527 旅をしない子もかわいいのです
季節が移り変わるように、人もまた変わってゆく。
「ふぅ」
開けた窓から、朝のぽかぽか陽気が降り注ぐ。 しかし頬をなでる風は俺に若干の涼しさを感じさせ、そばにある桜の木の葉をサラサラと揺らすと薄い雲のたなびく空へと消えていく。
風の行方を目で追うと、トンボのような羽虫が風にあおられてわずかに上空でフラついていた。 だけどすぐに姿勢を立て直し、直線的な軌道で風向きとは違う方へ飛び去っていった。
今年の夏は、残暑を置き去りにして一気に秋めいてしまった。 ならば、今年は俺の周りの人達も大きな変化を迎えるのだろうか。
そして俺は、いつしか置き去りにされる側になりはしないだろうか。 あの虫みたいに――。
「お兄ちゃん、みんなが来たの」
「……うん。 今行くよ」
そんな予感が、俺の胸裡をざわめかせた。
――病み上がりの学校に続き、今日は一週間ぶりの勉強会の日である。
もうすぐ学校は休みに入るけど、この勉強会とは関係がない。 みんなと顔を合わせるのが楽しみだ。
「おいーっす」
「おいすー!」
急いで玄関へ行き、やってきた幼馴染みーズを迎えてすれ違いざまに手と手を叩き合わせる。
まず先頭にいたニコがバッチーンと大きな音を立てて俺とタッチし、続いてセーレたん、エプロン姿のエミーちゃんとタッチして廊下の奥へと歩いていく。 二階へ上がるのは、手洗いとうがいをしてもらってからだ。
ちなみに妹様はタッチの瞬間に少し手を引いて衝撃を和らげ、エミーちゃんは堂々と受けて立ち微動だにしなかった。
……俺はまだ少しヒリヒリしているが。
「だいじょうぶ?」
それでも平気な顔をして手を掲げると、次のくりむちゃんが心配そうに俺の手を両手で包み込んでくれた。 やや体温の高いわん子ちゃんの手は温かく、柔らかい。
そして乾燥とは無縁そうなすべすべとした感触で、優しく俺の手を擦ってくれた。
「あ……うん。 ありがと」
「ん♪」
俺が背の高いくりむちゃんを見上げてお礼を言うと、黒いふさふさとした耳としっぽを揺らし目を細めて微笑んだ。
下の子が産まれるのはまだ先だというのに、早くもお姉ちゃんらしい雰囲気が出てきたなあ。 レギンスにスカートという組み合わせも女の子らしい。
「お母さんは元気?」
「ちょっとだけ……」
「そっか」
手をもうひと擦りされてからすっと温もりは離れていき、次に女の子どうしでの微笑ましい両手タッチが始まった。
で、その次はあのコとタッチ。
「ふふ。 ジャス君、おはよう」
「ああ、おはよう」
今日はフォーマル系のカーディガンを着て、ちょっとイイところの坊ちゃん風ないでたちをしているるー君。 実際にイイところの子ではあるんだけど。
俺よりもひと回り小さいその手と軽く重ねると、お互いに意味深な笑みを浮かべた。
無論、この前の試験のことだ。
「お姉さん、喜んでくれた?」
「うん」
るー君が描陣試験を受けたのは、誕生日を迎えたリティシアお姉さんへのサプライズプレゼントも兼ねていたらしい。
「だから、合格してよかった」と本当に嬉しそうに笑っていたのを、今でもよく覚えている。
……あのときは凶悪に可愛い黒ゴス姿だったから、思いっきり心臓が跳ねたぞ。
「『私と同い歳で通っちゃうなんて、やるじゃない』って」
「……そ、そっか」
やっぱり、あの女性も子供のときに受けてたんだな……。 でもたぶん、あの人は六歳の誕生日とほぼ同時に取ったんじゃないかと思う。 そんな気がする。
るー君は朱い瞳に力強い輝きを宿し、自信満々だけどイヤミのない笑みを浮かべ、リティシアさんのマネをしてそのときの様子を再現してくれた。
姉妹なだけあって、本当にソックリだった。
一緒に来たリリちゃんとも手を合わせ、ついでになでなでもさせてもらってから俺達は二階へ。
リリちゃんは我が娘もいるリソ君の部屋へ入り、今ごろは向こうは向こうで楽しくお勉強でもしているのだろう。 引率はいつも通りエルリアさんだったが、今日はお休みのマールちゃんと少しお出かけをすると言っていた。
「そこは……うん、そう」
「お、できたー」
俺から見てテーブルの斜め前にいるニコが、横からエミーちゃんに教わりながら問題を解き、嬉しそうにしている。 ちなみにテーブルは、いつも通りに予備のものを繋げて長くしてある。
みんなの勉強も初学校の内容の終わりが見え始め、ややまったり気味になっていた。
全員が全教科の内容を終えたらすぐに高校課程には行かずに、ひとまず卒業試験と高校受験の対策をする予定だ。 秋冬はそれに費やして、高校の勉強はその後からでも良いだろう。 みんな高校には行きたいと言っているから、ぜひとも全員で進学したいもんな。
もちろん志望は、エルネちゃんの母校でもある国立第七高等学校である。
「人類、とーち、の……原則、は――」
大きな獣耳をぴくぴくさせながら、わん子ちゃんがニコとは反対側の斜め前に腰を下ろして熱心に社会の本を読んでいる。
なお「人類統治の原則」というのは、「ヒトの国はヒトが治めるべきものであって、精霊は必要以上に手を貸してはならない」――という、大昔の布告を明文化したものだ。 この原則により、一部の例外を除いた政府機関のトップは人類種族でなければならないと定められている。
寿命を持たない精霊が、ほぼ永遠に等しい時間によって得た圧倒的な量の知識と経験を振りかざすことで、ヒトを押しのけて国を実質的に乗っ取ってしまうことを防ぐためである。
初めて知ったときにはいたく感心したものだが、その布告をしたのが「例のお方」だと知ったときには……。
『へー、当時はマトモに仕事してたんだなあ』
と思ったことはナイショである。
るー君は何やら魔術系の専門書を持ってきたようで、ちょっとした武器になりそうなそれを開いて読んでいて、マイシスターが横から興味深そうに覗き込んでいる。 ……俺も後で見せてもらおう。
俺は俺で卒業試験対策の問題を作っているところで、多少は声が聞こえてくる程度の静かすぎない空気に包まれて鉛筆を走らせていた。
――お昼も近づき、みんなの集中が途切れ始めてお開きムードが漂い始めた頃。
「みんなは、秋休みにどこかに行くの~?」
この時期にはありふれた話題ではあるのだが、その声の主に内心驚き俺は顔を上げた。
なんと、テーブルの向こうでセーレたんが自分から話をみんなに振ったのである。 その顔は明るく、セスルーム行きをポジティブに受け止めていることがここでも窺える。
「うん、それなんだけど」
妹の成長を改めて喜んでいると、そのハニーと仲良く隣どうしでくっついていたるー君が口を開いた。
朱い瞳がみんなを見回し、最後に俺の目を捉えてロックオンされた。 俺は鉛筆を置いて姿勢を正す。
「ボクね、試験に合格したごほうびにって、姉さまと一緒に街を回ることになったんだ」
「へ?」
街を回る? まさか、合格祝いに王都内をパレードするワケではあるまいな?
というのは七割方ジョーダンだとしても、ニュアンスからしてその「街」というのは、どうも衛星都市を指しているような感じである。
リティシアさんと一緒ということは、たぶん仕事で回るついでに連れて行ってあげる、ということだろうし。
「そうなの~!?」
俺も含めた全員が目を丸くする中、セーレちゃんは嬉しそうにはしゃぎながらるー君の両手を取った。
毎月セラさんとこに飛んで行っている俺が言うのもなんだけど、特に王都に住んでいるとよほどのことがない限りは他の街に出ることはない。 使節祭なんかで、逆に衛星都市からこっちに人が来ることはよくあるけど。
まして街めぐりだなんて、なかなかできることじゃない。 日本で言うなら、豪華客船に乗って国内の各都市へクルージングの旅って感じじゃないかな?
海風にボブカットの髪とうさ耳を揺らするーちゃん(なぜかワンピース姿)を思い浮かべていると、ニコが身体を前に乗り出してるー君に質問を投げかけた。
「それって、リリちゃんも一緒なのー?」
「うん」
「……そっかー」
浮かせたお尻を絨毯に落とし、ニコは背中を丸くしてテンションを落とす。 そりゃまあ、リリちゃんだけお留守番ってワケにはいかないもんな。
寂しさのあまり涙目になっているリリちゃんを想像すると、それだけで胸が痛くなってくるぞ……。
続いてエミーちゃんが口を開く。 それは俺も気になっていたことだった。
「だけど、るー。 それって、ひょっとしたら秋休みをほとんど全部使ってしまうんじゃない?」
「うん。 ……だから、たぶん秋休みの間はここに来られないと思う」
語尾を弱めながら、申し訳なさそうな上目遣いで俺を見つめるるー君。
仮に、ノンストップで馬車を乗り継いだとしても二週間くらいはかかる道のりだろう。 実際にはお姉さんの仕事の日程に合わせて回るんだろうから、そうすれば一ヶ月以上かかることも十分にあり得る。
作っている最中のテキストに目を落とす。 ……ま、帰ってからでも遅くはないだろう。
「そっか……でも、街めぐりなんてスゴイじゃないか。 僕らのことは気にしないで、行っておいでよ」
俺の言葉に、落ち込んでいるニコも他のみんなもうんうんとうなずいてくれる。
きっと、るー君にとってもいい経験になるハズだ。 だからリティシアさんも誘ったんだろう。
お姉さんとしての心遣いに、思わず頬が緩む。 るー君もうっすらと口元に笑みを浮かべた。
「……うん。 行ってくるね」
輝きの増したような気がする朱い瞳が、俺から周りのみんなへ、そして手を繋いでいるセーレちゃんへと一周する。 ちょっと寂しくなるが、仕方ないな。
と思っていると、るー君と見つめ合うマイシスターが繋いでいる両手を上下に振りながら嬉しそうな声を上げた。
「わたしもね、秋休みはひとりでセラさんのおうちに行くんだよ~♪」
「えっ?」「ほへ?」「ふ?」
すると、テーブルのあちこちからキーの高い声が三連発。 るー君とニコと、くりむちゃんだ。
そういや……セーレちゃんもセスルームに行くって、まだ他のみんなには言ってなかったな。
エミーちゃんには今朝、アナさんと一緒に知らせたけど。 二人とも、ものすごくビックリしていた。
朱藍黒と、色とりどりな丸い瞳と開いた口が俺に向けられる。
……ニコはちょっと、口を開けすぎだ。 奥まで丸見えじゃないか。
「うん、そうなんだよ。 なー?」
俺はちょっぴり胸を張り、大きくうなずくとセーレちゃんにアイコンタクトを送った。
みんなの視線も一斉に動く。
「はいっ。 セーレ、お兄ちゃんのために頑張りますっ」
るー君の手を離し、セーレちゃんはきゅっと握った自分の両手を胸に添えて軽く肩を上下させた。 窓からの光に蒼い瞳をきらめかせ、かすかに小首をかしげて微笑んでいるのがこれまた可愛らしい。
また丁寧語になっているが、俺の力になってくれるという意気込みはしかと伝わってくる。
「うむ」
再びみんなの視線が戻ってきたので、俺はニート君よろしく腕を組んで貫禄いっぱいに首を上下させた。
やがて、誰からともなく拍手が起こった。
「……すごい」
「す、すごいやー!」
「セーレ、がんばった」
るー君達が次々と妹様に賛辞を贈り、俺はいっそう嬉しくなって首を動かす。
どうも、拍手がセーレちゃんよりもやや俺の方に向いているような気がするけれど、当のハニーは天使のごとくにこにこしているので俺も気にしないことにしよう。
「よく、セーレがうんと言ったよね……」
「うむ、セーレちゃんはエライよな!」
「それは……そうだけど、そうじゃなくって」
「はっはっは」
エミーちゃんはまた苦笑いしているが、俺なんかよりも決心を固めたハニーの方がエライのです。
――ところが、予定外のことはこれだけではなかった。
「あ、あのねー」
「ん?」
拍手が小さくなってくると、今度はニコが遠慮気味に俺達に声をかけてきた。
やみかけだった拍手は完全に止まり、俺達はニコの顔を見る。
「ホントはぼくも……お休み中は、いっぱいうちのお手伝いをしてって言われてるんだ」
「そうなのか?」
「うんー」
「使節祭で、忙しくなるからって」
「……あー、なるほど」
るー君とこと一緒で、こいつのところも商売してるもんなあ。 かき入れ時ってヤツか。
このままのペースで勉強を続けていけば……と思っていたんだが、家の都合となるとムリして来いとは言えないよなあ。
「まあ、だったら仕方ないよな……。 でも、時間ができたときは遊びにでもいいから来てくれよな? ムリしなくていいからさ」
「うん。 ごめんね」
「気にするな」
他のみんなもそうそうと言い、エミーちゃんもニコの肩を叩いて俺と同じように励ました。
あまり勉強を好きではないニコだけど、なんだかんだ言いながらもやることはやるヤツなのだ。 ちゃんと家でも復習しているみたいだし。
だから、敢えて勉強しろとは言わない。 頑張れよ。
俺も席を立ち、ニコの藍色の髪をくしゃくしゃにしてなでてやった。
「……」
元の場所へ戻ろうとしたら、次はくりむちゃんが俺の顔を見上げながらおすおずと小さく手を上げた。 耳がへろーんと垂れて、まるで普段のるー君みたいになっている。
まさか、くりむちゃんもか?
「ええっと……どうしたの?」
「わたしもね、できたら、お母さんのお手伝いしたいなって」
「おおぅ。 ……そっかあー」
お母さん、大事な時期だもんなあ。 わん子ちゃんはお母さん大好きだし、これから産まれてくる子のお姉ちゃんとしての自覚も出てきたところだ。
勉強も大事だけど、そっちの方がもっと大事だよな……。
ぽこぽこと胸に穴が開いていくような気分になるが、仕方がない。 むしろ、みんなも成長してるんだと喜んであげるべきだ。
「ちょっと寂しいけど……その方がいいと僕も思うよ。 ココには、もしも時間があったら遊びに来てくれればいいから。
それよりも、お母さんのこといっぱい助けてあげような」
「……ん」
こくんとうなずく、くりむちゃん。 耳は垂れたままだししっぽも絨毯に横たわったままだけど、その目の光と首の動きはしっかりとしていた。
同じ「お姉ちゃん」として共感したのだろう。 セーレちゃんとるー君がひざを立ててくりむちゃんに近づき、頑張ってねーと頭をなで始める。
俺もテーブルを回り込み、柔らかい黒髪をなでなでしてあげた。
「はあ……」
おやつを食べ終わり、リリちゃんやみんなと別れを惜しみながらもバイバイした後。
俺はひとりベッドに腰掛け、予備のテーブルが片づけられ、いつもの小さなテーブルだけがぽつーんと残っているのをただ眺めていた。 日がだんだんと短くなり、足の短いテーブルからやや長めの影が絨毯に伸びている。
セーレちゃんもエミーちゃんも下でお手伝いをしているし、ニアちゃんは遊びに行くと言って出掛けてしまった。
リソくんも庭でお袋に遊んでもらっているようで、楽しそうな親子の声が窓から聞こえてくる。
「俺は、どうすっかなあ」
またため息が漏れる。
別に、本当にやることがないわけじゃない。 鈍くなったサブ思考を回してやれば、箇条書きでわらわらとリストアップされてくる。
いつも時間がないからと後回しにしていたこともあるし、こういうときこそ絶好の機会なのに。
……でもなんか、身体から力が抜けていく。
「あーあ」
午後の陽気を正面から浴びながら、俺はベッドに仰向けに倒れた。
たまにはサボって、このまま夕飯まで寝ようかなぁ。
明日は学校の最終日だし、のんびりと身体を休めるのも決して悪くはない。
『……ジャス』
「んー?」
上下逆さまになった部屋のドアを見つめていると、控えめなノックと声が聞こえてきた。 誰なのかは聞くまでもない。
入室の可否を問われ気の抜けた返事を返すと、かちゃりとノブの音が鳴ってドアが開く。 その隙間から、逆さまのエミーちゃんが遠慮がちに顔と身体を半分出した。
今朝と同じエプロンを着けている。
「ジャス、大丈夫……?」
「うんー」
ひっくり返ったままじゃさすがに悪いと思い、身体を起こして振り返る。
アレからいつも通りに振る舞ってたけど、みんなを見送ってから部屋に戻ってくる前、エミーちゃんにはため息をつきながらトイレから出てきたのを見られちゃったからな。
「みんな、心配してたよ?」
「……おおぅ」
なんてこった。 バレバレだったのかよ……。
俺は観念して肩をすくめた。
「あー……ゴメン!
いやね? セーレちゃんばかりか、みんなとも会えないのかって思ったらさ、ちょっと力が抜けちゃって」
あははははーと笑う。 バレてると分かってしまうと、逆に少し気が楽になった。
みんなには余計な気を使わせちゃったなあ。
「そうなんだ」
「いやー、ごめんごめん」
頭をかきながら笑うと、エミーちゃんの心配そうな顔が少し緩んだ。
まったく、こんなに俺のことを気にかけてくれる人達がいて、何が寂しいんだよなー? たまたま友達みんなの予定がかみ合わかった、ってだけなのにさ。
子供みたいな自分に恥ずかしくなり、俺は軽く笑い飛ばしてから一旦エミーちゃんに背中を向けてベッドから立ち上がろうとする。
……すると、背後から絞り出したようなか細い声が聞こえてきた。
『わ……わたしは、いるよ?』
「……」
再び振り返ると、部屋の中に入ってきたエミーちゃんがエプロンの裾を両手で思いっきり握り締め、顔を真っ赤にしていた。
瞬きを繰り返しながら見ていると、その顔がますます赤くなっていく。
「あ、あああああああのあのあのあの、え、ええっと……!」
しわくちゃになったエプロンから両手を離し、手のひらを俺に向けてわたわたし始めるエミーちゃん。 小刻みに首を横に振り、ちょっとクセのある長い髪が揺れる。
そんな可愛らしい姿に頬が緩みそうになるが、ここでニヤニヤしちゃうとからかうみたいなるよなーと思い、俺はできるだけクールな笑みを意識し口の端を吊り上げて見せた。
「……うん、その通りだ。 ありがとうな」
無難に笑えたかなー? と思っていると。
「ひぅ~~~~~~~~っっっっ!?」
エミーちゃんは身体を大きく震わせ、しゃっくりみたいな声を漏らしながら思いっきり息を吸い込むと、宙で握った両手で顔の下半分を覆った。
そして長い髪を広げて思いっきり後ろを向き、ドアも閉めずにそのまま出て行ってしまった。
「あ、あれ? なんか間違ってた……?」
聞いた方の俺もけっこう恥ずかしいセリフだったなーと思ったから、俺はエミーちゃんの勇気ある気遣いに心から感謝しながら、なるべくフツーに返したつもりだったんだが……。
しかしまさか本人に聞くワケにもいかず、俺は無意識に上げようとしていた手の行き場に困り、自分の髪をボリボリとかいた。
「お兄ちゃん、大丈夫……?」
「ああ、うん」
それから、ほどなくして。
セーレちゃんをはじめとして、チャロちゃんやリソ君を連れたお袋やアナさんまで俺を心配して次々に来てくれた。
元気をもらった俺は笑ってみんなにありがとうと言い、それから庭でリソ君と追いかけっこをして遊んだのだった。




