243 脚を出さない女の子
気がつくと、セーレたんとイチャイチャになってしまっていた。
ニャル子ちゃんには怒鳴られるわ、周りからはニヤニヤされたり白い目で見られたりして、かなり恥ずかしかった……おかげで落ち着いたが。
「いよっしゃあああああーーー! 持って来たぜええええええーーーーーー!!」
「では各自、自分に合った模擬刀を手に取るように。
なお、格闘系の者はこちらに入っているグローブとレッグガードを装着すること」
わりと本気だったように見える試合で勝ったにもかかわらず、絶叫先生は女史に使われて模擬剣の入った箱を二つ、カートに乗せて持って来た。 見た目は巨大な鉛筆立てである。
それにしてもあの先生、強いのに立場が弱い……? なんか、親近感を覚えた。
『はーーーーい!』
試合でテンションの上がったみんなは、喜々としてカートに群がった。 まるで歳末バーゲンセールのようである。
「あ、あたしも! ……ふにゃあっ!?」
俺と妹様よりも背が高い、とはいっても所詮は六歳児のニャル子ちゃん。 なんとか箱にたどり着こうとするけど、先着のお姉様方にヒップアタックされて弾かれていた。
とぼとぼと戻ってきた彼女の姿に、ちょっとほわーんとした気持ちになった。
「な、なによぉ!」
「いや、なーんにも」
「なによ、バカにして……」
嫌らしい笑い方になりそうだった口を抑えて菩薩のような微笑みを心がけてみたら、またつーんとそっぽを向かれてしまった。
ま、本気で怒ってはいないみたいなのでよかった。
そうして三つ編み子ちゃんをいじって遊んでいるうちに、箱の周りから人が少なくなってきた。
代わりに、長さや太さなどいろんなタイプの模擬剣を持って近くで素振りを始めたり、ふざけて叩き合ったりしている子が増えてくる。
「さーて、行きますか」
「うんっ♪」
「……ええ」
ご機嫌なセーレたんは俺と手を繋いだまま、ニャル子ちゃんは自分の三つ編みをいじりながらゆっくりと箱に向かった。
残りの少なくなった箱の中。 だけど俺向きの得物は十分に残っていた。
というか、身体の大きいみんなには使いにくいだろうモノが、俺には向いているというだけなんだけど。
「……これでいいか」
俺が引っ張り出したのは、やや短かめの――小太刀くらいの模擬剣。 俺が家で使っている木刀とあまり変わらない長さで、取り回しが利きやすい。
実際に、左手で持って振り回してみる。
「うーん……ま、いっか」
木刀よりも軽いのでもう少し長くても使えそうだけど、最初だし慣れたものの方がいいだろう。
今までずっと、敢えて利き腕じゃない方で扱っているんだから。
「ふーん、あんたは剣なんだ」
興味を持ってくれているんだかいないんだか……軽く流すようなトーンでかけられた声に振り向くと、ニャル子ちゃんが立っていた。
彼女は大きな鍋掴みのような黒いグローブを両手にはめ、両足には細いレギンスの上から、ひざの皿まで隠している厚手のスネ当てをつけていた。 いかにも格闘少女らしい姿だ。
「へえ、ニャ……イニャルドさんは格闘系なんだねー」
「……ニャルでいいわよ」
うっかり愛称で呼びそうになって、蹴られるか!? と思ったら、意外なことに許してくれた。 しぶしぶっぽいけど。
本当、この子に一体何があったんだ?
「で、ニャルちゃんは格闘術を習ってるの?」
「ええ、軽くだけどね」
その「軽く」がどの程度かは分からないけど、それで少なくても六級か、ひょっとしたら五級を取ってるということだよな。
ということは、運動神経がいいんだろう。
「お、お兄ちゃあ~ん……」
俺がニャル子ちゃんに感心していると、横からとっても聞き慣れた声が……って、なんか困り気味?
振り向くとそこにはもちろん、彼女と同じくグローブとスネ当てを――。
「ぷっ!」
「……」
見た途端、ニャル子ちゃんは噴き出し、俺は言葉を失った。
確かに、セーレたんが身につけているものはニャル子ちゃんと同じだ。 でも、それを小さなハニーがつけると……。
「あはははっ! ……なんだか、ぬいぐるみみたい」
「うん、すっごく可愛らしいね」
まさに、ニャル子ちゃんのおっしゃる通り。
それでもいちばん小さいサイズなんだろうけど、グローブをつけたおてては倍くらいの大きさになって。 そして、防具としてではなく蹴った相手をケガさせないようになっている綿入りのスネ当ては、ひざどころかキュロットの上まで覆っていて、可愛らしいあんよを太短く見せていた。
トドメには、金髪のツインテールがその愛らしさを更に引き立てて――どう見てもマスコットキャラです。 ありがとうございます。
アズミーリ先生に頭をなでられながら、我が妹様がひょこひょこと近づいてくる。 マイハニーは今までつけたことがなかったから、きっと先生が装着してくれたんだろうけど。
……彼女を見つめる先生の口元は、よーく見ると少しだけ緩んでいた。
「お兄ちゃあ~ん、動きにくいの~」
大きくなっちゃったおててを上下に振りながら、セーレたんが困り顔を見せる。
スネ当てはなるべく動きを阻害しないよう、前面だけを覆うようになってるんだけど……ここまで長いと、それでもジャマだよなぁ。
「先生、下だけつけないとか……ダメですか? すごく動きにくそう」
「む……」
なでている手を離し、腕を組む先生。
「確かに、動きに支障が出るか。 ……足技を使わないのなら、外しても良いだろう」
「だってさ」
当然、相手を傷つけないためのものなんだから、外せば蹴り技は禁止される。
それは蹴り技を多用する妹様にはハンデだけど、それでも動けないよりはマシだと思う。 グローブをつけた時点で、組み技全般も封じられてるけど。
だが、そういう俺も学校では触手は使えないし、武術の授業なので活性化や硬化魔術も使わないつもりだ。 というか、専用の魔導具の付いていない模擬剣では硬化魔術は使用不可能だ。
戦力ダウンの割合でいえば、セーレたんも俺と似たようなものだろう。
「む~……分かりましたぁ」
「よし」
先生がうなずき、セーレたんの後ろにしゃがんでスネ当てを外し始める。 やっぱり機動力を取ったようだ。
足が軽くなると、妹様は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて身の軽さを楽しんだ。 大きな左右のおててを胸の高さに上げ、ツインテールを波打たせる姿はとってもキュートだ。
その様子を優しい目差しで見ていた先生は、やがて立ち上がって周りの生徒達に呼びかけた。
「では、始めようか――諸君、集合だ!」
魔術と同じく、武術の授業も資格を取るのが目的らしい。 ただ、進み具合にものすごく差があるようだ。
クラスメートどうしの中でも年齢差があるし、同じ歳でも運動が得意な子もいれば苦手な子もいるからな。
更に武術自体が魔術ほどには生活に不可欠なものではないから、目指す進路によって熱心さも違うだろう。 騎士とかを目指すなら当然真剣だろうけど、家の商売を継ぐ子にとっては必要のないものだしね。
となると、ばらけるのは当たり前。 一見すると最も人数の多い俺達のグループだけど……。
「ここから更に、六級と五級の取得者に分けて打ち合いの練習をしようと思う」
おのおのの得物を持った生徒達の前で、絶叫先生と並んで立つアズミーリ先生がそう言うのも自然な流れだよな。
さすがに六歳では珍しいみたいだけど、七歳や八歳になればそりゃ五級を持っている子もいるだろう。
「六級の者はストローグ先生の前へ、五級の者は私の前へ分かれて集まるように」
『はーーーーい!』
おっ? 俺達の担当は先生になるようだ。 これは嬉しいな……絶叫先生よりも分かりやすく指導してくれそうだし。
適当に集まっていた子供達が返事をして、それぞれの先生の前に集まっていく。
さて、五級の子は他に何人いるのかな?
俺はちょっとわくわくしながら、セーレたんと一緒にアズミーリ先生の方へと足を向けた。




