495 線を引いて、幕を引いて…
霊感商法ならぬ冷感掌包を開発したのはいいものの、翌日は普通に涼しかった。
《「もしかしたら、今日のお昼くらいから雨が降るかもー?」だってー》
いつもながら的中率のわりに自信がなさそうな天気予報をニアちゃんに受信してもらい、念のため傘を一本持って登校した。
確かに青空は灰色の雲に覆われたが、帰宅するまでに降り出すことはなかった。
これは、ハズレ……なんだろうか? うーん、微妙だ。
どちらにしても、途中で降られなくてよかった。
「よーし、特訓するぞー!」
「とーく?」
意気揚々と手を上げる俺に、ブラザーは絨毯の上にあぐらをかき、蒼色のつぶらな瞳を向けて小首をかしげた。 昼のおやつと触手を食べ、彼のスタミナは満タンだ。
俺の隣では、同じ色の瞳をしたお姉ちゃんが女の子座りのまま諸手を挙げて喜んでいる。
「わあ~い、特訓なの~♪」
「うむ」
俺は腕を組んで偉そうにうなずいた。 ニート君のマネだが、特に意味はない。
先週聞いていた通り、食いしん坊編集さんは仕事で来ず、親父もあさってに迫った人事異動の業務で休日返上の状態が続いている。 特に親父は、今月に誕生日があったんだけど……社会人は大変だ。
ニアちゃんも青空教室で遠出をしているようで、まだ帰ってきていない。
ということで、今日はリソ君に触手特訓をしようと思い立ったワケである。 今までは体調のことを考えて控えていたが、もう大丈夫だろう。
この天気のために家事もほとんど午前中に終わってしまっているため、アシスタントに触手特訓の第一人者であるセレスティア嬢にもお越しいただいた。
「わたしも、特訓したいなあ~」
「……ま、後でね」
「うんっ」
リソ君の部屋は比較的モノが少なく、更に今はテーブルとソファーを動かしたのでけっこうなスペースがあるが……。 さすがに六歳になった今、室内でセーレたんが特訓するには狭すぎる。 が、何か考えておこう。
とりあえずは、リソ君の特訓である。
「まあ、要するにだ……お兄ちゃんたちと遊ぼう、ということだな」
「あそうー?」
「うむ」
俺はリソ君の金色の髪に手を置きながら、さも満足げに笑みを浮かべてうなずいた。 アルヴィちゃんのマネが若干入っているが、やはり意味はない。
考えてみれば、この子には「遊ぶ」と言ってあげた方が分かりやすいな。 ニアちゃんとはよくハデな鬼ごっこをしているし、エミーちゃんもダンスの延長線上みたいな感じで格闘を教えているしな。
「まずはお姉ちゃん、リソ君にお手本を見せてあげよう」
「は~い!」
妹様といえば触手を避ける特訓だが、リソ君だとモノの喩えではなく物理的に食いつきかねない。 なので、普段から彼がやっているワンツーふぁんちー……じゃないや。 パンチから始めよう。
二人で立ち上がると、俺はセーレたんに向けて左右の手のひらを向けた。 俺とハニーは双子の兄妹だ、これだけで察してくれるだろう。
案の定、セーレお姉ちゃんは笑顔で首を縦に振り、ゆっくりと俺に近づいて――。
「ああ~ん♪」
「……」
自分のおムネを、俺の両手にくっつけた。
「いや、そうじゃなくって!?」
とっさに手を引こうとしたけど、そうするとセーレたんを身体ごと受け止めないといけなくなりそうな感じ。 ペンギンみたいに両手を下ろしたまま、ぐいぐいと押しつけてくる。
なので、俺は両手を肩にずらしてやんわりと押し止めた。 ちょっと残念そうな顔をされるが、そこはスルーしておく。
「ていうか、そんなのどこで覚えたんだ一体……」
「えっとね~。 レベッカちゃん」
「……」
やっぱりか。 可愛い顔とは裏腹にミョーなエロ知識を持つ、妹様の友達でクラスメートの仕業であった。
「そうじゃなくってだね……ほら、リソ君がいつもやっているパンチだよ」
「はあ~い」
緩やかに腰をくねらせながら、セーレお姉ちゃんは癒し系の笑みを浮かべる。 緩やかに金色の髪が揺れ、部屋の明かりが当たって複雑にきらめく。
ここのところはもっぱら勉強をするか稽古をするかで、こういったスローペースなお遊びはめっきりしなくなった。 だからか、かなり楽しそうだ。
俺の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「さあ来い!」
「にゃあ~」
猫みたいな声を上げながら掌底を繰り出す。 見た目は可愛い子猫ちゃんでも、突きはけっこう鋭い。
手のひらどうしがぶつかる音が部屋に響いた。
「おおー!」
わりと大きな音に、弟くんが目を丸くして拍手を始めた。
それを見て、お兄ちゃんとお姉ちゃんは目を合わせて微笑み合う。
「よし! ドンドンこーい」
「はあ~いっ!」
パントマイムのように手のひらをあちこちに動かすと、絶妙のタイミングでその場所に掌底が飛んできてパチンと見事な音を鳴らす。 どんなに適当に動かしても手のひらどうしはピタリとくっつき合い、音が曇ることはない。
リズミカルなクラップ演奏にリソ君は手を叩いて喜び、やっている俺達も楽しく手を合わせ続けた。
さすが俺とセーレたんである。
でも……?
「そいっ」
こんなとき、どーしてもフェイントを入れてイタズラしたくなるのが俺の癖。 思いっきり腕を伸ばし、しっかり手の届かないであろう斜め上に手のひらを見せる。
が、ハニーはそんなこともお見通しだったようだ。
「にゅ~ん」
ふわっと視界の下の方に白い花が咲いたかと思ったら、その中から白いおみ足が飛び出した。
そして、靴下に包まれた小さな足の甲が見事に俺の手のひらに届いた。
「おおおーーーっ!」
激しくおててを叩き、マイブラザーは喜ぶ。 スカートの中はギリギリのところで隠しきった、なおかつキレのあるハイキックであった。
その間にもクラップ演奏は続き、掌底の難しい場所には足の甲やスカートに覆われたももで応じてくる。
当然、拍手のような張りのある音は鳴らないが、布を挟んで叩く音は演奏に変化を与え音楽の幅が広がった。 スカートをひるがえし、楽しそうに手足を伸ばす彼女はチアガールのようだ。
身体を動かしてできた風を受け、波打つ金色の髪も楽しげに踊る。
「それ、それ、そーれっ」
「えへへへへ~♪」
手を出したところに当てる、ただそれだけの遊び。
なのに、どうしてこんなにも楽しいのか……。
とはいえ、このまま続けるわけにはいかない。
「わー! おねえー! おにーっ!」
無邪気な声援を受けながら、俺はお姉ちゃんと目を合わせ、その視線を声援の主にチラリと移す。
たったそれだけのアイコンタクトでも解ってくれたようで、俺が両手を下げると同時にセーレたんも手足を引っ込めた。 ひらひらの膝丈のスカートはももにくっつき、肩にかかった髪は軽く後ろに流すだけでキレイに整う。
一瞬だけ物足りなさそうな表情を見せたお姉ちゃんだったが、息を吐くとすぐに笑顔を取り戻し、弟くんの拍手に応えた。
続いて俺もリソ君に話しかける。
「ふぅ~。 ありがとうなの~」
「ま、こんなところだね。 さすがに蹴りは難しいだろうけど……って、言わなくていいか。
とりあえず、リソ君もやってみようか」
「やるー!」
目をキラキラさせながらバンザイをしたマイブラザーは、素早く立ち上がって早くも臨戦態勢だ。 三歳児ながら立派なファイティングポーズを取り、ワンツーを繰り出している。
俺の正面に立っていたお姉ちゃんはその場所を弟に譲ると、再び俺の隣へと腰を落ち着けた。 花のようないつもの嗅ぎ慣れた香りが舞い上がり、運動で少し高くなった体温が空気越しにかすかに感じられる。
「よっし、来いっ!」
「ふぁん、ちいいいーーーっ!」
「っと!?」
ひざをつき、高さを合わせてから手を出すと、さっそくお得意のワンツーが飛んできた!
二撃目が俺の手の間をすり抜けて来ようとしたが、そこはキッチリと手を動かして受け止める。 ぺちっと先ほどよりは少々弱めの音が鳴ったが、手に伝わってきた衝撃はなかなかのものだ。
油断したところに食らったら、息が止まるくらいの威力はあるだろう。 何度となく体験済みである。
「ちょああああーーーー!!」
「おおおおぅ!」
小さなあんよを肩幅に開き、小刻みに身体を左右に揺らしつつジャブやワンツーを放ってくる。 頭の動きに合わせて、暑くない程度に短く切った髪がワイルドに揺れて乱れる。
ドンドン打ち込んでくるので、俺の方が手を合わせに行く形になってしまう。 それでもいいけどなー。
ところで、前々から思っていたんだが……リソ君って、なぜかボクシングスタイルなんだよな。 だけど振りかぶりのほとんどないパンチは、まだ相対的に頭の大きなリソ君にとってはバランスを崩しにくい、とても理に適ったものであった。
しかも。
「とおーっ!」
「おっと」
たまーにステップが止まったかと思うと、そのあんよから力強いローキックが飛んでくる。
タイミングがバレバレなので受け止めるのは簡単だが、ただ足を振るのではなくしっかりと腰が入っているので地味に痛い。 ひざをついている体勢でももを蹴られたら、かなりジンジンと痛むだろう。 ……食らいたくはないものだ。
見た目は天使のような破壊力を持つマイブラザーであるが、実は物理的な破壊力にも長けていた。
「リソくん、すごいの~♪」
「あちょー!」
お姉ちゃんのあまり音の出ない拍手とほんわかとした声援を受け、ますます攻撃のリズムが乗ってくるマイブラザー。 可愛らしいながらもなかなかに鋭い視線を俺に向け、パンチキックを繰り出してくる。
……これは、負けてはいられないな。
「ほいっ」
そこで俺は、反撃に転じてみた。
リソ君に向けた手のひらを前方やや上方へと伸ばし、軽く手首のスナップを利かせつつ四本の指を振り下ろす。
名付けて「やーね、奥さんってばあ~」攻撃!
「あうっ!?」
ワンツーの直後を狙った俺の反撃は、目を丸くしたリソ君のおデコに命中。
もちろん痛くないように手加減をしたが、うまいコト当たって「ぺちん!」と気持ちのイイ音がした。
「わあっ、叩かれちゃった~」
「はっはっは。 油断しちゃいけないぞー?」
「うー……」
動きが止まり、おデコをさするリソ君に笑いかける俺。 大人げないような気もしたが、今の俺は子供なのでスルーしておく。
三歳といえば、妹様はマシンガン掃射のような触手パンチを踊るようにかわしていた頃である。 さすがに身体の弱かったリソ君にそこまでは求めないけど、丈夫な子に育ってもらうためにも頑張ってもらわなきゃ。
男なら、やってやれだ!
「うがあああーーーーっ!」
「……おっし」
もともと痛くないようには叩いたが、悔しそうな顔をしていたリソ君は心機一転、気合を入れ直して甲高い雄叫びを上げた!
それでこそ男の子だと、思わずニヤリと笑みがこぼれる。
あ、今の俺の顔って師匠っぽいんだろうなーとサブ思考に浮かんだが、マネをしたつもりはない。
「リソくん、がんばるの~!」
「うっす!」
お姉ちゃんからのエールに応えるかのように、リトルブラザーは眉間にしわを寄せた。 で、足の幅を広げるとグッと両手を握って腰を落とした。
お? これは、何か大技でも出す気なのか? ……と思ったら、なぜかそのまま半ばすり足の状態でバックしていく。
お相撲さんみたいで、ちょっと面白い。
「んん?」
「うー……」
愛らしい顔に頑張ってしかめっ面を作り、距離を開けたリソ君は腰を落としたまま軽く前傾姿勢を見せる。
真剣な顔でオシリを振り振りしているのが、猫みたいで面白い。
「はははっ」
「うー」
可愛らしくて思わず笑ってしまったが、リソ君の顔は真剣と書いてマジだ。 口をとがらせ、唸り声を漏らしながら俺のことを睨みつけている。
隣のセーレお姉ちゃんもぱふぱふ拍手を止めて、静かに弟の勇姿を見守っていた。
……ならば、俺も兄として真面目に相対しなくてはなるまい。
俺は表情を引き締めた。
「よし! いつでもかかって――」
しかし、ふと嫌な予感を覚えてセリフが止まる。
ついさっきは猫のようだと形容したが、もっと勇ましい喩えを持ち出すならば。
「……」
まるで、取組直前の力士のような――。
「うおおおおーーーーーん!!」
「ちょ、ま……!」
と思っていたら案の定、マイブラザーはウルフのような雄叫びを上げ、前傾姿勢から砲弾のように飛び出してきた!
まだまだ三歳児だといっても、俺だって六歳である。 十何キロはあるだろう体重の突進を、二〇キロかそこらの俺が受け止められるハズもない。
「ちょああああああーー!」
両手を前に突き出し、飛び込んでくるリソたんSAMミサイル。
あかん、これはあかんでええええーーーっ!
「おわああああああっ!?」
思考の半分が焦りを見せる一方で、隣のハニーは微笑んだままぴくりともしていないのが視界の左側に映る。
避けるのはリソ君が危険だから最初から考えていないが、ヘタに受け止めると俺だけでなくセーレたんも危ない。
血の気が引くように急速に冷静さを取り戻した俺は、脅威の迫り来る眼前へと両手をかざす。
「必殺。 ――ぱっくん、スリー」
リソ君がジャンプした直後を見計らい、俺は両手からスライムを放射状に放って前方と上下左右から包み込んだ。 それはあたかも、半透明の獣が狙った獲物へ食らいつくがごとく。
ただしその口内に、牙は一本たりとも存在しない。
あの妹様でさえ捕らえることが可能な、絶対かつ安全な捕獲技である。
……まあ大抵は、セーレたんの方から喜んで捕まりに来るのだが。
「ちょあああああ――もぼっ!?」
リソ君はまず突き出した手をスライムに捕らわれ、次に両足をすくい上げられ、最後に全身を包まれた。
勢いを殺されたミサイルは俺の両手と体重で食い止められて、ぽにょんと絨毯の上に落ちた。
「あうあうあー」
「ふぅ……」
撃墜、成功である。
スライムの繭に包まれ、中で手足を動かしてヘンテコな踊りを始めたマイブラザーに、俺は兄として優しく声をかける。
「こらリソ君。 度胸があるのはいいことだけど、飛び込んでくるのは危ないからやっちゃダメだぞー?」
「はぐー?」
「って、食べようとしてるし……」
スライムを薄くして絨毯に軟着陸させる。 顔を上げたリソ君は、歯をガチガチと鳴らしながら俺の手に戻って来るのを捕まえようとしていた。
無論、今日は既にデザートをあげているので食べさせはしない。
ちなみに触手大好きな弟くんは、身体からはまったくと言っていいほど浸透しない代わりに、口からの吸収率は非常に高い。 他のみんなは舐めて溶かすように食べるのに対して、この子に限っては噛みちぎっちゃうからなあ。
とはいっても、さすがに精霊たるニアちゃんの身体をかじれるほどのアゴの力はないらしいので安心だ。
……毎回、ヨダレまみれにしているけどなー。
「リソ君は、今日はもう食べたから。
次は、また明日だよー」
「うー……はぁい」
「ん、えらいね」
絨毯の上にがっくりと首を倒したマイブラザーの頭を、俺はよしよしと言いながらなでてあげる。 じっと目を見て優しく諭してあげれば、ちゃんと分かってくれるいい子なのだ。
そのまま頭をなで続けていると、リソ君は身体を横向けに転がして気持ちよさそうに目を閉じた。
いっぱい食べて運動して、眠くなってきたのかな?
「お兄ちゃん」
「……ん?」
あどけない表情に母性本能を刺激されてきゅんきゅんしていると、横からセーレたんが俺の顔を覗き込んできた。
そして、目を見つめたまま四つんばいになって弟くんの隣に移動すると、横座りから両手の力を抜いて絨毯の上に伏せる。
全身と同じようにリラックスした顔にジェラシーの色はなく、どうやら弟君と一緒に横になってなでてほしいようだ。
あと、ちょっぴり眠たそうでもあった。
「お兄ちゃん、わたしも~」
「はいはい」
思った通りのおねだりに、もちろん俺は喜んで応じる。 そういや俺も、最近は絨毯に寝っ転がることはあまりしなくなったな……。
となると、俺も不意にやってみたくなった。
「セーレちゃん、少し空けてくれる?」
「うん~」
両手でブラザーシスターをなでなでしながら、俺も立て膝で空いたスペースに滑り込んで横になる。
たまにはこうして、兄妹三人で川の字になってお昼寝するのもいいだろう。
……俺も、なんだか少し眠たくなってきたし。
ふと外を見れば、閉じた窓の向こうは薄暗くなって小雨が降り出していた。 どうりで、激しく動いたわりに涼しいわけだ。
ベッドメイクしてくれたメイドちゃんズにゴメンねと心の中で謝りつつ、触手を伸ばしてベッドから夏用の薄い毛布を引っ剥がす。 それを四本の触手を使って空中でたたみ直し、俺達のお腹から下へと掛けた。
枕は……ま、いいだろう。 腕枕は痺れるので遠慮したいが、代わりに低反発のスライム枕だったらいつでもすぐに作れる。 今なら食べられる心配もないと思うしな。
触手を伸ばしたついでに、部屋の明かりも落としておく。
「ちょっとだけ、お昼寝しような」
「うん。 ……えへへへへ~」
非常に珍しい展開に、マイシスターはいたくご機嫌だ。 眠そうな顔に柔らかな笑みを浮かべる。
かすかな雨音の聞こえる薄暗い部屋の中、青空のように澄んだ瞳が俺の顔を映す。
「……」
お腹に毛布を掛け、川の字になった三人。
仰向けになっている俺の右側にはリソ君……は既に、夢の中の住人になっていた。 毛布を上下させ、小さな寝息を立てている。
「はは。 リソ君、もう寝てぅ……ふわぁあぁあ~」
「ふぁあぁあぁぁ~」
左側に頭を戻しながら喋る途中で、急にあくびが出る。 すると、セーレたんも同じように可愛らしいあくびをした。
潤んだ目の端に浮かんだしずくを指で取ってあげると、お返しとばかりに小さな指が俺のまぶたをなでてくれる。
俺達は笑みを交わし、ゆっくりと両目のまぶたを下ろしていく。
「おやすみ、セーレちゃん」
「おやふみ、おに~ひゃあん……」
お互い顔を最後まで見つめ合いながら、意識がだんだんと暗く遠ざかる。 毛布の下では、いつの間にか手を握り合っていた。
安心感と共に身体の力が抜け、俺はゆっくりと息を吐き出す。
たまには、こういうのんびりとした時間の使い方もいいな。
もうしばらくしたら――。
「……」
――当分の間。
たとえしたくなっても、できなくなるからな。




