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そだ☆シス  作者: Mie
学童編(夏)
465/744

431 らぶりーらいぶっ♪

挿絵(By みてみん)





 今日は水の日だ。 なので授業が終わってすぐに帰ってきたのだが。


「ステイさん、今日は来ませんでしたねー」


「そうね~」


 ちょっと残念そうなチャロちゃんに、お袋がおやつを食べながら相づちを打った。

 リビング兼ダイニングに、仕事でいない親父を除いた一家全員が集まってもぐもぐとおやつを食べている。

 今週は人妻編集さんが顔を見せず、余ってしまった分は全員で分け合った。 武術の授業で腹ぺこの俺にとっては、ステイさんには悪いけどちょっとラッキーだった。 育ち盛りの妹様も、「ダイエット」なんて単語を気にすることもなく美味しそうに、だけど上品に食べている。

 がっついているリソくんは時折こぼしているが、それはご愛嬌だ。 ニアちゃんもまるで対抗するかのように、俺の触手を一生懸命にもぐもぐしている。


「……ぷはぁ」


「ジャス様、お代わりはいかがですか?」


「うん、もらうよ」


 おやつもそうだが、テーブルの上にはジュース……と呼ぶには少し薄い、果汁水が多めに用意されている。 コップの中身を一気に飲み干し、更にマールちゃんについでもらう。

 なお、果汁水はあまり冷やしておらず、少し温めだ。 子供の俺達、特にリソくんがお腹を壊さないようにとの配慮である。


「ぷはぁ♪」


「うふふふふ~。 リソちゃん、いっぱい飲んだわね~」


「あいーっ!」


 両手で小さなコップを持ち、一気飲みをしたマイブラザーが口を大きく開けて満足そうに息を吐いた。 ……もしかして、俺のマネ?

 口の端からつつーっと果汁水が垂れたのを、お袋は女神様スマイルを浮かべながらハンカチで拭いてあげている。 その様子を見ていたメイドちゃんズにも笑顔が咲いた。


「ふふっ。 ……でも、来られないのも仕方ないですよね」


「ん?」


 セーレたんの食べ切れなかった分を直接あーんされていると、マールちゃんがリソくんから俺に目を向ける。

 ってゆーか、なんで俺のコップを先に取るの? 飲みたいんだけど。

 アイコンタクトを送るが、マールちゃんは笑顔で俺の前にコップを差し出すだけだ。 しっかりとコップを両手に持って。


「はい、どうぞ♪」


「……うん」


 俺、手の数には困ってないんだけどなー。

 更にフォークを向けて待機中のハニーに少し待ってもらい、俺は観念してコップに口を近づけた。 こういうときのマールちゃんは意外と頑固なのは、よーく知っているのだ。

 コップの傾け具合は絶妙で、果汁水は俺のちょうど飲みたかったスピードで、ゆっくりと口の中に入ってくる。


「ふぅ……なんで?」


「えっ? だって、ジャスさまのご本が発売されるの、もうすぐじゃないですか」


「あ」


 そういえばそうだった。 来週の火の日だったな。 いろいろ考えることがあって、ポロッと頭の中から抜け落ちてたよ……。

 ちょうど口を開けたところにフォークが迫ってきたので、そのままパクリ。 既に妹様のお皿は空っぽで、ケーキの供給源は俺自身の皿である。

 タイミングといいケーキの大きさといい、セーレたんもちゃんと分かっている。


「お兄ちゃん、おいしい~?」


「もぐもぐ……」


「えへっ♪」


 食べながらうなずくと、セーレたんは嬉しそうな顔をした。

 しかし――。


「……」



 最近のおやつのときの俺って、自分で食べる率がリソくんよりも低いんですけど。

 いいのかコレで。



「うふふふふ~」


 だがお袋は俺を見てもにこにこしているし、リソくんはニアちゃんと競うようにしておやつをほおばっている。 チャロちゃんも、まだ残っているマールちゃんのお皿を見て「仕方ないなあー」といった感じでため息混じりの笑みを浮かべているだけだ。

 とりあえず、問題はないらしい。

 ちなみに幼児コンビは二人とも食べるペースがずいぶんと落ちているから、そろそろお腹いっぱいなのだろう。 お袋と視線を交わし、無理しないうちにやめさせることにする。

 元気なのはいいことだが、リソくんが食べ過ぎて苦しそうにしているのをたまに見るからな。 夕飯にも差し支えるし。


「ジャスちゃんの本、たくさん売れるといいわね~」


「本屋さんに行列ができるといいですねー!」 


「いや、さすがにそれはないと思うよ……」


 両手をぐっと握って微笑んでくれるチャロちゃんには嬉しいが、いくら何でもそれは。

 マールちゃんにいたっては「私、十冊くらい買いますよ!」とか言うし、それを聞いたセーレたんも、預かってもらっているお小遣いの残高をお袋に聞く始末。


「いやいやいやいや、そんなことをしたらダメだって!」


「でも」「でも~」


 二人とも目が冗談に見えなかったので「その分、他の人が買えなくなるよー」と言ってやめさせる。

 もちろん売り切れるなんて思ってないけど、そうでも言わないと止められなさそうな気がした。

 気持ちは嬉しいが……やっぱり、必要としてくれる人に買ってほしいしな。




 午後の時間がぽっかり開いてしまったので、今日は弟くんの相手をすることにした。

 といっても、俺もリソくんもお腹がいっぱいですぐには動けないから――。


「~~♪ ~♪~~~~♪」


 開け放った窓の下(もと)、マールちゃんが歌っている。

 外からは暖かい……と表現するには度を超えた、少し眩しすぎる光が入ってくるが、それがスポットライトのようになってメイド姿のマールちゃんを照らす。 歌いながらポニーテールを揺らす度に空色の髪がキラキラと輝き、部屋中に高く澄んだ歌声が染みわたる。

 残念ながら外からの風はあまり吹いてこないものの、それは俺が渦風塔を動かして顔に空気を感じる程度の気流を作った。

 庭の窓に近い木にセミが一匹留まっているようで、その声がまるでバックコーラスのようだった。


「……」


 ワンマンライブの聴衆は、俺とリソくん、そしてニアちゃんの三人だけ。

 最初は本でも読んであげようかと思っていたのだけど、ジュースを持って来てくれたマールちゃんにリソくんがしがみつき、「うたー、うたあー」とおねだり。 それで今はこうしてジュースにも手をつけず、三人並んで静かにマールちゃんの歌声に耳を傾けているところだ。

 特にニアちゃんは俺とリソくんよりも前に出て、目の前の最前列で絨毯に座り、マールちゃんと同じように身体を左右に揺らしている。 と同時に、頭のてっぺんのアンテナっ毛も揺れる。 しかも珍しいことに、飛んでもいないのに背中から羽を出してゆっくりと動かしていた。

 その様子はなんとなく、甘くキレイな花に留まっている蝶の姿を連想させた。


「~~~~~♪ ……ふぅ」


「……おぉぉー」


 ゆったりとした歌が終わり、俺達は誰からともなく手を叩き始める。 リソくんはシンバルを鳴らすオモチャのように手を動かし、ニアちゃんは手だけでなく背中の羽もぱたぱたさせている。

 マールちゃんが家事をしながら鼻唄を口ずさんでいるのはよく聞くけど、こうしてちゃんと歌っているのをじっくり聞いたのは、けっこう久しぶりだ。

 でもリソくんと、近頃はニアちゃんからもたびたびリクエストされているようで、今みたいに小さなライブを開いているそうだ。

 俺も知っていたら、聞きに来てたのに……。


「とても残念ですけど、ジャス様とセーレ様が学校に行かれているときが多くて」


「……本当に残念だ」


「おにー?」


 ガックリ肩を落とすと、横からリソくんに背中を叩かれた。

 慰めてくれるのか……と一瞬喜んだが。


「考えてみたら、リソくんは毎回聞いてるんだよな……」


 ちょっと複雑な気持ちになった。


「おにいいーっ!」


「げふっ!?」


 しかも、返事しなかったら横っ腹にパンチを食らった!? なんか理不尽だ!


「おーっ、にいいーーーっ!」


「ぐはっ! ちょ、ごめ……ごめんって! 慰めてくれてありがとうだって!」


「にひーっ♪」


 俺のことを呼びながら「ふぁんちー」という新技を腕でガードしながらお礼を言うと、弟様は生えそろった乳歯を見せて笑った。

 ……悔しいけれど、可愛い。


「ふふふふふっ♪ とても可愛いですね」


 マールちゃんも肩とポニーテールを揺らして笑っている。

 泣く子と地頭には――なんてコトワザが前世にはあったが、今の俺は笑うリソ君と妹様には勝てないのだった。

 ……って、あれ? 俺、どっちにも勝ててないじゃん!


「~っ! ~~っ♪」


 兄弟内における俺のヒエラルキーの低さに慄然(りつぜん)としていると、前で我が娘が両手を上げ下げして何かアピールしている。

 俺の方にテレパシーが向いていないので何を言っているのか……いや、聞こえなくても明らかだな。

 向かい合っているマールちゃんにしてみれば俺以上に明らかなわけで、小さなお客さんのリクエストに、日射しにも負けない笑顔を見せた。


「はいっ。 喜んで」


「おーっ!」


 気前の良い歌い手さんに、リソくんも喜んで手を叩く。

 もちろん俺もだ。



「では、次は何を歌いましょうか……」


「りーん! りーん!」


 すると、夏なのに鈴虫か! とツッコみたくなるようなことをマイブラザーが言い始める。


「ふふふっ。 はいはい」


 俺には何が何やらサッパリだったが、マールちゃんにはそれで通じたようだ。

 ちなみにこの世界に鈴虫はいないが、よく似た名前の虫はいる。 ウチの庭でも毎年夏の後半くらいから聞こえ始め、やはり「ああ、もうすぐ秋なんだなー」と思わせる声なのだ。

 しかしこれは違うようで、首をかしげている俺にマールちゃんが教えてくれた。


「これ、最近ちょっとした話題になっている女優さんの歌なんです」


「……へえ」


 テレビや映画なんてものはないので、ここで言う女優とは舞台の女優さんのことだ。

 なんでも、劇中に頻繁に歌うラブコメの演劇なんだとか。 まるでミュージカルみたいだな。

 聞けば、初学生くらいの子達にも人気らしいのだが、知らないものは知らない。


「あははは……まあ、聞いてみてください」


 腕を組んで首を傾ける俺にマールちゃんは苦笑いしながらそう言うと、スカートの上から太ももを叩き、リズムを取って歌い始めた。

 それはとても軽快な、楽しい感じの歌で……ん? なんか、最近クラスの女子が休み時間にたまーに歌っていたような気が。


「あーあーうー!」

「~っ! ~っ♪」


 幼児コンビがマールちゃんと一緒に歌い始め、俺も首を軽く上下させてリズムを楽しむ。

 学校ではマーヤさんとかと喋っていてテキトーに聞き流していたが、聞いてみるとなかなかいい歌だった。

 最後の方になると、俺もいつしか手拍子を取って一緒に楽しんでいた。



 その後もマールちゃんのライブは続き――。

 俺とリソくんは、いつの間にか夢の舞台へと旅立っていた。





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