462 ジャス、実の母親に○○○○される
万雷の拍手。 なんて言葉が日本語にあったが、まあそんな感じである。
「けっこう降ってるな……」
窓を閉じていても聞こえてくる雨音に雷鳴が混じり、今朝はその音で目が覚めた。 カーテンを開けてみれば、暗い空から大粒の雨が絶え間なく降り続いている。 風はそれほど強くないようだ。
しかし空が一瞬光ったかと思うと、間を空けて和太鼓をおどろおどろしく叩きまくったような重低音が響いてきた。
「お兄ちゃあん……」
「ん。 大丈夫だからな」
窓際で外を眺めながら、不安そうにくっついてくるセーレたんをなでなでする。 無敵の妹様も、やはり雷には弱いらしい。
雷の正体はなんなのかを簡単に説明し、不安を和らげてあげる。 怒り狂った精霊がどうのこうの……といった迷信も大昔にあったらしいけど、それが電気だということは今や高校の教科書に載っていることである。
「ふわあー」
俺の肩に乗っているニアちゃんが、ちっちゃなお口を開けて空を見上げている。
生身の声を漏らしていて、少しずつ声を出すことにも慣れてきたようだ。
「ニアちゃんは、雲の中に入ったことはあるの?」
《あるけど、黒い雲は入ったら危ないからダメーってパパに言われてるー》
「そっか」
さすがの精霊でも、雷が直撃すると耐えられないこともあるようだ。
俺の触手もそうだけど、オドは物理的に断ち切ることができる。 精霊も同様で、幽霊みたいに物理無効というワケじゃないのだ。
……よって、ニアちゃんも優しくなでなでしてあげましょう。
「にゅふー」
指であごの下をなでてあげると、我が娘は気持ちよさそうに目を細めて顔を上げた。 まるで猫のようだ。
同じゴロゴロでも、やっぱりこっちの方がいいよな。
「お兄ちゃん、わたしも~」
「はいはい」
「ひゃんっ!」
参考書のイラストではねこ耳を生やしているセーレたんだが、なでるとくすぐったがって反射的にうつむいた。
さすがに猫と同じように、とはいかなかった。
――さて。 ここまでの大雨となると、今日の学校はどうしようか。
いつも通りにマールちゃんが呼びに来たので、とりあえずはリビングに行くことにする。
「お休みした方がいいんじゃないかしら~」
お袋に聞いてみると、思った通りの答えをもらった。
電話による連絡網なんてものはこの国にはないので、こういう日に学校へ行くかどうかは個人任せだ。 学校は、登校してきた生徒はひとまず保護するためにも校内に迎え入れて、大半が来ていれば普通に授業、少なければ自習にするんだとか。
「俺も、こんな日は休みたいよ……」
親父がパンをかじりながら愚痴をこぼす。 アズミーリ先生達もたぶん出勤しているんだろうし、公務員の親父は問答無用である。 たいへんだねー、と心から同情する。
ちなみに、ニアちゃんの青空教室も今日はお休みらしい。 こっちは聖母様ご本人からテレパシーで連絡が来た。
「ひっ!?」
突如、爆発音のような雷の音がして、チャロちゃんが耳を押さえて頭を下げた。 ぴーんと真上に伸びた白いしっぽが小刻みに震えている。 隣に座っているハニーも驚いて身体が跳ねた。
一方で、お袋はともかくマールちゃんは意外と平気そうで、リソ君にいたっては嬉しそうに顔を上げてキョロキョロしている。
「これ、どこかに落ちたかもね」
「そうかもな……」
親父と顔を見合わせる。 電気がないので停電の心配は皆無だけど、事故が起きる可能性はある。 何もないことを祈ろう。
雨用のコートにフードを被って親父が出ていくのを、今日はみんなで見送った。
「さて、どうしよう」
前世では、警報が出て学校が休みとなるとテンションが上がったものだが、今の俺は手持ち無沙汰である。
雷が鳴るたびにビクビクのチャロちゃんは、リソ君の部屋でニアちゃんも一緒にお守り――というか一緒に遊んでいるように申し渡され、家事はマールちゃんが一手に引き受けている。 とはいってもできることは少なく、軽く掃除をした後は風呂場で最低限の洗濯をするくらい。 家族が多いので、あまり溜めておくワケにもいかないのだ。
その洗濯のお手伝いはセーレたんが務め、洗ったものは親父とお袋の寝室に干して渦風塔で乾かすのが雨の日のお決まり。 俺はお手伝い禁止かつ寝室も立入禁止なので、こうして暇を持て余している。
毎日増えていく洗濯物とは何なのか……まあ、カンタンに想像はできる。
「うふふふふ~」
ということで、カラフルな布の入ったカゴを持ったマールちゃんに会わないように、俺はお袋とのんびりとお茶を飲んでいる。
朝食の片づけと洗い物はお袋がささっと終わらせてしまい、おやつも夕飯もあり合わせでなんとかするようなので今は仕込みの必要もない、という状況だ。
「リソ君といっしょに遊ぶかな……」
誰にともなく呟く。 勉強なんかはいつも夜にしているから今はいいし、触手アスレチックでも作ってあげれば、リソ君もニアちゃんもかじりつく勢いで喜んで飛びつくだろう。
……物理的にかじりつかれる可能性も高いけど。
「あら、ママとは遊んでくれないのかしら~?」
「へ?」
顔を上げると、お袋が大雨もものともしないお天気スマイルを浮かべて俺を見つめていた。
「ママもお出かけの用事がなくなって、することがないのよね~」
お袋がいつもよりしっとりした感じの長い後ろ髪を前に持ってきて、両手で梳きながら俺に話しかけてくる。
滑らかそうな指通りを見て俺もちょっと触りたくなってきたところで、お袋はその手のひらどうしを音もなく合わせた。
「そうだわ。 ちょうど時間もあるから、昨日ジャスちゃんが言っていたことをしましょう~?」
「……ああ」
少しだけ間が空いて、俺もお袋の言わんとすることを理解した。 魔法陣の練習の後、ポロッとそんなことを言ったっけ。
「ママのお部屋でもいいのだけれど……マールちゃんが怒るから、ジャスちゃんのベッドでもいいかしら?」
「うん」
俺の部屋なら絨毯だし、床の上でもいいと思うけど……まいっか。
そう思ってうなずいた。
「じゃあ、さっそく行きましょう~?」
「ほーい」
ということで、俺はお袋に手を引かれてリビングを後にした。
「お、おおぅ……」
「うふふふふっ♪」
毛布をどけたベッドの上で、絡み合う俺とお袋。
その艶めかしい肢体は、ほっそりしているのにどこまでも沈み込んでいくような柔らかさで俺を包む。 半袖から出た細腕が俺の首に回り、めくれたスカートから伸びる白い脚が俺の脚を挟みこむ。 とても滑らかで、本当に骨があるのかと疑ってしまう感触だ。
……そして、俺のアゴのすぐ下でふにふにと形を絶えず変え続けている、メロンサイズのましゅまろがふた玉。
なのに、ベッドのおかげもあるんだろうけど、身長差のわりに重苦しさを感じない。
「ふふふ。 ……ジャスちゃん、どうかしら?」
「う、うぐ……」
鼻どうしが触れ合いそうな距離で、お袋が蒼い目を細め桃色の唇に笑みを作る。 長い金の髪が乱れくねり、天井の明かりを陰にしているお袋はちょっと得意げで……妖しい感じ。
お袋は温かみを増してゆく体温と花のような甘い香りでも俺を押さえつけ、逃れようとする力と意思をことごとく奪っていく。
あ、頭がクラクラしそうだ……。
どうにもならなくなり、俺はついに抵抗を諦めた。
「……降参です」
「うふふふふ~♪」
全身の力を抜くと、お袋は笑いながら俺から離れた。 上半身を起こして、乱れた服と髪を両手で直し始める。
妹様もなかなか巧みだったが、やはりお袋はそのはるか上を行っていた。 テクニックが段違いだ。
――見事な、押さえ込み一本である。
「本当に動けないんだもんなあ」
大人と子供の体格差や体重差もあるけど……それ以上に、俺が身体を動かそうとするポイントを的確に抑えて、上手く力が入らないようにされてしまっていた。
もしも俺が大人の身体を持っていたとしても、それでお袋を力尽くではね除けられたかどうか。 ……いや、多分無理だろうな。
セーレたんと組み手をすると寝技に持ち込まれることがあるんだけど、もともとセンスがあったらしいところにお袋から習い始めて技術が身につき、本当に外せなくなってきた。
そのことを話して、だったら俺は寝技の対処法を教わりたいなーとこぼした結果がコレである。
「これで関節とかを極められたら、本当にどうにもならないよね……」
「そうね~」
お袋も妹様も、俺が痛くないように敢えて押さえるだけに留めてくれている。 しかし本来は極めてくるのが当たり前のハズで、そうなれば一巻の終わりだ。
俺も熱くなった身体を手で扇ぎながら、身体を起こす。 するとお袋が俺の服と身体を整え直してくれた。
「普通は極め技との組み合わせになってしまうから……えいっ♪ で、終わりだものね~」
「……」
虫も殺せないような優しい笑顔と共に、えいっ♪ のタイミングで手首をひねってみせるお袋に戦慄を覚える。
実戦だったら当然ギブアップなんかないから、「えいっ♪」の結果はおおよそ「ブチィ」か「ボキィ」である。 ……軽く想像しただけでも、顔が引き攣る。
「だけど。 ジャスちゃんだったら、押さえ込みだけなら簡単に崩せるはずよ~?」
「いや、そうなんだけど……」
寝技や組み技はどれも、対人を前提としている技である。
中には動物や魔獣相手に応用できる場合もあるだろうけど、基本的には相手が「ヒト」の構造と機能を持っているからこそ有効なのだ。
つまり――。
「ジャスちゃんの触手で、こちょこちょってすればいいのよ~」
いろんなところから三本目、四本目の手を出せる俺なら、ぶっちゃけどーにでもなるワケだ。 「ブチィ」や「ボキィ」をされる前であれば。
でもそれって、完全にヒトの枠を外れたやり方なのであって……。
「……」
実の母親に人外認定されたようで、けっこう凹む。
「うふふふふっ♪ ジャスちゃんは、普通の方法で何とかしたいのよね? 分かっているわ~」
「……うん」
マジで凹んでいると、横から柔らかく抱きしめられた。 めろん再見。
逃げようだなんて意識の生まれ得ない、最強の組み技である。
「極められる前なら防ぐことはできるから、それを教えてあげるわね」
「うん、お願い」
そして俺は、昼までお袋とベッドで熱く絡み合った。




