後ろでワイワイしている女の子達にも手を振って別れる。
なお、ニアちゃんはいまだ城内に残ったままだ。 お母様のせいで散々な目にあった、お兄さんの労をねぎらってあげるためである。
「早くしろー!」「ジャス君、早くーっ!」
「あいよー」
さっきからしきりに俺を急き立てる男連中に返事をし、俺はにこにこしているお袋の横に並んだ。
さーて。 メイドちゃんズへのお土産、お袋と相談しながら買うとしよう。
「あ……おこづかい、なくなちゃった」
ニコが自分の小銭入れを開いて、しょんぼりとしている。
秋休みのお手伝いでそれなりに小遣いをもらっていたらしいニコだったが、お祭りで何かと値段が上がっているので、あっという間に使い果たしてしまったらしい。
「仕方ないなぁ。 ほれ、これはお前が食べな」
「やったー! ありがとジャス君!」
買ったばかりの俺の串を渡してやると、ニコは無邪気に喜んでにぱーっと笑った。
憎めない奴だ。 食べた後の串は、ちゃんとお店の人に返すんだぞ?
……もちろん、受け取った串代は返してもらうがな。
「ぐあぁぁ……全然足りねぇ! こんなことになるなら、もっと勉強すりゃよかったぜ……」
後悔先に立たず。 年齢的にもニコを超える食いしん坊のリック君は、まだまだ足りないらしいお腹をさすりながら肩を落とした。
すると、我が家の優しい金色の女神様がご降臨なされた。 その美貌と、ゆったりめのワンピースの上からでも分かるスタイルの良さに、周囲の男性達もデレデレである。
「うふふふふ~。 リックちゃん、これから頑張るって約束してくれるなら、お小遣いあげるわよ~?」
しかし、タダではあげない。 この辺はしっかりとしているお袋であった。
「はいはいはいはいっ! やるやる、明日からやるー!」
調子よく元気に返事をするリック君。 にしても、この期に及んでもキッチリと「明日から」と言うあたり、マジで筋金入りだよな……。
だが、そんな言い訳はお袋には通じない。
「だーめ。 今夜から、ね~?」
「ぐっ……は、はい」
「じゃあ、あげましょう~♪」
「やったぜええええーーーー!」
追加のお小遣い――ただし実際には前借りをもらってはしゃぐ彼の隣で、お袋が俺に向かって優しく微笑む。 ……ああ、もちろんですとも。
今夜は、そう簡単には寝かさないぜ?
「うふふふふふ~♪」
「ふっふっふー」
串をほおばるニコと、さっそく同じ串を買いに走るエリック君の後ろで、俺とお袋は楽しく笑い合う。
何かと騒がしいひとときになったが、とても楽しい使節祭の初日となったのであった。




