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そだ☆シス  作者: Mie
学童編(真夏)
527/744

492 だって、オトコノコなんだもん

挿絵(By みてみん)





 今日も暑い夏の朝、俺達はいつものように学校へ。

 帽子で日差しをさえぎり、すっかり手放せなくなったチョーカーをこまめにオンオフさせて快適さを保つ。 ずいぶんと慣れてきたものだ。


「おっはよー」「おはようです~」


 クラスメート達に挨拶をしながら、教卓の真正面にある特等席へ。 後ろの方の席にいるニート君は、青い長髪が汗で顔に貼りつくのをうっとうしそうにしながらも、俺の顔を見ると気難しそうな顔で重々しくうなずいた。 髪切ればいいのになーと思ったが、こだわりか何かがあるのだろう。

 ところで制服ファッションはいつの間にか相当な普及率となってしまったが、やはりチョーカーはそうはいかないようだ。 値段も安くはないらしいし、それ以上に使いこなすのが難しいからな。

 たまにつけている人を見かけるが、ほとんどは外部注入タイプだ。


「おはよ、マーヤさん」「おはようです~」


「ええ、おはよう」


 やはり、俺の後ろの席にいたマーヤさんへもご挨拶。 セーレたんはいつもだったらすぐに隣の席に行ってしまうのだけど、今日はそうはいかないのでまだ俺の横にいる。

 で、俺は肩にかけているカバンに手を突っ込み、取り出したものを差し出す。


「これ、返すね。 すごく美味しかったよ」

「美味しかったの~」


 手で長い黒髪を後ろに流し、お姉さんは包みを受け取る。

 本当はお返しにパンケーキでも作ろうかと思ったのだが、この暑さなのでやめておいた。 もちろん、箱も包んでいる布もキレイに洗ってある。


「そう。 何事もなかったようで、ほっとしたわ」


「何事も……?」


 ところが、涼しげに微笑んだお姉さんから予想外の言葉が出た。 ハニーと二人で、同じ方向へ首を傾ける。


「お菓子を作って振る舞うのは嫌いではないのだけれど、しばしば意図しない誤解をされるから困るのよ」


「あー……」


 頬に手を当てながら目を伏せ、(うれ)いを帯びた吐息を漏らすお姉様。 その色っぽい仕草で、俺はマーヤさんの言葉の意味を理解した。

 こんなキレイなお姉さんから、手作りのお菓子なんてもらったら……勘違いをするのもやむを得まい。

 セーレたんも嫉妬してたし、俺だって分かっていてもちょっぴりドキッとしたからなぁ。


「だけど、ジャスくんが何とかしてくれたようね。 流石だわ」


「……まあ、ね」


 隣の妹様にチラリと視線をやり、マーヤさんが俺に向けて微笑む。

 さすがなのはお姉さんの方だよ。 にこにこしているセーレたんの様子から、何もかも察したらしい。 マジで底の知れない人だな……。

 俺は心の中で両手を上げ、その方法を打ち明ける。


「友達も一緒に、みんなでお菓子を作ったんだよ」


「あら。 それはうらやましいわね」


「とっても楽しかった~♪」


「そう、良かったわね」


 長い睫毛をゆらしてパチリと瞬きをすると、お姉さんはまさにお姉さんと呼ぶにふさわしい優しい微笑みを妹様に見せた。

 完成度の高いお菓子も素晴らしかったが、みんなでワイワイやりながら作ったお菓子も楽しかった。


「何よりも、楽しいのが一番だわ」


「うんうん。 まったくその通りだね」


 眩しい笑顔を浮かべるハニーを見て、マーヤさんと俺も笑みを交わした。




 ――それは、二時間目の魔術の授業でのこと。

 今日も例によってフラヴリースの試合をするのだけど、誰とペアを組むのかは毎回違う。 なるべく固定しないようにとシャルちゃん先生に言われているのだ。


「それじゃあ、みんな分かれてねー!」


『はああーーーいっ!』


 体育座りやあぐらをかいたりしていた集団が、次々とラケットを手に立ち上がってうろうろし始める。

 それは、俺と妹様も例外ではない。


「お兄ちゃん、またね……」


 今生の別れのような顔をして、セーレたんは俺の腕から離れてとぼとぼと歩いていく。 俺達が組むと相手をできるペアがほぼいないからと、組むことができないのである。

 でも、その方があの子にはいいだろうと俺は思っている。 小さな肩を丸めるハニーにはさっそくクラスの子達が集まり、慰めつつの奪い合いが始まっている。 あまり積極的ではないみたいだけど、そこそこうまく友達付き合いをしているようだ。


「よう、今日は誰も女の子がいないのな」


 ぼーっと後ろ姿を眺めていると、嬉しいことに俺にもお声がかかる。 クラスの男子だ。

 いろいろ忙しいのもあって、俺も付き合いの範囲が狭くて浅いからなあ。 軽く喋ることはよくあるものの、どーしても合わないところがあるというか。 クラスの女の子が、同い歳の男子を「子供だよねー」と言っている気持ちも理解できるんだよなぁ。

 ……セーレたんにも、あまりエラそうなことは言えんな。

 というか。


「いやいや、いつもいるみたいなこと言わないでよ!」


「え、違うのか?」「違うの?」


 失敬だな、と思ってとっさに言い返すものの、来てくれた年上のクラスメート達は真顔で見下ろしてくる。

 たった二、三歳くらいの差だけど、その身長や体格差は大きい。


「ついさっきも、いつも通り妹ちゃんとマーヤさんに囲まれてたじゃん」


「うぐ……」


 否定できなかった。

 ニャル子ちゃんは、るー君がこっちのグループに来てからは俺のそばに来る機会はほとんどなくなったものの、いつもマーヤさんが俺の背後にいるのは変わらない。 ペア決めになると、すぐに他の女の子達に囲まれるけど。

 男子は男子、女子は女子どうしで集まるのが普通だ。


「たまには、俺達とやろうぜ!」


「……そうだな」


 鍛錬を考えるのもいいが、純粋に遊ぶつもりでラケットを振るのもいいか。

 そう思って首を動かそうとしていたら、クラスメート達の間からまっすぐこちらにやってくる人の姿が目に入った。

 といっても、そいつもクラスメートだ。


「オリオール兄」


 声変わりはまだではあるものの、他の子と比べれば十分に渋いと形容できる低い声。 俺から見れば大抵そうなんだが……まあ背はけっこう高めで、中央から左右に分けた髪は肩まであるが女の子っぽさなどカケラもなく、むしろ格好いい。 その肩幅は広くガッチリしており、ラケットを持つ手や足にも子供なりにそこそこのしなやかな筋肉が付いているのだ。

 むう。 俺が髪を長くしたらジャス子ちゃんにしかならんというのに、理不尽だ。


「……なんだ」


 子供かよと思いつつも、少々むくれ気味に答える。 さすがにムッキムキまではいらないけど、憧れがないわけではないのだ。

 でも周りの女性陣からは誰に聞いても「今ぐらいがちょうどいい」と言われるので、運動能力を重視して筋トレらしいことはやっていない。


「顔を貸せ」


 真面目、というかしかめっ面を前面に押し出してボロボロのイケメンニート君が俺を見下ろして言う。 確か、なんとかニート・ボロボロなんとかという名前だったハズだが、ややこしくて覚えていない。

 男版マーヤさんとも言うべきか、子供っぽさに欠けるニート君は孤高で迫力があり、声をかけてくれた男子達も左右に分かれて道を譲っていた。


「んー」


 年齢も身長も体格差もあるニート君だが、迫力はあっても怖さは感じない。 愚直なまでにまっすぐな奴だからな。

 道を譲った子達も怯えているわけではなく「仕方ねーな」という顔で肩をすくめ、この場を離れていく。

 俺のお相手は決まったようだ。


「うん、いいよ」


 俺の返答に、イケメン君は長髪を揺らし貫禄たっぷりにうなずいた。


「でも、どうしよっか」


 俺の声に眉をしかめるニート君だが、俺と彼が一緒になると相手が問題なのだ。 彼は剛剣の使い手ではあるけど、魔術の扱いがヘタというわけじゃない。 むしろ得意だと胸を張ってもいいだろう。

 となると、組むにしても相手になるにしても、残りの二人は一組二組の中でも特に強い子を連れてこないとバランスが悪い。

 候補はわりといるけど、見渡すともうほとんど相手が決まって――。



「――よかったら、私達のお相手をしてもらえないかしら?」



「ん?」


 振り返ると、そこにはサラッと伸びた黒髪とロングスカートをひるがえす長身のお姉さんと。


「お兄ちゃん」


 対照的に、軽く波打つ金色の髪とひざが隠れる程度のスカートをなびかせる小さな女の子がいた。 今朝のやり取りのおかげか、二人は仲よさそうに並んで立っている。

 それぞれ、魔界と天界からやってきたようなお姫様方。 独特のオーラに、他の生徒達が遠巻きに見つめている。


「……ほう」


 やや低めの声を出したのは、俺ではなくニート君だ。 鋭い眼を細くし、既に臨戦態勢といった雰囲気である。

 まあ確かに、この二人であれば相手に不足はない。 それどころか、どう組み合わせても伯仲した勝負になりそうだ。

 笑う子も泣き出しそうなイケメン君の眼光。 しかしマーヤさんは涼しげかつ妖艶な微笑みでこともなげに弾き返し、セーレたんは清浄かつ可憐な笑顔で何も感じないとばかりに無効化する。


「どう? 私達ではご不満かしら?」


「まさか」


 美しい少女達に向かって、ニヤリと歯を見せて返す俺。 見ていないが、真後ろにいるニート君も同じような表情をしているだろう。

 こんな素敵なお誘いを袖にするなど、俺にとっては紳士の、彼にとっては騎士の名折れであった。




「これは、面白い対決ですねー」


 少し離れたところから見守っていたシャルちゃんが、審判役をかってでてくれた子の隣にやってきて楽しそうに見ている。 首には小柄な身体にはやや大きい黒のチョーカーが目立ち、紫色のリス耳と大きなしっぽがひょこひょこと揺れる。

 結局、組み合わせはこのままがいいということになった。 ネットを挟んで俺と妹様が向かい合い、それぞれの背後にはニート君とマーヤさん。

 公平なるじゃんけんの結果、ファーストサーブは俺達が手にした。

 わざわざ振り返っていないからニート君は知らないが、俺もセーレたんもマーヤさんも、いたって穏やかな笑みを浮かべている。 だが、頭の中は既にフル回転状態だ。

 誰かの唾を飲む音が二つ三つ、どこかから聞こえる。


「では、始めてくださーい♪」


 張り詰めた空気の中、シャルちゃん先生のアニメ声が響きわたった。 後ろのニート君から、魔力の気配がほとばしる。


「ヅァァァアアアアアアアアーーーーーーッ!!」


 こめかみの血管が切れるんじゃないかと言うほどの気合の雄叫びの直後、俺の真横を光球が猛スピードで通り抜ける。 あるハズのない風を頬に感じ、髪が揺れる錯覚を覚える。

 当てても、相手のラケットごと吹っ飛ばしそうな剛球だが……。


「にゃっ!」


 小さな両手にラケットを持ったマイシスターは、瞬間的なステップを踏むとさほど苦もなくそれを打ち返した。

 魔術競技のフラヴリースには、必ずしも筋力は必須ではない。 たとえ身体は小さくても、ネット越しに離れて向かい合う俺の前髪をなびかせるほどの魔力を惜しげもなくつぎ込めば、砲弾のような光球もピンポン球と同じように弾き返せる。

 だけど、そんなことは予想済みである。


「てやあああっ!」


 サーブの前、後ろ手にサインを出していた俺はその通りに身体を走らせた。 セーレたんとマーヤさんのどちらがサーブを受けてどこに打つか……そんなのは分かるハズもない。 たとえどちらが打ったとしても、先に動けば逆を狙われる。

 ならばギリギリまで動かず、俺達は左右に分かれてコートを分担する。 ただそれだけだ。

 返された光球は偶然、俺の走った右方向へと飛んだ。 筋力と魔力を合わせた剛球を魔力だけで迎え撃った高速の打球は、もしかしなくても相当に重いだろう。

 ラケットの耐えられるギリギリの量を見極め、思いっきり伸ばした右手一本で対抗する。


「ぬああっ!」


 何とか手が届き、ラケットの先の方に光球が当たった。 普通なら、勢いを殺されてネットに捕まりそうな当て方である。

 ……でも、コイツは魔法競技。

 ラケットの当て方とは無関係に光球を飛ばすなど、造作でもない。


「ああうんっ」


 相手コートに向かった光球は、ラケットを伸ばした前衛のマイシスターを避けて横に曲がり、更に急降下しながらコートの奥端を狙い澄まして飛んでいく。

 かすかな光の尾を引いてS字にくねる軌跡は、物理法則を鼻で笑うが如しだ。

 だけど――。


「甘いわね」


 長いスカートをものともせず、滑るようにコートの奥を横移動したマーヤさんが片手で光球をすくい上げた。

 その打球も、物理法則たんが涙目になりそうな無視っぷりだ。 垂直発射管から飛び出すシースパローのように、真上に打たれた光球は突然向きを変えてこちらのコート目指してやってくる。


「……あー」


 俺のはるか上空を飛ぶミサイル。 背の低い俺が涙目になりそうだ。

 しかし、コートの端っこに真上から突き刺さるような光球には、背の高いイケメン君が駆け込んでいる。


「デヤァァァァァアアアーーーーッ!!」


 大鷲のように舞い上がったニート君の、ジャンピングスマッシュ!

 さっきは錯覚だと思っていたが、今度は本当に俺の髪が揺れた。 ラケットの風で。

 真正面から突き破れ! というニート君らしい男らしさにあふれる光球は、直径を増しドリル回転する尾を引いてひたすらにまっすぐ飛んでいく。

 が、それも神々しさにあふれる天使たんの圧倒的魔力量によって止められてしまう。


「にゅっふふ~ん♪」


 どこかで聞いたような口調で、セーレたんは両手で軽く叩き返す。

 カクテル光線を思わせる、複雑なきらめきを宿すハニーの蒼い瞳は……ただまっすぐ、俺だけに注がれていた。

 その狙いに気づいた途端、スピードの殺された球はすとんと垂直に落ち始める。


「やばっ!?」


 とっさにスライディングしようかと思ったが、ここで体勢を崩すのは下策。 転んだところを狙われ、かつローアングルで女の子達を見上げることになる。

 俺は身体を伸ばすのではなく逆に一旦丸め、そこから大股で踏み出し全身と共に下からラケットを滑らせて光球に当てた。 その瞬間に合わせて、魔力粒子を調合して送り込む。


「おうっふ」


 短足のせいで股関節は前後に一八〇度開ききったが、なんとかラケットの先端に光球を捉えることに成功する。

 ふっふっふー。 毎日ウチの女性陣と夜な夜な柔軟体操に励んでいる俺にとっては、このくらいどーってコトはないのだよ。


「ふわああっ!」

「え……!」


 光球は真上ではなくほとんど真横に飛び、ネットのポールを回り込んで向こう側のコートへ。 そして落ちると思いきや、今度は螺旋軌道を描いて天井へと舞い上がっていく。

 珍しいことに、妹様とお姉様が驚いたような声を上げる。 それでなく、シャルちゃん先生を始めとしたギャラリーからもどよめきが起こった。

 半分実験でやってみたが、さすがのフラヴリースでもここまで複雑な動きをする球はそう打てるものじゃない。 でも、配合を変えた魔力を層にしてまとめて送り込めば、段階的に球質や動きの変化する球にすることが可能なのだ。

 途中で色の変わる花火と同じ要領だな。


「ふわわ~」「え……あ……」


 上空に昇るまではともかく、そこから先は俺自身にも分からないランダム魔球。

 軌道も速さも、高度さえも不規則に変化しながら飛び回るそれに、さすがのお姫様方もおろおろしている。 だかそれもつかの間、急に思い出したように垂直降下を始めた光球は、偶然にも二人のちょうど間に落ちて光のしぶきを撒き散らし、消えた。



「……ぽ、ポイント。 ジャスパー君、ヴォルフォロエメフ君チーム!」



 我に返った審判の子が、手を上げて得点を告げた。 直後、ギャラリー達も歓声を上げる。


「おおおおおーーーーーっ!?」

「何だ今の!? すっげー!」「なにっ!? 何をどうしたのっ!?」


 大股を前後に開いたまま、俺は床のフローリングを見つめたまま動かない。

 みんなの声が振動となって、下からも俺の身体に伝わってくる。


「……」

「お兄さま、すてき……♪」

「さ、さすがに、今のは驚いたわ……」


 背後にいるはずのニート君からは何も聞こえず、ネットの向こうにいるセーレたんからは甘い声が、マーヤさんからは半ば茫然としたような声が聞こえてくる。

 はっはっは。 ランダムすぎてコートインするかどうかも運任せの魔球だったが、うまくいったぜー。

 地下体育館に黄色い歓声が飛び交う中、俺はうつむいたまま身体を小さく震わせた。


「……」


 身体の震えが止まらない。

 思わず、涙が出そうだ。



「くっくっく……!」




 ――ああぁ、コカンが痛い。

 思いっきり、打ちつけたぜ。





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